カテゴリー別アーカイブ: 山口周

ビジネス読書には「教養書」が必須 — 山口 周「外資系コンサルが教える読書を仕事につなげる技術」(中経出版)

帯に「MBAに行かずに独学だけで・・・」「1000冊読んで・・・」といった言葉が踊るので「多読の読書術」と思うむきもあるかもしれないが、むしろ「精読の読書術」といった趣があるので注意しておいたほうがいい。
構成は
第1章 「仕事につなげる読書」6つの大原則
第2章 【ビジネス書×何を読むか】ビジネス書は「これだけ」読めばいい
第3章 【ビジネス書×どう読むか】古典には読む「順番」がある
第4章 【教養書×何を読むか】好きな本を読んで「ライバルと差別化」する
第5章 【教養書×何を読むか】情報の「イケス」をつくれ
第6章 「書店を散歩する」技術
第7章 「本棚」で読書を仕事につなげる
特別付録 これだけ読めばいい!「ビジネス書マンダラ」
となっていて、「仕事のための読書で「教養書」の扱いが出てきていて。これは
逆に言えば、経営学を学ぶにあたっては次々に出されるビジネス書の新刊を読む必要はない、ということです。
という考えによるもののようだが、このあたり、他の著書と同じく、山口氏の独自の切り口・斬新さが光るところであろう。
本書には、コンサルタント経験を活かした、特定分野に短期間に詳しくなる方法として
「知的生産」にかかわる仕事をしていると、短期間である分野の知識を集中的に学ばなければならない場面があると思います。
(中略)
このようなときにお勧めしたいのが、入門書5冊+専門書5冊=10冊の「1日読書」です。午前中を入門書の斜め読みに、午後は専門書の拾い読みにあてる、というのが基本的なプログラムです。
(中略)
5冊を午前中の2〜3時間を使って斜め読みします。斜め読みでは㈰図表だけ、㈪パラグラフの冒頭で自然と引き込まれた箇所だけ、を読みます。どんなに長くてもおそらく1冊につき30分程度で済むはずです。
午後は専門書。午前中につかんだ全体像やキーワードをもとに、特に深めたい部分を集中して読みます。
(中略)
ここでポイントになるのが、期限を1日に限定するということです
といったテクニックも随所に照会されているので、それを拾っていくのも本書活用の一方法だが、当方的には
定番のビジネス書がビジネスにおける規定演技だとすれば、リベラルアーツに関連する書籍はビジネスにおける自由演技に相当します。そして、そこでどれだけユニークな本を読み、それを自分の血肉としてアウトプットにつなげていくかが、「その人らしさ」を左右することになります。
成功する人には「さまざまな出会いや偶然を、前向きに楽しめる」という共通項があることがわかっています
といったことを基本にして
自分が重要だと思った情報は、脳内に記憶するのではなく、いつでもアクセス可能な場所=イケスにそのまま泳がせておき。状況に応じて調達し、他の情報と組み合わせて調理=知的生産するほうが合理的です
1冊の本でインプットした情報(魚)をイケスにいれるためには、次のようなステップで1冊を3回読みます
ーーーー
1回目:線を引く、2回目:5つ選ぶ、3回目:転記する
ーーーー
1回目→2回目→3回目と、自分にとって必要な情報をスクリーニングしていくのです
筆者の場合、アンダーラインの箇所がどんなに多かったとしても、イケスに放り込むのは基本的に5カ所、どんなに多くても9つまでにしています
あるいは
本の活用方法は2つしかありません。ひとつは、重要と思われる箇所を転記して必要に応じていつでもアクセスできるようにすること。もうひとつは、折りに触れて再読することです。
といった、読書による「継続的な知的生産」の手法をすくいとっていくというのが良いようだ。
本書に引用するスティ−ブ・ジョブズの言葉によると
創造性とは「なにかをつなげること」なんだ。クリエイティブな人に対して、どうt¥やって創造したのかを尋ねたら、彼らはちょっとバツが悪いんじゃないかな。なぜなら、実際になにかを作り出すなんてことはしていないから。彼らはただ自分の経験から得られた知見をつなぎ合わせて、それを新しいモノゴトに統合させるんだ
とのこと。自分は独創的でないから・・と悩まず、読書による「創造性の創出」にチャレンジしようではありませんか。

