二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」の三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第32弾。
前巻で龐煖を司令官とする五カ国連合軍は、函谷関を抜いた後、他の四つの関所を同時で攻め、レキ(木偏に楽)陽や寿陵を攻め落とし、最後は首都・咸陽へ攻めこむ「五関攻め」を開始します。
あらすじと注目ポイント
第32巻の構成は
第百八十七話 函谷関迫る
第百八十八話 絶望の入り口
第百八十九話 天籟
第百九十話 蒙氏一族
第百九十一話 独裁者の世に
第百九十二話 無人の関
となっていて、まず函谷関を守る秦の麃公(ひょうこう)将軍と荘丹ほかの丹の三侠との戦いが始まります。この戦いは函谷関の城門までもつれこむこととなり、そこで麃公は三侠に討たれてしまい、五カ国連合軍は函谷関内へと侵攻していきます。
ここらは、桓騎将軍と王翦将軍によって函谷関を守り抜いた「キングダム」とは物語が違ってくるのですが、秦側と五カ国連合軍側との立場の違いというか、史書の違いということで理解しておきましょう。
そして、麃公を倒し、函谷関内へと侵攻したことを見た連合軍の龐煖将軍は、秦の蒙驁将軍を蹴散らし、潼関へと攻め進んでいきます。
ここで、父・蒙驁の命を受けて、秦都・咸陽にいる秦軍参謀長・李斯のもとに、救援の兵を求めにいった蒙武は、そこで、敵の侵攻を防がず、すべての関を無人にして五カ国連合軍を引き入れよ、という秦王・政の意向をききます。
それは、五カ国連合軍の侵攻を利用して、国を恐怖政治的な支配を強めようとする「政」の恐ろしい謀みが隠れていたのですが詳細は原書のほうでご確認を。
さらに、引き入れた五カ国軍にぶつける、盗跖軍を殲滅した「直属軍」も用意して待っている、という周到さです。
この「無人の策」は、秦の本軍の総司令である蒙驁も、その配下の黄壁や王翦もしらされておらず、どうやら「秦王・政」の一存による作戦のようです。
荘丹たちが占いの爺さんから聞いた「冷とうて青い蛇が虎狼の体に入って産まれるとんでもないもの」と言われた政がこれからどういう冷酷な作戦をたててくるか、ちょっと怖いものがありますね。
一方、盗跖たちの軍がやってこないのを心配した劉邦は本隊を離れ捜索に向かうのですが、そこで秦の蒙驁軍本隊を追ったところで秦王・政の派遣した直属軍に襲われて全滅した盗跖たちを見つけます。無残にも全員、首が切られているのを見て茫然自失状態となる劉邦です。
この後、本巻では彼の描写はなくなるのですが、「姉さん」と呼んでいた「盗扇」の死がよほどショックだったと思われます。次巻以降の彼の活躍はまだわからないのですが、劉邦が侠客として生活し、秦滅亡まで逼塞して暮らしていたのはここに原因があるのかもしれません。
レビュアーの一言
Wikipediaによると、この「函谷関の戦い」の秦側の総指揮は「呂不韋」、前線軍が「蒙驁」という布陣であったとされているのですが、本書では「蒙驁」たち前線軍は、五カ国連合軍を関内へと引き入れるための「噛ませ犬」的な扱いで、呂不韋は宰相かつ総司令に立場にありながら、肝心なところは蚊帳の外におかれています。
呂不韋と秦王・政との対立の構図は「キングダム」でも描かれていて、この時期、呂不韋は、食客3,000人を抱え、歴史書「呂氏春秋」の編纂をしている絶頂期にあるのですが、「達人伝」のほうは、軍事などの国の実権は「政」が握っているという勢力図になっているようですね。
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