経営の肝にレバレッジをかける ー 本田直之「レバレッジ・マネジメント」

「レバレッジ・リーディング」「レバリッジ・シンキング」などでブームとなった「レバレッジ(てこ)」本シリーズの「マネジメント編」が本書『本田直之「レバレッジ・マネジメントー少ない労力で大きな成果をあげる経済戦略」(東洋経済新報社)』である。

【構成は】

第1章 経営者のレバレッジ
第2章 戦略のレバレッジ
第3章 営業のレバレッジ
第4章 ブランドのレバレッジ
第5章 仕組み化のレバレッジ
第6章 組織のレバレッジ

となっていて、マネジメントについて筆者が重要と思われるポイントはまとめているが、本書の冒頭に

「会社がどうなるか、その鍵は経営者が握っている」  いかなるトップ、役員、幹部であるか。つまり、経営陣がどういった人物であり、何を考え、どのように行動しているか。端的に言えば、「経営者の思考」がいかなるものかが、うまくいく会社とうまくいかない会社の違いを作り出している。
(略)
「思考」というOSを整えない経営者は、やるべきこともわからないままテクニックだけをやみくもに取り入れることになり、そこにはさまざまな誤解が生じてしまう
(略)
本書は読むためではなく、「考えるツール」である

とあるように、本書は、マネジメントの知識を得るハウツー本ではなく、マネジメントに携わる者が、自分の頭脳と自分の言葉で「考える」ための「道標」として読むべきであるようだ。

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サイコパスは珍しくない ー 中野信子「サイコパス」(文春新書)

今までは冷酷で残虐な殺人犯などの病理を表していた「サイコパス」が、大企業のCEOや弁護士、外科医といったいわゆる「リーダー」層にもいるんだとしてセンセーショナルな話題を呼んだのが本書『中野信子「サイコパス」(文春新書)』である。

 

【構成は】

はじめに 脳科学が明らかにする「あなたの隣のサイコパス」
第1章 サイコパスの心理的・身体的特徴
 1 サイコパス事件簿
 2 サイコパスの心理的・身体的特徴とは?
第2章 サイコパスの脳
 1 サイコパスの脳の知覚能力、学習脳力
 2 「勝ち組サイコパス」と「負け組サイコパス」
第3章 サイコパスはいかにして発見されたか
第4章 サイコパスと進化
第5章 現代に生きるサイコパス
第6章 サイコパスかもしれないあなたに

となっていて、第1章から第3章までが「サイコパス」の犯罪歴や生物学的な特徴など、第4章は「サイコパス」という生物学的特徴がなぜ淘汰されなかったのか、第5章が「サイコパス」ではないかと思っている人への人生指導といった構成である。

【注目ポイント】

サイコパスの生物学的な特徴、例えば

「サイコパスは扁桃体の活動が低い」ということは、恐怖や不安など、動物が本来持っている基本的な情動の働きが弱い、ということです

といったことや、サイコパスにも「勝ち組サイコパス」と「負け組サイコパス」がいて、「サイコパスは最近になって急に現れてきたそんざいではありません。「サイコパス」という名称がなかっただけで、昔からそれにあたる人たちはいたのです」や」「歴史上の人物には、排除されずにのし上がった勝ち組サイコパスだと思われる人物も散見されます。あくまで個人的な見解であり、脳機能画像やDNAなどの証拠が存在するわけではありませんが、日本ならば、織田信長がその典型といえそうです。」という話など興味深いものがある。

だが、このレビューで取り上げておきたいのは、いいとこ取りをして、組織を食い荒らしかねないサイコパスは、非サイコパスの人間にとって非常に厄介な存在であるのも関わらず、なぜ生き残ってきたのかというところ。

このあたり、本書では

人類という種の繁栄のためには必要だったーそういう個体が一定数いたほうが、マクロな視点から見れば、生存に有利なこともあったのかもしれません。

として、戦場であるとか、前人未到な地への探検や危険物の処理などといった極限の状況の中で、サイコパスが有効に働けたといったことや

戦争や殺人も、時代を遡れば遡るほどに、短にあったのです。人が傷つくことも死ぬことも、理不尽な目に逢うことも、今よりずっと多かった環境においては、サイコパスの暴力性はそれほど目立たなかったのかもしれません。・・・むしろ争いの渦中にあった時代のほうが長いわけです。

