「おべんとうの時間」

飛行機で移動する時、離発着の一定時間はでデジタル機器の使用が禁止されるので、KindleやiPadなどで書類や自炊本、電子書籍を読んでいる身としては、何も読むものがない、という事態に出くわす。そんなとき否応無しに手に取るのが機内誌で、ANA機に乗り合わせた場合、個人的に一番好みの記事は「おべんとうの時間」(ちなみに、2013の7月号は鶴岡市立加茂水族館の副館長の奥泉さん)
記事の構成はまあ簡単といえば簡単で、全国各地の人が自分のお弁当を公開して、お弁当について語る、というものなのだが、どうしてどうして、これがまた深い味わい。
親や妻への感謝あり、不遇時代の思いであり、新婚時代のノロケありといった具合で、個人個人の今昔の「弁当の思い出」が語られるのだが、なんとも泣かせるものあり、微笑ましくなるものありで、今のところ機内誌の記事で一番のお気に入りである。薬味ばっかり食う感じがして、これをまとめた本を買うのは躊躇していたのだが、いっそ買ってしまうかな、と思うこのごろなのである。


グルメを裏からみるとこうなるか・・・ 菅野彰×立花実枝子 「あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します」(新書館 ウィング文庫)

それぞれのジャンルに、裏筋からそのジャンルを扱ったり、頭からなぎ倒したり、といったトンでも本は存在するもので、例えば、旅行記で言えばゲッツ板谷の「怪人紀行」シリーズ 、思想書ぽいジャンルでは、坂口 の「独立国家の作り方」といったところを思いつくのだが、この「あなたの町の・・・」も間違いなく、グルメ本のジャンルのトンでも本に間違いない。
なにせ、どの町にもあるであろう、廃墟とも間違わんばかりの「店」を訪れて、注文し、しかも完食する、という苦行ともいうべきグルメ(?)ルポ、である。
登場する店は、筆者の住む町近くの大泉学園の寿司屋と中華料理屋から始まって(この寿司屋は味は変な店ではなかったようだが)、湘南台のレストランまでの十数店。中華から洋食まで食するものは雑多であるが、さすがに命の危険に直結しそうな、刺身系の生ものの店は入っていないのは、店選びに関する筆者たちの慧眼というべきか、あるいはそこまでいくと洒落にならないという編集部の英知か?
なにせ、「死んでいる」と評された店の共通点はいつのものかわからない食材の古さと使われる油の粗悪さ。お決まりのように食べたもののオールリバース+数日間の寝込み状態というすさまじさなのである。そして、そのすさまじき食べ歩きのルポと4コママンガが、なんともアッケラカーとして陽気なのが、ますますそれらの店の提供する料理のグロさをかきたてるのである。
まあ、体力や気力に溢れている時にはお勧めしないが、暑いときには熱いものを食せ、という避暑法のように、気力が落ちているときのカウンター療法として薬効がある(かも)しれない

仕事の教科書 「伸びるノート術」

どうにかして仕事を効率的かつ効果的にやりたい、と思うのはビジネスマンの常、ということで「ノート術」がはやり始めたのは、美崎栄一郎氏の「「結果を出す人」はノートに何を書いているのか」あたりからだろう。
以来、数多くのノート術、ノートのノウハウ本が巷に溢れるようになったのだが、もっと良いやり方があるのでは、と不満が溜ってしまうのが「ノート術」というものだろう。
本書はノートを使っているのだが、使い方にもっと良い方法があるのでは、と不満の溜まっている人向けのムックといえる。
本書中、参考になるのは
「ノートメーカー社員のノートを拝見」
「美崎栄一郎のノート添削講座 ノートのお悩みズバッと解決します
「ベストセラーの「超」ノート術ー佐藤優、神田昌典、、小室淑恵、 出口 汪」
といったところ。
思うに、こうしたノート術というのは万人共通の究極の使い方というものはなくて、仕事の種類やポジションなどによって千差万別の「究極のやり方」があるものだろう。
そうした意味で、「ノート術」の本をあらかた読んだら、後は他人のノートと方法論を実地に見るのが一番といえる。本書はそのあたり、いわゆるクリエイターとかデザイナーとかではなく、デスクワーカーを中心に実例が収集されているところが個人的には好ましい。
ノート術のヒントを探している人はチェックしておいてもよいムックである。

