平賀源内の弟子殺しには蝦夷地の秘密が隠れている=乾緑郎「ねなしぐさ 平賀源内の殺人」

現在の香川県寒川市の生まれで「神童」といわれて讃岐高松藩に出仕し、江戸で儒学、蘭学、絵画、俳諧といった多方面の学問・芸術を学びながら、役目を辞して、その後、全国の鉱山開発に携わって老中・田沼意次に見いだされた、高松藩の再出仕するも再び辞職し「奉公構」という幕府を含む武家への出仕を禁止される扱いを受けた後は、江戸でエレキテルの見世物など、多方面のわたる才能をみせた「平賀源内」が犯した殺人事件にまつわる謎解きの物語が本書『乾緑郎「ねなしぐさ 平賀源内の殺人」(宝島社文庫)』です。

筆者は「完全なる首長竜の日」や「機巧のイブ」「鷹野鍼灸院の事件簿」の作者「乾緑郎」さんです。

平賀源内というと、日本の最初のコピーライターともいわれ、「土用の丑の日」に鰻を食す風習を作り出した人物で、全国で鉱山開発に関係するなど多彩な才能を発揮した人なのですが、そのまとまりのない多彩さのせいか、高度成長期にはもてはやされていてことはあるのですが、専門性が重視される現代では注目されることの少なくなった方ですね。

あらすじと注目ポイント

事件の発端は、物語の主人公である「平賀源内」が酔っ払って目覚めた自分の屋敷の中で、弟子の「秋田屋久五郎」という米屋の息子が、源内の使っていた脇差によってめった刺しにされて殺されているのが発見されます。

もともと源内は酒が呑めない「下戸」だったのですが、突然訪れてきた彼に勧められて少しの酒を飲んで意識を失ってしまい、目が覚めたら、奥の座敷で死んでいる弟子の遭遇した、というわけです。で、この殺人の容疑者として、奉行所に源内が捕縛されるのですが、彼を救い出そうと動き出すのが「杉田玄白」とか「前田良伯」とか当時の医学界の第一人者が動き出すのが、さすが「平賀源内」というところですね。

さらに、平賀源内が奉行所役人によって大番屋に連行されたところから、物語の方は、平賀源内の昔の記憶の方へとなだれ込んでいきます。

源内の回想は仙台藩の工藤平助や杉田玄白らとともに「温度計」(作中では「寒熱昇降器」、タルモメイトルと表記されていますね)の実験をする姿や、長崎の円山遊郭でなじみと女郎・志乃と色恋抜きで過ごす源内であったり、時の権力者である老中・田沼意次の屋敷で、意次の愛妾の前で「エレキテル」を披露する源内など、心ならずも権力者の前で媚びる「平賀源内」の姿が描かれます。

そして、源内の無実を晴らそうと懸命に動く玄白たちのもとに、源内が牢内で死んだ、との報せが届き・・、というのが前段のところです。

続く、第二章では、源内が牢内で死んだという報せが届いてから一年後、彼の死をめぐる様々な謎が明らかになってきます。彼と友人だったはずの工藤平助が彼の記した「蝦夷地の記録」を源内に盗まれた話であるとか、田沼意次が密かに源内に接触していた話であるとか、表面上は田沼全盛時代ではあるものの、水面下で動いている政治情勢や、蝦夷地への侵攻をうかがう「オロシャ」の様子であるとか不穏な国際情勢の様子が明らかになってきます。
そして、大番所の牢内で死んだはずの「平賀源内」が実は生きていて蝦夷地へ渡っているという情報もでてきて・・という展開です。

少しネタバレしておくと、源内の行方は最後までしれないまま物語は終結していくのですが、幕末へ向けてどんどん世情が不穏になっていく、江戸後期の雰囲気を味合える物語となっています。

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レビュアーの一言

平賀源内邸でおきた弟子の町人の刺殺事件の謎解き、というのが本筋なのですが、途中に、長崎時代や、田沼邸での神経すり減らすやりとりなど、大部のエピソードが挿入されてくるので、謎解きの点ではわかりづらいストーリー展開なので、ミステリ・ファンにとっては好みが分かれる作品かもしれません。
ただ、平賀源内の活躍した江戸中期、特に賄賂政治という悪評はあるものの、文化の爛熟した「田沼時代」の雰囲気がたっぷり味わえるのも間違いありません。
ミステリとして読むか、時代物として読むか、選択に迷うところではありますね。

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