と、今までの歴史環境がけして「サイコパス」を根絶する方向にはなかったことを示しているのだが、もう少し乗り出すと、サイコパスの存在が、特定の場合の組織の再生とか復活とかに寄与していることもあったのでは、思った次第。

例えば、本書でサイコパスでは、と言われている織田信長にしても、中世から近代へ至るための大破壊を行なったところで、非サイコパスであったろう明智光秀によって攻め滅ぼされる、といった図式で、考えようによっては、サイコパスが非サイコパスが中心の集団意思によって使われたとも言っていいのかもしれない。

【まとめ】

「サイコパス」というと特殊な存在というように思うのだが、本書によると、実は100人に1人存在しているようで、けして少ないとは言えない形質である。本書も結びで「好むと好まざるとにかかわらず、サイコパスとは共存してゆく水戸を模索するのが人類にとって最善の選択であると、私は考えます」と結んでいる。
歴史と時間による淘汰を除いては、こうした形質の機械的な排除はしてはいかんのでしょうね。

アイデアのネタはどこにある? ー 小山薫堂「幸せの仕事術」

「おくりびと」などのヒット作をてがけた脚本家である小山薫堂氏による「アイデア」「地域おこし」に関する著作が、本書『小山薫堂「幸せの仕事術ーつまらない日常を特別な記念日に還る発想法」(NHK出版)』

【構成は】

序章 つまらない日常を特別な記念日に
第1章 企画の原点は人を幸せにすること
第2章 アイデアのネタは日常の中にある
第3章 「共感」が社会を動かす
第4章 最終目標は人生を楽しくすること

となっていて、第1章、第2章が仕事術・企画術、第3章が地域おこし論、第4章が半生を振り返っての人生の企画術という内容である。

 

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「正義の味方」の意外な正体と「お縫」の恋の行方は? ー 西條奈加「閻魔の世直し 善人長屋」

長屋の住人のほとんどが故買屋や情報屋、美人局などなど悪事に手を染めているのだが、それを隠すために、皆親切で「善人長屋」と言われているのが、主人公の質屋で故買屋の娘・お縫の父親が差配する「千七長屋。そこに本当の善人の「加助」が引っ越してきたことから、長屋の「悪党」たちが、江戸の町を守るために立ち上がらせる、というのがこの「善人長屋」のシリーズ。その第2弾で、今回は、「お縫」の恋模様も織り込まれていているのが本書『西條奈加「閻魔の世直し 善人長屋」(新潮文庫)』。

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江戸情緒と人情の「宮部ワールド」へようこそ ー 宮部みゆき「堪忍箱」(新潮文庫)

(この記事は2018.10.14にリライトしました)
おなじみの江戸もの。
今回は古い大店(おおだな)にかけられた呪いの顛末や仲の良い幼馴染や長屋の住人が垣間見せる一瞬の闇など庶民の暮らしをなぞりながら、底に流れる暗闇を描いている。
「本所深川ふしぎ草紙」以来の江戸ものも円熟味を増して、どっぷりと江戸情緒と人情の影にふれる短編集である

【収録は】

収録は
「堪忍箱」
「かどわかし」
「敵持ち」
「十六夜髑髏」
「お墓の下まで」
「謀りごと」
「てんびんばかり」
「砂村新田」
の8篇

【あらすじ】

◯「堪忍箱」

開けると店(近江屋)に不幸がふりかかえると伝えられる堪忍箱。その箱には喪の花、木蓮の螺鈿飾りが施されている。店の火事で祖父を失い、人事不省となった母親を抱えることになった、お駒は、その日以来、堪忍箱と起居をともにする。その暮らしの中で、箱を抱えて「かんにん、堪忍」といっていた父親や母親、祖父の姿が去来する。
そして店に火をつけた女の登場、そして、お駒は、歴代の近江屋の怨念が封じ込まれた箱と生死をともにする決心をしていく・・・

◯「かどわかし」

出入りの大店の坊ちゃん(小一郎)から、自分をかどわかして、店から身代金をせしめるよう頼まれる畳屋の箕吉。小一郎は、その金を実家へ帰った乳母へ届けるつもりらしい。
子供の乳母を慕う気持ちが、偽のかどわかし事件を引き起こし、ひいては、お店の取り潰しまで発展する。
小一郎の兄を、小さなときに死なせてしまい、そのため、乳母に小一郎を預ければ、小一郎の気持ちが離れてしまったと悩む、母親おすえの独白が悲しい。
店がつぶれた後、貧しいながらも親子二人で暮らす、おすえと小一郎は本当の親子になれたのかもしれない。

