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絶筆となった「連城那智」の最後の物語 ー 北森 鴻(浅野里沙子) 「邪馬台」(新潮社)

蓮丈那智のフィールドファイルシリーズの最終話。もともとは最終話になる予定ではなかっただろうが、北森氏が執筆中に急死し、その遺稿に氏と親い関係にある浅野氏が手をいれて完成させたのが本書。
構成は
序章 鬼霧の夜
第一章 廃村記
第二章 雅蘭堂
第三章 冬狐堂
第四章 鬼米道
第五章 箸墓抄
第六章 記紀考
第七章 解明譚
第八章 阿久仁
第九章 鏡連殺
終章 卑弥呼
となっているのだが、目次をみただけでは判じ物と同じ類で何のことやらわからない。
雅蘭堂の主人 越名が、鳥取県と島根県との県境に位置する村の廃村に残っていた古文書の争奪騒ぎに巻き込まれるところからスタートするのだが、この村というのが、鳥取県が独立していた時には存在していたのに、鳥取県と島根県が合併し、鳥取県が再独立した時には消えていた(抹消されていた)らしい、といった感じで「蓮杖那智もの」特有の古代史のおどろおどろしい世界と現代社会が交錯していく、といった筋立て。
「蓮杖那智もの」は短編が主であるのだが、珍しく本書は長編なせいか、このミステリーに関わってくる古代史ネタも、邪馬臺国、製鉄民族、後南朝の血筋、はては明治政府や皇室とチベット王族といった国際的なキワモノまで飛び出してくるのが、他の「蓮杖那智もの」との違いではある。
直線的にこうしたネタをつないだ単純な歴史ミステリーではなく、横糸に騒ぎの発端となる古文書(阿久仁文書)の謎解きと、冬狐堂などの登場人物も加わり、歴史の謎解きに加えて、古文書・古道具などのお宝ミステリーともなっているのが、さすが北森ミステリーの技というもの。
さらに
交通の要衝から取り残され、廃村となった集落にも同じことが言える。路線とは常に必然によって整備されるという原則がある。その必然性には人の流れ、自然の条件が大きく英帰郷する。現代に至っては、地元の建設業者の需要、利権といったものも加味されるようではあるが、それはさておき、必然性によって整備される路線の要衝から外れているということは、すなわち廃村に至る遺伝子が、すでに存在していたということではないのか
とか
税のようなものだ。その収奪、そして鉄器を製造する者たちが木を乱伐したために、水害も多発しただろう。邪馬台国の農業指導は優秀だった。ゆえに富は邪馬台国に集まる。その富を元に、さらに鉄器が生産される。木を伐り尽くすと、別の場所に行く。邪馬台国が通り過ぎた土地には、荒廃と悲しみだけが残ることになる。邪馬台国は、そして卑弥呼は、英雄ではない。憎むべき存在、倒されるべき存在であった
といったような本編にまつわるコンテンツに「うむ」と唸る、北森ミステリーの斜めから見た楽しみ方も健在である。
著者すでに亡く、こうしたミステリーの新作が読めないのは残念ではあるが、古典としておそらくは残っていくであろうことを念じながら、この稿は了としよう。