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”近江商人”方式は、普通の人を幸せにする道の一つー西口敏宏・辻田素子「コミュニティ・キャピタル論」

会社寿命は50年ということを聞いた事がある。ひところは、会社人生=個人の人生で、会社が繁栄することが個人の幸せを意味していた時代があった。しかし、いまや、会社と個人の紐帯はくずれてしまい、会社と個人は離れてしまったのだが、では、才能少ない「普通の個人」が個人として放り出されて、「満足」し、「幸せ」な状態にあるかというとそうでもない。
そうした時に、ある地域の出身者による企業群や組織群が長い期間にわたって繁盛し、そのコミュニティに属する人が「自分の存在価値」を見出している姿は目につくもので、日本では「近江商人」中国では「温州企業」がその最たるものだろう。
本書『西口敏宏・辻田素子「コミュニティ・キャピタル論」(光文社新書) 近江商人、温州企業、トヨタ、長期繁栄の秘密』は、その二つと「TOYOTA」を分析することによって、昔と今の長寿な組織群の「秘訣」を解き明かし、そこに属する人々の「姿」を切り取ってみせている。

【構成は】

はじめに
第1章 広がってつながる近江商人
第2章 生きる術としてのコミュニティ・キャピタル
第3章 温州人コミュニティーの伸展
第4章 異国で反映する企業家たち
第5章 進出先社会との共存共栄を求めて
第6章 企業間コミュニティーが成立するには?
第7章 危機マネジメント能力
第8章 繁栄のためのコミュニティーとは

となっていて、前半が「近江商人」、中盤が「温州商人」、終盤に向かって「TOYOTA」についてとりあげ、地域性と出生地の制約がある前の二者から、現代企業である「TOYOTA」のノウハウへと分析対象をずらすことによって、より普遍化した「原則」を導き出そうという展開である。

【近江商人、温州人企業の共通点とは】

◯まず挙げるべきは「つながりの強固さ」

近江商人の場合は

近江商人は互いに競争相手でありライバル関係にあったが、同郷意識は強かった。彼らは、確実な情報をつかむために、行商先別、出身地別の仲間組織を結成して、機能的に情報を収集し、活用した

であるし、温州人企業の場合は

国内外における温州人の繁栄メカニズムを解くカギとして注目されるのが、血縁や同郷縁をベースとする強い結束型のコミュニティー・キャピタルと、遠距離交際に長けた「ジャンプ型」企業家を核とする集団的ネットワーク能力である。温州人は、国内外に広がる同郷人のつながりを駆使し、ヒト、モノ、金、情報に関するさまざまな制約を克服してきた

といったような、「同郷人としてまとまること」「同郷人のつながり」が継続することであると本書は分析する。このほかにも、両者とも、従業員は”近江”なり”温州”の出身者に限ったりといったことや、結婚相手もその地域出身の人とがほとんどといった、「地域的」「血縁的」な制約をし、さらに「つながり」を深める、強くする仕掛けが施されており、精神的な「閉塞性」は高まるが、その分結束力を強くする結果となっている。

◯二番目は「サポートの丁寧さと強固さ」

近江商人の場合は

近江商人で際立つのは、「 乗合 商い」とよばれる、合資企業体の結成である。商人や地主が資本や労力を出し合った。

豪商となった近江商人は、このように物心両面から、後輩の成長を支援していたことがうかがえる。また、その支援も絶妙である。彼らは、行商を始めたばかりの商人に、いきなり資金を与えるのでも、単純に債権を放棄するわけでもない。奮起を促し、ビジネスベースで資金を貸しながら、返済が困難になれば、債務の返済時期を明確に定めない出世払いの「借用証書」で対応した。

というところで、温州人企業の場合は

チャンスを求めて海外に飛び出した温州人は、親戚や友人が経営する、あるいは、彼らから紹介された温州人企業で、アルバイトをしながら資金を貯め、いったん経営者に転じると、今度は自分と同じように企業家を目指す同郷人をアルバイトで雇用する。そんな循環構図が浮かび上がってくる。そして、そこでは、血縁・学縁・業縁などが、等し並みに〝同郷縁〟で包括され、同郷者である限り、面識の有無を超えて信じ合う「準紐帯」が機能している

この準紐帯は、資金調達でも、強力なパワーを発揮する。温州人は、地元温州で高度に発達させてきた民間金融を、進出先にももち込み、親戚・知人等からの直接貸借や「会」からの調達によって、事業資金を容易に確保できる環境を作り出していた

