烏賊川市のイカ型ホテルで起きた殺人の謎を解け=東川篤哉「スクイッド荘の殺人」

関東にある架空の地方都市(千葉の東・神奈川の西)にある「烏賊川市」を舞台に、痩せた目立たない風貌の私立探偵「鵜飼杜夫」と、烏賊川市立大学中退の高学歴者で、泥酔したり激怒すると所かまわず罵詈雑言を吐き暴れる特技をもつ探偵助手「戸村流平」をメインキャストに、烏賊川市警の優秀だがやる気にかける「砂川警部」や安定した経殷無事な職場を求めるサラリーマン刑事「志木刑事」や鵜飼杜夫の探偵事務所が入居している「黎明ビル」の美人管理人「二宮朱美」が脇を固めるユーモアミステリーシリーズの久々の長編作品が本書『東川篤哉「スクイッド荘の殺人」(光文社)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一章 鵜飼探偵事務所
第二章 ゲソ岬のスクイッド荘
第三章 失踪の朝
第四章 警部と元警部補
第五章 殺人の夜
第六章 二十年前の殺人
第七章 地底探検
第八章 野球喫茶とカラオケ店
第九章 探偵の罠
第十章 銃撃戦
第十一章 明らかになる過去
第十二章 大団円
烏賊川市のエピローグ
南の島のエピローグ
二十年前のエピローグ

となっていて、プロローグのところでは、ある男性が二十年前に天体観測と称してののぞき見中、空き家に複数の段ボールを運びこむ不審な男を見つけ、隠れてその空き家に忍び込むところが描かれます。そして彼が浴室で見つけたのが、バラバラに切断された人間の死体で・・というもので、これが今巻の本編の事件の大事な鍵となるので覚えておきましょう。もちろん、筆者による「ひっかけ」が隠されているのは承知しておいてくださいね。

本編の物語のほうは、依頼客の殆ど来ない「鵜飼杜夫探偵事務所」でトランプタワー建設にいそしむ鵜飼杜夫とスマホゲームに没頭している戸村流平のもとへ、50代の小柄な男性がやってくるところから始まります。彼は烏賊川市内で複数の遊技場やレジャー施設を経営している「小峰三郎」という会社経営者なのですが、「裁きは終わっていない・・」というクリスマスカードに書かれた脅迫状を受けとり、身の危険を感じたため、鵜飼たちにクリスマス前後のボディーガードを頼みにきた、という筋立てです。なぜ警察に通報せずに、一介の私立探偵事務所にやってきたかは、物語展開上の都合と「大人の理由」があるようです。

で、クリスマスの頃は、烏賊川市のはずれにあるゲソ岬にあるホテル「スクイッド荘」で過す予定の小峰夫妻を警護するため、鵜飼と流平もこのホテルに泊まることとなったのですが、このホテルに向かう途中、自動車事故を起こして意識を失っている「黒江健人」という名前の若い男性を救助します。ホテルでこの男性を連れていき、応急措置をしていたのですは、救援を求めても、突然降ってきた大雪のため、救急車も警察も現地にやってくることができずに、とかなり乱暴に「密室」がつくられていきます。

ちなみに「スクイッド」というのは動物の「イカ」のことで、このホテルもイカに模したスタイルで建造されています。

そして、翌朝になってみると、その「黒江健人」はホテルから姿をくらまし、深夜になってホテルの外に外出した小峰三郎社長が、近くの雑木林で何者かに腹部を刺されて殺されていまう、という事件が起きます。小峰は死ぬ間際「くろえ・・けんと、だ」というダイイングメッセージを残して絶命し・・というミステリーのお手本のような流れです。

おまけに、黒江健人の父親は、元烏賊川市警の刑事で、20年前のバラバラ殺人事件の捜査を担当しています。その事件は、実は今回殺された小峰三郎の兄「太郎」が殺され、その容疑者として次兄の「次郎」が有力になったのですが、逃亡して行方不明なまま、というものです。

事件の通報を受けた、烏賊川市警の砂川警部と志木刑事は、砂川警部の先輩である黒江元刑事とともに、今回の事件の捜査にあたるのですが・・という筋立てで、二十年前のバラバラ殺人の捜査と、今回の小峰三郎殺しの事件とが錯綜しながら展開をしていきます。

まあ、事件の動きと犯人推理は、以前のこのシリーズ同様かなりのドタバタで進んでいきますので、しっかりとついていきましょう

Amazon.co.jp: スクイッド荘の殺人 電子書籍: 東川 篤哉: Kindleストア
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レビュアーの一言

