刑事育成の「風間教室」再び。刑事指導官から警察学校までのミッシングリンクが埋まる=「教場Xー刑事指導官・風間公親」

警察学校に入校してくる警官見習い生を厳しく教育するとともに、過酷な訓練中に抱いた邪な思惑や犯罪行為を見つけ出して指導し、警察官として成長させていく警察官ミステリ「教場」シリーズの第5弾。主人公の刑事指導官・風間公親が、自分を捕まえたことを逆恨みした犯罪者から右目を刺されて、第一線の刑事から退いてから刑事を育成する刑事指導官となり、警察学校の教官となるまでのミッシングリンクを埋めるのが本書『長岡弘樹「教場Xー刑事指導官・風間公親」(小学館文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 硝薬の裁き
第二話 妄信の果て
第三話 橋上の残影
第四話 孤独の胞衣
第五話 闇中の白霧
第六話 仏罰の報い

となっていて、「教場0」と同じく、右目の視力を失ってしまった風間が、「刑事指導官」という任務をもらい、県内の警察署から推薦されてくる「刑事」候補生たちを、実際の捜査現場に放り込んで鍛え上げていくという仕立て、犯人がつくりあげたアリバイやトリックを、その候補生に見抜かせていくという「倒叙ミステリ」の形式をとっています。

第一話の「硝薬の裁き」は、妻を車でひいて事故死させてしまった元警察官の機械工場の経営者の復讐劇を、刑事候補生の適性を見るのと刑事として鍛え上げることを使命とする「風間道場」に派遣されてきた女性警察官・鐘羅が見抜いていく話です。

犯人の益野は、自社の工場で密造した拳銃を使って、妻を事故死させた男・海藤を撃ち殺し、多額な借金による自殺にみせかけます。目撃者もおらず、凶器の拳銃は完璧に処分したのでバレないと確信していたのですが、妻の死後、娘の発症したアレルギー性喘息がもとで、風間と鐘羅に犯行を見抜かれてしまいます。

犯行を見抜かれた娘のアレルゲンとは・・といった展開です。

第二話の「妄信の果て」は、就職内定をとり卒業を待つばかりの学生・戸守の担当ゼミ教授殺しのアリバイ崩しです。

加害者の戸守は、地元新聞社に、彼が専攻している人文地理学のゼミの指導教授のアドバイスを参考にして採用試験をクリアして、マスコミ人としてデビューする希望に燃えているのですが、そのゼミの指導教授・梨多から、卒論が不合格だ、との連絡を受けます。これが不合格となると卒業できず、就職も駄目になるので、教授の自宅におしかけ、なんとか単位がもらえないか直談判するのですが、受け入れてもらえず、逆上して、教授を家のテラスから突き落として殺害してしまいます。

第一発見者となった「戸守」に疑いを抱いて捜査する「風間教室」見習い中の下津木なのですが、決め手が見つかりません。そんな彼に風間は「全てのものを疑え」というアドバイスをし、下津木は戸守の尋問での答えをつぶさに振り返り、ある矛盾、被害者の自宅に貼ってあった「地図」に関する矛盾に気づき・・という展開です。

第三話の「橋上の残影」は、過去に恋人を自殺に追い込んだ男に復讐を果たす女性の犯行を暴いていく話です。

その女性・篠木瑤子は、恋人の経営していた時計店に盗みに入り、店にいた恋人の目に怪我をさせ、自殺の原因をつくった男「加茂田」を跨線橋の上で待ち伏せし、市内で起きている通り魔殺人にみせかけて刺殺します。計画では、そのまま立ち去る予定だったのですが、加茂田が恋人と記念のペアウォッチをしていたことからそれを奪い返した時に、何か硬い小さなものを踏みつけ、さらに、加茂田の持っていたサコッシュが跨線橋の下の線路に落ち、通りかかっていた貨物列車の上に落ち、どこかに運ばれていってしまいます。

しかし、それ以外は加茂田の顔や指先もオイルライターで焼き、身に着けていたシャツや湿布状のマッサージ器も剥がして加茂田の身元が分からないようにして現場を離れ、自分へとつながる証拠を全て隠滅しておいたため、捜査を進める「風間教室」の刑事候補生・中込には犯人へ至る手がかりが見つかりません。その中込に風間は「手がかりが被害者から辿れなければ、犯人から辿ってみろ」とアドバイスをするのですが・・という筋立てです。

このほか、有名工芸家殺しの現場から逃げていくところが目撃された「スリムな女性」と彼を殺した臨月間近の犯人との意外な共通項を探す「孤独の胞衣」、違法通販サイトの共犯者殺しに隠されていた犯人へ仕掛けられていた被害者の殺意げ描かれる「闇中の白霧」、実の娘にDVを繰り返す、娘のヒモ亭主を刺殺した盲目の大学教授の犯行方法が事件の謎解きのキーとなる「仏罰の報い」が収録されています。

それぞれの「風間教室」に放り込まれて、風間指導官の厳しい指導に耐えて、刑事として殻を破って羽ばたいていく風間門下生たちの姿が描かれています。

レビュアーの一言

本書では、片目の視力を失った後、その刑事としての能力を活かすため、刑事指導官となった風間の6人の刑事候補生に対する「風間教室」での謎解きが語られます(もっとも、最終話は、「教場0」で風間が目を負傷した時に立ち会っていた女性警察官・平優羽子なので、正確には5人なのかも)。
そして、それらの謎解きの底流として起きているのが、風間を襲った「十崎」による千枚通しによる連続傷害事件です。少しネタバレしておくと、十崎は引き続き風間を狙っているようで、風間を見張っているのが確認されるのですが、逮捕にはいたっていません。
これは、これ以後の「教場」シリーズへの持ち越しということでしょうか。

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