徳川家康、秀吉の膝下に屈し、天下の全権は秀吉のもとへ=「信長を殺した男 日輪のデマルカシオン」3

天下統一まであと一歩のところまで進み、第六天魔王とも怖れられた織田信長を討った明智光秀を、山崎の合戦で敗北させ、その後も次々と織田家のライバルを葬って、天下を手中におさめた、日ノ本一の出世男「豊臣秀吉」の抱える「権力欲」と「心の闇」を描くのが、「信長を殺した男」の第2シリーズ「信長を殺した男 日輪のデマルカシオン」の第3弾。

前巻では、信長亡き後の織田家後継争いを柴田勝家を斃して制した豊臣秀吉と、明智光秀の無念を晴らすため、三河・駿河・甲州に力を蓄えていて徳川家康が戦った「小牧長久手の戦」の真相が描かれたのですが、本巻では、その徳川家康が秀吉に屈服した経緯や、彼の謀臣ともいえる茶人・千利休の真の姿が描かれるのが本巻です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第13話 最後の会話
第14話 栄華
    深淵ーアビスー 前編
    深淵ーアビスー 後編
第15話 歴史の真理
第16話 天正大地震
第17話 千利休

となっていて、冒頭話では、信長が「天下布武」=日本統一を果たした後の目標が、「明国侵攻」にあったと推測されていて、宮下英樹さんの「センゴク」では、その目的がスペイン・ポルトガルの日本支配から脱するためとされていたのですが、今巻では、それを承知の上で、スペイン・ポルトガルはそれを利用する謀略を立てています。それはスペイン国王フェリペ二世の世界制覇の野望に密接に関連しているのですが、それに気づいた秀吉がとった戦略は、ということで、彼の朝鮮出兵の狙いが明らかにされています。

中盤では、小牧長久手の戦の終結から9ヶ月経過後、徳川家康に突然反旗を翻した、この時代有数の謀略家・真田昌幸の真田勢+上杉・秀吉の応援部隊と徳川軍が対決する「第一次上田合戦」が始まります。

井原忠政さんの「三河雑兵心得 上田合戦仁義」では、小牧長久手の戦で、上方勢に力を示した徳川勢が、小勢力とみて侮った真田勢に苦杯をなめさせられているのですが、秀吉は紀州の根来・雑賀衆を根切りにし、越中の佐々成政を攻撃した後、三河へと攻め込んでくる気配を見せています。さらに、家康の股肱の忠臣であった石川数正も上方へ奔る中、家康の運命もここまでか、と思われたところに起きたのが、中部地方全域に被害を及ぼし、美濃の帰雲城を生き埋めにしたことでも有名な「天正大地震」です。

家康の本拠地だけでなく、秀吉の根拠地の一つである大垣城などに大きな被害をもたらしたこの大災害は、思わぬことに日本に和平をもたらしてしまうのですが、その詳細は原書で。

巻の後半では、秀吉の謀臣として活躍した「千利休」の真相が語られています。「侘び」「寂び」といった日本の茶道の創設者として知られる茶人ですが、本書では、茶人を「カバー」にしながら、秀吉の命を受けて当時の日本を影で動かしていたフィクサーとして描かれています。
その彼が突然、秀吉によって実質的には処刑されたのが「利休切腹事件」なのですが、この真相が、当時のヨーロッパの世界情勢と絡めて次巻以降で明らかになりそうです。

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レビュアーの一言

今巻の中程では、秀吉が大出世を遂げてからの、故郷「中々村」で、自分をイジメていた者への復讐や、御陣女郎をしていたと思われる母親「なか」の子供「清吉」の出現に伴う騒動が語られています。
こうした成り上がった人には、突然の兄弟の出現や御落胤騒動がつきものなのですが、あの暴れん坊将軍「徳川吉宗」にも「天一坊事件」という御落胤騒動があって、どちらもその中心人物が処刑されているのが共通点ですね。どちらも、その権力体制を維持するためには生かしておくわけにはいかなかったのでしょうが、なんとも無情を感じますね。

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