モンゴルの第二波攻撃は、博多の町を焼き払う=たかぎ七彦「アンゴルモア 博多編」5~7

日本を「カミカゼの国」として認識させ、それ以後の国防に関する考えに大きく影響を与えた「元寇」のうち、最初に中国・元から侵攻を受けた文永の役で、対馬、壱岐が壊滅的な敗北と略奪を受けた後、九州本土へ押し寄せてきた元軍を日本の鎌倉武士が博多で迎え撃つ姿を描いた『たかぎ七彦「アンゴルモア 博多編」(角川コミックス・エース)』の第5弾から第7弾。

前巻では筥崎と博多の二拠点同時攻撃をしかけてくるモンゴル軍に対し、博多に陣取る少弐景資の軍に加わった朽井迅三郎がウール三兄弟の一人を打ち取り、天草の女性御家人・大蔵太子も敵兵を討ち取り、モンゴル軍の第一波の攻撃をしのいだのですが、さらに彼らの第二波攻撃が繰り出されるのが第5巻以降の展開です。

あらすじと注目ポイント

第5巻のあらすじと注目ポイント

第5巻の冒頭は、少弐景資に対し、ウール三兄弟の一人の首実検に臨む朽井迅三郎の様子から始まります。彼はこの席で、モンゴル軍の第一の攻撃目標が博多であろうことを少弐景資告げるのですが、流人あがりで少弐軍のとってよそ者の彼の主張は受け入れられるはずがありません。さらに、対馬の宗一族の生き残り・宗右馬太郎にも面会するのですが、坊っちゃん育ちの彼とはどうもウマが合わないようですね。

一方、モンゴル軍のほうは以前として対馬を占領下においているほか、博多に途中の航海で迅三郎に撹乱された高麗軍の金しん(人偏に先)左軍使も到着し、まずます陣を厚くしています。ただ、金左軍使は内心、モンゴルを「北狄」と蔑視しているなど、内情は結束が固いとはいえないようなので、ここが日本勢のつけこむところではあるのでしょう。

そして、少ない軍勢を筥崎と博多に分散配置している弱点に気づいた、少弐景資は兄に博多に兵を一本化するよう進言するのですが、兵力温存のため筥崎に残留しようと企む大友軍の牽制のため、一本化もなかなか進みません。モンゴル軍だけでなく日本勢も武家同士の対立もひどく、お互い様というところですね。

統一軍の形成できない少弐・大友などの九州有力諸侯をみて、迅三郎は強硬手段に出ます。それは神功皇后を祀る筥崎宮を焼き討にするというもので、夜半すぎ、迅三郎たちは神社の中に忍び込み、火をつけるのですが、そこでモンゴル軍で「義経流」をつかう「両蔵」が現れ、という展開で、対馬に続き、源義経由来の剣をつかう二人のバトルが始まります。

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第6巻のあらすじと注目ポイント

第6巻の前半は、直接戦闘をしている九州北部を離れ、この時の中央政権である鎌倉幕府の執権・北条時宗の話題に移ります。

鎌倉幕府の執権職を世襲する嫡流の得宗家に、第五代執権・北条時頼の嫡子として生まれ、幕府内の実力者であった安達一族の姫を嫁にもらい、北条義時の五男で第七代執権となった北条政村に薫陶を受けた武家政権のサラブレッド中のサラブレッドですね。

しかし、モンゴル襲来に備えていた文永9年には、京都の六波羅探題であった異母兄の北条時輔や、北条一族で鎌倉の評定衆であった名越時章・名越教時を討っているので、この物語の主人公である朽井迅三郎にとっては「仇」ともいえる人物ですね。

中盤からは、以前は文永十年十月終わりの暴風雨で壊滅したという説もあったモンゴル軍の被害は僅少で終わり、博多の浜へ上陸を始めます。今回は第一波では少なかった騎馬兵も多数上陸し、モンゴル軍の本格的な攻撃が始まります。

なかでも急先鋒なるのは、女真族を率いる副元帥の劉復亨率いる「鉄浮屠」の騎兵隊で、馬も人も鉄の鎧で覆った重装騎兵集団です。彼は少弐景資の本陣めがけて突進してくるのですが・・といった展開です。このあとは史実で言われているように劉は矢で負傷して、戦線離脱してしまうのですが、矢が当たった原因は伝承とはちょっと違っています。

指揮官が負傷し退いた女真軍を後目に、今度は金左軍使率いる高麗軍が博多の町に攻め込んできます。日本勢は主力兵を博多の浜に集中させていますので、いわば虚を衝かれた格好です。

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第7巻のあらすじと注目ポイント

博多の息浜へ集結していた日本勢の背後から博多の町を襲った高麗兵によって退路を絶たれるのを恐れ、大友軍はじめ日本勢の多くの武将が退却を始めていきます。その中で朽井迅三郎たちは、比恵川の西岸に居住している対馬出身者たちを助けるため、敵軍へ向かっていきます。

しかし、他の日本勢の退却を契機に高麗軍だけではなく、他の蒙古兵などのモンゴル軍も乱入してきます。少弐景資や宗右馬太郎の軍勢は博多を守るために戻ってくるのですが、大軍で攻め込んでくるモンゴル軍の前では「衆寡敵せず」の言葉どおり、押しまくられていきます。

そして、対馬出身の民を守るため、天草の御家人・大蔵太子に援軍される迅三郎と、彼が高麗軍によって屠られることをよしとしない、モンゴル軍の密偵・両蔵たちは共同して高麗軍やモンゴル軍と戦うのですが・・といった展開です。

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レビュアーの一言

第5巻から第7巻までは、大軍を擁して攻め込んでくるモンゴル軍に対し、鎌倉の命をうけた九州各地の援軍の到着も遅れ、少弐や大友などの北九州勢は押されっぱなしの状況に推移します。

モンゴル軍強し、というところなのですが、ここで注目しておきたいのは、高麗軍の劉復亨のモンゴルに対する敵意ですね。蒙古兵を「北狄」と蔑称し、戦目付けとして従軍してきていたモンゴル軍の軍使を血祭りにあげるなど、利敵行為を密かに行っています。史実によれば、彼は本当は山東省生まれの父の代からの漢人武将で、モンゴルの第2代ハーンの「オゴテイ」の秘書官となった「耶律楚材」の門人でもあったので、ここまでの「モンゴル」嫌いだったかどうかはわからないところですが、モンゴル軍の中に、軍高官も含め、モンゴルに反感をもつ者が多くいた証と考えればいいのでしょうね。

ちなみに、彼がこの文永の役の「百道原・姪浜」の戦で負傷したことがモンゴル軍敗走の原因となったといわれていて、このまま本国へ送還された後は降格された上、第二回目のモンゴル侵攻(弘安の役)には参軍していません。

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