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経営者への転進は「起業」だけが選択肢ではない ー 三戸政和「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」

経済産業省の調査によると、中小企業経営者のうち、95%が事業を他の人に引き継ぎたいと思っているのだが、そのうち、20%が事業承継を希望しているが後継者が居ない状況であるとのこと。
一方で、高齢者の定年後の再就職は、政府の旗振りはあるが、なかなか進まないというのが現状。
その双方を結びつければ、廃業による日本産業の空洞化と高齢者の就業問題の「処方箋」になるのでは、と提案するのが本書『三戸政和「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」(講談社+α文庫)』である。

【構成は】

序章 「人生100年時代」は資本家になりなさい
第1章 だから、起業はやめておきなさい
第2章 飲食店経営に手を出したら「地獄」が待っている
第3章 中小企業を個人買収せよ
第4章 100万の中小企業が後継社長を探している
第5章 「大廃業時代」はサラリーマンのチャンス

となっていて、はじめの第1章・第2章のところは、「定年退職者」が陥りがちな「起業の甘い誘い」の戒め、第3章以降が、本書の主張の主眼である「個人M&Aのススメ」である。

【注目ポイント】

なぜ「定年起業」ではいけないの、というあたりについては

まったくのゼロから事業を立ち上げ成功させる起業家を、私は「 ゼロイチ起業家」と呼んでいます。そうした起業家は、「息を吸うかのように」とんでもない仕事をしています。ゼロイチ起業家は、「普通」の人間とは違う世界を生きています。新しい事業のチャンスを 嗅ぎ 分ける 嗅覚 の 鋭さも別格です。

と、起業家に求められる「特異」な性向を強調するととともに

起業とは、会社を作ることではありません。事業を作ることです。会社を作ることは誰でもできます。ネットで「会社 作り方」と検索し、その通りに手続きするだけです。しかし、今すでにあるサービスや商品を自らの手で販売していくだけでも大変なのに、まして、世にないサービスや商品を創造し、市場に浸透させていくベンチャービジネスを軌道に乗せるのは、並大抵のことではありません。この点を誤解しないでいただきたい

といった感じで「起業」というものに抱きがちな「幻想」をきつく戒めている。
さらには、会社辞めたら「ラーメン屋でも」とか「趣味の蕎麦を」といった感覚で飲食業に手を出そうとする人たちへ

断言します。引退後に飲食店を経営して成功できるのは、飲食業界にいて必要な経営スキルを身につけている方だけです。ノウハウのない人が安易に手を出すと「地獄」を見みます。

経験から強く感じるのは、飲食業は「基本的には勝てないビジネスモデル」だということです。
開業しやすそうにみえるのか、普段足を運ぶカフェなどがラクに回っているように見えてしまうためか、飲食店経営を軽く考えている人が余りにも多いと感じます。ベンチャーキャピタリストの目で見れば、飲食店はもっとも難しいビジネスの一つです

と恐怖心を煽るのであるが、たしかに筆者の言いたいところは伝わってきて、それは、「イチからの起業のようなハードワークとリスクを負うことは、定年を機にやることではなくて、起業したい人は放っておいても起業するんでしょ」というところであろう。

で、筆者がオススメするのが

そんな「ゼロイチ起業」より、過酷な 10 年を生き残った 23%の企業の〝オーナー社長〟 になってしまいませんか、というのが私からの提案です。具体的には、あなたのこれまでの知識と経験を活かせる中小企業を見つけ、個人でM&Aをして、経営を引き継ぐ……つまり、「 会社を買う」= 事業承継

ということで、本書の中盤あたりからは、財務系やマーケティングといったサラリーマン時代の知識が、中小企業の経営層には少ないことや、大企業で培ったビジネスモデルを導入すれば、もっと成長する、といったことを挙げながら「個人版M&Aのススメ」が展開される。

ただ、ここで気をつけておかないとな、と思うのは、けして筆者は大企業出身者なら誰でも大丈夫といっているわけではなく、

会社経営は生き物です。継続していくには、これまで記したノウハウだけでは足りません。なにより経営者の情熱が必要です。

とキチン(少々控えめに、ではありますが)と釘を指しているので、そこのところは忘れてはいけない。

当方としては、小さな組織であっても「経営」に携わるのであるから、「経営者としての覚悟」はないといけないよな、と思うところで、「経営者」となる場合は「サラリーマン」とはかかってくるプレッシャーは違うよ、ということは肝に銘じておかなければならないだろう。

【まとめ】

「中小企業の事業承継」と「高齢者の能力活用」ということからみると、筆者の提案は面白い。特に、起業意欲のある退職予備軍に対して、無責任な「起業」をすすめるよりも、本書の提案は良心的である。
とはいいつつつも、本書の提案は、「ゼロベース起業」ではないにしろ、「起業」の一つであるのは間違いない。しっかりと考えて実践するかどうか、「自己責任」で判断してくださいな。