静子は「頭巾宰相」として伝染病を鎮め、新兵器で一向一揆を封じる=「戦国小町苦労譚13 乱世を照らす宰相」

現役女子農業高校生が、戦国時代にタイムスリップして、持ち込んだ21世紀の器具や技術を駆使して、織田信長の治める尾張・美濃の農業生産や織田軍の武器のレベルをとんでもなくUPさせて、信長の「天下統一」を助けて大活躍する時代改変もの「戦国小町苦労譚」のコミカライズ版『夾竹桃・平沢下戸・沢田一「戦国小町苦労譚」(アース・スターコミックス)』シリーズの第13弾が本書「戦国小町苦労譚13 乱世を照らす宰相」です。

前巻までで、志賀の陣で重要な家臣が戦死したり、負傷したりする一方で、比叡山に籠る浅井・朝倉勢を攻めあぐねて、不本意ながら講和を結び、本拠地・岐阜でじっと力を蓄えている織田勢の様子が描かれたのですが、今回は、京都をはじめとする全国的な流行病の発生と、雌伏の時を経ていよいよ長島の一向一揆や比叡山への攻撃を始める織田軍が描かれます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第六十一話 防疫
第六十二話 牽制
第六十三話 喧噪
第六十四話 王道
第六十五話 不安

となっていて、前半では、赤斑瘡、つまりははしか・麻疹が静子が滞在している京都に入り込み、大感染を引き起こしていく様子が描かれています。この病気は紀元前3000年頃の中東が発信源ともいわれていて、日本でも平安時代以降、たびたび大流行し、江戸時代には十三回の大流行があったといわれ、1882年の大流行では日本中で23万人が死んだ、治療法の確立していない時代は致死率の高い病気の一つです。

感染経路は空気あるいは飛沫による感染で、感染力が非常に高い伝染病なのですが、静子は隔離と食餌療法によって、織田家の統制下にある京都や岐阜をはじめとする織田領内では病死者や感染者を抑え込むことに成功するのですが、静子が治療策を各地の諸大名に情報提供したにもかかわらず、情報の真偽を疑われて、全国的には多くの感染者と死者を出すことになってしまいます。

これによって、織田への対抗勢力の国力も大きく減殺されることとなり、織田勢にとっては不幸中の幸いというところなのですが、彼女の施術と防疫対策の確かさと、情報を他国へと流す姿勢に、明智光秀の警戒心を呼び起こしてしまいます。

中盤部分は、1571年の織田勢による第1次長島侵攻が描かれます。近江地域で織田軍が優勢になってきたことを受けての進軍です。もともと、この長島の一向宗の勢力は、桶狭間の戦の時に、今川義元側に就いたり、信長が美濃を併呑したときに、国主だった斎藤竜興が河内長島に逃げ込んだりと、敵対しないながらも友好国ではない、といった扱いだったと思われますが、本願寺との石山合戦以後、完全な「敵国」となっています。

史実では、この第1次長島侵攻で、織田勢は津島、中筋口、太田口の三方から攻め込むのですが、伊勢湾からの兵糧・武器の補給や、伏兵の配置など、人数の多さに頼った力任せの攻めをしがちと一般の一揆軍とは一味違うところをみせて、わずか4日間で織田軍は撤退を余儀なくされるのですが、このシリーズでは静子が足満とともに開発した、「棒火矢」「炸裂矢」といった秘密兵器で、戦況が大きく変わっていきます。どんな戦いぶりだったかは原書のほうで。

そして、後半部分では、いよいよ、信長が「仏敵」「第六天魔王」という現代まで続く悪名を被る原因となった「比叡山攻め」です。この攻撃、実は明智光秀の献策だったのでは、という説もあるのですが、静子は、当時は思いもつかない「広報戦略」によって、信長の悪評を払拭していきますね。

さらに、この「広報戦略」を応用した情報戦と新型武器によって、堅守の小谷城を揺さぶっていくことになるのですが、ここも詳細は原書で。ただし、この作戦によって豊臣秀吉の警戒心を招いてしまったことはネタバレしておきます。

レビュアーの一言

今回、最後半の部分で、静子が小谷城を攻めているのは、朝倉一族が亡んだ一乗谷の戦や小谷城が落城し、浅井一族が滅んだ約2年前のことで、周辺城主の織田家への寝返りで浅井家がだんだんと苦しくなっていった頃だと思われます。このときの信長の目的は浅井家というより、本願寺や長島一向一揆の係累である近江の一向一揆衆の拠点である志村城、小川城の攻略にあって、小谷城については、織田軍への恐怖感を植え付け、内部の離反勢力を拡大させるところにあったのではないでしょうか。

その意味で、静子が使うプラスティック爆弾など、当時の常識では妖術としか思えないものを多用することは効果があったでしょうね。

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