といった風で、国こそ異なれ、両者の「成功した先輩が、同郷の後輩に儲けぬきの支援をする」、それも「継続して行う」というのが「繁栄」の方程式であるようだ。ただ、同郷意識の強いところは、近江や温州以外にもあるのだが、なぜ近江や温州が「経済活動の全体的成功」システムを、作り上げることができたのか、といった点については、もう少し深掘りする必要がありそうだ。

【両者を現代の企業に応用するには】

そして、「近江」の場合は明治期が最盛期、温州の場合も最近陰りが見られるということで、「地域」「出身」を核とした、繁栄システムづくりも、そう盤石ではないようで、筆者が、「現代の「近江・温州商人」システム」として注目しているのが「TOYOTA」方式で、

トヨタのサプライチェーンは、約3万点の部品からなる自動車を生産・販売するという複雑なコミュニティーだったが、トヨタのリーダーシップによって、日常業務をこなす「近隣社会」に、〝非〟日常的な情報や知識をもたらす「遠距離交際」のバイパス、「自主研究会」(自主研) が埋め込まれており、そこでは、ふだんつきあうことのない企業同士が直接結びつき、脱日常的な次元で、緊密な交流、情報交換、知識創造を行うことを可能にしていた

と、かなりの「べた褒め」である。

さらに終盤近い「第7章」は、東日本大震災で壊滅的打撃を受けた、半導体の生産システムを、TOYOTAの社員、系列の社員が中心になって、他企業のシステムを短期間で再生する「サクセスストーリー」で、終盤にさしかかかると理屈っぽくなってしまうビジネス本には珍しく、最後まで「血沸き肉踊る」ストーリーが展開されるのが嬉しい。

【まとめ】

さて、本書の最終目的は、最初の方で明確にされていて

そんなコミュニティーであれば、家が貧しくても、勉強ができなくても、芸術やスポーツの才能がなくても、つまりふつうなら希望を失う「負け組」になりかねない存在であっても、人生のさまざまな局面で仲間の支援が期待でき、敗者復活の機会も多い。そして「持ちつ持たれつ」の手助けが繰り返されるため、コミュニティー・キャピタルが脆弱な集団に比べて、ごく普通の個人が、物心両面で豊かさや幸せを、仲間とともに享受できる機会は増す。

ということで、グローバリズムの進展とともに、「普通の個人」が疲弊し、幸福感を感じられない状況に対して、何らかの「解決策」を見出そうという試みである。

もちろん、地域的なつながりが強いことの陰の面も本書では取り上げられており、全てバラ色のものではない。
ただ、「普通の個人」が、他者の利益を阻害することなく「幸せ」になる方策の「一つの解答」であることには間違いないようだ。

Kindle Fire7を最強にするスタイリッシュなUSBアダプタはこれ

Google Playを入れてアプリ的には最強のエンタメ端末になったのだが、記憶容量という「ハード」の部分については、8Gという寂しい限り。

これでは、読書端末としては数年前のKindle並。
SDカードスロットはついているので、64GマイクロSDを入れて拡張しているので、Kindle本や自炊本のPDFファイルは容量的に大丈夫であるのだが、DVDなどから”あれこれ”したMP4ファイルの動画も見たい、ということで、昨今はかなり安価になったUSBメモリを活用することにした。

Seriaには、こうしたSDアダプタも売っていて、これはこれで十分使えるのだが、

どうにもプラプラしてデザイン的にはちょっと・・という感じである。

本体から出っ張ることの少ないアダプタがないものか、と検索して見つけたのがこれ。

装着してみるとこんな感じである。少々出っ張るが、本体と一体感があって、オススメでありますね

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戦で「風流」を尽くす「婆娑羅な男」の一代記ー大塚卓嗣「天を裂く」

戦国時代は、人の「総カタログ」でもあって、天下の覇者から、悲運の武将、裏切り者、日和見者などなど、小説や話の宝庫なのであるが、そんな中でも、その人物の人生をトレースしてワクワクするのは、本書『大塚卓嗣「天を裂く 水野勝成放浪記」(Gakken)』の主人公・水野勝成のような「婆娑羅者」であろう。

【構成は】

第一章 風狂
第二章 流転
第三章 血河
第四章 命の光
第五章 関ヶ原
第六章 友誼

となっていて、時代的には、織田信長が本能寺で斃れた後の甲斐の国でおきた「天正壬午の乱」のはじまりから、徳川幕府が成立し、水野勝成が福山の地を治めるまで。

【注目ポイント】

水野勝成の人生の前半は、水野家の嫡男に生まれて、若い頃にその武勲を信長に称賛された経歴からわかるように、かなりの武辺者である。
だが、その乱暴が災いして、父親から勘当、さらには、豊臣秀吉の勘気にもふれて大阪から逃亡、以後、四国、九州と各地の諸将のもとで戦績をあげながら、放浪を続ける、といった具合で、このあたりは乱暴者が大暴れといった感じで、例えば「小牧・長久手の戦」の場面

今も昔も、戦は最高の娯楽である。なにしろ数千数万の人間が、武器を手に取って 相 食むのだ。少し離れた所から見物する人々は、どこにでもいた。そんな衆の耳目 を 惹くことこそ、勝成の趣味であった。浴びる 喝采 が、たまらない。いつだって、そのための風流だった。

といった風で、戦場を格好の舞台とするよう、その暴れぶりが小気味いい。

ところが、再びの出奔を経て、備中(岡山県西部)の鎌倉以来の名家ながら落魄している「三村家」に仕官し、徳川家復帰後は芸風ががらっと変わる。「関ヶ原」では、石田三成の最後の逆転の策を見抜いたり、「大阪夏の陣」では

「真田の列を千切りたい。茶臼山を獲る」  勝俊は、奇妙な位置を狙うものと感じたのだろう。
「その理由は? 無視しても構わない衆です」
「騎馬が駆ければ、軍は伸びる。今の我らのようにな。それでいいんだ。疲れれば引くことができる。だが、後ろがなければどうなる?」
「当然、大軍の中で孤立します。そのまま潰されます
「そうだ。大御所様にまで、真田が届くかどうかは知らん。だが、やれることはやっておこう。我らの一撃で、真田を潰す」

つまり、万が一を考えての処置である。

と、真田幸村の大阪方大逆転の秘策を潰す、という巧みな「政治家」と「政略家」の側面が前面に出た、「ああ、差し手が盤面に乗って闘う碁はないだろう。そういうことだ」という言葉に似合った活躍ぶりが、また格好よいのである。

【まとめ】

「戦国歴史もの」の多くは、信長、秀吉といった綺羅星の全国制覇の話であるとか、武田、北条、浅井、といった彼らに押しつぶされた者たちの物語が多く、「立身出世」か「滅びの美学」か、といった視点にかたよりがち。
だが、ああいう煮えたぎった坩堝のような時代であるから、自分の才覚と思いに従って、大騒ぎしながら生き抜いた人物も当然いる。
さらには、現実の人生の場合、皆がトップにたてるわけではなく、多くの真ん中どころの多くの人々の参考になるのが、それが本書の主人公「水野勝成」であろう。
なんとなく、先行きが「もやもや」して消化不良気味の時の「消化薬」として本書を読んで、「戦国の婆娑羅」を服用してみてはいかがであろうか。

【筆者の他の作品】

「日常」には”忘れたい過去”が隠れているー西條奈加「いつもが消えた日」

神楽坂に住む、祖母と一緒に住む中学3年生の滝本望が、ワトソン役になって、祖母である「お蔦さん」とともに事件を解決するシリーズの第2弾が、本書の『西條奈加「いつもが消えた日」(創元推理文庫)』。

【構成は】

第1章 いつもが消えた日
第2章 寂しい寓話
第3章 知らない理由
第4章 サイレントホイール
第5章 四次元のサヤ
第6章 やさしい沈黙
第7章 ハイドンの爪痕
第8章 いつもの幸福

となっていて、望の同級生でサッカー部の彰彦、幼馴染の洋平、下級生でサッカー部の有斗が、神楽坂の望に家で、賑やかに夕食をとるところからはじまる。

【人のつながりの暖かさは健在】

事件は、はじめの方で唐突に始まる。「有斗」が食事後、帰宅すると、家には、同居している両親・姉もいない。しかもキッチンには血溜まりがひろがっいて、というのが始まりで、ネタばらしを少しすると、起きる事件はこの家族の失踪事件がほとんどなので、まあ、本格もののミステリーファンからすると物足りないかもしれない。

ただ、このシリーズの魅力は謎解きの部分というよりも、一番は、望を中心とする祖母や神楽坂の商店街の人々、同級生とのつながりの深さと暖かさを堪能するということにあるので、事件の多い少ないは関係ないといっていい。その点は、第一作以上に濃厚で、サッカー部の先輩・後輩のつながりや、顧問の教師の教え子をかばうあたりであるとか、裏金融の強面の業者を、商店街一同が撃退しようとするところなど、若干の空回り的なところはあるのだが、読んでいて、どことなくホッと暖かくなるのは間違いない。

【本書を彩る料理の数々】

そして、本書の魅力のもう一つは、主人公の望がつくって、披瀝する料理の数々で、事件が起きた後、後輩の有斗やお蔦さんに夜食としてつくる

大鍋で湯を沸かしながら、具の調理をする、豚肉とキャベツという焼きそば風の具に、風味付けに天かすをたっぷり加えた。紅ショウガがなかったから、代わりに目玉焼きをのせる

「焼きうどん」とか、心配して訪ねてきた、望が好意を抱いている女の子「楓」につくる

パスタを茹でながら、となりのコンロでクリームソースをつくる。多めのバターと小麦粉を弱火でかるく炒め、だまにならないように気をつけながら、少しづつ牛乳を加える。グラタンのホワイトソースと同じ手順だが、心持ちとろみをゆるくするのがこつだ。
別のフライパンで、たっぷりの舞茸とシメジを炒め、ホワイトソースには、茹でたパスタと皮をとった明太子を投入する。明太子は火の通りが早いから、ここから先は手早さが勝負となる。火を通しすぎると、ぼそぼそした食感になるんだ。ピンクの粒々が麺にまんべんなく行き渡ったら皿に盛り、炒めたキノコを上に載せた

という「キノコと明太子のクリームパスタ」などなど、事件の合間合間に登場する料理の美味そうなところも、前作に続いて健在である。

【まとめ】

事件の謎は、少々ネタバレすると、有斗の「謹厳実直」な父親が若かりし頃、携わっていた職業に関連していて、その仕事で手を染めた悪業が原因になるのだが、それに関係してくる人物が意外な広がりを見せるのがポイント。当方も、そこまでの広がりは考えつきませんでしたな。

なんにせよ、本格ものを読む時のように「謎解き」にしゃかりきになったり、社会派もののように、社会の不合理の教訓を得ようとしたりといった読み方は、このシリーズでは厳禁。「神楽坂」に住む人々の人情のつながりや、地域のまとまりにほっこりしたり、「望」と「お蔦さん」の信頼関係であるとかの、「人情噺」を読むのが、本シリーズのお決まりである。しばし、多くのところで失われた「あったかさ」を存分に味わってみてくださいな。

【ほかの「お蔦さんの神楽坂」シリーズ】

イギリスの女性冒険家の古き「日本」の冒険記ー佐々大河「ふしぎの国のバード」

日本の時代的には、明治初期、ハワイ諸島、朝鮮、中国などのアジアの多くの国を旅して、その当時の住民やその地の風土の記録を残してくれたのが、アメリカの女性探検家の「イザベラ・バード」。そんな彼女の冒険譚をマンガにしたのが、本書『佐々大河「ふしぎの国のバード」(KADOKAWA)』
彼女は、日本の各地も旅をして、失われていく日本の風俗や、当時の日本の庶民の様子の記録を残してくれているのだが、そのうち、横浜への日本到着から、江戸、会津、新潟を経て、北海道(蝦夷)への旅行記をマンガ化したのが本シリーズ。

【構成は】

当方が読んだKindle版は4巻までが出刊されていて、収録は(第1巻)
第1話 横浜/第2話 江戸/第3話 粕壁/第4話 日光①/
第5話 日光②(第2巻)
第6話 日光③/第7話 二荒山温泉/第8話 会津道①/第9話 会津道②

(第3巻)
第10話 会津道③/第11話 津川/第12話 阿賀野川/第13話 マリーズとパークス/第14話 新潟

(第4巻)
第15話 伊藤の記憶/第16話 越後街道/第17話 山形①/第18話 山形②/第19話 ファニーの憂さ晴らし

となっている。

いまのところ、山形に到着したところであるので、まだまだ「蝦夷地」までは遠い道のりではある。

【注目ポイント】

主なキャストは、イザベラ・バード、

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全ては、たった一人の情熱から始まるー四角大輔「人生やらなくていいリスト」

元売れっ子の音楽プロヂューサーで、綾香、平井堅といった著名シンガーのプロデュースを務め、ミリオンヒットを創りだした経歴をもちながら、今は、ニュージーランドの移住し、半年は森で半自給生活、あと半年は「旅」という生活をおくっている、四角大輔氏による「人生指南書」が本書『四角大輔「人生 やらなくていいリスト」(講談社+α文庫)』。

【構成は】

第1章 表現
第2章 孤独
第3章 仲間
第4章 共創
第5章 仕事
第6章 信念
第7章 感性
第8章 挑戦
となっていて、統一的な流れがあるものではなく、章ごとのテーマに沿って、含蓄ある人生についてのエッセイが綴られているというもの。

【注目ポイント】

まずは自分の内面に掘り込め、ということぎ、本書の一番言いたいことのように思う。
個人の最初の思いつきというのは、妄想に近かったり、無謀だったりする、でも、この「空想力」こそが、人間の創造性の源であり、無限の可能性を生み出す宝のような存在(P119)
というあたりは、他者の比較の中でしか評価できず、とかく縮こまってしまう我々の背中をドンと押してくれる景気良さがあって嬉しいところだな。
さらには、夢を抱いても、最初から軌道に乗ることはほとんどないわけで、大抵の場合
長い低迷期間が続くことを覚悟しないといけないわけだが、そんな時に心折れないように
大切なのは「形から入ってみること。」これを否定する人も多いが、それこそが貴重な一歩。そして、最初の歩幅はなるべき小さなほうがいい。
みんな、突然、無理して大きなことをやりだそうとするから、怖くなったり、面倒になったりして、結局、一歩も踏み出さないで終わってしまう。(P76)
とした上で
大ヒットは、たったひとりの情熱から始まる。
100万人が同時に動いて、100万枚ヒットが生まれる訳ではない。
最初のひとりが発火点となり、ひとり、またひとりと「熱」が伝播していった結果なのだ(P196)
というところは、暗いなかで、一所懸命、前に進もうとしている時の、前を照らす松明になる言葉であるな。

【まとめ】

数々のヒット曲を生み出した人の啓発本なので、熱く煽られるのかと思っていたら、物静かに、頑張ろとしている人に自分を信じること、信じて前に進むことを励ましてくれる本であった。
心折れそうで、今までやってきたことをやめてしまいたい時は、誰しもあるのだか、そんな時に、手にとってほしい本ですね

育休と女性活用の「明けない」夜明けー中野円佳「育休世代の」のジレンマ

正直のところ、当方が「男性」で「男性優位」な時代に生きてきたせいか、この「育児休業」と「女性の活躍」のジャンルは少々苦手である。
であるのだが、今読んでおかねば、と思ったのは、制度は整いつつも離職が出てしまう「育児と企業社会」が制度が整いつつも、なにか「幸福感」が漂わないのはなぜなんだ、と思ったのである。
本書『中野円佳「「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?」(光文社新書)』は筆者の、大学院時代の修士論文を加筆修正したもので、執筆はおそらくは第三次安倍内閣の2014年の頃に書かれたものではと推測している。その後「働き方改革」の議論も本格化しているのだが、どうも、先に述べた「すぅすぅ感」が拭いきれず、ひょっとすると、この原因が「働き方改革」の議論全てに共通するのではないか、と思ったところでもある。

【構成は】

序 なぜ、あんなにバリキャラだった彼女が「女の幸せに目覚めるのか?
1章 「制度」が整っても女性の活躍が難しいのはなぜか?
1)辞める女性、ぶら下がる女性
2)どんな女性が辞めるのか
2章 「育休世代」のジレンマ
1)働く女性をめぐる状況の変化
2)「育休世代」にふりかかる、2つのプレッシャー
3)「育休世代」の出産
3章 不都合な「職場」
1)どんな職場で辞めるのか
2)どうして不都合な職場を選んでしまうのか
4章 期待されない「夫」
1)夫の育児参加は影響を及ぼすか
2)なぜ夫選びに失敗するのか?
3)「夫の育児参加」に立ちはだかる多くの壁とあきらめ
5章 母を縛る「育児意識」
1)「祖父母任せの育児」への抵抗感
2)預ける罪悪感と仕事のやりがいの天秤
3)母に求められる子どもの達成
6章 複合的要因を抱えさせる「マッチョ志向」
1)二極化する女性の要因
2)「マッチョ志向」はどう育ったか
補1)親の職業との関連
補2)きょうだいとの関連
補3)学校・キャリア教育との関連
7章 誰が決め、誰が残るのか
1)結局「女ゆえ」に辞める退職グループ
2)複数の変数に揺れ動く予備軍グループ
3)職場のジェンダー秩序を受け入れて残る継続グループ
8章 なぜ「女性活用」は失敗するのか
1)「男なみ発想」の女性が「女ゆえ」に退職するパラドクス
2)企業に残る「非男なみ」女性と、構造強化の構造
3)夫婦関係を侵食する夫の「男なみ」
4)ジェンダー秩序にどう抗するか?
5)オリジナリティと今後の課題(意義と限界)
おわりにーわたしの経緯
新書を出すにあたって

となっていて、内容的には、インタビューにかなり時間と利労力をかけてまとめてあって、かなりの労作であることを評価したい。

【本書の注目ポイント】

まず「ありゃ」と思ったのは、

米国の先進的なファミリーフレンドリー企業において、社員が家庭生活を外注できるよう様々なサービスを提供し、働きやすい職場を作ることで、むしろ家庭が効率を求め疲弊するという、家庭と職場の逆転現象を指摘する(P81)

というところ。どうも、育児も含めた「働きやすい環境」の整備が、家庭にとって幸せな結果ばかりを産まないのは、日本だけではないらしく、先進地であるアメリカでも、といったところのなにやら、根が深そうなものを感じる。

さらに

「仕事」も「夫」も得ようとする女性もいるものの、「自分よりも仕事の上で有能な男性を勝ち得ることが自分の「性的魅力」を確認させてくれる」が、自分が仕事をしている場合は特に、「自分よりも高い社会的地位の男性の妻となると、そうした男性たちが「家事・育児」に割くことができる時間的資源をほとんどもっていない場合が多い」ため、「『性的魅力』による異性獲得競争に勝利することが、結果として自分自身の『社会的地位』競争において相対的に不利になる(P127)

というところには、女性特有のジレンマを感じてしまって、なんとも複雑な思いにかられてしまいますな。この件で女性が「満足感」「達成感」を得るには「マウンティング」だけでは解決できない問題で、誰が勝者で誰が敗者か混沌としてきますな。

そして

「女性の働きやすさ」を嫌悪したり無視したりする女性たちは、「社会規範としての女性らしさの価値を自明視していない」よりは、むしろ積極的に女性らしさを切り捨てることで、男性が圧倒的に多い世界での競争や「女らしい女性」が損をする社会を生き延びようとしてきたと捉えられる(P281)

といったところになると、なにやらイギリスの分離対立戦略に踊らされて、最後は国を失った、インドの藩主国たちを思わせるところもある。「イギリス」って誰だ、という質問には答えないけれどね。

【まとめ】

なんともまとまりのつかないレビューとなってしまったが、それは、この問題が、なんともまとまりのつかない「状況」にあることを意味していることの反映という気がしてきた。

筆者の「本書では、出産後の女性の抱える問題は、育休をとるかどうかではなく、復帰後の働き方と処遇にあることを指摘してきた(P323)」という主張は、「正解」ではあるが、まだスキッとした「解決策」がでていないことでもあるように思う。

「子育て」と「女性の活躍」、「女性の働き方」の問題は、「制度」を作って終わりではなく、「魂」をどう入れるか、と局面になっててきているようですな。

【筆者のほかの著作】

メンタリストDaigo「週40時間の自由をつくる 超時間術」(実務教育出版)

「メンタリスト」というのは、Daigo氏が広めた言葉で、「心理学に基づく暗示や錯覚などのテクニックを駆使し、常識では考えられないようなパフォーマンスを見せる人」をいうらしく、彼の著書も「人の心を見抜く」「人の心を操る」といった、心理系のものが多いのだが、本書はそんな心理学の知見を活かしながら「時間管理」にまつわる「思い込み」をなくして、どう時間を生み出すか、ということと、そのための「メンタルの整え方」といたところを扱ったもの。

【構成は】

第1章 時間にまつわる3つの勘違い
 勘違い1 物理的な時間がない
 勘違い2 やるべきことが多すぎる
 勘違い3 忙しい人は仕事ができる
第2章 時間感覚を正す7つのフィックス
 フィックス1 ゴールコンフリクトを正す
 フィックス2 時間汚染を防げ!
 フィックス3 呼吸を整える
 フィックス4 リフレーミング
 フィックス5 親切
 フィックス6 スモールゴール
 フィックス7 自然
第3章 それでも時間がないあなたにおくるストレス対策
第4章 職場の「時間汚染」に打ち勝つ働き方
 働き方1 まずは通勤時間のストレスを防ごう!
 働き方2 仕事中の時間汚染に立ち向かうには?
第5章 自分の時間を取り戻す8週間プログラム
 第1週〜第2週 時間が伸びる感覚を味わう
 第3週〜第4週 乱れた時間角を整える
 第5週〜第6週 時間を取り戻す準備を整える
 第7週〜第8週 時間の呪縛を逃れる
 第8週 時間を捨ててみる

となっていて、最初のほうは、「時間管理に関する誤解」の解消、次に「メンタルの整え方」、最後に2ヶ月でそのテクニックを身につけるトレーニング法といった設えである。

【本書の注目ポイント】

◯「時間がない」という主張は根拠がない

まず、本書の主張で驚くのは「あなたの時間不足は「錯覚」(P49)」というもの。
そんなはずはない、俺はいつも時間に追われている、と言いたい向きが多いと思うのだが、筆者によれば

データを見ると、ここで不思議な事がわかります。現代人は昔の人より働いていないにも関わらず、趣味、娯楽、レジャーなどに使う時間は減っているのです。(P22)

多くのアメリカ人は「自分は週60〜64時間は働いていすはずだ」と答えた。
実際に計測した1週間の労働時間は、平均44.2時間だった(P23)

といったデータをもとに、我々の「忙しい」「時間がない」という感覚は、物理的な「仕事の量」というよりも、その処理・対応の仕方にあって、

「忙しい」と口にだすたびに、あなたの意識は未来や過去に向かい、そのせいで目の前の本当にやるべきことに集中できなくなる。
こうなると予定した作業はどんどん遅れてしまい、本当は余っていたはずの時間が無意識に浪費される。(P27)

忙しい人ほど1日にさまざまな作業を詰め込んでしまう

1日にジャンルが違う作業をいくつも行うと、それぞれのタスクを達成する確立は25%も下がった(P40)

といったように、時間配分や時間内に作業ややりたいことを詰め込みすぎて全てが中途半端になってしまうことによる「不完全感」が「忙しすぎて何もできない」という意識を生み出している、として「時間がない」という感覚が、極めて「心理的な」現象であることを主張している。

さらには

マルチタスクをすると、あなたの脳にストレスがかかり、扁桃体という感情をコントロールするエリアが活性化。その結果、あなたの脳はまるで時間が細切れになったかのように思い込み、つねに時間に追われているかのように感じてしまう。
多くの研究者は、この状態を「時間汚染」と呼んでいます。(P79)

といったように、「忙しい」感がさらに、時間が足りないという焦燥感を煽り立てていくといった悪循環にはまり込んでしまう、というのが「時間不足」の実態であるようだ。

◯時間を生み出すための対策は

「じゃあ、どうすれば」というところで、通常の「時間管理本」であれば、作業を省いたりとか、機器を導入したり、といった提案に行ってしまうのが通例なおだが、本書の場合は、そこが、とても「メンタリスト」的で

人間にこのような性質が備わっている限り、「忙しいアピール」が世の中から消えることはないでしょう。
しかし、この事実を知っていまえば、もう惑わされる必要はありません。
忙しそうにする人を横目に、自分は「本来の自由な時間」を有効に使う方法を考えていけばいい(P48)

といったように、人間の心理面で変わりそうもないことは諦めて

「今日は執筆を3本と瞑想を1時間する」といったように、再低減のやるべきことを決めたら、あとは時計を見ずにひたすら作業に取り組む。このようなスタイルで仕事をすると、いま眼の前のことに集中するしかなくなります。(P53)

といったように「時間ではなく「行動」で自己管理をする。」ことを勧めたり、「ToDo管理はインデックスカードで(P84)」とか、「私たちの脳は、一度に同じ能力を使った時にパニックを起こします。・・・ということは、逆に言えば、まったく違う能力を使ったマルチタスクであれば、何の問題も起きない(P86)」といった心理的なアドバイスが中心となるのは、とても新鮮である。

◯時間を生み出すためのメンタル・トレーニング

とはいうものの、「心の持ちよう」で時間を生み出すには、自然体ではなかなかできないのももちろんで、そのために、

 ・4秒かけて鼻から吸う
 ・4秒かけて鼻から吐く

という「サマ・ヴリッティ(等間隔呼吸法)」をはじめとする、「5つの科学的呼吸法」(サマ・ヴリッティ、腹式呼吸、片鼻呼吸法、カパーラバーティ、スダルシャンクリヤ)が紹介されたり、

