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つい自説に拘ってしまう「あなた」に捧げるアドバイス — 竹内薫「99.9%は仮説 思い込みで判断しないための考え方」(光文社新書)

本書の初出が2006年であるので、ほぼ10年前の本なのであるが、国際情勢、国内情勢問わず、今までおそらくは揺らぐのは時間がかかると思っていたことが、ぐらんぐらんと変化する実態に直面すると、改めて、本書の主張の新鮮さを感じる。
 

 

構成は
 

 

プロローグ 飛行機はなぜ飛ぶのか?実はよくわかっていない
第1章 世界は仮説でできている
第2章 自分の頭のなかの仮説に気づく
第3章 仮説は一八〇度くつがえる
第4章 仮説と心理は切ない関係
第5章 「大仮説」はありえる世界
第6章 仮説をはずして考える
第7章 相対的にものごとをみる
エピローグ すべては仮説にはじまり、仮説に終わる
 

 

となっていて、目次でおおよそわかるように
 

 

この世の中に定説はひとつもないのです(P34)

 

常識は仮説にすぎないのです。
プロローグの飛行機の例をみてもわかるように、「科学的根拠」があると思われているものも、案外なにもわかっていなかったりします。
われわれの世界観、われわれが親から教わること、われわれが学校で教わること、そういったものは、すべて仮説にすぎません(P57)
 

 

といったところがまずは要点であるのだが、ここらあたりは、頭ではわかっていても、感情的なところ、根源的なところでは、
 

 

いまある枠組みに都合のいいように、蜥実のほうがねじ曲げられてしまいます。
でも、本人には意図的に事実をねじ曲げたという意識はない。
自覚がないから、自分が特定の仮説にしばられていることにも気づかないのです。

といったところであるので、寄りかかっていたものがひっくり返って初めて、思い知る、といったのが大方のところである。
じゃあ、どうしたらいいんだ、というと
 
常に「仮説」と「グレー」という観点から社会で起きている現象を吟味する癖をつけておくと、かなり結果は変わってくるはずです。(P127)

 

専門家の意見も時代とともに大きく変動するものなのです。
ですから、われわれは、いくら白にみえる仮説でもいつグレーから黒に変わるかわるかわからない、と肝に銘じておくべきなのです。もちろん、その逆も然りです。(P129)
 

 

といった自衛方法が一番確かであるらしいのであるから、ここは、かなり「人を悪く」しておかないといけないものか、身構えてしまうのだが、そうではなくて
 

 

それは、自分の仮説を絶対視せず、他人の仮説をも理解しようとする柔軟な態度にほかなりません。
それは、価値観の相対化といっていいでしょう。
かたく世の中を相対化してみると、それまで自分が採用してきた(頑なな)仮説のもとではまったくみえていなかったことがみえてくることがあるのです。
 

 

といったことで、要は「俺が、俺が」はいい加減にしておけ、といったことと解釈したがどうであろうか。
まあ、何にせよ、自分の説に拘って、キリキリ生きていくよりも、「所詮、仮説の一つだよね」と気楽な気持ちで、肩の力を抜いて物事に取り組んだほうが、良い結果が出るというものかもしれんですね。
 

「波乗りの戦略思考」が「山登りの戦略思考」を駆逐できない理由

=「山登りの戦略思考」と「波乗りの戦略思考」=
  
先だっての田坂広志氏の「まず戦略思考を変えよ」で、
 
「山登り」の戦略思考とはどのようなものでしょうか?  それは、あたかも「山登り」をするときのように、登るべき山の周辺の「地図」を広げ、その山に登るための最適の「道筋」を定めるといった発想の戦略思考のこと
 
すなわち、
①山登りをするときのように登るべき山の「頂上」(経営目標)を見定め、
②現在立っている地点からその頂上までの「地形」(経営環境)を地図で調べ、
③その頂上に登っていくのに最適の「道筋」(経営戦略)を考える
といった思考のスタイル
 
