嗅覚に優れた調理人見習い少女・ちはるの活躍を読もう=高田在子「まんぷく旅籠 朝日屋」シリーズ

江戸の日本橋室町の潰れてしまった料理屋を改装した小さな旅籠「朝日屋」を舞台に、両親が営んでいた料理屋を板前の悪だくみで潰され、その後両親と死別した娘「ちはる」が、その優れた嗅覚を使って料理の腕を磨き、店の仲間たちとトラブルを解決していく、ハートフルな時代小説が「まんぷく旅籠朝日屋」シリーズです。

あらすじと注目ポイント

第一巻「ぱりとろ秋の包み揚げ」

第一巻の収録は

第一話 橋の向こう側
第二話 それぞれの傷
第三話 夜明け前
第四話 朝の光

の四篇。

第一話から第二話までで、このシリーズの主要なキャストが登場してきます。

第一話は、シリーズの主人公となる「ちはる」が、両親と死に別れて長屋に一人取り残されているところに、家賃に取り立てに大家がやってくるところから始まります。落語の場合は、大家は人情深いと決まっているのですが、このシリーズでは「因業大家」の典型で、店賃が払えないなら、ちはるを長屋から追い出そうとするのですが、そこに、父親が残した借金を返せ、と高利貸しもやってきて、という筋立てです。
で、ここに現れたのが、元火付盗賊改方の役人で、何かの事情で今は浪人となっている「工藤怜治」という元武士で、「ちはる」の嗅覚のよさを聞きつけて、新しく始めた、料理屋兼旅籠の「朝日屋」の調理人としてスカウトにやってきた、という経緯です。

この怜治が滅法強くて、高利貸たちを撃退していくのですが、その様子は原書のほうで。

そして、第二話では、朝日屋の元の店であった料理屋「福籠屋」で板前をしていて、やくざもののいやがらせで利き腕に大怪我をおった「慎介」と出会います。さらに、売れっ子の茶屋娘で、亭主を辻斬りの犠牲にしてしまったことを悔やんでいる「たまお」が仲居兼お運びとして、男色家の座長の毒牙にかかりそうになっているところを怜治によって助けられた女形・綾人が加わってきます。

そして第三話、第四話で新装開店したものの、一人も客がなかった旅籠「朝日屋」の復活をかけた人情ストーリーが始まるのですが、「ちはる」が新規開発した料理が客をよびよせるキラーアイテムになっていきます。

Bitly

第二巻「なんきん飴と三角卵焼き」

第二巻の収録は

第一話 まことの味
第二話 幸せの膳
第三話 小さな日輪
第四話 一陽来復の朝

の四話。

第一話目は、朝日屋の前身であった「福籠屋」で店主兼板前だった「慎介」と彼が店を潰されたときから不和になった昔なじみの魚屋・鉄太との和解の物語です。「福籠屋」は、店の料理の鯵のつみれにトカゲ肉を混ぜてあるといった悪評がもとで客が離れていったのですが、その鯵を卸していたのが鉄太という経緯です。この慎介と鉄太の和解を、「ちはる」が粘り強くセッティングしていきます。

第二話では、第一巻で評判をとった「ぱりとろの包み揚げ」の「玉手箱」の盗作疑惑がおきます。盗作されたと訴えているのが、「福籠屋」を潰した元凶である「黒木屋」という料理屋で朝日屋を福籠屋のように潰してしまおうという魂胆です。
この危機を脱するため、「ちはる」が焼き芋にヒントを得た新しい名物デザートの「小蜜芋」を生み出すのですが、さらにこれを使って、黒木屋の悪だくみを打ち砕いていくのですが詳細は原書で。

第三話は、表題の「なんきん飴と三角卵焼き」が謎解きがされる話です。亭主の母親の世話と亭主の小言に嫌気がさした女房に逃げられてしまった親子に朝日屋から弁当を差し入れるのですが。子供の一人で泣き虫の鶴蔵は、「おっかさんの卵焼きと違う」といって弁当のおかずに口をつけようとしません。いったいどこが違うのか、という謎を「ちはる」が解き明かしていきます。

第四話では、宿に泊まった旅の絵師が巻き起こす騒動なのですが、ひさびさに酒によって大暴れする「ちはる」の姿が見えます。

Bitly

第三巻 しみしみがんもとお犬道中

第三巻の収録は

第一話 早咲きの梅
第二話 新しい仲間
第三話 おかげ参り
第四話 雨の朝

の四篇。

第一話では、食事を頼む客ばかりだけではなく、宿泊客も増え始め、人手が足りなくなった朝日屋では、新しく仲居を何人か頼むこととなるのですが、美人で機転はきくのですが、同僚の悪口をあちこちに吹き込むうえに、お客へのプレゼントをちょろまかす女性が口入屋の紹介で入り込んできます。ここでは、元火付盗賊改方の怜治の「眼力」がものをいうことになりますね。

第二話では、第一話で朝日屋をひっかきまわした「おえん」を辞めさせた後、おしのという女性を雇い入れるのですが、パートタイムしかできず、相変わらず人手不足は続いています。そこへ常連の大店の娘を雇ってくれないかという話が舞い込んできます。その娘は悪い仲間と遊び歩いていて、どこで不始末をしでかすかわからないため、監視を兼ねて雇ってほしいという依頼です。その娘「おふさ」は接客はきちんとするのですが、なにかと生意気で、特に「ちはる」との関係が最悪で・・という展開です。

第三話では、江戸時代に大流行した「お伊勢参り」で、事情があって参拝できない飼い主の代わりに伊勢へ詣でた「代参犬」が登場します。代参犬は無償で世話をしないと罰が当たるといわれていたようで、朝日屋でも皆総出で世話をするのですが、なぜか「ちはる」の調理したものは食わなくて・・という筋立てです。この犬をめぐって「ちはる」と「おふさ」のプチ喧嘩が再発していきます。

第四話では、甲州街道沿いで草鞋屋を営んでいるという長吉郎という商人が泊り客となり、彼を喜ばすために、アナゴ料理や当時、関東煮と呼ばれていた蛸の太煮がふるまわれるのですが、慎介のちょっとした失敗から、小田原から届いたはんぺんや蒲鉾、がんもどきを太煮の中に落としてしまい、現在の「おでん」である「関東煮」、関西でいう「かんとだき」の誕生秘話となっていきます。

第三巻の最終話では、怜治の火盗時代の同僚が登場し、
ただ最後のほうで、怜治の火盗仲間が襲撃されて大怪我をおったという情報も入り、怜治が火盗を辞めた話へとつながっていきそうなのですが、これは次巻に続く、ですね。

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レビュアーの一言

作者・高田在子さんの時代小説では「料理」がテーマになることが多くて、このシリーズでも特徴ある料理が朝日屋で提供されています。それは

椎茸・しめじ・茄子を炒めて、鰹出汁・醤油・酒で味つけし、葛粉でとろみをつけた餡を、小麦粉を水で溶いて薄く焼いた皮に包んで、ごま油で揚げた、表題の「ぱりとろの包み揚げ」の「玉手箱」

であったり、

焼き芋で作った餡を、小麦粉の皮で包んで焼いた「小蜜芋」

など、工夫をこらした名品を仕上げていくことになるのですが、その料理の数々は原作でぜひご確認を。

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