マリア&レンは青いバラをめぐる密室殺人の謎を解く=市川憂人「ブルーローズは眠らない」

ジェリーフィッシュと呼ばれる真空気嚢型の飛行船が空の交通手段として一般化しているパラレルワールドで、U国のA州F警察署に勤務する、誰もが振り向く美貌をだらしない着こなしと口の悪さで台無しにしているマリア・ソールズベリー警部と、彼女の部下でJ国出身の冷静な刑事・九条漣の活躍を描くマリア&レン・シリーズの第2弾が本書『市川憂人「ブルーローズは眠らない」(創元推理文庫)』です。

ジェリー・フィッシュ事件で、飛行船内での連続大量殺人の謎を解いた二人だったのですが、事件以後、閑職にまわされている中、今度は「青いバラ」にまつわる密室殺人の謎に挑みます。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第1章 プロトタイプ(Ⅰ)
第2章 ブルーローズ(Ⅰ)
第3章 プロトタイプ(Ⅱ)
第4章 ブルーローズ(Ⅱ)
第5章 プロトタイプ(Ⅲ)
インタールード
第6章 ブルーローズ(Ⅲ)
第7章 プロトタイプ(Ⅳ)
第8章 ブルーローズ(Ⅳ)
第9章 プロトタイプ(Ⅴ)
第10章 ブルーローズ(Ⅴ)
第11章 ブルーローズ(Ⅵ)
エピローグ

となっていて、物語は、両親から虐待されてきた少年・エリックが両親のもとを飛び出し、町外れの深い森の中にある「テニエル一家」の邸宅に転がり込んで始まる「プロトタイプ」と、青いバラを生み出したクリーブランド牧師とフランキー・テニエル教授を軸に展開する「ブルーローズ」の話とが、交互に展開していく構図となっています。

まず「プロトタイプ」の章のほうは、テニエル一家に迎え入れられたエリックは、一家の主・テニエル博士に、彼の娘・アイリスとともに、遺伝学の講義をうけながら、博士の開発した「青いバラ」の世話をする助手として暮らし始めます。

アイリスは、テニエル博士と妻・ケイトの娘ではあるのですが、通常の妊娠を経て「生」を受けた感じではなくて、そのせいか「白髪」「紅眼」のいわゆる「アルピノ」です。さらに、邸宅の地下には「実験体七十二号」と呼ばれる凹凸だらけの顔と膨れ上がった手をもち、生肉が皮膚から破れでたような外面の人間が監禁されているという、あやしい「遺伝子操作」を想像させる筋立てです。

このエリックの暮らしは、彼を庇護してくれるテニエル夫妻と彼にだんだんと心をひらいてくれるアイリスとともに、青いバラの世話をすることで平穏に推移していくのですが、それはテニエル一家に突然一人の警官が訪れることで破れます。その警官は、両親を殺して家の金をもって逃走している息子を探していると告げるのですが、その息子というのがどうやら「エリック」のことらしく、彼はテニエル家を嗅ぎ回るのですが、実験体七十二号が地下室から逃走した日、死体となっているのが発見されます。
そして、その殺人者の手は、テニエル一家にも及び・・という流れで、一家の惨殺事件が発生することとなります。

一方、ブルーローズの章のほうでは、「青いバラ」の開発者として教会で布教活動をしながら園芸家をしているクリーヴランド牧師と大学の理学部で遺伝子編集技術を研究しているフランキー・テニエル教授の二人の開発者が登場します。クリーヴランド牧師のほうは「天界」という名の天然交配の水色のバラ、テニエル博士のほうは「深海」と名付けられた遺伝子交配による深い青のバラ、という違いはあるのですが、テニエル教授のほうがクリーヴランド牧師のバラを「偽物」よばわりしたことから、両者の間で真贋争いが始まって、という流れです。

ここで、ジェリーフィッシュ事件以降、閑職にまわされて暇となっているマリアとレンのコンビに、ジェリーフィッシュ事件で捜査をともにしたドミニク刑事から、上司の命令で青いバラ関係者二人の身辺を探ることになったのだが、代わりに調べてもらえないかという依頼が入ります。
しぶしぶその頼みをきいた二人なのですが、テニエル教授本人から聞き込みを行った翌日、教授が別宅の温室の中で首を切断されて殺されているのが発見されます。さらに温室のガラスには「実験体七十二号がお前を見ている」という赤黒い文字がなぐり書きされていて、という展開です。さらに、教授と同行していた「白髪」の助手の少女・アイリーンの証言によると、その温室は密室状態であることもわかります。

事件のほうはこれで終わらず、クリーヴランド牧師を訪ねてきて「天界」のサンプルをもらっていたJ国から来た研究者が絞殺されるという事件が連続し・・と動いていきます。

さらに、ダニエルがこの事件の起きる1年半前、山中の一軒家でおきた火事の現場で発見された手記をもってくるのですが、それはアイリスと名乗る少女が、青いバラを生み出し、首を切られて死亡した自分の父親の科学者のことを記録した日記で・・という展開です。

「プロトタイプ」の事件と「ブルーローズ」の事件が交錯する時、意外な犯人とアイリスとエリックの復讐劇の全貌が、マリアの推理で明らかになっていきます。

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レビュアーの一言

昔は作り出すことが不可能といわれていた「青いバラ」ですが、この物語の舞台となった1983年からおよそ20年後、日本のサントリーフラワーズとオーストラリアのフロリジーンの共同研究開発で「青い」色素をもったバラの生成に成功しています。
この物語では、青色の色素はアサガオやデルフィニジウムからもたらされているようですが、実際にはパンジーの青色遺伝子が使われているようです。
さらに、このバラの出現で、今まで「不可能」や「存在しないもの」という花言葉だった青いバラのそれが「夢かなう」に変わったっていうのはロマンチックなよい話ですね。

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