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カルト教団内の事件に「西野」と、同級生の女性看護師が挑む ー 佐藤青南「行動心理捜査官 楯岡絵麻 セブンス・サイン」(宝島社文庫)

「行動心理捜査官 楯岡絵麻」シリーズの第7巻は、第6巻に続いての長編仕立て。
今巻の舞台は、新興宗教内部の殺人事件で、「猟奇」っぽい始まりなのだが、だんだんとカルト宗教の教団内における人間臭い事件となってきて。けして怪奇ミステリー仕立てではないので、そこのところはご了解ください。

そして、前巻で、絵麻の前に立ちはだかった占部元教授の「妄想」を吹き払うために、なじみのキャバクラ嬢の「ジャスミンちゃん」と共同で陽動活動を行ったのだが、彼女との仲は見事「玉砕」という結果となった、西野巡査部長なのだが、今巻では、高校時代の同級生・坂口琴莉と東京で再会する。彼女と新興宗教に入れあげている母親の犠牲になっている、脳腫瘍の女の子の救出を共同で試みたり、とか、やっと報われそうな予感がする今巻であるので、最後まで読んでみてきださいな。

【あらすじと注目ポイント】

事件は、多摩川の河川敷近くで、男女の二人連れが、痩せこけた男の死体を発見するところからスタート。男は今どき珍しく「餓死」していたもので、検死をすると「漆」を大量に飲まされていたことがわかる、という設定。

「漆を飲む」といったあたりで、猟奇殺人?と思ったのだが、本書によると「即身仏」になる時は、木の実や木の皮だけ食べて何年も過ごし、体からできるだけ筋肉や脂肪を落として、仕上げに「漆」を呑んで、嘔吐や発汗、利尿を繰り返し、身体から水分を抜く、という作業を行うらしい。

話の展開は、容疑者として検挙された信者二人に、絵麻が取調をするのだが、被害者を「浄めよう」としただけで、「殺そう」とは思っていなかった人への取調なので、さすがの「行動心理学」的アプローチも苦戦しがちである。
さらには、この二人へのマインドコントロールが発動して、自殺を試みるなど、いつもの捜査や取調とは勝手が違って、かなりの劣勢を強いられる。

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「エンマ様」に行動心理学を知り尽くした”強敵”が出現 ー 佐藤青南「行動心理捜査官 楯岡絵麻 ヴィジュアル・クリフ」(宝島社文庫)

行動心理捜査官 楯岡絵麻」シリーズは、今まで短編ばかりであったのだが、この6巻目に至って初めての長編である。

しかも、「エンマ様」こと楯岡絵麻の「尖塔」のポーズを合図に繰り出される、行動心理学に基づいて、被疑者を「落とす」技は、今まで無敵であったのだが、今巻では、彼女の大学時代の恩師で、日本の行動心理学の権威でもあった「占部亮寛」という人物が、最大の強敵として登場する。

というのも、彼は、絵麻の捜査の重要参考人となるのだが、行動心理学の権威だけあって、絵麻が得意とする「マイクロ・ジェスチャー」や「なだめ行為」を出現させない方法も熟知しているので、絵麻たちの捜査も、今までの(行動心理学の)素人相手のようなわけにはいかない、という難局に直面し、捜査が撹乱される上に進まない、という事態に見舞われるのである。

【あらすじと注目ポイント】

今巻で起きる事件は、「ご長寿研究会」というチェーン店の葛飾立石店の店長・斉藤が、縛られた上、鈍器で何度も殴打されて死亡していたのが発見される、というもの。
「ご長寿・・」というところで胡散臭さを感じられた方も多いように、このチェーン店は、パンの無料配布などを誘い水に、最後は高額な健康器具や健康食品を買わせる、いわゆるSF商法(催眠商法)の店でである。
ちなみに「SF商法」の名称の謂れは、本書によると、この商法を最初に行ったとされる団体が「新製品普及会」というところで、その新製品の「S」、普及の「F」をとった命名とのことだが、真偽の程は別途調べてくださいな。

さて、本筋のほうは、この店長が殺された時間帯に、他の事件で指名手配されている凶悪犯を見かけたという目撃情報が相次ぎ、その線で捜査が始まるが、不審を抱いた絵麻が、その目撃情報が巧みに「操作」されて、記憶を塗り替えられてものと見抜くところからスタートする。

で、この情報操作に関わっていそうなのが、絵麻の師匠の「占部亮寛」という設定。
ただ、この占部元教授は、妻が自殺したのをきっかけに「行動心理学と縁を切る」といって大学も退官し、今は行動心理学と無縁の暮らしをしている上に、「ご長寿研究所」に入れあげて、そこの商品を大量に購入している状況。かつては「SF商法」を忌み嫌っていたはずの人が、一体どうして・・、といったのが、一つ目の謎。

そして、占部元教授は、この葛飾立石店に勤めている「敷島花音」という女性の紹介でしか商品を買おうとしておらず、しかも、SF商法の店は、店舗を次々と移転するのだが、店長の斎藤と敷島たち従業員が、前の店で営業しているときから続いている、というのが二つ目の謎。

