アミルの兄・アゼルに気が強い美貌の嫁さんがきた=森薫「乙嫁語り」14

19世紀の中央アジアのカスピ海の諸都市を舞台に、そこに住む若い夫婦たちや、諸都市を巡って旅をしているイギリス人写真家とここで一緒になった彼の妻を主人公に、民族色豊かな生活叙事詩が描かれる『森薫「乙嫁語り」(ハルタコミックス)』シリーズの第14弾。

前巻では、妻として迎えたタラスとイギリスへの帰国を前に、カスピ海からカルルクの住むブハラへと旅を続けようとした写真家兼民族学者のスミスだったのですが、ロシアのし侵攻が激しくなり、ブハラへの旅を断念しています。そして、この頃は、カルルクたちの住む地では、まだ影が薄かったロシアなのですが、じわじわと侵攻の手を伸ばしてきていて、それに対するブハラ周辺や草原地域の対応が描かれるのが本巻です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第九十六話 会談
第九十七話 金色の氷
第九十八話 一本の矢
第九十九話 決着
第百話   婚礼
第百一話  新妻

となっていて、冒頭では、アミルの兄たちのもとへ修行へ行っていたカルルクが久々に実家へ帰ってきます。今回、アミルの兄のアゼルたちが不凍港を求めて南下を続けるロシアへの対抗手段を話し合うための会議に出席することになったため、それに同行しての帰省ですね。

その会議には、草原の遊牧民だけでなく、町の有力者たちも集まっていて、ロシアの侵攻が激しさを増す一方であるため、共同で対抗する方策が模索されるんですが、町の有力者たちは、草原の部族が一丸になるならば、それと同盟を結び、毛皮と肉の取引の優先権と町への出入りの自由化を約束します。その草原の部族の一丸化の証明として、アミルの兄・アゼルとジャンディク一族の娘との婚姻が提案されます。

そして、アゼルがジャンディク一族の長・ジャハンの娘の婿としてふさわしいかをテストするため、草原での馬競べが開催されます。草原の先にある山の谷間の木に刺さっている赤い布のついた矢を最初に持ち帰ったものが勝ちという競争で、ジャハンの娘・ビケに勝ったら婿として認めようというものですね。

たいていの場合なら、体格が大きく、大きな馬を扱える男性が有利な「馬競べ」なのですが、やってきたジャハンの娘「ジャハン・ビケ」は、美人である上に、西方のテケ族という名馬を飼っている部族の馬を乗りこなす騎馬の名手で、という筋立てです。

アゼルとビケの騎馬の腕前はほぼ互角というところなのですが、この娘さんの気性は、乗っている駻馬とおなじようにかなりのじゃじゃ馬のようで、木に刺された矢を一本を残して残り全てを野に射放ってしまい、「勝ちたければ、自分から矢を奪ってみせろ」と挑発してきます。いやー、なんとも気の強い女性ですね。

さらに、ジャハン・ビケに味方して、彼女と彼女の持った矢を守ろうとするジャハン一族の他の女性たちと、アゼルの仲間たちとの集団戦も同時に始まってしまい・・という展開です。
そして、激しい競い合いのすえ、最後のアゼルがみせた「奥の手」は・・というところは原書のほうでどうぞ。

このアゼルとジャハン・ビケの婚姻の馬競べのおかげで、アゼルの盟友であるジョルクやバオマトにも奥さんができるのは「余録」というものでしょうね。二人それぞれに個性のあるお嫁さんなので、原書のほうでお確かめください。

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レビュアーの一言

19世紀半ばにカザフスタンのステップ地帯を手中に収めたロシアの南下政策は当初、バルカン半島から黒海方面を目的としていたのですが、1856年に、クリミア半島をめぐって、イギリス・フランスの支援するオスマン・トルコとの戦争(クリミア戦争)に敗北し、その目標をコーカンド、ブハラ、ヒヴァの三国のあるトルキスタン方面へと転換しています。
ちょうど、スミスがアラル海周辺を旅をしていた頃が、クリミア戦争が起きる少し前ぐらいに思えるので、だんだんとカザフスタン北部からトルキスタン方面へ向けてロシアの動きが活発化し始めているのが本巻のあたりでしょうか。新婚初夜のところで、ロシアが我々から草原を奪うつもりなら当然、戦うこととになるというアゼルにジャハン・ビケは

と返答しているので、今後のロシアとの戦乱の中で、この一族がどう動いていくかも注目ですね。

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