ホストの頼みに応じて事件を解決する「剣持麗子」を「闇」が待ち受ける=新川帆立「剣持麗子のワンナイト推理」

元彼が書いた「自分を殺した犯人に財産を譲る」という遺言状をネタにした大儲けを狙って勤めていた弁護士事務所を飛び出したものの当てが外れて、元の弁護士事務所に舞い戻った、上昇志向を隠そうとしないバリキャリ弁護士、剣持麗子の活躍する弁護士ミステリの第2弾が本書『新川帆立「剣持麗子のワンナイト推理」(宝島社)』です。

今回は、前巻で元彼の事件をきっかけに知り合った町弁の「村山権太」弁護士の仕事と依頼先を引き受けて、面倒な割に金にならない仕事に忙殺されていきながらも、ある大きな企みに巻き込まれていく「剣持麗子」が描かれます。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 家守の理由
第二話 手練手管を使う者は
第三話 何を思うか胸のうち
第四話 お月様のいるところ
第五話 ピースのつなげかた

の五篇となっていて、主人公である「剣持麗子」が新宿界隈で遭遇する事件の謎解きと、それをつなぐ種明かし的な最終話のセットになっています。

まず第一話の「家守の理由」では、新宿の百人町にある不動産屋の主人・進藤が殺された事件の謎解きです。この殺人の第一発見者の二十代の男性(売れないホストで源氏名が「武田信玄」という山梨の人が聞いたら激怒しそうですね。黒丑益也というのが本名です)が容疑者として捕まります。この「黒丑」が村山弁護士を知っていたという縁で、麗子が彼の弁護に駆り出されることになってしまいます。

ただ、黒丑は、進藤から実家の立ち退きを迫られていて、殺害現場で賃貸借契約書らしい書類を燃やしたらしく、彼が進藤とその立ち退きの件でもめて殺害したのでは、という疑いが濃厚になっていくのですね。

残業続きで睡眠不足の上に、おそらく報酬は期待できない仕事にほとんどやる気のでない麗子なのですが、所轄の自称「捜査本部潰しの五郎」こと橘刑事に無理やりに捜査に巻き込まれていき・・という展開です。この「武田信玄」こと「黒丑」が以後も事件を持ち込んできた上に、麗子の弁護士仕事の雑用をこなす臨時アルバイトとして雇われ、本巻の重要なパートナーとなっていきます。

第二話の「手練手管を使う者は」では、前話の「黒丑」を無実を晴らした報酬を、黒丑がなかなか払わないため取り立てに行くのですが、月給袋を盗まれてしまい払えない、と延期をお願いされた上に、友人のホストの殺人の容疑をはらしてくれと泣きつかれて、という筋立てです。

その友人ホストの名前は光秀といって、前夜に最近刑務所から出所してきた先輩ホストの「信長」の出所祝いを知り合いの店を借りてやったのですが、酔っ払って店内で寝てしまい、起きたら信長が包丁で胸を刺されて死んでいた、というもので、まあ、出来の悪い「本能寺」ですな。

事件捜査にやってきた前話でもでてきた新宿署の刑事「橘五郎」は、「光秀」が「信長」の生命保険の受取人にされていたことから、その保険金で争いになって殺したのだ、と光秀を逮捕します。冤罪ではないかと調べる麗子なのですが、その期待も裏切られ、やはり光秀が信長殺しの真犯人。どっと疲れて帰宅する麗子なのですが、途中で光秀の犯行をお膳立てしたある人物の存在に気づき・・という展開です。

このほか、弁護士事務所の所内運動家が開催された新宿区立体育館でおきた、最近移籍してきた弁護士としての能力は抜群ながら、パワハラが多くてあちこちの弁護士事務所で爪弾きにされてきたベテラン弁護士の怪死事件(「何を思うか胸のうち」)、斑ボケの籠城を保護したことがきっかけで、ボロアパートで発見された自殺者にまつわる過去の水死事故の謎(「お月様のいるところ」)が連続します。

そして、今までの事件のどこかで、不動産屋殺人事件で剣持麗子の前に現れ、それから彼女の弁護士業務の雑用を引き受けるアルバイターとなった「黒丑益也」が関係していることが判明するのですが、その理由が最終話で明らかになっていきます。思ってもみない、闇にうごめく人々の悪巧みが隠れているようですね。

ちなみに表題の「ワンナイト推理」は、残業で事務所で深夜まで残業している「麗子」が黒丑や事件関係者の呼び出されて事件を依頼されて、眠気と戦いながら事件の真相にたどりつくのが、ほぼ「一晩」であることからきているのでは、と思っています。

Amazon.co.jp: 剣持麗子のワンナイト推理 電子書籍: 新川帆立: Kindleストア
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レビュアーの一言

本シリーズでは、時折、名言っぽいのですがいまいち意味不明な「名言」が出現するのですが、今回は「黒丑」をアルバイトで雇ったものの今ひとつ彼のことが信用できない麗子が弁護士事務所の上司でもある津々井に「信用できない部下をもったとき、津々井先生ならどうします?」と質問した時の津々井の答え

「部下を信用するのは上司の仕事だが、上司を信用させるのは部下の仕事だ。自分の仕事をしなさい。そして部下が仕事をしていないなら、仕事をさせなさい」

というものですね。いまいち禅問答のような答えなのですが、読者の皆さんならどう解釈しますか。

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残念ながら、現在のところ「元彼の遺言状」シリーズを配信している動画サービスはありませんが、主演した綾瀬はるかさんの「天国と地獄 サイコな二人」や「義母と娘のブルース」はU-NEXTで配信されています。

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