「ラプラスの魔女」の前日譚。羽原円華がキャンキャンと大活躍=東野圭吾「魔力の胎動」

母親の命を奪った竜巻の現象を解明するため、脳外科医の父親の脳手術を受け、全ての原子の動きを把握し、地球上でおきる自然現象の未来予測ができるようになった「ラプラスの魔女」こと「羽原円華」が、同じような能力を身につけた男子の復讐劇を止めようとするサイエンス・ミステリー「ラプラスの魔女」のビフォー・ストーリーが本書『東野圭吾「魔力の胎動」(角川文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 あの風に向かって翔べ
第二章 この手で魔球を
第三章 その流れの行方は
第四章 どの道で迷っていようとも
第五章 魔力の胎動

となっていて、最終話で「ラプラスの魔女」でおきた温泉地でおきた硫化水素による死亡事故の原因究明に呼ばれる地球化学者の青江修介が登場していて、「ラプラスの魔女」の発端となる事故のおきるまえの前日譚が展開されていきます。

第一話の「あの風に向かって翔べ」は、年齢のせいもあって、記録が伸びなくなり、引退間近か、と言われている往年のジャンプの名選手・坂屋に若手鍼灸師・工藤ナユタが痛みをとる治療をしているところから始まります。

ここに坂屋のジャンプを科学的に研究している大学の研究者・筒井に連れられて「羽原円華」という女の子が見学にやってきます。ちょうど坂屋のフォームのチェックを映像を見ながらチェックしていたところだったのですが、円華はその映像を少し見るなり、上体がつっこみすぎているのが記録が伸びない原因で、それは右足の膝を痛めているせいだ、という関係者しか知らないことをあっさりと見抜いてしまい・・という衝撃的なデビューをします。

そして、その流れでジャンプの練習を見学し、数日後の開かれるジャンプの競技大会で、ここ数年、ランキング入りから遠ざかっている坂屋に上司入賞する秘策があると言い出します。全く相手をにしようとしない坂屋たちに対し、彼女はジャンプ台近くの風の動きを正確に教え、さらには風の動きの予測を始めるのですが・・という展開です。「ラプラスの魔女」のデビュー戦の物語でもありますね。

第二話の「この手で魔球を」は、第一話で鍼灸師の工藤ナユタが治療していたジャンプ選手の坂根の入賞を「風の予測」によって実現させた円華が、今度はナユタがトレーナをしているプロ野球選手・石黒の練習場へ現れます。

石黒はもともとあまりパッとしない社会人あがりのプロ野球選手で、なかなか芽が出ず引退も近くなっていた時に、冗談半分に投げた「ナックル」の威力がすごいことが見いだされ、一躍、主力となった経歴の持ち主です。

投げた本人も予測できない軌道を描くナックル・ボールはこれからも彼のピッチャー人生を保証しているようなものなのですが、唯一の弱点はそれを受けることのできる捕手が「三浦」という昔からバッテリーを組んでいる選手しかいないというところです。
ところが、この三浦捕手の体力も限界間近となってしまい、彼が引退するとナックルを受ける捕手がいなくなり、石黒も一緒に引退せざるをえなくなるという運命です。球団側も後継育成を勧めているのですがうまくいかず、最近、後継の捕手として指名された若手の有望捕手・山東はナックルが補給できないことでスランプになり、このままでは彼も引退が近い、という状況です。

この様子を見た、円華は山東選手を後継とする秘策として、自分が石黒選手の「ナックル」を受けてみせると言い放つのですが・・という筋立てです。

第三話の「その流れの行方は」は、工藤ナユタの高校時代の恩師・石部の無気力状態と夫婦の不和を、円華が解決していく話です。
ナユタの恩師・石部には重度の発達障害の息子・湊斗がいたのですが、その子を家族でキャンプに連れて行った際に、湊斗が川に落ちて溺れ、救出はされたのですが植物状態になってしまっています。その事故がおきたとき、元水泳選手だった石部の妻が川に飛び込んで湊斗を助けようとしたのですが、二次遭難を心配した石部が彼女をとめ、それ以来、夫婦の仲がぎくしゃくしています。

それを聞いた円華は、もし飛び込んでいたらどうなっていたか実証してあげる、とある実験を石部たちに見せるのですが・・という筋立てです。
そして、円華がこの石部の息子の事故にこだわっている理由がじつは植物状態で意識がないと思われていた湊斗に起きているある変化が原因で、という展開です。

第四話は、ナユタの治療している音楽家が、恋人の男性の不慮の死で意気消沈して音楽家生命を絶とうとしているところを、死の本当の原因を明らかにして音楽家を再生させる話なのですが、この話で円華がでしゃばって、ナユタの周囲の様々な事件やトラブルを解消してきた本当の動機が明らかになっていきます。

そして、第五話では、「ラプラスの魔女」の現地調査を青江教授に持ち込まれる原因となった「灰掘温泉」での事故調査の顛末が描かれるのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

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レビュアーの一言

前作「ラプラスの魔女」は、2018年に羽原円華役に広瀬すずさん、青江修介役に櫻井翔さん、甘粕謙人役に福士蒼汰さんというキャストで映画化されているのですが、この「魔力の胎動」もそのキャストに従って、広瀬すずさんの「円華」がキャンキャンとナユタに絡んで、謎解きとトラブル解決をしていく、といった様子を思い浮かべながら読み進めていくと、躍動感ある物語が脳内に展開していくと思います。
この「羽原円華」の活躍するミステリは二作だけのようですが、シリーズ化してほしいキャラクターだと思うのですがいかがでしょうか。

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