会津落城。列藩同盟も敗れ、土方歳三は新天地へ=赤名修「賊軍 土方歳三」7

新選組の副長として、近藤勇を支えるとともに、その冷徹さと智謀で知られ、倒幕の志士や薩長を恐れさせた「土方歳三」の、明治維新以後を描いたシリーズ『赤名修「賊軍 土方歳三」(イブニングコミックス)』の第7弾。

前巻で、圧倒的な兵力差を背景に、松平容保の命を狙う板垣退助と百村発蔵率いる新政府軍に、新選組の生き残りたちを率いて、一杯食わせ、容保を無事若松城へ入城させた土方。彼はここで最後の引き伸ばし策として、庄内藩へ援軍の要請に向かったのですが米澤藩が新政府軍についたため果たせず、仙台へと向かっています。本巻では、戊辰戦争のうち、東北戦争の最終番が描かれます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第44話 残されし者たち
第45話 落城
第46話 榎本武揚
第47話 バラガキとロマンチスト
第48話 総長の故郷
第49話 天誅
第50話 北へ、西へ
第51話 死神に魅入られし者

となっていて、前半部分では、会津若松城をめぐっての、会津軍と新政府軍の激戦が描かれます。この攻防線では、白虎隊など若い藩士の戦死が描かれることが多いのですが、本書では城内に打ち込まれる鉄球弾の爆発をふせごうとして戦死する御殿女中の姿が描かれています。そして、城外の戦闘では、山口二郎率いる新選組の生き残り軍の奮戦がも描かれるのですが、ここで松平容保が断腸の思いで下した「降伏」の決断の様子は原書のどうでどうぞ。

そして、会津降伏後の容保が輿にのって城をでることができたのは板垣退助の配慮によるものなのですが、彼は戊辰戦争終結後、領土を勅許なくして割譲しようとした容保たちの罪を減じたり、藩の改易処分を回避したり、と温情ある行動をしています。そのせいか、板垣に恩を感じる者もおおく、板垣の唱えた自由民権運動は、東北では福島から広がったといわれています。

一方、庄内へ行くことを断念した土方は伊達家や東北諸藩の家老たちの集まる仙台青葉城での軍議に臨んでいます。ここで、土方は、旧幕府海軍を率いる榎本武楊の後押しで「奥羽越列藩同盟」の総督の任につき、新政府軍に立ち向かうことになるのですが、残念ながら表面上は従う気配をみせながら、二本松藩の安部井磐根や米沢藩の片山甚一郎をはじめとして不穏な空気を漂わせています。

そして、仙台藩からの和睦の申し入れが新政府軍から拒否され、全面降伏しか認めないとの回答が示されたところで、情勢は一挙に土方たち旧幕府軍側に不利に動きます。突如、仙台藩が新政府軍に恭順の意を示し、奥羽越列藩同盟はがたがたと崩れていきます。

この事態に、土方が榎本とともに下した決断は・・ということで、次巻以降の戊辰戦争最後の「箱館戦争」へとつながっていきます。

ちなみに、最後半のほうで、北海道で土方とともに戦うこととなる、仙台藩の額兵隊の星恂太郎との激しいバトルシーンがありますので、ここはきっちりチェックしておきましょう。

Bitly

レビュアーの一言

一旦は奥羽越列藩同盟の中心として、新政府軍の対峙していた仙台藩の舵を一挙に新政府側に向けたのは執政に復帰した「遠藤文七郎」で、この時、土方や榎本と大げんかしたのは史実のようです。

この巻では文七郎を、情勢をみて新政府側に寝返った卑怯者のように描かれているのですが、もともとは「尊王攘夷派」で、藩内の佐幕派との政争に敗れて閉門蟄居となっていたのを奥羽越列藩同盟の敗北で復活した人物なので、新政府側につくのは予測されたことではああったようです。ただ、降伏後も広島藩の軍兵が地元で信仰されていた白鳥を撃ったことが原因でおきた白鳥事件など、新政府軍との揉め事は絶えなかったようですね。

新政府に味方したとはいっても、藩内の全員が恭順していたわけではなく、また新政府軍にも、東北諸藩を侮る気持ちがなかったとはいえなかった、ということかと思います。

そして、明治新政府は、この事件に伴う減封による接収地へ「東北鎮台」を建設するなど、東北統治の基礎固めをしていくのですが、この時、仙台藩が列藩同盟にとどまる意向を強く示していれば、会津落城や庄内降伏といった歴史も変わっていたかもしれません。

【スポンサードリンク】

コメント

タイトルとURLをコピーしました