旧勢力は去れ、と信長は言った ー 信長のシェフ 22

前巻で、信長と謙信との面談を画策すべく、上杉陣営に行き、謙信に料理を提供したが、当時はアク抜きをする方法を寺社しか知らないため、毒芋といわれたこんにゃくの料理を出したため、牢に入れられた主人公の料理人・ケンのもとに上杉謙信が訪れるところから本書『梶川卓郎「信長のシェフ 22」(芳文社コミックス)』の物語はスタート。

【構成は】

第182話 心の向かうままに

第183話 朝風の音

第184話 天が選びし男

第185話 信じるもの

第186話 信長の登城命令

第187話 秀吉のスープ

第188話 小倅と糞爺

第189話 平蜘蛛の価値

となっていて、手取川の合戦から、この戦で勝手な動きをしたため追放になりそうな秀吉の赦免、そして松永弾正の反乱というところで、信長の天下布武はもうちょっと先、という時が、今巻の舞台。

【注目ポイント】

一つは、信長と謙信の直接対決のところ。 もともと、関東管領の職を受けるなど、幕府とか朝廷とか伝統的な権威を尊崇していた謙信であるので、(今はその進取性にちょっと疑問符がついているが)旧来の伝統を屁とも思わない信長とは、相容れるはずがないのだが、本書では、その相違点は「世界の中の日本の立場」の認識に求めている。 そこのところは

と表現していて、田舎に生まれてしまった「謙信」の限界は、謙信の責任ではないだけに物悲しい。

もっとも、謙信や信玄が信長を倒して上京し、新政権を築いても、室町幕府を踏襲した古色ゆかしいものになっただろう、という説が有力だから、そうなると、今の日本も、かなり姿が変わっていたであろう。果たして、日本が、今のような経済大国であったかどうか「??」であるし、さらにはアジアの姿も今とは違ったものになっていたような気がしますね。

もうひとつは、松永弾正が志貴山城に立てこもったところに「ケン」が平蜘蛛の茶釜を受け取りに来た時の

といったやりとり。 松永弾正が天下を狙っていた気配はあるけれど、彼から「新しい世」の理念みたいなものはちょっと見えてこないので、これまた謙信や信玄と同様な体制だったような気がするので、これまた、日本にとっては幸いであったように思えますね。

残念な使われ方を依然されているのが「豊臣秀吉」で、織田本軍から離れた時に謙信を見つけ、襲って功名をあげようとするが、「ケン」の胡椒と小麦粉のトリックで撃退されるし、軍機違反により登城を命じられた際に、「ケン」の助けを受けながら、信長に気に入られる料理を工夫するが、信長が口に怪我をしていることを察しながら、口に滲みる「刺激物」を入れてしまったり、とか、どこか穴があって憎めないながら、おっちょこちょいな感じが出ている。ただ。これが、秀吉が天下人になった後に、酷薄になる伏線であるとすれば、見事としかいいようがない。

【まとめ】

上杉謙信は取手川の合戦の後、自領にこもってしまって上京はしなかったことや、松永弾正が志貴山城で叛旗を翻すが志果たせず、平蜘蛛の茶釜を破壊してしまうといったところは史実で、この巻は、戦国時代が終息する過程での、旧勢力が崩れていく風情を、主人公「ケン」の活躍を通じて描いている。 本能寺の変まで、あと5年。歴史は変わりますかどうかは、次巻以降を待て、というところですね。

【関連記事】

「信長のシェフ1〜3」

梶川卓郎/西村ミツル「信長のシェフ 4」(芳文社)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 5」(芳文社コミックス)

梶川卓郎・西村ミツル「信長のシェフ 6」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 7」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 8」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 9」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 10」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 11」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 12」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 13」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 14」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 15」(芳文社コミックス)

織田の家督相続の宴はクーデターの危機をはらんでいた ー 梶川拓郎「信長のシェフ 16」

本願寺挙兵ス — 梶川卓郎「信長のシェフ 17」(芳文社)

「陰謀」は敗れるからこそ面白い — 梶川卓郎「信長のシェフ 18」(芳文社)

「瑤子」と「松田」、それぞれの旅立ち — 梶川卓郎「信長のシェフ 19」(芳文社)

天下の情勢は急変、越後の龍・謙信起つ — 梶川卓郎「信長のシェフ 20」(芳文社)

織田と上杉の激突、いよいよ決戦前夜 — 梶川卓郎「信長のシェフ 21」(芳文社)

弾正爆死から中国攻めへ。そして、ケンが「本能寺」を防ぐ鍵は? ー 梶川卓郎「信長のシェフ 23」

信長の世界雄飛の志は、水軍の若き頭領に届くか? ー 西村卓郎「信長のシェフ 24」

コメント

タイトルとURLをコピーしました