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警官の起こした事件の陰の哀しみを「エンマ様」が推理する ー 佐藤青南「行動心理捜査官 楯岡絵麻 ストレンジ・シチュエーション」(宝島社文庫)

行動心理官シリーズも5巻目となり、絵麻をはじめとした登場人物の役回りや得意技も明確になってきて、こなれたストーリー展開を見せている。

今回は、第一話目の被害者の子どもたちのストーリーが最終話まで並行して進むという、凝ったつくりになっているので、短編集ながらも、一つの流れにそれぞれの短編を包み込もうという筆者の努力が垣間見えますね。

【収録は】

第一話 信じる者はすくわれる
第二話 ホーム・スイート・ホーム
第三話 センターは譲れない
第四話 非家族の肖像

となっていて、それぞれの内容は、警官が起こした強盗殺人事件、マンションでの女子大生失踪事件、地下アイドルの殺人事件、ブラックな飲食チェーンの社長令嬢誘拐事件、といったもの。
初出は2016年かあるいは2017年ごろの書き下ろしで、この話のモチーフは。あの事件かな、と想像してみてもおもしろいかもしれない。

さらに、第一話の被害者の子どもたちのストーリーが、それぞれの短編に並行して描写されていて、収録は4話であるが5話分の厚みはありますね。

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「エンマ様」の懸案の事件は、苦味とともに解決する ー 佐藤青南「行動心理捜査官・楯岡絵麻 ブラックコール」(宝島社文庫)

行動心理学を駆使して、口を割らない犯人の大脳辺縁系から真実を聞き出して、事件を解決していく美貌の女刑事・楯岡絵麻とその取調室の相棒・西野巡査部長の活躍を描く「行動心理捜査官」シリーズの第二作である。

【収録は】

第一話 イヤよイヤよも隙のうち
第二話 トロイの木馬
第三話 アブナい十代
第四話 エンマ様の敗北

となっていて、もちろん、それぞれの話が単話として楽しめるのだが、今巻の底流にあるのは、楯岡絵麻が刑事になったきっかけとなる「小平市女性教強姦殺人事件」である。グレていた楯岡を立ち直らせた、高校の恩師・栗原裕子が事件の犠牲になったものなのだが、時効を迎えた、この事件の解決に至るまでが、今巻を全体の隠しテーマとなっている。

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「大脳辺縁系」は「ウソ」をつかない ー 佐藤青南「行動心理捜査官・楯岡絵麻 サイレント・ヴォイス」(宝島社文庫)

一昔前に、「FBI心理捜査官」あたりがきっかけとなって、「プロファイリング」ブームが巻き起こったことがあった。当時、犯罪を含めた人間の行動を「プロファイル」することによってすべてが分析できる、ってな風潮であったのだが、いつの間にか流行が過ぎ去っていった感がある。
このプロファイリングとはちょっと違って、人間の仕草や行動を観察することによって人間の心理を研究する「行動心理学」を使って、なかなか落ちない被疑者のつく嘘を暴いて事件を解決していく、「エンマ様」こと楯岡絵麻の活躍を描いた「行動心理捜査官・楯岡絵麻」シリーズの第一作が「サイレント・ヴォイス(宝島社文庫)」である。

【収録は】

第一話 YESか脳か
第二話 近くて遠いディスタンス
第三話 私はなんでも知っている
第四話 名優は誰だ
第五話 綺麗な薔薇は棘だらけ

となっていて、「エンマ様」こと楯岡絵麻の、今巻の取り調べの標的となるのは、犯行をのらりくらりと否定するフリーター、成功している歯科医、繁盛している占い師、ベテランの名女優、苦学している音大性といったメンツなのだが、彼らを「行動心理学」的に取り調べをすると、思っても見なかった「暗闇」がぼわっと吹き出してくるのが本書の醍醐味であろう。

さらに、この「エンマ様」は「栗色のパーマヘアの柔らかい印象と猫のような瞳の愛嬌」をもった、モデル顔負けの美人なのだが、そんな彼女が

「人間の脳は大きく三つに分かれるの。大脳辺縁系、大脳新皮質、それに脳幹。これらが三位一体となって、人間の整理や行動を管理しているというわけ」
(略)
「このうち脳幹は人間の基本的な生命維持の機能を果たしている。そして大脳辺縁系は感情を、大脳新皮質は思考をつかさどっているの」
(略)
「人間の脳の大きな特徴は、大脳新皮質が発達していることなの。そのために言葉を介した複雑なコミュニケーションが可能になっている。ところが複雑過ぎて、本心とは逆の意思表示をすることもできる。つまり嘘をつくてってこと。原始的本能的な反射を見せる大脳辺縁系を正直な脳とすれば、大脳新皮質は嘘つきな脳といえるかもしれないわね」

と「行動心理学」の前振りをした上で、

「人は大脳新皮質によって言葉では嘘をつくけれど、完全に嘘をつき通すことはできない。それよりも先に、大脳辺縁系の反射で肉体が反応してしまうから。五分の一秒だけ表れるその微細行動ーマイクロジェスチャーを注意深く観察することによって、私は嘘を見破ることができる。」

と豪語するところに、当方は、なんとも魅了させられてしまうのであるが、詳しくは原書で確認してくださいな。

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