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磯田道史「武士の家計簿 ー 「加賀藩御算用者」の幕末維新」(新潮新書)

堺雅人と仲間由紀恵のキャストで映画化もされた作品の原作である。映画では、猪山直之を堺雅人を演じていて、TVで見た記憶で言えば、彼が息子に背負われてお城から退出(?)するあたりで終わっていたと思うのだが、このへんは退出であったのか登城であったのか、記憶が定かではないのでご容赦を。

原作の構成は

第一章 加賀百万石の算盤係

第二章 猪山家の経済状態

第三章 武士の子ども時代

第四章 葬儀、結婚、そして幕末の動乱へ

第五章 文明開化のなかの「士族」

第六章 猪山家の経済的選択

となっていて、そもそも江戸時代において「算盤」を生業に主君に仕えるという家の、家中の位置関係から始まって、武家の幕末期の破綻している経済状態の詳細が語られるのが第一章と第二章。

第三章からは、維新後は海軍に奉職した猪山成之を中心に、彼が加賀藩の  になって版の中枢に抜擢されていく様であるとか、幕末期に京都で加賀藩の兵站を担当したおかげで新政府に縁ができ、海軍で重きをなしていく様子まで、江戸末期から明治にかけての武士階級の変転が興味深い。

こうした歴史の新書を読む楽しみは細かなトピックをひろうところいにもあって、出産や葬式といった際の誰がお祝いや費用を負担したかといった卑近な出費の状況であるとか、武家の借金は町の商人からもあったが、それと同じくらい親戚筋からの借金も多かった、とか「へー」と想うネタも多い。

さらには明治維新という、当時の感覚からすると天と地がひっくり返るような時代変革の中で、御殿勤めの経験もある娘が運輸を商売とする豪商に嫁ぐといった斜陽士族と富裕商人の縁組は流行であった、とか維新後、官員として出仕できた士族と、できなかった士族では、収入と生活に天と地ほどの差がでたといった話を読むと、社会混乱の中でもしっかり実利を見ている庶民の結婚観と官が強い権力構造は江戸時代が終わって武士階級とともに瓦解したのではなく、官員階級に新たな血を入れながら武士階級を中心に再構成しただけなのかも、と思ってみたりする。

江戸から明治にかけての武士一家の奮闘記であるとともに、その時代から今に至るまで日本の社会に流れる潮流を垣間見ながら、歴史の小さなエピソードを楽しむに良い本ではなかろうか。