”死の天使長”サン・ジュストは廃兵院を無力化、革命の準備整う=メイジメロウ・花林ソラ「断頭のアルカンジュ」2

バスティーユ監獄の襲撃によってはじまる「フランス革命」で、もっとも過激な恐怖政治を敷いた、ジャコバン党のリーダー「ロベスピエール」の右腕として、ルイ16世やマリー・アントワネットを始めとするフランスの王族や貴族を断頭台に送り込み、「革命の大天使」あるいは「死の天使長」という異名をとった、フランス革命期の血塗られた政治家「サン・ジュスト」を主人公に描く”フランス革命”コミック「断頭のアルカンジュ」の第2弾。

前巻で、妹のマリーを陵辱し、精神を破壊した元婚約者の製糸工場主・ゼラミールとブランジ男爵に復讐を果たし、これをきっかけに頽廃した国を滅ぼすことを誓ったたサン・ジュストだったのですが、彼の犯罪をかぎつけた弁護士・ロベスピエールが彼の「国殺し」を阻むべく、捜査を始めるのが本巻です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第6話 大敵
第7話 ひばり
第8話 私の天使 Ⅰ
第9話 私の天使 Ⅱ
第10話 深淵 Ⅰ
第11話 深淵 Ⅱ

となっていて、この頃、サン・ジュストは国王やカトリック教会を批判するエロチックな風刺詩「オルガン」を発表しています。

これによって反体制派の中でそれなりの有名人となっていたのですが、それが縁で、開店休業状態の弁護士・デムーランの弁護士仲間で全国三部会の第三身分代表議員に立候補して選出されたロベスピエールと知り合うこととなります。

後にロベスピエールの右腕と呼ばれ、彼の政策の実現に辣腕を振るうのですが、本シリーズでは正義感の強いロベスピエールによって、製紙工場主・ゼラミールの殺害の主犯と疑われています。

そして、ロベスピエールとの散歩中、壁紙工場主のレヴェイヨンの屋敷に向上の労働者が押し寄せている現場に出くわします。その工場では低賃金の改善を要求した労働者の代表のアンチノウスという男が、リンチされた上に殺されてセーヌ川で死んでいた、という事件があったのですが、王侯貴族や有力者とつながりのあるレヴェイヨンは犯行が疑われたにも関わらず、捜査も訴追もされていない状況です。

ロベスピエールがサン・ジュストが工場主に鉄槌をくらわそうとするのを見見張っている中、どうやって犯行を行うのか、というのが読みどころですね。もっとも、ゼラミール事件のときは、地下道で彼自ら鉄槌を下したのですが、今回、実際に復讐に手を染めるのは、工場の労働者たちです。

さて、どうやって、サン・ジュストは労働者たちに前に工場主(実際はレヴェイヨンの母親ですが)を引き出すことに成功したか、は原書のほうで確認を。

そして、物語の中盤では、サン・ジュストの忠実な部下として犯罪にも手を染める「ジャン」とサン・ジュストとの少年期が描かれます。
両親を早くに亡くし叔父夫妻に引き取られ、叔父たちによる性的虐待を受けているジャンを救い出したのが、サン・ジュストだけでなくマリーも大きな役割を占めていた、というのが、今回、ジャンが死なばもろとも的にサン・ジュストの共犯となっている所以のようです。

後半部分では、貴族や資本家たちの妨害で力を失った「全国三部会」に不満を抱いた第三身分の者が憲法制定を求める国民議会を独自に設立し、情勢がどんどん不穏になっていく中、廃兵院に保管されている武器を民衆に奪い取らせる下準備として、廃兵院の管理者を処刑し、あらかじめ防衛を無力化しておく計画をサン・ジュストがたてます。

史実でも、国王の外出・集会禁止令に従わず、パレ・ロワイヤルに集まった群衆を制圧するために発動した国王軍に反発して、給料遅配に不満をもつ衛兵たちと一緒に、廃兵院に保管されていた3万丁の小銃を奪ってバスティーユ監獄に押し寄せたのがフランス革命の発端となったのですから、まさに「廃兵院の無力化」が及ぼした影響は大きいものがありますね。

本書では、廃兵院の内部の実態を探るため、ジャンが潜入し、廃兵院の実質的な支配者・ドルマンセの悪行を暴き出していくのですが、行き着く先は、シリーズのお決まりの、サン・ジュストによる”処刑”です。

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レビュアーの一言

本書ではロベスピエールはこんな感じに描かれているのですが、

当時の肖像画をみても、童顔で、生真面目な様子で、とても革命政権で多くの人々をギロチンに送った人物とは見えない感じですね。

ピーター・マクフィーの書いた「ロベスピエール」によると、野心家で厳格、ハードワーカーであったことは彼の知り合い全員一致した意見のようですが、性格については孤独癖があって、打算的で冷たい、という人と、信念があって、愛情深いという人で真っ二つに分かれていたようです。

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