トルフィンはヴィンランド行の資金稼ぎに出発し、過去に復讐される=幸村誠「ヴィンランド・サガ」15〜17

11世紀のイングランドからノルウェー・デンマークにかけたヨーロッパ北部で、その猛々しさと強さで巨大な北海勢力圏を築き上げたヴァイキングたちの中で勇名を馳せた父を殺され、その復讐のため、クヌート王の軍に参加するが、仇の死をきっかけに「ヴィンランド」に楽園を築こうとするアイスランド生まれのヴァイキング「トルフィン」の軌跡を描いたシリーズ『幸村誠「ヴィンランド・サガ」(アフタヌーンコミックス)』の第15弾から第17弾。

前巻まででクヌート王襲撃の責をおって農奴として売られたケティル農場を接収しようとするクヌート王の従士隊とヨーム戦士団と戦い、戦争には敗れたものの、クヌート王の政策を平和的な方向に転換させたトルフィンだったのですが、十数年ぶりに故郷アイスランドに帰還し、新たな途の模索が始まるとともに、過去のヴァイキング時代による復讐が始まります。

第15巻のあらすじと注目ポイント

第15巻の構成は

第101話 繋がれたアジサシ①
第102話 繋がれたアジサシ②
第103話 繋がれたアジサシ③
第104話 繋がれたアジサシ④
第105話 繋がれたアジサシ⑤
第106話 繋がれたアジサシ⑥
第107話 繋がれたアジサシ⑦

となっていて、アイスランドへ帰還したトルフィンは、家族に誰も殺さない平和な国を築くため、伝説の地「ヴィンランド」へ行きたいという希望を告げます。この夢は家族に応援されるのですが、一番の課題は「資金問題」です。

ただ、作物も育たず、漁と牧畜ぐらいしか産業のないアイスランドで、資金力があるのは、「鉄鎖のハーフダン」と呼ばれている強欲な金貸しぐらいで、彼がこれ以後のトルフィンのヴィンランド行きの大きな鍵を握っていくことになります。

で、物語のほうは、このハーフダンの息子・シグルトの結婚の話から大きく思わぬ方向へ動き始めます。シグルトのお嫁さんになるのは、トルフィンをアイスランドに連れ帰ってくれた「レイフ・エリクソン」の姪の「グズリーズ」です。レイフの農場と本拠地はグリーンランドにあって、普通ならハーフダンが結婚の申し出をしてくる謂れもないのですが、少しネタバレしておくと、伝説の地・ヴィンランドから、その豊富な森林資源をアイスランドへ持ち帰る中継基地として利用しようという目論見があるようです。

このため、トルフィンが提案するヴィンランド開拓の資金拠出の依頼は、ハーフダンからは拒絶されてしまいます。ハーフダンとしては、あくまでも資源供給地としてしかヴィンランドを考えておらず、開拓して国ができれば好き勝手な開発ができなくなると考えたのでしょうね。

ただ、リスク管理のために、トルフィンの提案にも少しばかりチップを賭けておこうと思ったおうです。のか、息子の結婚の祝いとしてトルフィンに24本のイッカクの角をくれます。レイフによれば、このイッカクの角をどうやって金に換えるか、トルフィンの才覚が試されているというところです。

第16巻のあらすじと注目ポイント

第16巻の構成は

第108話 繋がれたアジサシ⑧
第109話 繋がれたアジサシ⑨
第110話 北海横断
第111話 戦士から戦士へ
第112話 復讐の義務
第113話 厄介な奴ら
第114話 狩る者 狩られる者①
第115話 狩る者 狩られる者②

となっていて、前巻の最後で、ハーフダンの息子・シグルトのもとへ嫁入りしたグズリーズなのですが、初夜のベッドの上で、持っていたナイフで誤ってシグルトを傷つけてしまい、ハーフダンの屋敷から逃亡してしまいます。当然、シグルトとハーフダンの使用人たちが彼女を連れ戻そうとあちこちを探し回るのですが、彼女が逃げ込んだのはなんと、イッカクの角を金に換えるため、ギリシアへ船出しようとしているレイフたちの船団です。

もともと、グズリーズは船乗りになる夢を抱いていて、女性であるため涙をのんで断念し、シグルトの嫁になることを了承していたのですが、初夜のトラブルが思わぬ結果をよび、彼女もギリシア行の船旅に同行することとなります。当然彼女を追ってシグルトも後を追ってきていて、二つの船団の旅が始まることとなります。

この船旅の途中で、トルフィンたちはシェトランド諸島で、島内の対立する一族に両親を殺され、孤児となった「カルリ」という男児を保護するのですが、この男が後にどういう役割を演じていくかは後巻のお楽しみ、というところですね。

第17巻のあらすじと注目ポイント

第17巻の構成は

第116話 狩る者 狩られる者③
第117話 狩る者 狩られる者④
第118話 狩る者 狩られる者
第119話 狩る者 狩られる者⑥
第120話 狩る者 狩られる者⑦
第121話 狩る者 狩られる者⑧
第122話 狩る者 狩られる者⑨

となっていて、前巻の最後で、ノルウェーのスカンジナヴィア半島の西岸で野営中に熊に襲われた際に女性猟師「ヒルド」に助けられるのですが、実は、彼女はトルフィンを両親と妹の仇として探していた人物であることがわかります。

ヒルダはノルウェーの西岸にある貿易の拠点都市ベルゲンの南にある「凪の入り江」という集落を治めるフラナンゲルの娘だったのですが、勢力争いに巻き込まれて父を、大国の依頼を受けたアシェラッドによって殺されています。その時に殺し屋となったのが、当時、アシェラッド軍に属してトルフィンだった、というわけですね。

この襲撃を逃れたヒルダはその後あ、クマ撃ちの猟師のでしとなり、もともと才能のあった機械設計の技術を使って、力のない女性でも扱える強力な「弩」を開発し、それを武器にしてトルフィンの抹殺を仕掛けてきます。

トルフィンの過去の殺戮の仕返しがまとめてやってきたという感じなのですが、トルフィンはこの危機からどうやって脱出するのか、といった展開です。

レビュアーの一言

トルフィンがハーフダンから贈られるイッカクの角なのですが、中世ヨーロッパでは、ユニコーンの角として取引され、ユニコーンの角は毒に触れると無毒化したり、毒物が含まれた食物に触れると汗をかいたり、色が変化するといった伝承があり、このため、解毒や解熱の特効薬として珍重されました。

日本にもオランダ医学の伝来ともに伝わり、熱病、酒毒、吐血などに効くとされた石川県に伝わっていた「紫雪」という漢方薬の材料にも使われていたようです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました