左翼系過激派の犯行の裏にある真相をあばきだせ=中山七里「作家刑事毒島の嘲笑」

尋問した容疑者はかならず落とすという評判が行き過ぎて、容疑者を自殺させたため、職を辞した後に流行作家となり、さらに警視庁捜査一課の技能指導員となった、異能の作家兼警察官・毒島心理の鋭い推理と容疑者をおいつめていく尋問が魅力の「作家刑事毒島」シリーズの第三弾が『中山七里「作家刑事毒島の嘲笑」(幻冬舎単行本)』です。

第一作では犬養隼人、第二作では高千穂明日香というこの作家の作品で活躍している捜査一課の捜査官を指導してきた毒島なのですが、今回は、公安部門の警察官と組んで、テロ事件の謎解きに挑みます。

あらすじと注目ポイント

構成は

一 大いなる
二 祭りのあと
三 されど私の人生
四 英雄
五 洛陽

となっていて、それぞれの話が独立しながら、全体を流れる連続テロ犯罪の謎解きをしていきます。

第一話「大いなる」の注目ポイント

第一話の「大いなる」は、右翼系の雑誌を出している出版社の入居しているビルで深夜に火事がおき、三人の社員が大火傷をおって病院に運びこまれます。放火先が右翼系出版社で、「急進革マル派」を名乗る左翼系過激派から犯行声明もでたため、現場にきた警視庁の公安一家の刑事「淡海奨務」は、そこで同期の高千穂明日香と偶然会い、彼女から毒島を紹介されます。毒島は個人的な興味から、この事件に首をつっこんできているのですが、毒島の同期で現在、公安一課長をしている浅井は、淡海を毒島に接近させ、過激派組織の情報をとるよう命じてきて、という流れです。ここから、公安警察官と癖強の作家警察官との共同捜査が始まっていきます。

そして、改心社に悪意をもっていて、犯行時間に近くにいた三人の容疑者、就活中の左翼かぶれの大学生、安保闘争当時は学生運動で過激だったと自称する元国鉄職員、改心社の出版しているアダルト系の雑誌の発禁を求めている自称フェミニストの主婦の取り調べを始めるのですが、尋問が終わった後の毒島の「毒舌」が大変、面白いので必読ポイント間違いないですね。

で、犯人のほうは、出版社近くの焼き鳥屋の看板の裏に設置してあった、ある「機械」が決め手になるのですが、詳しいところは原書のほうで。ただ、毒島は、今回の犯行が犯人の単独犯行ではなく、誰かに唆されたものだと確信して、黒幕探しに乗り出していきます。

第二話「祭りのあと」の注目ポイント

第二話の舞台は、大学の学園祭です。その大学の「映画鑑賞サークル」が第一話の事件に関連があるため、学園祭のイベントで毎年開催されているトークショーのゲストとして「作家・毒島心理」が呼ばれたことを名目に大学内に潜入するのですが、そこで、左翼系サークルと右翼系サークルのリーダーの喧嘩に遭遇します。この二人の喧嘩にいつものように皮肉たっぷりの脅しで水を差した毒島だったのですが、トークショーでは、この二人をあてこするようなディスりを大量に交えたトークを連発します。おそらく、「急進革マル派」をおびき出す陽動作戦なのですが、そのせいか、左翼系のサークルのリーダー「舘」がトークショー終了後に殺されているのが見つかります。これは思想対立の根ざした犯行か、と思われたのですが、毒島の推理は意外な犯人と動機をあぶり出していきます。

第三話「されど私の人生」の注目ポイント

第三話の「されど私の人生」では、居酒屋チェーンに勤めていて、人員不足による過労で自殺した女性社員の「死」を糾弾する、市民グループの抗議活動の場面から始まります。その抗議活動の「応援弁士」として毒島が本来依頼を受けていた作家の代理として登場するのですが、応援ではなく、その抗議活動の実態が政治宣伝であることを群衆の前ですっぱ抜いていく様子はなんか小気味がいいのですが、ここで登場する、その運動を影で操っているいわゆるプロ市民の「鳥居」という男が「急進革マル派」のテロ活動に大きく関係をしていて、この物語の後半部分での主要人物として浮上していきます。

で、過労死事件は、この女性の自殺だけに終わらず、店の他の同僚女性が電車に飛び込んで死んでしまいます。店の過剰労働が次々と社員の死を招いているとして、「鳥飼」たちは、このチェーンの社長である国会議員を糾弾するため、議員会館前で抗議活動を始めるのですが、再び毒島がこの活動に入り込んできて・・という展開です。実は、この毒島は「急進革マル派」の動きを誘う揺動で、彼自体は、この抗議活動とは全く関係のないところで、この「過労死自殺」の真犯人をみつけています。

「急進革マル派」は一体、誰?

後半部分では、第三話で登場した「鳥居」が画策する沖縄の普天間基地反対デモの中で起きた、基地反対派作家の殴殺事件(第四話「英雄」)や、内閣総辞職を狙って鳥居のしかけた爆破テロ事件が、毒島の動きによって牽制され意外な政局となっていく第五話「洛陽」とドンデン返しの続く掌編が続くのですが、そこから毒島が導き出してきた「急進革マル派」の正体は、およそ「左翼系」の行動とは関係しないと思われていた人物で・・という展開です。

さらに、その正体の人物の犯行動機に、第四話で触れられている「過去の事件」がからんでくるあたりには、因縁の深さを感じます。

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レビュアーの一言

この作品は、中山七里作品特有の「ドンデン返し」が連続する物語展開になっているのは間違いないのですが、もう一つの特徴は、革新系識者たちがよく口にする主張を、毒島が相当に皮肉っぽく批評していくあたりです。その舌鋒は相当鋭いので、その方向の方がいたら、青筋が立ってくるかもね、と思えるほどで、ある種の痛快感があるのですが、これらの言葉は少し言い方をかえれば、保守系識者のほうのそっくり跳ね返ってくるものばかりなので、安心してはいけませんね。
「毒島」の「毒」は党派を問わず、よく効きそうです。

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