四国の若武者「長宗我部信親」の清冽な生き様と壮絶な死にざま=赤神諒「友よ」

天下を狙うほどの武力と君主の才覚を有しながら、産まれた時期が遅かったり、都から遠かったりといった不利な環境ゆえ、天下統一の帰趨に関わることができなかった戦国大名には、米沢の伊達家や薩摩の島津家などがあるのですが、親子二代にわたって才覚と武略に優れた君主を抱きながら、様々な不運に見舞われて、最終的には潰れてしまった有力戦国大名に「長宗我部家」があります。

その長曾我部の中でも、父・元親や長宗我部の家臣だけでなく、豊臣秀吉からも、その才能を激賞されていた若武者・長宗我部信親の惜しまれつつ散った生涯を描いたのが本書『赤神諒「友よ」(PHP研究所)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

序 戸次川の落日
第一部 石清川
 第一章 土佐の御曹司
 第二章 藤目城の守将
 第三章 岡豊の春
 第四章 川と麦
 第五章 波川に咲く花
第二部 中富川
 第六章 土佐で好きなもの
 第七章 中富川愛傷歌
 第八章 石ぐろと火振り
 第九章 誰のために
第三章 戸次川
 第十章 羇旅
 第十一章 人を動かすものは
 第十二章 円陣

となっていて、第一部から第三部までの表題が「川」の名前になっているのは、本書の主人公である長宗我部信親が「川が大好き」ということとあわせて、それぞれの舞台が表題の川が流れているところとなってもいます。

まず冒頭のところでは、名将・島津家久率いる薩摩軍に、豊臣秀吉が派遣した仙石秀久率いる上方軍と長宗我部の四国勢、そして地元の大友勢が蹂躙され大敗を喫しているところから始まります。秀吉の戦端を開かず、秀吉本軍の到着を待てという命令に背いた仙石秀久采配ミスによって、派遣軍が壊滅状態となった「戸次川の戦い」です。この敗戦に怒った秀吉によって、仙石秀久が領地を没収され、追放されたのは、宮下英樹さんのマンガ「センゴク権兵衛」に詳しいところです。

で本編のほうは、それを遡ること8年前、主人公の長宗我部信親の父・元親率いる長曾我部郡が土佐統一を果たした後、伊予、讃岐、阿波へ押し出し、四国統一へ向かって動き出し始めている天正六年のあたりから始まります。

主人公の信親は、この時、まだ初陣前なのですが、父の元親も初陣が22歳と遅く、さらに父から溺愛されている信親なので、しっかりとした準備をして初陣を迎えさせようとする親心の現れというところなのでしょう。

そして、彼の初陣として用意されたのが、西讃(西讃岐)の藤目城攻めです。この城は土佐から西讃へ抜ける要衝に位置しているのですがさほど堅固でなく、さらに守っているのが無名の新目弾正という若い武者なので、若君・信親が武功をあげるのは頃合いという想定であったのですが、故郷を命をかけて守ろうという若武者の死を賭した抵抗の前に土佐軍が思わぬ損害をうけることになります。この若き敵方城主の抵抗が信親のこの後の行動へ大きな影響を及ぼしてくることになります。

第二部は、ここまで、守護であった一条家を滅ぼし、讃岐、阿波、伊予へと順調に領土を拡大してきた長宗我部率いる土佐軍に、畿内の政治情勢が暗雲をさしかけてきます。長宗我部が同盟関係にあると思っていた織田信長が一転して、四国攻めの姿勢を明確にしたため、それを阻むため明智光秀の謀反をけしかけ本能寺の変に成功させるのですが、豊臣秀吉によって明智が敗れ、畿内の勢力が四国統一の大きな壁となってきます。

このタームでは、明智の重臣であった石谷家の娘との恋バナが描かれるとともに、阿波の三好家を継いだ十河存保に加勢して四国へ渡ってきた仙石秀久の軍勢を嘲弄し、罠にはめて敗走させる様子が描かれます。

結果的は、長宗我部は大勢である秀吉勢に膝を屈することになるのですが、長宗我部の武威を誇示した上での臣従という形をとっています。

第三部は、他にひけをとらない武力とそれを率いる将の軍略を持ちながら、数々の不運で四国制覇もならなかった、長宗我部勢の最後の望みが絶たれてしまうことになる「戸次川の戦い」です。この戦は、北進してくる島津勢を抑えるため、助けを求めてきた大友を救援するため、秀吉軍は仙石秀久が征西軍を率い、それに四国の長宗我部郡が友軍として従って戦ったものですが、功名をあせった仙石秀久の秀吉の「戦端を開くな」という命令に違反した戦で大敗戦となってしまうものです。

ここで、歴史好きの皆さんはご存じのように、長宗我部の次代を担い、ひょっとすると豊臣政権の次代を支えたかもしれない、本編の主人公「長宗我部信親」が壮絶な戦死を遂げるのですが、詳細は原書のほうで。

そして、ここで、本書の表題の「友よ」の意味も明らかになってきます・

レビュアーの一言

九州に勢を張りながら、家中の内訌に苦しみ、さらに島津の猛攻によって押しまくられた戦国の名門「大友家」について著作の多い筆者であるせいか、大友家の救援も失敗し、自らの采配ミスで四国勢に大損害を与えながら自らは生き残った「仙石秀久」については、本書ではとんでもなく「辛い」表現がなされています。

マンガ「センゴク」シリーズのファンの皆さんには不満もあるかもしれませんが、時代を担ったもしれない若武者「長宗我部信親」を戦死させてしまった彼の采配は、まさに時代を変えてしまった「悪」采配といえるのではないでしょうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました