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長次郎ゆかりの熟柿泥棒の陰に悪人組織が巣食う — 和田はつ子「かぼちゃ小町」(時代小説文庫)

第一シリーズの第25弾となる本巻では、前巻まで、未解決となっていた不審死の真相が明らかになる。
 
構成は
 
第一話 あま干し柿
第二話 秋すっぽん
第三話 かぼちゃ小町
第四話 もみじ大根
 
となっていて、まず第一話では長次郎ゆかりの熟柿が盗まれる所からスタート。犯人は大金を積んでも口に入らない食通・豪商あたりの差し金かとみえて、熟柿つくりの肝の座布団が捨てられていたり、といったことで、もっと深い陰謀がありそうな風情である。この盗難事件での不幸中の幸いは、北町の隠密同心・伊沢蔵之進ゆかりの「干し柿」の製法が手に入りそうなあたりか。
 
第二話はちょっと舞台が変わって、瑠璃の滋養のために飲ませている「すっぽんの血」を提供してくれている、すっぽん屋の娘・楓の奉公先の料理屋・四季屋の主人殺し。四季屋の主人には、仕入れ・やりくりといった経営から、客の差配まで仕切っている、三十過ぎの美女・理彩がいるのだが、まあ、こういうキャラに対する作者の態度は、このシリーズの読者であれば、もうお分かりですよね。
 
第二話の四季屋の殺人事件の真相も明らかにならないまま、話は十年前の「かぼちゃ小町」といわれた八百屋の娘が、婚約者から折檻されて殺された疑いのある事件の再捜査へ横展開。
 
最終話の「もみじ大根」で、消化不良のまま展開してきた今巻の事件を含め、前巻、前々巻での米沢屋の事件やお連の変死といった”指掛け”になったままの事件をはじめ、10年前のかぼちゃ小町の事件以降の不審死の犯人が明らかになる。その相手は、なんと甲賀者まで引っ張り込んだ、結構大掛かりな設定の悪党なのだが、「天下の大乱」とならないのが、このシリーズが市井の捕物帳であるせい。上田秀人の「加賀百万石」などとはここが違うところであるな。
 
さて、今までの悪党退治は、出張というか、悪党の根拠地に出張っての立ち回りで、塩梅屋や元許嫁の瑠璃が養生させてもらっている、お涼さんの家は、安全な居場所であったのだが、今巻から、ここまで戦線が広がってきた展開である。次巻以降、どんな悪役キャラが登場してくるでありましょうか。
 

男を手玉に取る悪女のあっけない最後は、どことなく哀れ — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 瑠璃の水菓子」(時代小説文庫)

このシリーズは、毎巻、その巻を彩る、いわばゲスト的なキャラクターが登場してくる。近くでは、出張料理人を偽っていた隠れ者の旗本とか、武家上がりのおきゃんな芸娘とかが登場していたのだが、今巻は、河童屋の平助というまっすぐな胡瓜を売る野菜売りと男をコロリと手玉に取る「お連」という長唄の師匠という対象的な二人である。
 
収録は
 
第一話 河童きゅうり
第二話 江戸香魚
第三話 瑠璃の水菓子
第四話 鮎姫めし
 
となっていて、まず第一話で、ごろつきが二人がそれぞれ別の日に、胡瓜を手にして殺されていたもの。胡瓜が特別製なのと背中にくらげのような河童のような絵が描かれていたもの。この胡瓜と河童の絵のせいで、平助が下手人の疑いをかけられるところからこの巻はスタート。
 
もちろん、お連の方も大活躍で、米沢屋という米問屋の主人・征左衛門と若旦那・そで吉をそろって手玉に取るという荒業を展開する。二人を手玉にとるのは、米沢屋の身代が目的なのか、ほかに理由があるのか、この辺は最終話でやっと明らかになるのだが、はじめのところは色悪の女そのものですな。
 
そして、第二話で、米沢屋の若旦那・すえ吉が殺されたり、第三話で、米沢屋を揺すっていた彦一という願人坊主が墓荒らしをしている最中に殺されていたり、さらには「お連」も突然自殺したり、と悪辣なのが次々死んでいく。
この連続殺人の種明かしは、というところで、平助の友人で彼に胡瓜の苗を卸している弘吉という存在が急にクローズアップ。しかも、彼の武家時代の過去がキーというのはちょっと後出しジャンケンでは、と思わないではない。もっとも「お連」殺しの犯人は不明なままで、解明は次巻以降へ引っ張られる。
 
さて、このシリーズの特徴は、毎回、凝った料理が披瀝されるところで、今巻でも鮎づくしとか鮎のかど飯とか鮎を使った料理が数々でるのだが、当方的に、鮎勢をなぎ倒して躍り出るのは、表題にもある「瑠璃の水菓子」で
 
熟れて濃い香りの漂う真桑瓜の皮を剥き、種を除いて、みじんに切った後、すり鉢でどろりとづるまで擂り潰した。
寒天は水でふやかしておく。
鍋に水と千切った寒天を入れて煮溶かし、三度ほど漉してから砂糖を加えて混ぜる。
これが人肌程度に冷めたところで、どろしとした真桑瓜と混ぜ合わせて、長四角の流し缶に注ぐ。
後は盥を手にして、井戸端と厨の往復である。・・・これに限っては固まるまで続けなければならない。
やっと出来上がった真桑瓜の水菓子は、流し缶から取り出して、切り分けてみると、鶸萌黄色の寒天と真桑瓜の果肉部分が二層になっていた
 
というもので、真桑瓜ゼリーが正体。今では、メロンに競べて格下の薪割売なのだが、ちょっとこいつは惹かれますな。とはいうものの、鮎料理も一工夫も二工夫もあって、粋で旨そうなものばかり。江戸を揺るがす「大悪」ってのも今回は登場しないので、料理の方を堪能してみてもよいですね。
 

「白犬」に導かれて、「善光寺」ならぬ「殺人」巡り — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 23 花見弁当」(時代小説文庫)

気のあった料理人仲間であった武藤が行方をくらまし、心にすきま風が吹いている季蔵であったが、一人花見に出かけた先で、本巻の新たなキャストに出会うことになる。それは、なんと「白犬」である。
 
構成は
 
第一話 花見弁当
第二話 江戸っ子肴
第三話    若葉膳
第四話 供養タルタ
 
となっているが、今回も一話完結ではなく、一巻完結の話。
 
まずは、季蔵が霊岸島へ花見に出かけるところからスタート。花見の料理は、さすがというべきか、「鶏肉の柚酒焼き」「豚肉の柚酒煮  という豪華版なのだが、そこで出会った白犬にほとんど全てを食べられてしまう。しかもこの犬、料理の気に入り具合を吠える回数で表現するという生意気ぶりである。
 
第一話の本筋の事件は、呉服問屋の手代・長助が酒に酔って変死するものなのだが、この花見の時に登場する、塩梅屋の近くの煮売屋親子が、この巻での重要な配役となるので覚えておこう。ちなみに、この煮売屋の娘が、死んだ長助に惚れていたのだが、この長助、あちこちの娘から菓子やら甘酒やら煮売やらの食べ物を貢がせていたという、野暮なんだがどうだがわからない色男である。
 
第二話は、事件のほうは、上方からの下り酒を見せ金に、水で薄めた酒を高価な値で売り払うという騙し蔵の詐欺に関連する殺人事件なのだが、メインは、蔵之進の配下を務める、ベテランで腕利きの亀吉親分の引退お引き止めようと、江戸っ子の粋を集めた宴席を設ける話。提供される料理は、   「江戸っ子膳」と銘打って「意図ミス場の刺身風、納豆の卵巻き、蒟蒻と胡桃の酒粕和え」「鰹の江戸風味」「豚肉の柚子煮」「烏賊の共焼き」「エビの天麩羅江戸っ子風」「白独活とワカメの酢の物」「鮪のきじ焼き風茶漬け」で、なんとも粋なもの。
この時点で煮売屋の娘は  という店に奉公していて、しかも、その店の若旦那に見初められて、というなんだか嘘っぽい話。こういう、惚れっぽいが、純粋な良い娘にこの作者は手厳しいので、注意が必要であるな。
 
第三話は、その宴席の話がメインで、煮売屋の娘・桃代の奉公先・みやび屋の若旦那・慎吉が誠実そうな雰囲気を醸し出すが、さて本質はどうか気になる所。この話の最後で、前話で復帰することを誓った亀吉親分が卒中死する。彼が宴席の最後に喋る「友人を石見銀山で毒殺した子供」のエピソードがどこで関係してくるのか、そして、騙し蔵の殺人に関わりのありそうな京風の着物を来た美人の年増女の正体も、ここではまだ謎のまま。
 
第四話は、その桃代の嫁取りにみやび屋親子がやってくる時の料理に「茶」をつかったものを季蔵が考案しているうちに、みやび屋の主人が心臓病の発作で突然死、さらには、お内儀のはな江が毒殺。犯人の疑いのかかる桃代は近くの稲荷神社で自殺、とやたらと人死にが出る。この一連の事件の鍵となるのは、騙し蔵の事件で出てきた「年増女」なのだが、性の趣味の違いと身近なところに犯人がいる意外さに驚くが、真相は原作でご確認を。
 
さて、見目の良い男には、とんでもない裏がある、というのが印象的な本巻。そういう類の男に騙される娘たちが、哀しいですな。

腕利きの出張料理人の隠された真の姿は? — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 22  ゆず女房」(時代小説文庫)

長く続くシリーズものの登場人物は、とかくマンネリ化してくるもので、読者としては定期的に新キャラの投入を望みたいところなのだが、それが定着するキャラに育つかどうかは、作者のお好み次第というところであるらしい。
 
収録は
 
第一章 冬どんぶり
第二章 河豚毒食い
第三章 漬物長者
第四章 ゆず女房
 
となっていて、今巻の読みどころは、武藤多聞がキャラとして定着できるかどうか、といったところであろうか。
 
まず第一話は、「冬うどん」こと「鶏団子うどん」で名物ランチの評判をとった塩梅屋が、今冬のランチで再びの高評判を勝ち得る料理をつくれるかというもの。料理を考案する過程で、長崎屋のお内儀が酒浸りになっている、という相談事の解決を図るのだが、女の嫉妬とは粘っこいなと想わせる結末。さらには、今回名物ランチになる「冬どんぶり」こと「葱たま丼」に必要な卵の仕入先も巻き添えにしてしまう。年寄りが熟れ頃の女性に惚れ込んでも甲斐がないかも、という決着はちょっとさびしいな。
 
第二話は、北町奉行の烏谷の依頼を受けて、季蔵と武藤が、セレブが通うふぐ料理屋の宴席の手助けをする話。もちろん、宴席が無事に終わるはずもなく、旗本のお家騒動も絡んで、血なまぐさい展開になるのは、捕物帳の宿命か。
 
湯引きは三枚に下ろしたふぐの上身を、厚めにそぎ切りした後、皮と一緒に湯に潜らせ、水で晒して、紅葉ろしや酢醤油をつけだれにして食べる。
(中略)
かね炊きとのほうは骨付きぶつ切りの身を、つぶしたにんにくと梅干しと一緒に醤油で煮つける
 
といったふぐ料理に免じて、話の陰惨さも我慢しようか。
 
第三話は、季蔵の旧友・豪介の女房おしんの取引先の漬物屋・野もと屋の主人の失踪事件の解決譚。この主人、仙台が旅の途中で連れ帰った出所不明の人物で、漬物の仕入れにも一人で旅するという変わり者。彼の失踪の陰に隠された過去は、といったもの。これに役者くずれの煮売屋の亭主の失踪+死亡事件がからんでくる。およそ関係なさそうな二人なのだが・・、といった展開。
作中の
 
柿なら何でもいいから、熟れたら、へたを取って、砂糖と焼酎、それに刻んだ唐辛子を放り込んで、漬け床をつくるんです。三月もおいておくと、これ、柿酢になるんです。
 
という柿酢で大根をつける「大根の蒸し柿漬け」のように少々複雑な人間模様である。
 
最終話の「ゆず女房」は、扇屋・錦堂のお内儀の「ちぐさ」が庭先で凍死するのだが、彼女の身体にはひどい折檻を受けた後が残っていて・・、というところから始まる。もちろん、彼女を利用して性欲を満足しているゲスなセレブがいるのだが、彼女を死に導いたのは、なんとあの・・、といったところで手を下した人物とその正体は原本で確認あれ。
話を彩るのは、武藤の妻・邦恵の「ゆず料理」で柚子味噌、柚子大根、ゆべしと種類豊富なのだが、どうしても侘しさが漂うのは、話のすじのせいか、あるいは柚子の性格のせいであろうか。
 
さて、20話あたりから、新キャラが登場するも、この巻あたりまでで精算が相次ぐ。健在な女性キャラは。「おき玖」と「瑠璃」。さて二人と季蔵との関係はいかなることになりますやら。
 

南町と北町の懇親が進むも、腕利き与力が過去の事件の犠牲になる — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 21 蓮美人」(時代小説文庫)

前作で、当方的には気に入っていた逸材の「さと香」を喪ってしまって、ちょっと残念なところで、今巻でのゲスト・キャラは、名門出の南町奉行である。
 
第一話 風流鮨
第二話 禅寺丸柿
第三話 蓮美人
第四話 牡蠣三昧
 
第一話は、南町奉行が北町との融和を図るために、「親睦会」を開くというもの。もともと、競い合いと汚職防止のために、南北両奉行所がつくられていたと思うので、「親睦」ってのは幕府上層部が面白く思わないと思うのだが、幕府も開府後経過すると、その辺は安きにつくという設定であろうか。もっとも、作者のちょっと意地悪なところは健在で、名門出で気位の高い、南町奉行の家付き娘「律」様というキャラをつくっておくのは流石である。事件の方は、塩梅屋が仕入れている鰹節問屋の土佐屋のお内儀殺しと黄金の煙管ほかの盗み、これに加えて、廻船問屋の大前屋の女隠居の殺しと金剛石の盗みである。
もっとも事件は第一話では解決せず、次話以降に続く。
 
第二話は、第一話の事件の続きなのだが、二話目の注目点は、南町の同心・島村蔵之進。昼行灯という評判なのだが、なにやら「食えぬ」存在らしき様子を随所に見せる。
事件のほうは、土佐屋の主人が殺されて、さらに混迷という展開。
 
第三話の「蓮美人」では、第一話で登場した、南町奉行所の与力・伊沢真右衛門と北町奉行・烏谷とが旧友であったという意外なエピソードが語られる。もちろん、こういうエピソードが出てくるのは、訳があって、伊沢が霊岸島で謎の自害をする訳と、烏谷の想い人「お涼」さんの過去のすきっとしたエピソードの呼び水。「蓮美人」のいわれは、「お涼」さんが、外様の大藩の大名の側室にしようという企みを打ち砕くためにとった策に由来するのだが、詳細は本書で。しかし、どの話でも共通して「お涼」サマというのは別嬪で、しかも気っ風が良いものですな。
 
第四話の「牡蠣三昧」はこの巻で起きる事件の解決編。死人はたくさん出るのだが、なんとも消化不良な解決のまま、最終話で決着をつける感じ。ここまで引っ張るからには、単純な欲得ずくの事件ではなく、伊沢真右衛門が以前関わった抜け荷事件を発端に土佐屋、大前屋を巻き込んだ事件の決着は、季蔵の裏の任務に任されるのだが、このついでに、昼行灯・島村
蔵之進の隠された役目がはっきりする。
 
ただまあ、第四話の最後の方で、季蔵の仕事を邪魔をするような仕掛け矢も仕掛けられていて、次巻以降でなにやら陰謀の網がはりめぐらされていそうな今巻の終わりでありますな。
 

おきゃんで美人の、武家出身の芸娘の運命や、如何に — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 20 おやこ豆」(時代小説文庫)

この巻を彩る新しい登場人物は、「さと香」という芸娘。二十歳前後ではあるが
 
白粉で塗り込められているせいで、顔こそ白かったが、弾むように若々しいだけではなく、きりっとひきしまった目元、口元に、妖艶さに同居した理知の輝きが見てとれた。
 
といった様子で、市中の浪人の娘らしいのだが、筆者の「好意的な視点」が感じられる、と思っていたら最後のほうで、どんでん返しをくらうので要注意。
 
収録は
 
第一話 五月菓子
第二話 おやこ豆
第三話 夏うどん
第四話 生き身鯖
 
となっていて、第一話は、大伝馬町の呉服・太物問屋の京極屋の幼い跡取り息子・弥太郎が、今は妾となっている元乳母「おいと」の差し入れた柏餅で毒殺されるという事件。事件の陰には、「おいと」が身籠もっている上に、弥太郎が、おいとになついていることにくすぶった不満を抱いている、京極屋のお内儀・お加代の姿がちらちらする。事件の真相に、我が子の愛情を独占したい母親の姿が登場するところと、アレルギーをかけたところが今風であるか。
 
第二話では、「さと香」が塩梅屋の艶やかな新客として存在感を増してくる。「さと香」は、浪人ではあるが寺子屋をしていた父に文の才能を期待されながら、芸娘になったことで感動されている身。ただ、心底憎み合っているわけではない二人の仲をとりもとうする季蔵とおき玖の考案するのが、空豆の生姜和え、空豆の葛ひき椀、空豆と小エビの落とし揚げ、といった「空豆」づくしの弁当、といったところが出だし。そして「さと香」のことに一所懸命になる季蔵を見て、季瑠璃の仲は諦めている「おき玖」の心中は穏やかでない、というところが隠し味。
事件は、御書院番小笠原家の家臣が、酔って倒れ、石に頭をぶつけて死んでいるのが発見されうのだが、小笠原家は犯人探しを執拗に言いたててくる、というものなのだが、真相は第三話に続く。
 
第三話は、第二話の小笠原家の家臣の頓死の顛末。この家臣、弱い者を脅しては金をせびる。美人の町娘を見つけてはちょっかいを出す、という鼻つまみ者。あちこちに敵はいるよな、と言っているところで、犯人として捕まったのは、「さと香」の実の父親、という展開。「さと香」の父親の、謹厳実直な武家らしさが見える話。
 
第四話では、武藤多聞と並んで、この話の主要な脇役になるんだろうな、と期待していた「さと香」にとんでもない災厄がふりかかる。やっぱり、この筆者は、美人の若い娘には厳しいな。
「さと香」はおきゃんな美人であるとともに、幼なじみが彼女におんぶにだっこという典型的なダメンズ・ウォーカーで、「ウォーカー」部分が何を意味するかは本書でお確かめあれ。最終的には、季蔵のひさびさの裏の働きが出るのだが、第三話で殺された侍の隠された悪事や、以前、季蔵たちが手こずった、江戸の裏家業を仕切る「虎翁」の残党も出てきて、それなりに大きな悪事退治になる。話の途中で、烏谷の想い人である「お涼」さんの格好良いエピソードが紹介されるが、この辺は次巻の「蓮美人」のところでも関係してくるのでご注意を。
 
さて、ひさびさに「美形」が登場して、これから派手になるよね、と期待をしていたら、作者に見事に裏をかかれました。若い美人に浮かれて、ふあふわするな、との戒めでありましょうか。
 

新キャストも登場して、料理の工夫も幅が広がってきました — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 19 料理侍」(時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズには、それぞれの巻ごとに象徴する新しい登場人物があって、ほとんどが事件の犯人であったり、事件に巻き込まれたりして消えていくのだが、中には船頭の豪介や、噺家あがりの廻船問屋の長崎屋など継続して登場して、季蔵の手助けをしてくれる名脇役もでてきて、話の幅を広げてくれるのも本作の特徴。
 
収録は
 
第一話 料理侍
第二話 烏賊競べ
第三話 春菓子箱
第四話 つくし酒
 
となっていて、今巻で、「よろず商い屋」と称して、自ら塩梅屋に売り込みをしてくる出張料理人の武藤多聞という侍が冒頭から登場するところから始まる。この侍、季蔵の師匠・長次郎が熟し柿を届けていた「太郎兵衛長屋」に新しく引っ越してきた浪人なのだが、8のつく日に、長屋の住人に手料理の夕餉をふるまうという奇特人で、これから複数巻で季蔵の手助けをすることになる。
 
さて、第一話の事件は、津田屋という扇子屋の主人が、街のごろつきに仮装した姿のまま殺されているのが発見されるのが始まり。津田屋の女房は、昔は小町と呼ばれた別嬪なのだが、この仮装癖にすっかり愛想を尽かして、夫婦中も冷め切り、といったところなのだが、事件を解くカギは、この夫婦のなれそめ。きれいな女の子が不良に絡まれているところを救った正義の味方、という昔ながらのベタな出会いが、悪いほうへ転がるとこうなるのか、と思わせる。
 
第二話の「烏賊競べ」の事件は、食通の戯作者の失踪と、その家で起きた戯作者の妻と版本の惨殺事件なのだが、この話の重要ポイントは、事件というより、季蔵、三吉、武藤多聞の烏賊料理競べ。「烏賊」というのは、万人の好むものではあるが、贅沢三昧の料理にはちょっと合わない気がして、この烏賊料理競べでも秀逸なのは、武藤のつくった「烏賊の塩辛」。もちろん
 
肝心なのは、羽州で”うろ”と呼ばれている、わたの漬け込みです。別に集めて塩を加え、じょのめ樽と呼ばれている、横に口がついた樽につけます。・・これが塩辛の漬け汁のもとになります。
(中略)
わかせたうろは、樽の底に沈むものと、上澄みの醤油のような色のものに分かれます。漬け汁にはこの上澄みだけを使うので、底に沈んでいる澱が混じらないように、じょのめの口から取り出さねばなりません。
(中略)
半年ほどかけて漬けた烏賊の塩漬けは、何回も何回も水を替えて塩抜きをします。この間、ほどよい塩加減の二番目の塩出し汁を煮立てて取っておき、じょのめ樽から取り出したうろの上澄みに、塩梅を見ながら混ぜて、本漬け用の漬け汁に仕上げます。塩抜きした烏賊は細かく刻み、よくしぼってこの漬け汁に入れ、浮き上がらないように軽い重石をかけて保存しておくのです。
 
といった時間と手間が味に集約していそうな出来物で、どうも呑みすぎてしまいそうな風情のものである。
 
第三話は、前話で事件のあった戯作者の家の近くの絵草紙屋の空き巣に始まって、向島の荒れ果てた寮で、質屋の主が殺された事件の謎解き。この質屋の主人、背後から撲殺されているのだが、年齢は40歳過ぎなのに、老人に仮装した装束で殺されているのが謎を呼ぶ。ただ、この話では、絵草紙屋の薬缶に甘い臭いのする小便がされていたりといった色物ネタがもとでその犯人が捕まるまで。
 
第四話は、第二話の戯作者の失踪事件+戯作者の関係者の殺人事件の犯人と第三話で殺された質屋の裏家業が明らかになるもの。戯作者失踪事件には、関ヶ原で大功をたてるが開府後まもなく謀反の疑いを晴らすため、無役となり、以後幕命で、家由来の骨董集めを自費で命じられいる旗本・本田家の、雛祭りの道具お披露目が重要な舞台となる。このシリーズには関係ないが、上田秀人の「百万石のお留守居役」の本多家を髣髴とさせるのは当方の勘繰りすぎであろうか。
 
さて、今巻から登場する武藤多聞、料理の腕もあり、さらには侍なので、三吉よりは荒事の際は役に立つという結構便利なキャラクター。以後どんな役回りをするのか、ちょっと楽しみでありますね

「炊き込みご飯」よろしく事件の種類がてんこ盛り — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 秋はまぐり」(時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズの17弾目の「秋はまぐり」は、表題通り、季節は「秋」。前作の「夏まぐろ」を前編に、今巻を後編に、といった感じで読むとよい。収録は

第一話 長屋はぎ

第二話 さんま月

第三話 江戸粋丼

第四話 秋はまぐり

最初の「長屋はぎ」は旨いと評判なのだが限定100個しか売らないという「おはぎ」の名手の婆さんが誘拐される。そして解放の条件が「おはぎ」を500個作って売るという、ふざけた内容のもの。当然のように季蔵が手助けに乗り出すわけだが、誘拐の本当の理由に、とあるお武家の秘宝が・・・、といった筋。

残りの「さんま月」「江戸粋丼」「秋はまぐり」は最初の「長屋はぎ」を導入譚にして、石原屋という油問屋を主な舞台に事件が展開する。この店の15年前にかどわかされた娘・藤代が名乗り出てくるのだが、この娘の真贋の確認を縦糸に、死んだ主の遺した金の仏像の相続争いを横糸に話が展開。途中、この藤代を名乗る娘が変死したり、最後の「秋はまぐり」では死人の蘇りとその死人に殺された噺家も出て、と相も変わらず殺人事件がぽいぽいと起こるのもこのシリーズの特徴ではある。最後は、前作「夏まぐろ」で出てきた、死人づくりの黒幕も顔を出し、さらに、夏まぐろで謎のままになっていた別嬪の女の正体も明らかになって・・、といったところで、江戸の闇の黒幕退治、といったいつものところに収めて溜飲を下げる。

そして、今回の惹かれた料理は

刻み終えた秋刀魚には、生姜汁と醤油、酒、味醂少々で味をつけておく。

昆布で出汁を取った大鍋に、短冊に切り揃えた大根を入れて火が通るまで煮て、ここに、刻んだ秋刀魚をつみれのように丸めて加える。石づきをとってばらしたしめじは最後である。

という秋刀魚の「するもん汁」や

俎板の上のなまり節がほぐされ、大きめにほぐした身と細かな見が容易された。

牛蒡もまた、やや厚くそぎ切りにしたものと、薄く笹がきにされたものが必要だった。

酒、醤油、味醂、少々の砂糖、生姜汁の入った二つの小鍋に、大きめのなまり節と厚めのそぎ切り牛蒡、細かくほぐした身には笹がきが合わされ、各々別々に煮付けられる。

細かなほぐし身と笹がきのほうは、準備してあった米と合わせて鰹飯に炊き込まれた

という「かつお牛蒡ご飯」こと、名を改めて「江戸粋丼」。双方とも地味ではあるが、しっかりとした味わいがありそうで、酒の肴にはならずとも、腹の空いた時にがっつりと食いたい「飯」ものが登場する。

本巻は、誘拐事件あり、大店の財産争いあり、死人の蘇り話あり、とかなりの盛り沢山なのであるが、これは秋に旨い炊き込みご飯と同じで、それぞれの材料の旨味を味わいながら、最後は満腹になりつつもお代りをしてしまう、秋の味覚によく似合った構成ではありますな。

マグロ料理の陰に殺人劇あり — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 夏まぐろ」(角川時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズの第16弾のメイン素材は「まぐろ」である。本書によると、「まぐろ」は江戸っ子が珍重しない魚の代名詞らしく、

一年を通して獲ることのできる鮪は、下魚とされる秋刀魚や鰯にくらべても、さらに格が低かった。冬場、鮪の赤身を角に切り、葱と一緒に鍋に放り込んで似て食べる葱鮪にして、珍しい鯨汁はもとより、浅蜊や蛤を同様に使った鍋に比べてお、ずっと人気がなかったのである。脂の多い鮪は犬も喰わないとされて、猪や鹿、牛等の薬食いにも列せられず、丸ごと埋められて肥料にされることもあった(P82)

とのことであるから、現代の「鮪」の禁漁まで起こることを考えると、なんとも羨ましい限り。

収録は

第一話 幽霊御膳

第二話 夏まぐろ

第三話 茶漬け屋古町

第四話 山姫糖

となっていて、今回は怪談ものと戯作者・樫本喜之助が、結婚する女の昔死に別れた妹を呼び出して一緒に祝言をあげる「幽霊婚」での殺人から始まって、老舗の骨董屋・山本屋光衛門の甥・姪の因果な所業というところでお終いになる、オムニパスではあるが、四話が繋がっているという展開。