「論理的思考」は究極の仕事術ではないかも — 山口 周「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか」(光文社新書)

「美術」といえば、当方の学生時代は、よほど成績が良くて、しかも絵心のあるというかなり特殊な、語弊を恐れず言うと、コミックの中でしかないようなものだったのだが、どうやら、エリートというか組織の決定権を持つ人にとっては、重要な価値判断は「美意識」が肝なのよ、ということらしい。
構成は
はじめに
名門美術学校の意外な上顧客
忙しい読者のために
本書における「経営の美意識」の適用範囲
第1章 論理的・理性的な情報処理スキルの限界
第2章 巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
第3章 システムの変化が早すぎる世界
第4章 脳科学と美意識
第5章 受験エリートと美意識
第6章 美のモノサシ
第7章 どう「美意識」を鍛えるか?
おわりに
となっているのだが、基本のところは、コンサルタントが力説する「ロジカル」なんとか、とか、論理性などいうことは実はマジックワードではなくて
確かに、過去の経営史を紐解いてみれば、優れた意思決定の多くは、論理的に説明できないことが多い。つまり、これは「非論理的」なのではなく「超論理的」だということです。一方で、過去の失敗事例を紐解いてみると、その多くは論理的に説明できることが多い。つまり「論理を踏み外した先に、いくら直感や感性を駆動しても、勝利はない」ということです。
といったことらしく、これはよくある社内研修やらMBAの真似事研修を、真っ向から否定するもので痛快ではあるし、
億万長者で、ステレオコンポ会社のCEOであるハーマンは、MBA取得者を雇うことにまったく値打ちを感じないのだという。その代わりに、と彼は言う。 「『詩人をマネージャーにしなさい』と言うんだ。詩人というのは独創的なシステム思考ができる人だからね。彼らは自分たちの住む世界を観察し、その意味を読み取る義務を感じている。
といったあたりには、今までの「デキる人」という認識を揺さぶってくる。
で、そうした論理的思考がもたらすものが、ともすれば「常識」とか「世間知」というものから離れがちであることはなんとなく感じていて、そこを
わかりやすいシステムを一種のゲームとして与えられ、それを上手にこなせばどんどん年収も地位も上がっていくというとき、システムに適応し、言うなればハムスターのようにカラカラとシステムの歯車を回している自分を、より高い次元から俯瞰的に眺める。そのようなメタ認知の能力を獲得し、自分の「有り様」について、システム内の評価とは別のモノサシで評価するためにも「美意識」が求められる、ということです。
と看破する論調は小気味良い。
そして、では、そうしたシステムに用意される判断基準から離れた時の「基準は何か
」ということについては
「自分がいいと思うかどうか、ピンとくるかどうか」が最終的な意思決定の立脚点であって、データや説明などは参照しない、むしろそんなものが必要になっている時点で、そのデザインはダメだというわけです。
システムの内部にいて、これに最適化しながらも、システムそのものへの懐疑は失わない。そして、システムの有り様に対して発言力や影響力を発揮できるだけの権力を獲得するためにしたたかに動き回りながら、理想的な社会の実現に向けて、システムの改変を試みる。
といった、ちょっと「ヒネ」た対応が必要となるようだ。
なんにせよ、「エリートの判断ミスによる業績凋落」や「組織的隠蔽による企業危機」といったことが、どぷやら日常茶飯のように生じている今、
システムを改変できるのはシステムの内部にいて影響力と発言力を持つエリートですが、そのエリートが、システムの歪みそのものから大きな便益を得ているため、システムの歪みを矯正するインセンティブがない。システムに参加しているプレイヤーが各人の利益を最大化しようとして振る舞うことで、全体としての利得は縮小してしまうわけで、これはゲーム理論でいうナッシュ均衡の状態です。これが、現在の世界が抱えている問題がなかなか解決できない本質的な理由です。
といった、「はぐれ者」の処世方法が有効になっているようなのであるが、さて、個人的にどうこなすか、結構、難しい処世術ではありますな。

