張良の始皇帝暗殺計画失敗。そして、劉邦は天下取りの重要アイテムを手に入れる=橋のぼる「劉邦ーRYUHO」3・4

五百年以上続いた中国の戦乱を、その冷徹な指導力と秦国の武力によって、始皇帝が統一してからおよそ十年後、万里の長城や亜房宮の建設による重税と国民の強制使役による疲弊、焚書坑儒や滅ぼされた六カ国の遺臣たちに不満によって、秦国が揺らぎ始める中、一介の庶民の出身からスタートし、秦の後を継いだ漢帝国を打ち立てた「劉邦」の活躍を描くシリーズ『高橋のぼる「劉邦ーRYUHO」(ビッグコミックス)』の第3弾と第4弾。

前巻までで連れていかれた首都・咸陽での苦役をなんとか免れ、故郷の沛に帰還し、県の亭長の職を得た劉邦だったのですが、彼が世の中に飛躍していく大きなジャンプ台となった「呂家」とのつながりができていく姿が描かれるとともに、中国全土を恐怖支配していた始皇帝の権勢に翳りが見えてきたて、彼を暗殺しようとする動きが描かれます。

あらすじと注目ポイント

第3巻 亡国・韓の貴族「張良」の始皇帝暗殺計画の成否は?

第3巻の構成は

其之十五 偶数奇数
其之十六 良馬難境
其之十七 遭遇天女
其之十八 龍顔微笑
其之十九 二女択一
其之二十 礼賛水銀
其之二十一 空中刺客
其之二十二 運否天賦

となっていて、冒頭では、史上三番目の始皇帝暗殺計画となる、韓の貴族・張良による暗殺計画がスタートしています。彼は韓の宰相を代々務める家に生まれていたのですが、秦国に侵攻され国が滅亡するとともに、家族全員が殺されたため、その恨みを晴らすため、諸国を放浪しながら始皇帝暗殺の機会を狙っているという設定ですね。

彼の暗殺計画は、秦から亡命した将軍の首と領土割譲の誓約をエサに、始皇帝(当時は秦王・政)に近づいて剣で殺そうした燕の刺客・荊軻や、始皇帝へ鉛を詰めた琴を投げつけた高漸離の失敗から、より警戒の厳重になった始皇帝を遠距離から攻撃する手法を模索していて、そのために、力持ちの奴隷「盤古」を買い取ります。

彼の作戦は、警戒の厳重な首都・咸陽の宮殿内を避け、諸国の情勢把握のために巡行にでた先で、200m先から、30kgの鉄槌を、始皇帝の乗る馬車めがけて投げつける、というものです。

特訓を積んだ盤古の投げる鉄槌は、まっすぐに始皇帝の乗る馬車へと飛んでいき、屋根を突き破るのですが、ここで車内でおきたある出来事が始皇帝の命を救うことになるのですが・・という展開です。

一方、咸陽から劉邦を慕ってやってきた「曹氏」は劉邦の子供を妊娠していて、二人は貧しいながらも幸せな新婚家庭を築こうとしているのですが、ここに山東省から有力商人・呂氏が沛へやってきたことから、劉邦の運命が大きく変わってきます。彼の財産を目当てにたくさんの人が、娘の呂雉を嫁に欲しいとやってきていたのですが、彼は可愛い娘を託せる男を探して、この沛まだやってきています。一方、娘の呂雉は、自分に栄華をもたらしてくれる「強運」の持ち主のところへ嫁ぎたいと考えていて・・という筋立てです。

この親娘の思惑が、沛県の知事が開催した呂氏歓迎の祝宴に紛れ込んできた、劉邦の人相と運の強さを見て一致し、トントン拍子に、劉邦の呂家への婿入りが決定していきます。

この呂家とのつながりが、彼が天下取りに踏み出す大きなバックアップになるのですが、ここで、曹氏との縁も切らずにいたことが、漢王朝成立初期に起きた、王権の簒奪騒動で、劉氏に幸いすることになります。劉邦の「強運」が死後も発揮されたところですね。

劉邦(3) (ビッグコミックス)
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第4巻 項羽は叔父によって最愛の女性を失い、劉邦は運命の「驪山」への労役人引率

第4巻の構成は

其之二十三 成功法則
其之二十四 虎穴白虎
其之二十五 虎嘯風生
其之二十六 百発百中
其之二十七 成熟石榴
其之二十八 一騎当千
其之二十九 驪山鳴動
其之三十  推定死罪

と冒頭は、劉邦と呂雉と新婚初夜のシーンから始まります。ここから、呂雉による劉邦が成り上がっていくための教育とプロデュースが始まるのですが、普通ならこういう上昇志向あふれる女子は夫をあれこれと奮闘させるものなのですが、呂雉のアドバイスは、さすが漢王朝創設後、王朝簒奪を企んだ女子らしくとてもユニークなものなのですが、詳細は原書のほうで。

この巻の本筋のほうは、劉邦の婚礼から4年後。秦国打倒を画策する、亡国「楚」の名家・項家の生き残りである「項粱」と、楚国大将軍の孫「項羽」の長江北岸の山麓での潜伏生活の様子が描かれます。

彼のもとには、かつて六カ国連合を組織して秦と戦った東周の国王「昭文君」の孫娘「華」も身を寄せていて、項粱の隠れ家が、秦国への反政府ゲリラの巣窟となっていることが推測されます。

項羽と華とは互いに好意を抱くようになるのですが、このまま二人の恋が成就すると、秦打倒の反乱軍を起こすのに支障になると考えた項粱は、二人の仲を裂く非常な手段を講じることを決意し・・という筋立てです。後に、項羽は「虞」という美人を妻にするのですが個人的には、この「虞」という美女はかなりの悪運持ちのような感じがしていて、項粱のやったことがよかったのかどうかは疑問が残るところですね。

かえって、東周の名門の娘と結婚させておいたほうが、王朝創設のためにはよかったのかもしれないです。

一方、富豪の娘「呂雉」と結婚してからも相変わらず、グータラな生活をおくっている劉不なのですが。県令から、驪山に建設中の始皇帝の墓陵建設のための労役人を800人連れて行くよう命じられます。もし一人でも欠けていれば、護送の役目を命じられた役人が死罪に問われるもので、ここには当然、毛県令と、地元の大ボス・王陵の悪巧みが隠れています。

さて、劉邦は無事、労役人たちを驪山陵まで連れていけるのだろうか・・と期待が持たれるのですが、この期待をあっさりと裏切るのが劉邦らしいところです。

Bitly

レビュアーの一言

今巻では、始皇帝が不老不死の薬として珍重しているのが「水銀」であることが記されているのですが、これは始皇帝だけがもっていた独自発想ではなく、中国の神仙思想に根ざしたもので、当時の「秘術」に近いものだったと推測されます。

ただ、水銀を他の鉱物と違う特別なものと考える思想は中国だけのものではなくて、西洋でも、黄金を生成する重要な鉱物として「水銀」が錬金術の世界では珍重されていますし、アメリカ大統領のリンカーンやフランス皇帝のナポレオン、「若草物語」の作者・オルコットなども、体内から外へ毒素を出してくれる強力な下剤として、服用していたようで、水銀の特性に世界中が惑乱されていた、ということかもしれません。

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