【一挙紹介】ジェリーフィッシュは凍らない「マリア&漣」シリーズ=パラレルワールドの赤毛美女刑事の活躍はいかが

我々のいる世界とはちょっと歴史の進み方や技術の発展の仕方が違っているパラレルワールドの1980年代はじめのアメリカを舞台に(作品中ではA国となっていますが、アメリカ南部が舞台であろうと思われます)、赤毛でスタイル抜群の美女ながら、素行の乱暴さと、ボタンのとれかかったシャツとしわだらけのパンツ、そして寝癖のついたへスタイルでそれを台無しにしている美人女性警部・マリア・ソールズベリと日本出身で、常に冷静さを維持してマリアの御目付け役を務める「レン」こと九条漣がペアとなって、大量殺人や連続殺人の謎解きをしていくミステリー、市川憂人さんの「マリア&漣」シリーズを一挙紹介しましょう。

舞台となるのは、前述のとおりパラレルワールド内のアメリカとおぼしきA国。世界情勢的にはアメリカをはじめとする西側諸国がボイコットした「モスクワ・オリンピック」や、ソ連をはじめとする東側諸国がボイコットした「ロサンジェルス・オリンピック」、あるいは1980年から8年半続いたイラン・イラク戦争など、東西の冷戦状態であったこちら側の1980年同様、R国のスパイがA国に潜入しないか軍の警戒が続いていたり、第一作「ジェリーフィッシュは凍らない」では、R国への亡命話も計画されているなど、一触即発の国際情勢を背景にしながらの謎解きが展開されますので、マリアとレンに絡む重要なキャストに軍人が登場してきます。

第一作「ジェリーフィッシュは凍らない」の注目ポイント

第一作「ジェリーフィッシュは凍らない」は筆者・市川憂人さんのデビュー作であるとともに第26回鮎川哲也賞の受賞作でもあります。

ミステリ作家の重鎮・綾辻行人さんの推薦文によれば「『そして誰もいなくなった』への挑戦であると同時に『十角館の殺人』への挑戦でもあるという。読んでみて、この手があったか、と唸った。目が離せない才能だと思う。 」ということで激賞に近い誉め方ですね。

事件のほうは、この世界のほうで独自発達した飛行船「ジェリーフィッシュ」の船室内でおきます。我々の住む世界では飛行船内へ充てんするガスの可燃性の課題が克服できずに航空機に空の主役を譲った飛行船なのですが、こちらの世界では、青酸ガスを活用したものを使うことによってそれを克服して、空路輸送の主役となっています。

で、軍用での利用範囲を広げるため、レーダーで探知されない「ジェリーフィッシュ」の試験飛行を行っていた最中に、自動操縦装置が故障。雪山に不時着してしまうのですが、救援に向かった救助隊は、そこで全員が殺されているのを発見します。周囲は雪に降り込められていて、まさに密室状態。一体、犯人はどうやってこの飛行船までやってきた犯行を行ったのか・・という謎解きです。

「ジェリーフィッシュ」が可燃性の問題を克服するのに大きく貢献したと思われる天才女子大生が過去に事故死していることをマリアがつかんだあたりから、ジェリーフィッシュの機密技術情報を盗むことが目的と思われていた大量殺人が、全く別の様相を見せてきます。

第二作「ブルーローズは眠らない」の注目ポイント

第二作「ブルーローズは眠らない」は、今まで不可能といわれてきた「青い薔薇」の栽培にまつわる殺人事件の謎解きです。

こちらの世界でも、青いバラは遺伝子操作の技術進化で世にでているのですが、マリア&漣の世界でも、大学の遺伝子操作の結果、真っ青なバラが生みだされています。しかし、こちらと異なるのは、町の教会の牧師が、自然交配によって「水色の薔薇」の栽培に成功したと発表したというところで、双方の間で互いに「偽物」よばわりが始まってしまいます。

マリアと漣は、他の警察署から依頼されて、この偽物論争を調査していたのですが、そんな中、「真っ青な薔薇」の開発者であるテニエル教授が密室状態の温室で殺害されるという事件がおきます。