「ひきこもり」という不思議なアームチェアディクテティブの形

覆面作家で性別すらも明らかでない坂木 司のひきこもりのプログラマー+外資系の保険会社社員のコンビのミステリー連作が「仔羊の巣」「青空の卵」「動物園の鳥」の三作。

本の帯には「ひきこもり」探偵となっているが、引き篭もっているだけでは事件の解決どころか事件に出会うことすらないわけのだが、それではミステリーが成立しないので、多くの事件がワトソン役である坂木が巻き込まれて、あるいは出くわしたトラブルを鳥井が解決していくというスタイルが主。

登場人物というかレギュラーは私的にはシリーズものになったにもかかわらずそんなに多くはいないと思うのだが、うちの奥さんにいわせると結構多いと言う。ここは人様々に取りようはあると思うのだが、リアルの知り合いの多い「ひきこもりというのも面妖な感じがするがどうだろうか。

基本的には、探偵役である鳥井とワトソン役の坂木。そしてデパートガールの巣田さんと高校の同級生で警察官の滝本と部下の小宮。目の不自由な小宮くん。不良老人っぽい木村老人と高校生の利明 、といったところが主要なキャストで、これに滝本 の知り合いのバイクライダーとかが加わる。といった形である。

収録は1巻目の「青空の卵」 が「夏の終わりの三重奏」「秋の足音」「冬の贈りもの」「春の子供」「初夏のひよこ」、2巻目の「仔羊の巣」が「野生のチェシャ・キャット」「銀貨鉄道を待ちながら」「カキの中のサンタクロース」、3巻目の「動物園の鳥」は動物園を舞台にした中篇、となっている

それぞれの話のレビューは、また別のエントリーに譲りたいのだが、基本としては、どの話も、傷を負った人が、鳥井の推理により事件が解決するに応じて、傷口を塞ぎ、新しい一歩を踏み出すといったのが基本スタイルなのだが、傷口を治癒して、という形でなく、あくまでも血はまだ滲み出しているが当座塞いで、という形をとっているのが通例。

で、もっと言えば、傷口をもっとも塞いで新たな出発をしなければいけなかったのは、実は「ひきこもりの鳥井」ではなくて「ひきこもりの鳥井に全面的に関わっている(あるいは依存している)坂木」であったことが物語が1巻目から2巻目、3巻目と進展していくにつれ明らかになってきているのではなかろうか。

その意味で、このシリーズは「鳥井」が主人公ではなく、古くからの友人の事件に閉じ込められてしまった「ぼく」=「坂木」を解放する物語といっていいような気がする。できうれば、三作連続して呼んだほうがいいよ、お勧めしておこう。



宮部みゆき「蒲生邸事件」(文春文庫)

サンデー毎日に連載されていた当時、大学入試に失敗した受験生が予備校受験で宿泊したホテルで火災に巻き込まれるが、そこでタイムトラベラーに出会い、戦前の2・26事件当時の東京へ・・・、といったところまで読んだあたり、よくあるタイムトラベラーものか、と思い、そこでスルーしていたのだが、今までそんな扱いをしていたのを改めて後悔した。
筋立ては、ホテル火災の中で、予備校受験のためそこに宿泊していた受験生 尾崎孝史が
タイムトラベラーの血筋を引く男 平田に救われるが、彼に連れて行かれたのは、2・26事件が起きた昭和の初期。しかも、着いたところは、ホテルがあった所で、そこは元陸軍大将の蒲生憲之の私邸で、2.26事件が起きた場所に程近いところ。そして、そこで起こる蒲生元大将の死亡事件・・、といった感じで展開する、2・26事件の勃発から鎮圧までの数日間の物語である。
主な登場人物は、主人公とタイムトラベラーの平田以外は、蒲生大将の弟、後妻、息子と娘、そして使用人の女性2人で、はじめの展開は蒲生大将の死亡は果たして自死なのか、といった風で展開するのと、本書の紹介文もSFミステリーといったことになっているので、思わず犯人探しを始めてしまうのだが、ここでうかうかと乗ってはいけない。
個人的に思うのは、この物語は、ミステリーとして読むのではなく、戦前の、しかも2・26事件あたりの戦禍への危惧が濃厚になるなかで生きている人々を描いた「歴史もの」としてとらえるべきであろう。
それは、孝史が女中のふきに戦争が始まり、負けると告げる場面で、彼は冷静な対比でもは未知のこれから選択する出来事として考えている当時者性の違いであろう。
で、まあ、これは作中の蒲生大将と東条英機首相との対比でもあるのだが、まあこれは本書で。
相対に言えば、ハインラインの「夏への扉」がSFものでありながらリリカルなラブストーリーであると同じに、この物語をSFでありながら、戦争へと進んでいく時代の人々を描いた「歴史もの」であるといっていい。
どっしりとした読後感の残る中篇小説である。