このシリーズの特徴ともいえる「料理話」は、「千切りにされた浅草海苔と炒り立てで芳ばしい胡麻、赤穂の塩」で食する「お茶漬け」も気を引くのであるが、やはり、「かんかんに熱した小さな鉄鍋の底に、腹なかのサクを人差し指ほどに切った一切れを、箸で摘んで押しつける、じゅっと音がしたとたん、裏に返してまたじゅっと焼く」炙り鮪や、「炭火でさっと炙った鮪皮を千切りにして、横長のお沖合皿の手前に盛り付ける。梅風味の煎り酒を隠し味に用いた酢味噌は、別の小鉢に入れて鮪皮の上に置き、戻したワカメ、千切りにした胡瓜、蒸した葱の茎を色良く横に並べ、箸でそれぞれを酢味噌に浸して食べる」鮪皮の酢味噌和え、といった「鮪料理」に惹かれるのは、現代人ゆえか。

事件そのものは、結婚相手の毒殺あり、据え物斬りの材料として死体を横流しする医あり、果ては、金持ちの兄妹のきまぐれのような殺人とか、まあ想像力たくましくすると血生臭さで、うっぷとなりそうなのだが、数々の料理がその生臭さを和らげいるのが救いか。

まあ、ミステリーと料理というのは、「美食探偵もの」とか「ネロ・ウルフもの」とかで、その親和性は証明済みなのであるが、時代小説でも例えば、池波正太郎の「鬼平」シリーズとかの先例はあるのだが、この季蔵シリーズは、謎解きの複雑さよりも、出て来る料理の多彩さと旨そうなところがなによりに特徴であろう。

さて、少々がっつりと鮪丼を食うか。あっさりとお茶漬けにするか、久々に夜食に悩みそうですな。

季蔵が旅をすると目先が変わって新鮮ですな — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 春恋魚」(時代小説文庫)

「春恋魚」とは「はるこいうお」と読ませて秋刀魚の糠漬けのことらしく、本書で季蔵が旅する磐城平で、飢饉に備えるために、秋口に大量となる秋刀魚を長く食すための工夫の料理であるらしい。今回は「武家もの」の色合いが強く、捕物帳らしいのは良いのだが、読み下すには、武張った、固めの筋が多い。
収録は
第一話 煮豆売り吉次
第二話 鮟鱇武士
第三話 春恋魚
第四話 美し餅
となっていて、前半の二作が、「お助け小僧」という義賊にまつわる話で、「煮豆売り吉次」は、杉野屋という旅籠の道楽者の主夫妻を諌める話なのだが、これがきっかけで「お助け小僧」の正体がばれそうになる話。でてくる料理は「花まんじゅう」という雛節句の菓子は出てくるがどうもぱっとしない。第二話の「鮟鱇武士」は、人は殺さないはずの「お助け小僧」が磐城平藩の江戸屋敷の土蔵を破って、ついでに勘定方の中川という侍を殺害したという嫌疑がかかるもの。そしてここの江戸家老がまた食い意地の張った上に意地の悪い男なのだが、果たして土蔵破りと中川殺しの犯人は本書でお確かめあれ。微に入った料理は少ないのだが
鍋で乾煎りした肝に味噌を加え、火が通ったところで、付け根の食感が独特のヒレやアラ、身を加える、大根は細切りにして加え、煮込む。あんこうから汁が出るので瑞は必要ない
という「鮟鱇のどぶ汁」はちょっとそそられるね。
第三話と第四話は、磐城平藩の事件を解決した後、そこの若殿様に頼み事をされて、磐城平に出向く捕物話。頼まれたのは、城下一の海産物問屋いわき屋の若主人殺しの謎解き。謎の陰には、先代の殿様の女道楽があって、女にだらしない殿様はとかくお家騒動の元をつくるのは定番であろうか。
惹かれる料理は、途中の水戸の「白子屋」というしみったれた小店で食す、「ぶつ切りにした骨付きのあんこうの身と葱しか入っておらず、澄んだ汁の味付けは市をだけであった」という白子のはいらない「あんこうの白子汁」と「骨付きの白身のぶつ切りを唐揚げ」にした「白子揚げ」というもの。
こうした気取らない、ざっかけなものに惹かれるというのは、年齢をとって、油についていけなくなったせいか、と思い、少々寂しくなるのではあるのだが。
さて、このシリーズ、江戸市中での事件が主で、品川、新宿とかの近くの宿場にも行かないのが通例なのだが、今回は、出不精の季蔵も、お奉行と大名に頼まれるとそうもいかないのか、北関東へはるばる旅をする。ちょっとした変わり種として楽しめますよ。