あなたの予想を裏切る「どんでん返し」連続の物語集=結城真一郎「#真相をお話します」

日常生活の中で、普通なら見過ごしたり、気が付かずにすませてしまっていることの中に、実は自分が認識している「現実」を大きく揺るがせてしまう「歪み」の存在と、その「歪み」が突然見場を向いて襲い掛かってきて、平穏な日常生活がガラッと崩れていく怖さを描いた。どんでん返しミステリが、本書『結城真一郎「#真相をお話します」(新潮社)』です。

今巻収録の「#拡散希望」は、第74回日本推理作家協会賞(短編部門)の受賞作でもあります。

あらすじと注目ポイント

収録は

「惨者面談」
「ヤリモク」
「パンドラ」
「三角奸計」
「#拡散希望」

の五篇。

第一話の「惨者面談」の主人公は、御三家といわれる都内の超有名進学校から東京大学に現役合格し、現在は家庭教師派遣会社の営業担当のアルバイトをしている「片桐」という男子大学生。経歴を見て推測できるように、この派遣会社でも一、二を争う営業成績の凄腕アルバイトです。

その彼が今回営業をかけるのは、都内の小中高とエスカレータ式の市立小学校に通っている「矢野悠」という小学生で、中学から御三家クラスの学校への転校を考えているのですが、夏季講習の試験で結果が思わしくなく家庭教師ををつけるべきか会社に相談がきた、という案件です。

片桐くんにとっては楽勝な案件かな、と思いきや、面談した母親はアポイントをいれているのを忘れているし、入会に乗り気ではない。家庭教師をつける男の子は、浅黒く日焼けして、野球少年を思わせる風貌ながら、発言は少なく、はっきりしない。さらに、試に出した算数のテストの答えには執拗に「110」と書いてくる始末です。

これは「ハズレ」かなと思った片桐くんなのですが、今までの母親の予想と違う反応や、何かを訴えようとする悠の目、そして「110」の数字からあることに気づき・・という展開です。

少しネタバレしておくと、この母親は偽物で、実の母親を殺害した近所の女性がなりすましているのですが、作者のどんでん返しはさらに二重、三重に張り巡らされているのでご用心を。

第二話の「ヤリモク」は、マッチングアプリを使って、パパ活をしている女子学生を漁っている中年の男性が主人公です。実は、彼は娘がマッチングアプリを使ったパパ活で荒稼ぎをしている疑いをもっているのですが、それがこの行動と関係があるかどうかは物語の後半に明らかになります。

今回、自称23歳で、実の娘と似た風貌の「マナ」と名乗る女性と出会って、彼女の住んでいるマンションへと潜り込んだのですが、彼女にすすめられたシャワーを浴びて浴室を出たところで、彼は「マナ」と金髪でデカい体つきの財布から金を抜き取ろうとしている男に脅しをかけられます。二人は彼から金をまきあげようとしてくるのですが、実は、彼の目的は「マナ」と関係をもつことではなくて・・という展開です。

物語の前半部分で、パパ活をしている女性が殺されるという事件が頻発しているという振りがあるので、「ああ、サイコパス系ね」と思わせておいて、思わぬドンデン返しが待っています。もちろん、どんでん返しは一重ではないですよ。

第三話の「パンドラ」は、結婚してもしばらく子供ができなくて悩んでいた男性「翼」が、子供が生まれた後、妻公認で行っていた精子提供で、提供を受けた女性が産んだ「我が子」から会ってほしいというメールをもらって始まる物語です。

当時、その女性は、夫であった連続殺人犯の子供を妊娠してしまったのでは、と悩んでいて、実の父親を確定しないために「翼」から精子の提供を受けて人工授精をしたのですが、それから15年後、その「我が子」が自分が誰の子か確かめるため、今回、血液鑑定を依頼しにやってきた、という経緯です。

事情を知った「翼」は、その頼みを快く受け入れ、血液検査の結果、その娘は連続殺人犯の子供ではなく、「翼」の実子であることが証明されるのですが、その結果は男性の家族関係を揺るがす内容を秘めていて・・という展開です。

このほか、大学時代、仲の良かったサークル仲間が「リモート飲み会」を利用した復讐劇が語られる「三角奸計」や、長崎の離島に住む小学生4人がYoutuberを目指そうとするのですが、ある事件をきっかけに島の人々が急によそよそしくなった意外な理由が描かれる「#拡散希望」など、現代的な事象をネタに、二重三重のドンデン返しのストーリーが展開されていきます。

レビュアーの一言

今巻に収録されている話の底ネタは「中学受験」「パパ活+マッチングアプリ」「妊活」「リモート」「Youtube」と2020年代に流行しているキーワードばかりなのですが、筆者の手にかかると、それらが仕掛けにみちた物語へと変わっていきます。

本の帯には

ミステリ界の超新星が仕掛ける、罠、罠、罠、罠、罠

読みながら覚えるかすかな違和感と確かな胸騒ぎ。それでも、あなたの予想は必ず裏切られる

とあって、「小細工一切なし、二度読み不可避の新感覚ミステリ」が売り文句になっています。

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