松尾由美 「安楽椅子探偵 アーチー」(創元推理文庫)

アームチェア・ディクティティブといえば、現場に行くことなく、助手役の人物がもってくる現場の様子や状況をもとに推理を働かせて犯人を当てる役どころだが、これを文字通り「安楽椅子」がやってのける仕立てにしたのが本書の憎いところ。
収録は
首なし宇宙人の謎
クリスマスの靴の謎
外人墓地幽霊事件
緑のひじ掛け椅子の謎
の4編
最初の「首なし宇宙人の謎」で、本編の主人公である安楽椅子と助手役である及川衛がいかにして出会ったかが語られるのだが、出会いとしては小学生の衛がゲーム機を買うためにもらっていたお金で、つい(つい、ですよ)安楽椅子を買ってしまう、しかもなにやら昼寝をしているらしい安楽椅子を、といったあたりは結構無茶で乱暴な出だたしなのだが、、意識のある椅子という設定を考えるとこれぐらいは許されるか・・
ざっくりと収録された作品をレビューすると、はじめの3編は、衛の学校行事(家庭科の時間のナップザックのいたずらや横浜の外人墓地での課外授業に出会った暗号もの)か家族の椿事(クリスマスに父親が他人の靴を片方手にいれる)を発端とする事件で、なんとなくほぁっとした展開なのが、本書の持ち味。
最後の「緑のひじ掛け椅子の謎」は、この肘掛け椅子アーチーの以前の持ち主の過去にまつわる事件で、衛が誘拐されそうになったり、「間諜」などといった大時代の道具立ての事件がおこるのだが、それでも緊迫しているようで緊迫していないのも特徴。
キャストは、意識のある安楽椅子と、持ち主の小学生の男の子とその友人の女の子なのだが、受ける印象は、老人と孫の推理ものといった風情。ただ、老人と孫といったキャストでは、ぱっとしないというか興味を引かないところを、上海でつくられた、海を渡ってきた椅子と小学生といったキャストを使って、その味わいを出したのが、本書の手柄だろう。
総じてギスギスとしていないミステリーなので、仕事で追い立てられているときに、少し気を抜いてリラックスしたいときに、効能があるような気がする。

佐藤 優「読書の技法」(東洋経済新報社)

評判と評価の程はいろいろあろうが、インテリジェンスと外交問題では識見の高い筆者の読書論。
もともと外務省時代から、その知識量や情報量にかけては外務省きっての人物であった人の読書論、いや読書論にとまらず情報の処理論と知識の集め方、身のつけ方の処方というべきなのが本書。
構成は
第Ⅰ部 本はどう読むか
 第1章 多読の技法ー筆者はいかにして大量の本を読みこなすようになったか
 第2章 熟読の技法ー基本書をどう読みこなすか
 第3章 速読の技法ー「超速読」と「普通の速読」
 第4章 読書ノートの作り方ー記憶を定着させる抜書きとコメント
第Ⅱ部 何を読めばいいか
 第5章 教科書と学習参考書を使いこなすー知識の欠損部分をどう見つけ、補うか
  【世界史】
  【日本史】
  【政治】
  【経済】
  【国語】
  【数学
 第6章 小説や漫画の読み方
第Ⅲ部 本はいつ、どこで読むか
となっていて分量的には第Ⅱ部もかなりあるのだが、個人的にも読者的にも、やはり興味を引くのは第Ⅰ部の読書の手法の様々だろう。
といって、多くの速読法といった読書技術を競うものではなくて、それぞれの分野の基本をどう熟読するか、どうエッセンスを抽出するか、といった技法が愚直な在り様で教示されているのは、表現者として誠実といっていい。とりわけ、「すでに十分な知識のある分野」でないと速読しても得られる成果はほとんどない、といったあたり、技術一辺倒の速読術への痛烈な批判といっていい。
まあ何はともあれ、本書で語られるのは、知的生産を行ううえで必須である「読書」を通して、知識の集積をどうするか、について「熟読」「超速読」「速読」というステージごとに論じられる手法は、これから知的生産と表現活動を志す人たちにとって参考となることは請け合いである。しかもその手法が、有体にいえば「要点を掴むよう読み、まとめ、ノートに記す」という手間のかかるもであるが故に信頼してもいいのでは、と思う次第なのである。
手法そのものをあれこれ紹介するのは、こうした読書論・技法の書籍のレビューとしては反則行為であるから詳述はしないが、読書手法のノウハウを知るという目的だけでも一読しておいた方がよいと思う一冊である。
(本書で紹介されているテクニックはた別の機会に・・・)