という「山登りの戦略思考」と
 
①波乗りによって向かうべき方向を定める(ゆるやかなビジョンを描く) ② 乗っている波の刻々の変化を感じとる(環境変化を刻々に把握する)   ③刻々の波の変化に合わせて瞬時に体勢を変化させる(経営戦略を迅速に修正する)
④波と一体となってめざすべき方向に向かっていく(経営戦略を柔軟に実現する) といった戦略思考のスタイル
すなわち、「波乗り」の戦略思考とは、「偶然性」というものを積極的に活用しようとする戦略思考。市場の環境変化や企業の意思決定にともなう「偶然性」というものを否定的に受けとめ、排除しようとするのではなく、肯定的に受けとめ、活用しようとする戦略思考
という「波乗りの戦略思考」を紹介した。(戦略思考の定義については「まず戦略思考を変えよ」からの引用)
「まず戦略思考を・・」の著者の田坂氏は、経営環境がどんどん変わる時代(業界のMAPPINGがどんどん変わる時代)には、「山登りの戦略思考」ではなく、「波乗りの戦略思考」に切り替えるべきだと主張されているのだが、当方的に思うのは、」まだまだ「山登りの戦略思考」のほうが日本の組織では、「方法論」として優勢をしめているように思う。

 

=なぜ「波乗りの戦略思考」は劣勢なのか=

 

その原因は、おそらくは、

 

①「変化に合わせた即座の修正」

 

 

②「偶然性の容認」
という二つのことがネックになっているように思う。
まず一番目の「変化に合わせた即座の修正」という点でいうと、リーダーがワンマン的な統制をしている、極度なトップダウンの組織を除いて、一度決定した「組織決定」を変えていくのは、通常の日本的な組織では容易ではない。

 

もともと「組織決定」自体が、組織の大方の構成員の「同意」「合意」のもとに成り立ったものなので、変更しようとすれば、大方の構成員による承認がいるのである。
 

 

次の「偶然性の容認」ということでは、即座の変更が可能な「ワンマン的な組織」ほどそれが容認できない。というのも、「偶然」を認めるということは、リーダーが示した方向性が、大した原因もなく、突然に揺らぐ、ということを示しているからである。なので、方向性を変えるべき事態が起きても、それは、「想定外」で「未曾有」のことなので、方向性を変えるほど頻発する出来事ではない、と思い込もうとする心理が働くのではないだろうか。

 

=とりあえずの処方箋=

 

こうしてみると、「山登り」から「波乗り」へ方向転換していくのは、そんなに簡単ではない気がしてくるのだが、では「山登り」の方法の継続でよいかとなると、環境が刻々と激変する情勢下では、それも上策とは思えない。
では、ということで、当方としては
①「山登り」の戦略の緻密度・精密度を落として、粗い仕上げにしておく。
②粗い戦略に基づいた戦術のチェックを頻繁にやり、PDCAではなく、D(ドゥ)→C(チェック)、D(ドゥ)→C(チェック)を回転をあげて行い、微修正を積み上げる。
③これにあわせて「組織決定」も決定に関与するメンバーの数を減らすと共に、「決定」自体の「粒度」を小さくする仕組みに変えていく。
というやり方がベターではないか、と思っている次第。

 

もともと、「波乗りの戦略思考」のやり方は、旧来からの組織にとっては不安を感じさせるものには間違いなく、これも普及を阻害している要因でもある。「山登り」を簡略化・変形させていって「波乗り」に近づけていくやり方が、日本的組織のメンタリティーに合っているように思うのだが、いかがであろうか。
 

時代は経ても、この「戦略思考」論は傾聴すべし — 田坂広志「まず、戦略思考を変えよ」(ダイヤモンド社)

経営における「戦略」「戦術」についての著者の論説の厚さが伝わってくるのが本書なのだが、底本は2001年の著作であるらしく、当方の無知というか不勉強を恥じた次第。
 
構成は
 
はじめに まず戦略思考を変えよ
第1話 「抜去り」の戦略思考を捨て、「先回り」の戦略思考を身につけよ
第2話 「市場に働く重力場」を見定め「その先の展開」を読め
第3話 「戦略の待機時間」を縮め「組織の耐久時間」を伸ばせ
第4話 「成功の鍵」を分析するのではなく「市場の理」を洞察せよ
第5話 「山登り」の戦略思考を捨て「波乗り」の戦略思考を身につけよ
第6話 「重層的な戦略」を準備し「戦略的反射神経」を鍛えよ
第7話 「戦略と戦術の垂直統合」を図り「戦略の創発プロセス」を促せ
第8話 「機会的なデザイン」を描くのではなく「生命的なビジョン」を語れ
 
