二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」び三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第33弾と第34弾。
前巻で秦の守将「蒙驁」を打ち破って、函谷関内に侵攻した五カ国連合軍だったのですが、これは関内に連合軍を呼び込んで、自ら編成した西域の強兵で組織する国王直属軍で殲滅しようという秦王・政の陰謀。盗跖たちがその犠牲になる中、荘丹たちの最後の戦いが始まります。
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あらすじと注目ポイント
第33巻 荘丹たち朱の三侠は、待ち構える虎狼の王・政へ刃を向ける
第33巻の構成は
第百九十三話 蕞の気炎
第百九十四話 虎狼の髄
第百九十五話 料理人、包丁の決断
第百九十六話 天下の獲物
第百九十七話 無名、その命の中身
第百九十八話 長き旅の先へ
となっていて、冒頭では、秦の国王直属軍に惨殺された盗跖たちの遺体を埋葬している劉邦から盧綰が形見を受け取り、盗跖たちの根城へと託されるところから始まります。このへんで、盗跖一族の「志」が後の漢の太祖・劉邦へ受け継がれたことを示しているのでしょうか。
一方、函谷関内に侵攻した五カ国連合軍は、秦都・咸陽にほど近い蕞で秦王・政の王弟の指揮する秦国軍と激突します。キングダムあたりでは、連合国軍の派遣した別働隊の前に落城寸前のところを、この落城を契機に秦国をのっとろうとする呂不韋の陰謀を打ち砕くため、「政」自らが兵を率いて救援にやってくる仕立てになっていたのですが、本書では敵国軍を都近くまで侵入させることによって民衆や宮廷に恐怖心呼び起こさせ、自らへの忠誠を誓わせようとする策略です。
これに対して真っ向から挑むのが、荘丹ほかの朱の三侠で、秦都・咸陽の前に築いた城塞の中で、五カ国連合軍を眺める秦王・政へ馬を走らせていくのですが・・という展開です。
第34巻 朱の三侠が斃れた後の中華はどうなった?
第34巻の構成は
第百九十九話 赤き鵬と龍
エピローグ
死に様展
我田引水問答
となっていて、冒頭では、前巻で秦王・政に攻撃を仕掛けるも返り討ちにあった、朱の三侠のもとへ劉邦が駆けつけるのですが、焼死した荘丹の姿を見て、打ち砕かれてしまいます。
さらに、五国連合軍が総攻撃をしかけようとする函谷関でも激しい嵐に見舞われ、それ以上の攻撃を断念せざるをえなくなってしまいます。
本編としては、ここまで。残念ながら、虎狼のような侵略を進めてくる「秦」の動きを阻止しようとする中華の他の国の動きは志を遂げることが出来ずに・・という展開です。
物語はこの後、秦王・政の秦の反対派の粛清、そして中華征服へと続く歴史が語られます。そして、「政」改め「始皇帝」の圧政に耐えかねた民衆が反乱を起こし、項羽が立ち、劉邦が目覚め・・と秦王朝が斃れ、龍砲によって天下が統一される様子へと続いていきます。
レビュアーの一言
秦の侵略を阻止しようと立ち上がった、荘子の孫「荘丹」たちは、残念ながら、秦王・政による中華五カ国の征服を止めることなく志半ばに斃れてしまいます。
まあ、このあたりは正史がそうなっているのでしょうがないのですが、その正史の中で忘れ去られていた物語を蘇らせたこのシリーズをどう締めるのかな、と思っていたところなので、変な仮想歴史になっていかなくて管理人としては安心したところです。
一方で、この物語の対極に位置するともいっていい「キングダム」が血を血で洗う中華統一をどう描いていくのか興味深いところです。
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