◯「敵持ち」

世話になった師匠に頼まれて、大きな居酒屋「扇屋」の手伝いに通っている板前の加助。
彼は、ちょっとした誤解から、扇屋の女将に懸想する客に命を狙われることになる。
命を守るため、長屋の浪人に用心棒を頼むが、頼んだ初日、彼と用心棒は、金貸しが殺されている現場に遭遇する。
実は、扇屋の女将と客は以前から懇ろで、金貸し殺しを加助に罪をなするつける企み。
用心棒の浪人が、実は嫉妬深い殿様から上意討ちにされている侍というのは、でき過ぎの感あり。

◯「十六夜髑髏」

十六夜の月の光が、一筋でも主人にさせば、主人は死んでしまうという呪いをかけられた店に奉公にあがった娘、おみち。
彼女が奉公にあがって、初めての十六夜の日、店は近くから出火した火事にみまわれる。
自分の命を救うため、主人に月の光がさそうと構わず店の雨戸を開け放つ奉公人達。
それは、この店へ呪いをかけた初代に殺された者(おそらくは初代の主人)が願う奉公人に裏切られる主人の姿の再現。

◯「お墓の下まで」

親に捨てられたり、親を亡くした子供を何人もわが子のように育てている差配の市兵衛。
彼に育てられている、親が食い扶持を減らすために捨て子を装って、市兵衛に預けられている兄妹の秘密。そして、市兵衛がわが子のように捨て子を育てる理由。
みな、墓の下までもっていく秘密を持ちながら、信頼しあっている義理の親子の姿が、何かしら温かい。

◯「謀りごと」

浪人の「先生」の部屋で死んでいる大家の姿から話は始まる。店子が、ばらばらに語る大家の因業な姿から人情のある姿まで、てんで違う姿。
大家の死は、心臓麻痺とわかるが、なぜ大家が「先生」の留守に忍び込んだのか。
禁制の書を隠している「先生」の本当の正体は何だろうという謎の残る一篇。

◯「てんびんばかり」

親を流行病や事故でなくしてから、二人で差さえあって生きるお吉とお美代。
そんな二人の別れは、お美代に大店の後添いの話が持ち上がってから。
後添いに入ってから、二人のてんびんは、お美代のほうにふれたばっかり。
しかし、お美代が不義の子を身ごもってから、てんびんはもとに戻ろうと動き始める。
お美代の不幸な姿をみるのが嫌で、あるいは不幸な姿を喜んでみるのが嫌で、お吉は他所で所帯をもつことを決心する。

◯「砂村新田」

眼を悪くした父親と母親の暮らしを助けるため、家事手伝いの奉公に出るお春。
彼女は、奉公先に行く途中で、母親の若い頃を知る男に出会い、その男から、お春は頼みごとをされる「おっかさんを大事にな」と
しばらくして、母親からその男が病死したことをしらされるが、男の言葉の中に母親への
隠された恋情を汲み取ったお春は、男からの頼みごとを守っていこうと決心する。

【まとめ】

宮部みゆきさんの江戸物は「怪しくて」「悲しくて」といった主題を抱えながら、それだけでは終わらない「あとくち」をもっているのが特徴。
本書もそうした味わいで、重層的に楽しめる一冊でありますね。

変調百物語は続く ー 宮部みゆき 「あんじゅう」(中央公論新社)

(この記事は2018.10.14にリライトしました)
神田の袋物屋 三島屋の「黒白の間」で、三島屋の姪・おちかを聞き役に始められた変調百物語の第2冊目

【収録は】

序 変わり百物語
第一話 逃げ水
第二話 藪から千本
第三話 暗獣
第四話 吼える仏
変調百物語事始
「序」は第一冊目の「おそろし」とこの「あんじゅう」をつなぐ口上というべきもの。「おそろし」での経緯が語られ、百物語の続きであることが朗詠される、芝居の幕開きの口上みたいなものか。

【あらすじ】

さて、では本編のレビュー

◯「逃げ水」

「逃げ水」は、山出しの丁稚と彼がつれてきた(というか彼に故郷の山で憑いている)山の主が主人公。この二人が、三島屋と、彼が故郷から連れてこられた質屋の大店で巻き起こす、「水が逃げる」という大騒ぎと、それが起きた顛末のお話。割とドタバタした展開なのだが、人の心の移ろいと、喉元過ぎればなんとやらの人の世の習いにちょっと悲しくなる。

