モリアーティはアフガン戦争を陰で操る大英帝国の大物を始末する=「憂国のモリアーティ」4

若干21歳でイギリスの名門・ダラム大学の数学教授に抜擢されたほどの類まれな頭脳と、あらゆる分野にわたる知識をもち、世界一有名な名探偵「シャーロック・ホームズ」の最大の敵役で、ロンドンで迷宮入りする事件の過半数は彼の犯行と噂される犯罪卿「モリアーティ教授」の犯罪と彼らの真の目的を描く、クライム・ストーリー「憂国のモリアーティ」の第4弾。

前巻までで、陸軍直属の諜報機関の指揮権を手に入れ、本格的に悪逆な貴族の「浄化」を開始したモリアーティ・チームだったのですが、宿敵となるシャーロック・ホームズも登場したところで、今回は大英帝國とロシアが代理戦争を行っている、アフガニスタンとインドとでおきたイギリス軍人死亡事件の謎に隠れた国家的陰謀を明らかにしていきます。

あらすじと注目ポイント

第4巻の構成は

#12 黄金の軍隊を持つ男 第一幕
#13 黄金の軍隊を持つ男 第二幕
#14 黄金の軍隊を持つ男 第三幕
#15 二人の探偵 第一幕

となっていて、冒頭では、MI6のリーダーとなったアルバート・モリアーティのもとへ、カルカッタでのイギリス政府諜報部の工作員・ハリス中尉が殺害された、という情報がもたらされます。

彼が死ぬ直前、本国へ向けてロシア製のアフガン軍が使う銃を送ってきていたことから、ロシアからのアフガニスタン政府への武器供給ルートに関する情報を掴んだため、殺害されたと推測されたため、このルートの遮断とアフガン戦争の終結化という使命がMI6へと下されます。

そして、この命令を下した政府諜報部の長官がなんとホームズの実兄・マイクロフト・ホームズで、という設定です。ホームズものの原作では、いくつかの官庁の会計監査の役に就いているが、本当の役職は「政府の政策全体を調整する重要なポスト」で、シャーロック・ホームズの言葉を借りると「政府そのもの」という闇の権力者なのですが、このシリーズでは、まさに「陰から政府を動かす」諜報部のドンという役回りです。

この指令の遂行するのは、アフガン戦争からの帰還兵の「モラン」と、アルバートの秘書的役割をしている「マネーペニー」で、彼女は元MI5の職員のようです。ちなみにMI5はイギリス国内の治安維持やテロ組織の情報集を行う内務省直属の機関で、日本でいうと公安調査庁のような役割をしているようです。

そして、ハリス中尉が送ってきた銃を、MI6で武器の研究とは開発をしているヘルダーが銃の諸元を調べてみると、それはロシア製にみせかけたイギリス製の銃であることがわかります。さらにそのパーツの特徴から製造された工場を探り当て、そこへモランとマネーペニーが潜入すると、倉庫の中には、何年も戦争を継続できるほどの銃が貯蔵されていて、残されていた輸送記録には、インドの植民地政府の高官の高官の名前が記されていて・・という展開です。

このイギリス製のアフガン銃の大量発見から、アルバートは、マイクロフト・ホームズから受けた命令を遂行するため、モランとマネーペニーに、インドへ渡り、インド植民地政府の総督・ダンダデール公爵の暗殺を行うよう命じます。

もともと、モランはロンドンの名家の出身でイートン校からオックスフォードを卒業したエリートなのですが、堅苦しい貴族社会がイヤで軍隊に入り、インドに駐留していたイギリス軍のベンガル第一工兵隊を指揮していて、アフガンでの駐留中に、情報が敵に漏れて部隊が奇襲を受けて全滅し、彼も戦死したことになっている、という経歴の持ち主です。

その彼の経歴に着目してアルバートも彼を今回の任務に就かせたのですが、インドでの任務中、彼が見つけたのは、かつて彼の部隊を罠にはめたイギリス軍内の裏切り者と、その黒幕の正体です。

黒幕のほうは、今回、暗殺のターゲットとなっている公爵であろうことがバレバレなのですが、裏切りの実行犯は、なんとモランと親しかったある人物で・・という展開です。

今回の任務によって、モランは過去を乗り越えることになるのですが、あわせて正式にMI6の工作員として任命されることになるので、詳細は原書のほうで確かめてくださいね。

レビュアーの一言

第4巻の時代背景となっているアフガン戦争は、第1次が1838年~1842年、第2次が1878年~1881年に中央アジアの覇権をめぐって争われたロシアとイギリス間の軍事衝突で、チェスになぞらえて「グレート・ゲーム」とも呼ばれている戦争です。

このシリーズの舞台は、多大な犠牲のもとに、アフガニスタンをイギリスが保護領とした第2次アフガン戦争の頃なのですが、この頃の現地の様子は「乙嫁語り」の写真家スミスが実体験していますので、興味のある方はそちらも読了方、よろしくお願いいたします。

そして、このシリーズでは、ロシアが不凍港を求めての南下政策に対し、イギリスが立ち上がった、といった感じの雰囲気がモリアーティたちには漂うのですが、冷静に考えると、植民地インドへロシア勢力が及んで政情不安になるのを嫌がって、隣国アフガニスタンを緩衝地帯とするために、イギリスが手を突っ込んできたといえなくもないわけで、いわゆる大国同士のパワーゲームの典型のような気がします。

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