「烏賊川市」シリーズは2002年に第一作「密室の鍵貸します」から、今回の「スクイッド荘殺人事件」のほかに8冊が刊行されています。今回は作者のデビュー20周年記念作品として13年ぶりの長編ということなので、今までのシリーズをざっと紹介しておきます。

シリーズものではあるのですが、登場人物の把握さえしておけば、どれから読んでも楽しめると思います。

①密室の鍵貸します

しがない貧乏学生・戸村流平にとって、その日は厄日そのものだった。彼を手ひどく振った恋人が、背中を刺され、4階から突き落とされて死亡。その夜、一緒だった先輩も、流平が気づかぬ間に、浴室で刺されて殺されていたのだ!かくして、二つの殺人事件の第一容疑者となった流平の運命やいかに?ユーモア本格ミステリの新鋭が放つ、面白過ぎるデビュー作。(「BOOK」データベースより引用)

②密室に向かって撃て

烏賊川市警の失態で持ち逃げされた拳銃が、次々と事件を引き起こす。ホームレス射殺事件、そして名門・十乗寺家の屋敷では、娘・さくらの花婿候補の一人が銃弾に倒れたのだ。花婿候補三人の調査を行っていた“名探偵”鵜飼は、弟子の流平とともに、密室殺人の謎に挑む。ふんだんのギャグに織り込まれた周到な伏線。「お笑い本格ミステリー」の最高峰。(「BOOK」データベースより引用)

③完全犯罪に猫は何匹必要か?

『招き寿司』チェーン社長・豪徳寺豊蔵が破格の金額で探偵・鵜飼杜夫に愛猫の捜索を依頼した。その直後、豊蔵は自宅のビニールハウスで殺害されてしまう。なぜか現場には巨大招き猫がおかれていて!?そこでは十年前に迷宮入りした殺人事件もおきていた。事件の鍵を握るのは“猫”?本格推理とユーモアの妙味が、新しいミステリーの世界に、読者を招く。(「BOOK」データベースより引用)

④交換殺人には向かない夜

不倫調査のため、使用人を装い山奥の邸に潜入した私立探偵・鵜飼杜夫。ガールフレンドに誘われ、彼女の友人の山荘を訪れた探偵の弟子・戸村流平。寂れた商店街で起こった女性の刺殺事件の捜査をおこなう刑事たち。無関係に見えた出来事の背後で、交換殺人は密やかに進行していた…。全編にちりばめられたギャグの裏に配された鮮やかな伏線。傑作本格推理。(「BOOK」データベースより引用)

⑤ここに死体を捨てないでください

妹の春佳から突然かかってきた電話。それは殺人の告白だった。かわいい妹を守るため、有坂香織は事件の隠蔽を決意。廃品回収業の金髪青年を強引にまき込んで、死体の捨て場所探しを手伝わせることに。さんざんさ迷った末、山奥の水底に車ごと沈めるが、あれ?帰る車がない。二人を待つ運命は?探偵・鵜飼ら烏賊川市の面々が活躍する、超人気シリーズ第五弾。(「BOOK」データベースより引用)

⑥早く名探偵になりたい

人をイラつかせる無神経な言動と、いいかげんに展開する華麗な(?)推理。鵜飼杜夫は、烏賊川市でも知る人ぞ知る自称「街いちばんの探偵」だ。身体だけは丈夫な助手の戸村流平とともに、奇妙奇天烈な事件解決へと、愛車ルノーを走らせる。ふんだんに詰め込まれたギャグと、あっと驚く謎解きの数々。読めば読むほどクセになる「烏賊川市シリーズ」初の短編集。(「BOOK」データベースより引用)

⑦私の嫌いな名探偵

男が真夜中の駐車場を全力疾走し、そのままビルの壁に激突して重傷を負った。探偵の鵜飼杜夫は、不可解な行動の裏に隠された、重大な秘密を解き明かしてゆく。(「死に至る全力疾走の謎」)烏賊神神社の祠で発見された女性の他殺死体が、いったん消失した後、再び出現した!その驚きの真相とは?(「烏賊神家の一族の殺人」)何遍読んでも面白い、烏賊川市シリーズ傑作集!(「BOOK」データベースより引用)

⑧探偵さえいなければ

さまざまな着ぐるみが集う烏賊川市のビッグイベント「ゆるキャラコンテスト」。その準備中に、一人の出場者が胸を刺されて死んでいるのが発見された! 事件解決のリミットはコンテスト開始までの一時間。探偵の鵜飼は真相解明に乗り出すが――(「ゆるキャラはなぜ殺される」)。おなじみ烏賊川市の面々がゆるーく活躍する、大人気ユーモアミステリー傑作集!(「BOOK」データベースより引用)

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