◯「藪から千本」

「藪から千本」は、三島屋のお隣の、住吉屋の一人娘の祝言と、それに至るまでの住吉屋の本家と分家の両方で繰り広げられた、嫁姑の争いに名分を借りた、一見、仲の良い兄弟、家族の底に潜む、暗い感情の怖さを見せてくれる話。最後にわかる住吉屋の双子の長女 お花の健気な心根と思われる振る舞いが救いになるか。

◯「あんじゅう」

「あんじゅう」は、手習所に通わせてもらうことになった、三島屋の丁稚 新どんの縁で知り合いとなった手習所の師匠 青野利一郎のこれまた師匠が「紫陽花屋敷」と呼ばれていた屋敷を隠居所として暮らした時の、屋敷の怪異譚。者としては、第一冊目の「凶宅」や「家鳴り」の主人公であった「安藤家の屋敷」と同類項なのだが、こちらの話は、屋敷の徳というものであろうか、陰惨でない、「怪異」というより「妖しい」物語とでもいうべきもの。まあ、屋敷に住み着くものは、「怪しげなもの」であることには違いないのだが、この物語の一方の主人公である「あんじゅう」(暗獣)は、優しげで妙に人なつっこい。

◯「吼える仏」

「吼える仏」は先の「あんじゅう」で知り合った手習所の若師匠 青野利一郎の知り合い の偽坊主 行然坊が若い頃、山里で遭遇した怪異というより、残酷譚。古くからの山里のしきたりに抗ったために家族ごと潰されてしまう若者がもたらす災いの話。どちらがどうともいえないが、最後は救いの薄い、滅びの話。

【まとめ】

で、最後の「変調百物語事始」は今までの話を、災厄なく終わらせる禊ぎの話であろう。三島屋に忍び込む賊を、「暗獣」や「吼える仏」などで知り合いになった面々で取り押さえる話。発端は行然坊が不審がった、三島屋にかかる暈というのだから、あながち偽坊主と見くびってもいられない。まあ、終わりよければ全て良し。
第1冊目と比べて、この「あんじゅう」は話がほのかに明るくて、そう陰鬱にならずに読めるのが良い。これからも百物語が続くことを願って、今回のレビューも大団円としよう。

百物語の聞き手の名手「おちか」誕生 ー 宮部みゆき「三島屋変調百物語 おそろし」(新人物ノベルズ)

(この記事は2018.10.14にリライトしました)
百物語の聞き手 おちか は三島屋の長兄の娘で、実家で忌まわしい事件に会い、その後、この三島屋に預かってもらっているという設定(彼女の「事件」の内容は、「邪恋」でわかる)。三島屋の主人 伊兵衛が碁に使っていた「黒白の間」に客を呼び、彼女が話を聞く。客たちは、彼女の佇まいに安心するのか、心の底に押し込めていた、忌まわしい話、不思議の話を外へ出していく、という筋立てだ。
第一話 曼珠沙華
第二話 凶宅
第三話 邪恋
第四話 魔鏡
第五話 家鳴り
となっていて、それぞれが独立した話なのだが、相互に関連し、最後の話につながっていく構成となっている。

【あらすじ】

さて、それぞれのお話のレビュー。

◯「曼珠沙華」

「曼珠沙華」はこの百物語が始まる発端となった話。いわば、百物語の0話目といったところ。
さて、百物語のはじまりは、主人の伊兵衛も女将のお民も、急な所用が出来、来客の相手ができなくなったため、主人の姪としておちかが来客の対応をさせられるところからスタート。ところが、その客、庭の曼珠沙華を見て、ひどく驚き、体調を悪くする。なにやら曼珠沙華の陰に何かを見たらしい。その見たものとは・・・といった展開。この客から話を聞いた伊兵衛が、こうした話を集めようと思い立ったところから百物語は正式に開幕する。

◯「凶宅」

「凶宅」の語り手は、やけに美人な「おたか」という女性。彼女が幼い頃、関わった、あるお屋敷の話。そのお屋敷で父親が預かった「鍵」をきっかけに、その父親の頭領の家を巻き込み、そして彼女に一家をある恐ろしい出来事へ導いた「お化け屋敷」の話が語られる。ところが、この話、この「お化け屋敷」の昔話に終わらなくて、「おたか」の意外な正体を、この話の最後で知ると、驚くこと請け合い。