あなたの会社はイノベーティブ? — 山口 周「世界で最もイノベーティブな組織のつくり方」(光文社新書)

あとがきに

この本は題名に「イノベーション」を謳ってはいるものの、扱っている問題の本質は「組織論」であり、突き詰めて言えば「リーダーシップ論」です(P293)

とあって、確かに、いかにしてイノベーションを生み出すかといったテクニカルな本と思って読むとアテがはずれるので要注意。かといって、「組織論」と言うには、当方には抵抗があって、当方が面白く読んだのは、「イノベーション」を生み出す組織の「メンタル部分の分析論」といったところであろうか。

構成は

第1章 日本人はイノベーティブか

第2章 イノベーションは「新参者」から生まれる

第3章 イノベーションの「目利き」

第4章 イノベーションを起こせるリーダー、起こせないリーダー

第5章 イノベーティブな組織の作り方

となっているのだが、初めのあたりで

日本企業でイノベーションの促進を阻害するボトルネックファクターは何なのか?

それは「組織」です

歴史的に見て多くの領域において個人として発揮されている創造性が、最近の企業組織においてまったく発揮されていないという事実−。これは、組織が個人の創造性をうまく引き出せていないということを示唆しています。(P30)

とあるのは、日本の組織を賞賛する動きに少しの冷水となるだろう。

そして、本書を読んで思ったのが、イノベーションは「尖った小集団」がもっとも起こす可能性が高いという印象で、

「異なる分野のクロスオーバーするところにこそイノベーションな思考が生まれる」 (P40)

重要なのは、人と異なる考え方/感じ方をどれだけ組織成員ができるか。そして考えたこと/感じたことをどれだけオープンに話せるかという問題(P53)

といったところに明確で、そうなると、今、多くの組織で行われている、組織全体で「イノベーション力」「創造力」を育成しようと言った取り組みは、結構残念なものでなる可能性が高いということか。

とりわけ、日本の大企業や公務組織にように、上司に反論することが文化的に難しい「権力格差指標」(詳しくは本書のP60以降を読んでね)の高いところは、いくら研修や社員教育過程でイノベーションを起こす力を育成しようとしても結局は無駄骨に終わる可能性が高いということであるようだ。

では、大組織や公務組織はどうしたらよいの、というところは明確には示されないものの

イノベーションの歴史をひもとくと、この「指令を受けたエリート」対「好奇心に突き動かされた起業家(アントレプレナー)」という戦いの構図がたびたび現れます。そして、多くの場合、本来であればより人的資産、物的資産、経済的資産に恵まれているはずの前者が敗れている(P111)

あるいは

組織を率いて大きなイノベーションを実現する管理職は、高いパワー動機(自分の行為や存在によって組織や社会に影響を与えたいという動機)を持っている傾向が顕著なことが明らかになっています。一方、一般に企業において高業績を上げる人材は高い達成動機(設定した水準や目標を達成したいという動機)を持っている傾向が、やはり明らかになっている。

ここに、人材配置上の落とし穴があります。(P126)

といったあたりがヒントになりそうな気がするんである。つまり、組織を破壊しない程度のパワー動機をもつ職員をうまく見つけ、いわゆる「仕事のできるエリート」は彼らをサポートする側にまわる、といった役割分担が効果を上げるんでは、と思う次第。

まあ、このあたりはいろいろ意見があるだろうし、自分の属する組織に当て嵌めて、いろいろ考えたり、妄想するのが、「組織論」や「人材論」のちょっとひねった楽しみでもある。さて、皆さんの組織はイノベーティブですかな?