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文系人間にもオススメの時事解説 — 池上 彰「この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義ー世界篇」(文春文庫)

元ニュースキャスターの池上彰氏が東京工業大学の教授に就任し、同校で行った講義録。「世界篇」という題名ではあるが、時事解説といっていい。

収録は

はじめにー「学際的教養」のススメ

Lecture1 科学と国家ー自治雨は原爆を開発していた日本

Lecture2 国際情勢ー世界地図から見える領土の本音

Lecture3 憲法ー日本国憲法は改正すべきか?

Lecture4 金融ー紙切れを「お金」に変える力とは

Lecture5 企業ー悪い会社、優れた経営者の見分け方

Lecture6 経済学ー経済学は人を幸せにできるか

Lecture7 世界経済ーリーマンショックとは何だったのか

Lecture8 社会保障ー君は年金に入るべきか

Lecture9 メディアー視聴者が変える21世紀のテレビ

Lecture10 宗教ーオウム真理教に理系大学生がはまったわけ

Lecture11 社会革命ー「アラブの春」は本当に来たのか

Lecture12 アメリカー大統領選にわかる合衆国の成り立ち

Lecture13 中国ーなぜ反日運動が起きるのか

Lecture14 北朝鮮ー”金王朝”独裁三代目はどこへ行く

Lecture15 白熱討論ー君が日本の技術者ならサムスンに移籍しますか

となっていて、最後のLecture15以外は当時の時事ネタを中心に、世界情勢や日本の置かれている立場、日本の社会についての池上氏らしい、保守系の進歩派の時事解説が読める。

もともとは東工大なので理科系の学生に向けての解説ではあるのだが、日本の一流大学の学生向けの講義なので、かなり歯ごたえのあるのは確か。

で、本書で池上氏による論説は、氏の人柄を反映してか、語り口は柔らかく優しいのであるが、指摘はかなり鋭く尖っている。

例えば、日本の原爆製造で

研究開発地味には日米にそれほどの差があったわけではないが、この時点で、日米の差は決定的になっています。細々と個人的な研究に終始した日本と、大規模な国家プロジェクトとして推進したアメリカ。日本の研究方式の違いが特徴的です。

と日本の組織力を自慢する風潮のある中で、実は個人的な献身によろことが多いのだ、と喝破しているし、企業の項では

本当に優れた経営者とは、社員たちが、「うちに会社が発展したのは、我々社員が頑張ったからです。」と、自分たちに自信を持てる会社を実現した人々です。

こういう会社は、経営者があえて口を出すのを控えて、社員の自主性に任せています。そうなれば、経営者が去った後も、その会社はやっていけるのです。

と、リーダーが一人で引っ張っていく組織の脆さをちくっと指摘してみている。

そして、結構面白いのが最後のLecture15で、サムスン電子に転職するも再転職した日本の技術者の手記(日経ビジネス)を題材に、東工大の学生が賛否のプレゼンをし、そのプレゼン方法などについて、池上氏が論評するものなのだが、学生たちの様々な意見が、現在の若手技術者の本音の現れのようにとれて興味深い。

語り口は柔らかく読みやすいので、時事ネタに詳しい人はオサライの意味、詳しくない人は入門の勉強篇といった風に読み分けて見るのもよいのではないかな