◯「邪恋」

「邪恋」の語り手は おちか。彼女が実家でどのような凶事に出くわし、この三島屋にくることになったかが、同じ三島屋の女中 おしまを相手に語られる。「恋」とされているように、語られる話の中心の話題は「男女の恋愛」。ただ、「恋愛」につきものの甘酸っぱさと寄り添うように、「善意の中の隠れた侮蔑」があるのが、この話を陰鬱にする。「邪恋」の「邪」と何を指すのか。これは読んだ人それぞれに、また読んだ人がその時置かれた状況それぞれに違うかもしれない。

◯「魔鏡」

「魔鏡」の語り手は、おしまが若い頃奉公していたところのお嬢様。お嬢様といっても。おしまもかなりの年齢なので、お嬢様も「昔のお嬢様」だ。
戯れ言は置いておいて、これで語られるのは、病のため離ればなれに暮らしていた、美男美女の姉弟が、年頃になって出会ってから何が起きたか、のお話。まあ、何がおきそうかは、年齢を重ねて、道徳観念っていうものは不易のものではないってことがわかってきている諸兄にはお分かりだろう。だが、この話の怖さは、その後の顛末。自死を選んだ姉と、その後嫁を娶った弟に起きた事件とは・・・、という筋立て。怖いのは、あの世とこの世の枠すら外してしまう恋の盲目さといったところか。

◯「家鳴り」

「家鳴り」は、「凶宅」でおちかの前に現れた「おたか」の見舞い(彼女は座敷牢に押し込めになっていたのだ。)に彼女の親のお店に訪れるが、彼女の中に住む「お屋敷」の中に取り込まれ・・・、といった展開。このお屋敷、すでに現実のものではなく(確か、おたかが幼い頃、彼女の家族に降りかかった災厄のときに焼け落ちたはず)おたかの心の中に存在しているだけなのだが、そこが、またこの「安藤屋敷」の怨念の強さか。
このお話は、そういった屋敷に向かって、おちかが、おたかを解放するために、いや屋敷そのものも含めて解放するために立ち向かうことになる。ただ、この時、一緒に第一話から第四話までの物語で出てきた、忌まわしきものたちも、一緒におちかとともに立ち向かう。それにより、この第一話から第五話までの話の浄化、登場人物たちの浄化が果たされるのである。

【まとめ】

さて、読み応えのある変わり百物語でありました。さすが、当代きってのストーリーテラー、宮部みゆき様である。おちかのお話、とことどころの浄化を果たしながら、続けて欲しいものである。

人間はそんなに「自由な意思」で動いてはいない ー 中野信子「脳内麻薬」

近代を経て現代を生きる我々によって、自由な意思決定ができることや、行動の自由があることは、民主主義の基礎みたいに思っているのだが、本当のその行動が「自由意志」に基づくのか、そんなところをグラグラと揺さぶってくれるのが本書『中野信子「脳内麻薬 ー 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体」(幻冬舎新書)』である。
 

【構成は】

 
第1章 快感の脳内回路
第2章 脳内麻薬と薬物依存
第3章 そのほかの依存症
第4章 社会的報酬
 
となっていて、目次もみてわかるように、脳内物質と我々の行動との関係を解き明かくれているのだが、こんな風に「脳科学」が我々のところに降りてきてくれたのは、池谷裕二さんの「進化しすぎた脳」をはじめとした「脳」シリーズ以来ではなかろうか。
 
 

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江戸の怪異の数々はお好きですか? ー 宮部みゆき 「あやし」(角川文庫)

(この記事は2018.10.14にリライトしました)

旧い商家にとりついた魔物の手から、早死した姉に守ってもらった妹の話(「布団部屋」)やかどわかしをして刑死された女の亡霊に狙われる太郎をかぼちゃが救う話(「女の首」)、十年おきに同じ顔の人間が違う経歴で口入を頼んでくる話(「蜆塚」)

など、江戸時代を舞台にした怪異や不思議な話を集めた短編

【あらすじ】

詳しく書くと、下手なネタばらしになるが、こんな話が収録されてます。

◯「居眠り心中」

 若旦那の子をはらんだため、店を追い出された女中のもとへ使いに出された小僧が、使い先で若旦那とその女との心中の幻をみる。それは、後日の若旦那と若妻との理由のわからない心中の前兆だったのか