さらに、この二つの薔薇の調査に訪れていたJ国の研究者も、宿泊先のホテルで殺害されるという連続殺人事件に発展し・・という筋立てです。

物語は、我が子を虐待する両親のもとから逃れてきた男の子が「テニエル教授」のところへ逃げ込み、彼と彼の娘と一緒に暮らしていくようになり、教授の突然の死までの回想がはさみこまれながら展開していきます。

少しネタバレしておくと、二つの物語の複層が謎解きの鍵ともなっています。

第三作「グラスバードは還らない」の注目ポイント

第三作「グラスバードは還らない」が、こちらの世界の「トランプ大統領」を思わせる不動産王の所有する高層ビルでおきる大量殺人とビル爆破のテロ事件の謎解きです。

事件のおきた高層ビルは以前にも爆破事件のあったもので、それを所有者の不動産王・サンドフォードが改修したものなのですが、自社のオフィスエリアと一緒に高層階にはセキュリティを完備した自宅エリアもつくり、サンドフォードと娘が住んでいるのですが、実はそこに世界中の保護動物を集めた私設の動物園も密かにつくっているという設定です。

そこで、一番の秘蔵動物は「グラスバード」と呼ばれるもので、サンドフォードの会社の社員で娘の恋人の「チャック」はその「グラスバード」の美しさと歌声に見慮されているのですが、娘のローラは面白くない感情を抱き始めている、というのが事件が起きる前。

事件の方は、このサンドフォードが新製品として研究開発を命じている透過ガラスの研究チームが招待されたサンドフォードの自宅パーティーでおきます。パーティーの途中で意識を失ったチームのメンバーたちは、監禁されたまま、一人一人、何者かによって殺されていき・・という展開です。一見、サンドフォード父娘が怪しいな、と思わせるのですが、巻の途中で二人とも殺されていることがわかり、犯人は一体誰・・といった筋立てですね。

マリアと漣は、サンドフォードの保護動物の密輸の捜査でこのビル内に潜入していたのですが、この大量殺人事件と並行しておきた、ビル爆破テロに巻き込まれてしまい、ビルからの脱出とセットで、殺人の謎解きをせざるを得なくなってしまいます。

マリアのアクションシーンと謎解きの両方が楽しめる豪華設定になっているのですが、「グラスバード」の正体はかなり「エグイ」です。

第四作「ボーンヤードは語らない」の注目ポイント

第四作「ボーンヤードは語らない」は、

「ボーンヤードは語らない」
「赤鉛筆は要らない」
「レッドデビルは知らない」
「スケープシープは笑わない」

ジェリーフィッシュ事件以後、閑職にまわされたジョン・ニッセン空軍少佐の勤務する「ボーンヤード」と呼ばれる廃棄戦闘機が保管されている空軍基地での殺人事件(「ボーンヤードは語らない」)や、漣の高校時代に遭遇したクラブの先輩の父親の殺人事件(「赤鉛筆は要らない」)、そして、マリアの高校時代の同級生の殺人事件(「レッドデビルは知らない」とマリアと漣がコンビを組んで初めて扱った児童虐待事件の真相(「スケープシープは笑わない」)が語られます。

ちなみに三話目の「レッドデビル」というのは、赤毛の乱暴者だったマリアの高校時代のニックネームだったのですが、彼女に対比して「黒檀の魔女」と呼ばれた同級生を襲った悲劇はやりきれない内容なので、心してお読みください。

レビュアーの一言

このシリーズの主人公「マリア・ソールズベリ」は風貌とその推理力は別として、なにせ口が悪くて粗雑な主人公なので、ストーリー的には許容できても、マリアの粗雑さが気になる、というAmazonの書評があるぐらい賛否が別れるのですが、個人的には粗雑さと推理のキレの落差が激しくて、好きなタイプの主人公ですね。特に、第四作目の「レッドデビルは知らない」を読むと、その粗雑さに深みが感じられるようになるので、この短編は必読と思います。

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