となっているのだが、刊行から月日が経過しているのに、当方には、この本の論説は非常に新鮮で、どうやら当方が浸っていた仕事の環境は
 
「山登り」の戦略思考とはどのようなものでしょうか?  それは、あたかも「山登り」をするときのように、登るべき山の周辺の「地図」を広げ、その山に登るための最適の「道筋」を定めるといった発想の戦略思考のこと
すなわち、あたかも山登りをするときに、登るべき山の「頂上」(経営目標)を見定め、現在立っている地点からその頂上までの「地形」(経営環境)を地図で調べ、その頂上に登っていくのに最適の「道筋」(経営戦略)を考えるといった思考のスタイル
という「山登りの思考スタイル」のまま凍結していたらしく、
波乗りによって向かうべき方向を定める(ゆるやかなビジョンを描く)   乗っている波の刻々の変化を感じとる(環境変化を刻々に把握する)   刻々の波の変化に合わせて瞬時に体勢を変化させる(経営戦略を迅速に修正する)   波と一体となってめざすべき方向に向かっていく(経営戦略を柔軟に実現する)といった戦略思考のスタイル
である「波乗りの戦略思考」に遅ればせながら着地せねば、と冷や汗をかきかながら思う次第。
であるので、今回、論評するのはちょっと身の程知らずといった感があるのだが
 
「抜去り」の戦略思考を捨て 「先回り」の戦略思考を身につける
 
とか
 
「リスク感覚」を喪失するということが、実は「最大のリスク」
 
そうした「リスク感覚」というものは、決して「科学的手法」によって代替できるものではありません。たしかに世の中には「リスク分析」の専門家と呼ばれる人々はいますが、彼らは「科学的手法」の専門家ではあっても、「リスク感覚」の研ぎ澄まされたプロフェッショナルではありません。  したがって、ここでいう「リスク感覚」とは、誰よりも経営者やマネジャーこそが身につけ、磨いていかなければならない能力
 
 
組織の耐久時間」とは、きわめて組織心理的な問題なのです。それは、決して「どれだけの累積投資額が支えられるか?」といった財務体力的な問題ではありません。どこまでも、生身の人間が集まる企業組織特有の心理的な問題なのです。 そして、戦略マネジャーは、もし企業の現場で「先回り」の戦略を実行しようとするならば、こうした「人間心理」の問題を深く理解しておかなければなりません
 
といったあたりは時代を超えた至言であるように思う。このあたりに、おや」と思い、この本が初見であれば読んでおいて損はないと思う、ホント。
 
とはいうものの
 
市場競争においては、かならず、その主戦場が移行していくのです。したがって、「先行ランナーがこれから走っていく方向に先回りする」とは、市場競争における「次なる主戦場」にいち早く着目し、その主戦場での「競争優位」を築くための打ち手を他社に先駆けて打つことです。言葉を換えれば、次なる主戦場に先回りして、「橋頭堡」を築いておくこと
 
が大事であることは理解しつつも、なかなかできることではないよね、と凡人たる当方としては泣き言を言ってみるのである。
 
さて、ほぼ20年前の著作とはいうものの
 
言葉を換えれば、多くの日本企業においては、経営会議のメンバーが、「社長の目線」ではなく、「部門の目線」で会社の将来を見つめているのです。経営会議のメンバーが、「部門の代表」になってしまい、「社長の代理」になっていないのです。 
 
といったところを見ると、時間が経過しても、なかなか変わらない「悪弊」というものは存在することがよくわかる。新しいビジネス書ばかり追わないで、いろいろ振り返りながら研鑽を積むべし、という忠言でありましょうか。