坂木 司「切れない糸」(創元推理文庫)

「和菓子のアン」とつながる連作ミステリー、と帯にはあったが、厳密な意味での
連作というわけではなくて、、「和菓子のアン」主人公のアンちゃんの住む街で起きるミステリー、といったところ(アンちゃんのお母さんがこのクリーニング店でパートをしている、というおまけはあるけどね)。
主人公は。「和菓子のアン」の冒頭のところで噂になっていた「就職の決まらないアライ・クリーニング店の一人息子」新井和也。彼が、父親の急死をきっかけにアライ・クリーニングをアルバイト気分が抜けきらないまま継ぐことになるのだが、たどたどしい営業活動の中で、いろんなトラブルやプチ事件に出くわし、それを大学の友人で同じ町内の喫茶店ロッキーでアルバイトする沢田の推理で解決をしていくという筋立て。
構成は
プロローグ
第一話 グッドバイから始めよう
第二話 東京、東京
第三話 秋祭りの夜
第四話 商店街の歳末
エピローグ
となっていて、乱暴に集約すると、成行きでアライ・クリーニング店を継いだ和也が、さまざまな事件を通じて成長していくという、ミステリー仕立てのビルドゥングス・ロマンっていうような風合いが強い。

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坂木 司 「和菓子のアン」(光文社文庫)

引きこもり探偵シリーズで妙手をみせた坂木 司のデパ地下ミステリー。舞台は都心に近いデパートの地下街。そこの和菓子屋の出店(ちょっと表現が古いか・・)で繰り広げられる、ちょうど管理人の最近のミステリーの嗜好にあっている、ちょっとほんわかんとしたミステリー。

収録は

「和菓子のアン」

「一年に一度のデート」

「萩と牡丹」

「甘露家」

「辻占の行方」

の5作

「和菓子のアン」は高校を卒業してニート状態になりかけていた杏子(通称 アンちゃん)がデパ地下の「和菓子舗・みつ屋」に勤める物語のスタート。

みつ屋の店長の椿さんとか職人まがいの知識をもつ同僚の立花など、この作品のキャストが揃うスタートアップ。店長と立花くんの秘密は、まあ本書の中で確認を。謎解きは、会社の役員会に出すらしい茶菓子を買いに来るOLさんの注文に関連したもの。「おとし文」や「水無月」といった菓子の名前にちなんだ謎解き。

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大崎 梢 「サイン会はいかが」(創元社推理文庫)

駅前ビルの書店「成風堂」シリーズの第2作。いや、途中で番外編があるから、第3作というべきか。3作目ともなると、杏子さんも多絵ちゃんも、堂がいったもので、安定感がでてきましたな、というところであろうか。

収録は

「取り寄せトラップ」

「君と語る永遠」

「バイト金森くんの告白」

「サイン会はいかが?」

「ヤギさんの忘れもの」

の5作

では、さっそくのネタバレすれすれレビューをすると

「取り寄せトラップ」は、成風堂に4人の男性から本の取り寄せの注文が入るのだが、確認すると誰もが覚えがないという、といった出だし。なんとも訳のわからないイタズラと思っていたら、背後に、(たぶん)事故死した男性の所蔵品にまつわるトラブルがあるようで・・・、といった話。後半のところ、多絵ちゃんのKYっぽいところがあっておかしい。

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