「スマホで気が散る時代」の新しい「知力」のあり方=佐々木俊尚「読む力 最新スキル大全」

一日に1000本以上の幅広い分野の記事に目通しし、その中から読むべき記事を抜き出して、毎朝紹介する、ということをほぼ毎日10年以上も継続し、テクノロジーから政治、社会問題、経済、ライフスタイルなど幅広い分野の著述も多く、インターネット論壇の名うての論客として有名な筆者が、その情報の収集法からインプット術、それらの情報をもとにしたアウトプット術、さらには、筆者が使っている優れものアプリなど、「知的生活」の手法を惜しげもなく見せてくれているのが本書『佐々木俊尚「読む力 最新スキル大全 ー 現代病「集中できない」を知力に変える(東洋経済新報社)』です。

概要と注目ポイント

本の構成

構成は

はじめに
序章 まずは現代の知的生産に必須の「5つの大原則」を知る
第1章 まず「落とし穴」を見極め、「読むべきもの」を餞別する
 ー情報源をふるいにかける
第2章 ネットは「何を」見ればいいのか
 ー良質な「プッシュ情報」と「プル情報」を同時に手に入れる
第3章 SNSをどう使いこなすか
 ー「情報ツール」としてツィッターを使いこなす。SNSでの「プル情報」のとり方
第4章 選んだ記事をどう読み、どう整理・保存するか。情報整理の方法
 ー「あとで読む」」アプリを使う。「ポケット」が最強の理由
第5章 本は「何を」「どう」読めばいいか
 ー本の見つけ方&選び方、具体的な読み方、名著を読むコツ
  電子書籍&リアル書店の活用法
第6章 知識や情報を活用するカギは「2つの保存」を使い分けることだ
 ー「4つのステップ」で、自分のための「知肉」を育てる
第7章 脳をクリアな状態にする「二刀流」のすすめ
 ー日常の雑務を徹底的に効率化し、時間を捻出するために、ツールは何を使うか
第8章 散漫力を活用し「最適なインターバル」で仕事を回す!
    「マルチタスクワーキング」の秘訣
 ータスクを組み合わせ、「短い集中」を積み重ねる

となっていて、目次を一覧してわかるように、知的情報の収集から効率的なアウトプットまで、知的生産活動全体に関する「指南書」であるとともに、権威者によるビジネス本にありがちの「紙データ」「書籍情報」にかたよることなく、ネット情報やSNS情報の取り方や扱い方といった最新テクも包含していることに、まず驚くのではないでしょうか。

集中力なんていらない

個人的に「ふむふむ」というところを紹介すると、まずとりあげたいのは、

集中力なんてなくてもかまわない。

しょせん、集中力なんて幻にすぎない

として

集中力なんてなくても「5分の短い集中」をうまく積み重ねれば、いくらだって書籍も記事も読めるし、それを「知力」に変えることはできる

「気が散る」「集中できない」のがスマホ時代の宿痾。現代病だと受け入れ、それを逆活用すればいいだけのこと

と割り切っているあたりです。ここらを基礎に筆者のいう「散漫力」の活用といった考えがでてくるんですね。

SNSを悪者扱いしない

さらに「散漫」=「フラット」な視点と考えれば、筆者のアドバイスする「偏りの強いメディア」をきちんと見抜いて、読むべき記事を選別したり、SNSの情報を全てうのみにしないで取捨選択する方法につながっています。ここで注目しておきたいのは「SNS」を悪者扱いや無批判な賞賛ではなく、きちんと向き合う姿勢をアドバイスしてくれているところですね。このあたりがネット時代の識者としての筆者の知見の光るところです。

特に、私たちの祖父・父世代に主流だった「新聞・雑誌の時代」よりはるかに多くの「プッシュ情報」が溢れてくる中で、いかに良質な「プル情報」をとっていくか、のアドバイスは、具体的なブラウザやアプリの使い方の紹介もされていて、必読の部分です。

デジタル時代の「書籍」との向き合い方

そして、もうひとつ、この本でおさえておきたいのは、ネット時代・デジタル時代における「書籍」との向き合い方ですね。

巻頭のカラーページでもわかるように筆者は相当数の紙「書籍」を保有しているのですが、それと同時に「電子書籍」も積極的に評価しているのが嬉しいところ。特に筆者ほど著名な論客になると、「紙」以外は「本」じゃない派の人が数多くいますからね。

もっとも、「リアル書店」の必要性は筆者はきちんと主張しているので、「紙書籍」派も無用な批判は慎んでおきましょうね。

マルチタスクワーキングとは

さらに、最後に注目しておきたいのは、スマホやインターネットが普及して、生活の隅々まで入り込んだ現代の「散漫な時代」における、集中しなくても「タスク」がはかどる知的活動やアウトプットのやり方「マルチタスクワーキング」手法ですね。

筆者によると、「コンピュータの「マルチタスク」の原理を、わたしたち人間の日々の作業に応用しようというもの」なのですが、詳細は原書のほうで。

ついでにいうと、タスク処理の方法として有名なノウハウに「ポモドーロ・テクニック」というのがあって、「25分の集中」と「5分の休憩」の合計30分をワンセットにして、これを繰り返していくというタスク処理の方法で、正直なところ、様々なビジネス本で絶賛されていても、当方には使いこなせなかったものでした。

しかし、本書で筆者が「面倒くさい」と喝破した上で、マルチタスキングな変形版を提案しているあたりに思わず「拍手」してしまいました。

レビュアーの一言

本書は「要約サイト」でエッセンスを掴むという読み方ではなく、Kindle版にしろ、紙書籍版にしろ「現物を見る」という読み方をおススメします。

というのも巻頭カラーページのところで、筆者の仕事場やデスク写真とあわせて、本棚の書棚の実写や、iPhoneのホーム画面の実写とかが掲載されているからで、持ち歩くデジタルグッズなどの紹介はされることはあっても、ここまで見せてくれる人はそういないので、なかなか得難い1次情報だと思います。

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