「不安」も「興奮」も、私達の体に起きる変化は同じ。それならば、何もせずに不安のままでいるよりは、強引にでもポジティブな解釈に切り替えてしまったほうがいい

という発想からの、嫌な状況を前向きに解釈することで、ネガティブな感情に立ち向かうテクニックである「リフレーミング」や自分にとって有効なストレス対策をリストにしておく「コーピング・レパートリー」だとか、トレーニングあるいはスキル的な方法論も紹介されている。詳細のところは、本書を読んで確認していただきたい。
 

【まとめ】

「時間がない」「忙しい」というのは、働くビジネスマンの口癖のようになっていて、いつの間には、そんな気分でいないと仕事した気にならなくなっている自分に驚くことがあるはず。
本書は、そんな「心の持ちよう」を矯正してくれて、「時間を生み出す」本でもある。「時間の細切れ感」に気付いたら、ぜひご一読あれ。

 

【作者の他の著作】

薬味がたっぷり効いた”歴史エッセイ”をどうぞ ー 塩野七生「逆襲される文明 日本人へ Ⅳ」

先だって、イタリア在住の漫画家ヤマザキ・マリ氏の著作をレビューしたのだが、イタリアつながりということで、本日は、塩野七生氏の『「逆襲される文明 日本人へ Ⅳ」(文春文庫)』をとりあげよう。氏の文春新書の歴史エッセイは「リーダー篇」「国家と歴史篇」「危機からの脱出篇」と出されていて、本書がその第四弾。

【収録は】

国産で来た半世紀/イタリアの悲/帰国してみて/なぜ、ドイツはイタリアに勝てないのか/ユーモアの効用/三十代主訴油はイタリアを救えるか/プーチン☓オバマ/政治家とおカネの不思議な関係/ヨーロッパ人のホンネ/ある出版人の死/女たちへ/この夏をわすれさせてくれた一冊の本/朝日新聞叩きを越えて/日本人の意外なユーモアの才能/中国に行ってきました/脱・樹を見て森を見ず、の勧め
一神教と多神教/ローマに向けて進軍中/テロという戦争への対策/地中海が大変なことになっている/「イイ子主義」と一般人の想い/悲喜劇のEU/なぜドイツ人は嫌われるのか/イタリアの若き首相/残暑の憂鬱/今必要とされるのは、英語力より柔軟力/イスラム世界との対話は可能か/一多神教徒のつぶやき/消費税も頭のつかいよう/誰でもできる「おもてなし」/感揚げ方しだで容易にできる「おもてなし」/四国を日本のフロリダに
「保育園落ちた日本死ね」を知って/EU政治指導者らちの能力を問う/ローマ帝国も絶望した「難問」/両陛下のために、皇族と国民ができること/「会社人間」から「コンビニ人間」へ?/著者のこだわり/帰国中に考えたことのいくつか/若き改革者の挫折/トランプを聴きながら/負けないための「知恵」/拝啓、橋田壽賀子様/がんばり過ぎる女たちへ/見ているだけで美しい/ドイツ統一の真の功労者/政治の仕事は危機の克服
となっていて、あいかわらず、イスラム国やイギリスのEU離脱、ヨーロッパの政治家の月旦といったところから、日本の「待機児童」問題や、芥川賞作品(コンビニ人間)に着想を得たものなど幅広い上に、今回は「女たちへ」とか「がんばり過ぎる女たちへ」とか女性読者を意識したものも収録されている。

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イタリアと日本が混合された「人生指南」 ー ヤマザキ・マリ「とらわれない生き方」

「テルマエ・ロマエ」や「プリニウス」など古代ローマを舞台にしたマンガで、一躍売れっ子になったヤマザキ・マリさんの人生の悩み相談、人生指南書が本書『「とらわれない生き方 悩める日本女性のための人生指南書」(メディアファクトリー)』である。
筆者は、若い頃単身渡欧し、イタリアでマンガを書きながら、イタリア人の詩人と結婚→離婚、その後、イタリア人研究者と結婚、彼のとても「イタリア的」な家族と同居しながら、子育てをし、という、かなり「濃い」人生を送ってきている人なので、その「人生相談」も、とても面白く、副題に「悩める日本女性もための」とあるのだが、女性専用にしておくのはもったいない。

【構成は】

1章 自分の中の「マザー」を見つける
2章 愛するほどに「空い」は満ちてくる
3章 女こそ人生を「楽しむ」責任がある
4章 人生の処方箋と「タガ」の外し方
となっていて、主に、1章が「仕事」、2章が「恋愛と結婚」、3章が「子育て」、4章が「人生全般」についての人生相談である。

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