トルフィンが農奴生活から「本当の戦士」を目指す中、クヌート王が農場接収に動き出す=幸村誠「ヴィンランド・サガ」9~11

11世紀のイングランドからノルウェー・デンマークにかけたヨーロッパ北部を舞台に、その猛々しさと強さで巨大な北海勢力圏を築き上げたヴァイキングの戦いと、アイスランド生まれのはぐれ者のヴァイキング「トルフィン」の軌跡を描いたシリーズ『幸村誠「ヴィンランド・サガ」(アフタヌーンコミックス)』の第9弾から第11弾。

前巻で、デンマークのスヴェン王のイングランドの宮廷で、王位継承を巡っての戦闘で、王を殺したアシェラッドをクヌート王子によって殺され、今まで精神を支えてきた復讐相手がこの世から消え、精神のバランスを崩してしまったトルフィンの農場奴隷としての生活がスタートします。その農場の暮らしの中で、トルフィンは今までの殺戮を繰り返してきたヴァイキング暮らしの「怨念」の克服へ向かっていくこととなります。

第9巻のあらすじと注目ポイント

第9巻の構成は

第57話 若様
際58話 殺してもいい人間
第59話 蛇
第60話 最初の友達
第61話 血の道
第62話 クヌートのやり方
第63話 馬がほしい
第64話 続・馬が欲しい

となっていて、前巻の最後で、スヴェン王の暗殺事件の際に、クヌート王子を傷つけてしまった罪で奴隷の身分に落とされ、デンマークの農場主に売られたトルフィンが、新たに奴隷となったエイナルとともに原野の開拓を始めた姿が描かれていたのですが、今巻の冒頭で、ここの農場主・ケティルの次子・オルマルが登場します。

彼は若者のおきまりのように家業の農業を嫌っていて、イングランドでヴァイキングに加わって一旗揚げることを夢見ている青年です。この夢が後に大きな災厄をもたらすことになるのですが、これは後の巻で。

この巻では、彼の度胸をつけるために、農場に雇われている用心棒たちによって、トルフィンが試し斬りの犠牲になりそうになるのですが、用心棒のリーダー「蛇」によって命を救われることになります。最初、死んでもいいと考えていたトルフィンなのですが、蛇によっての生存本能がまだ残っていることを知らされ、その後は、友人となったエイナルとともに開墾作業に専心していくこととなります。

一方、スヴェン王を弑逆し、実権を奪ったクヌートは、征服の版図を広げています。イングランドにはアングロサクソン出身のイングランド王がいるのですが、彼はマーシア領の安寧とひきかえにイングランドの諸侯に彼を追放させ、イングランドの「上王」として君臨することとなります。長年の戦争を経て、クヌートは現在では冷酷な君主の側面が大きくなっていることがわかります。

Bitly

第10巻のあらすじと注目ポイント

第10巻の構成は

第65話 大旦那の家で
第66話 発芽
第67話 鉄拳ケティル
第68話 いじめ
第69話 誓い

となっていて、前巻の最後で、前の農場主(この農場では「大旦那」と呼ばれています)と知り合いになり、彼から開墾に使う馬を借りたり、食事を御馳走になったりと、結構、トルフィンとエイナルが気に入られているのがわかります。

その食卓を囲んでいる中の会話で、大旦那が、現農場主・けティルが、現在デンマークを治めているハラルド王に相当の貢納品を贈って農場を保護してもらっていることや、それを利用して農場をさらに拡大していこうとしていることに反対していることを知ります。ケティルの拡大経営が吉となるか凶とんるかは、次のタームではっきりしてくるのですが、この当時、王様のは保護がなければ盗賊やバイキングが狙い放題、略奪し放題だったことがうかがい知れます。

中盤では、トルフィンとエイナルが荒れ地を開墾した畑に撒いた麦が成長し、ふたりは収穫を期待していたのですが、農場の他の小作民から嫉妬され、畑をめちゃくちゃに荒らされてしまいます。小作民たちと諍いになったエイナルを止めようとしたトルフィンだったのですが、自らが怒りに捕らわれ小作民を殴り倒し、大乱闘へと発展します。

この大乱闘で意識を失ったトルフィンはある幻想をみるのですが、それは北欧神話にでてくるヴァイキングの憧れの場所「ヴァルハラ」の実相を教えてくれる幻想でもありました。

そして、その幻想からトルフィンは、これからの人生の指針をつかむことになるのですが、それは父・トールズが亡くなる前に告げ、さらには「ヨーム戦士団」から脱退する時、トルケルにも告げた「本当の戦士」になる道で・・という展開です。

Bitly

第11巻のあらすじと注目ポイント

第11巻の構成は

第72話 呪いの首
第73話 自由になったら
第74話 逃亡奴隷
第75話 王と剣
第76話 オルマル晴れ舞台
第77話 侮辱
第78話 反逆罪

となっていて、冒頭では、イングランド王となったクヌートが母国デンマークへ降り立つところから始まります。デンマークは当時、クヌートの兄・ハロルドが統治していたのですが、彼は重病にかかり、さらには後継ぎもいなかったため、クヌートがデンマーク王位も相続することになります。ただ、この時、彼は父王・スヴェン王の生首の亡霊に象徴される「王冠の呪い」に悩まされているのですが、その中身については原書の方でご確認を。

さらに、この当時、クヌートの治めるイングランドの治安維持のための駐屯兵団の経費が莫大になっていて、その経費の捻出にクヌートが頭を悩ませていたことも、後巻で訪れるケティル農場の災厄へと結びついていきますね。

そして、ハロルド王の没後、今までと同じ保護を依頼するため、トルフィンのいる農場の主・ケティルが後継ぎのオルマルとともに、大量の貢納品を持参して、クヌート王に拝謁するのですが、そこで、なんとオルマルが王の軍団への入団を懇願します。クヌート王は、彼の剣の腕前を試したいと、豚の丸焼きを一刀両断するよう命ずるのですが、オルマルの剣の腕はからっきしで・・という筋立てです。

この後、市場で、クヌート王の兵士からその無様な様子をからかわれて逆上したオルマルの行動がケティル農場の危機を呼び寄せてしまうこととなります。

Bitly

レビュアーの一言

クヌート王のイングランドやデンマークの王位継承は、父・スヴェン王の急死、イングランドで対立していたアングロサクソン人の王・エセルレッド二世や息子のエドモンドの急病死、そして実の兄のデンマーク王・ハロルドの病死と、彼と対抗する人物が次々と死んだことによる幸運もあるのですが、ここまで急死や病死が続くとなにか「怪しい」ものを感じてしまいますね。

さらに、イングランド王位の継承直後は、イングランド貴族も多く死刑されていて、クヌート王は教会との関係も良好で、賢明にイングランドを統治したと評判のいい王様なのですが、こうした血塗られたところもあったことはこのシリーズの理解を深めるために重要かと思われます。

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