◯「影牢」

 遊び人同士の息子夫婦に座敷牢に閉じ込められた母親が、陰惨な渇き死をとげた後、起きる不思議なことごと。息子夫婦とその子供たちの集団毒殺事件

◯「布団部屋」

 奉公に出ている旧家についている魔物(その魔物はお店を繁盛させるかわりに奉公人の魂を吸い取るらしい)の手から幼い妹を守ろうとする、その店で早死した姉の話

◯「梅の雨降る」

 母親代わりの近所でも評判の良い厳しい姉。その姉が器量の悪さが原因で奉公を断られる。神社で凶のおみくじをひいた後、姉の代わりに奉公に出ていた娘が流行病で急死する(凶のおみくじを誰かに肩代わりさせるおまじないのエピソードあり)
 その死を自分のせいとおもった姉の狂っていく姿。肩代わりののせいで、顔に青黒い腫れ物ができ(弟も見た)、死ぬまで手ぬぐいをとらなかった。死後に見ると、そんな腫れは、どこにもなかったそうな

◯「安達家の鬼」

 寝付いている姑は鬼がみえるらしい。もとは別の店の奉公人あがり。
 店では、姑のうなづいた者としか商いをしない。一人、良い商売話をもってきた男を姑に会わせると、男は化け物を見たかのように驚き、逃げていく。
 姑は若いころ、奉公先の老主人の出身地まで一緒に旅をする。旅先で病みついた老主人は、その地のケガレを引き受ける家(安達家)に押しこめられる。その家は、昔は大層繁盛していたが、事件がもとで没落。以後、主の絶えた家に、村人は重病人や流行病の者を押し込めることにつかっていた。姑は、そこで安達家のケガレが凝り固まった鬼と出会い、連れて行くことに。その後、姑の連れる鬼に出会うと、人は、自分の心の中にあるものを見るようになる。
 最後まで、その鬼をみることがなかった、姑に気に入られていた嫁。

◯「女の首」

 口をきかない太郎は、縫い物屋へ奉公に。(太郎の母親名かぼちゃの神様に願をかけてかぼちゃをくわないというエピソードあり)気に入られれば、そのまま養子になれるらしい。その店では、昔、一人息子が赤ん坊のころ、かどわかしにあっている。納戸でみつけた屏風に女の首がかかっていて、それは生きているようだ。その首が太郎を取り殺しにくる。昔、息子をかどわかした女の首らしい。太郎は首代わりにかぼちゃを
くわせて退治する。実は太郎は、この店のかどわかしにあった息子。女が追ってを避けるために太郎を畑に隠したが、かぼちゃの陰に一言もしゃべらなかったので助かった過去の出来事。

◯「時雨鬼」

 言い寄ってくる男の話の真実を確かめるために、世話になった口入屋に相談にくる娘。
 そこで、主人の女房だという女に話をきいてもらい、世間の油断ならなさをアドバイスされるが、その実、主人は女とぐるの盗賊たちに殺されていた。

◯「灰神楽」

 理由もなく店の主人の若い弟に切りつけた女中の事件にまつわる話。
 女中は何かにとりつかれているようだ。最近、古い火鉢を買っている。
 事件の調査中、火鉢を預かる。深夜にみたつんつるてんの一重の着物をきた痩せた女が歩く姿。捜査の後、火鉢を寺で供養してもらうが、そこの住職もみたらしい。謂れはまったくわからない

◯「蜆塚」

 家出したが、帰ってきて口入屋の後をつぐ息子。
 同じ顔をした人間が10年ぐらいおきに、まるっきり違う名前で違う経歴で口入を頼みにやってくるという話。知らないふりをしているうちは良いが、調べようとすると、よくないことが。

【まとめ】

怪異といっても、不気味なだけの話ではなく、読後に、ちょっと寂しい、しみじみとした感じが残るのは、この人の手練れた語り口によるものだろう。ミステリーの風合いが強い「初ものがたり」や霊験お初のシリーズとは異なり、江戸のさまざまな話というイメージで、気楽に、しかも江戸の情感にふれながら読める上品。いずれも庶民しか登場しない話なので、お家騒動やら、政治にまつわる暴露話もないので、血沸き肉踊るというわけにはいかないが、ちょっと疲れている時に、古の時代の風情にふれて傷を癒すのにもお奨め。
コミック版もあります。

「安定した低空飛行」経営に、「働き方改革」の特効薬を見つけた

「働き方改革」の掛け声は相変わらず勇ましいのだが、努力しても労働時間はへらないし、効率化をしてはずなのに、ラクにならない、というのが多くのビジネスマンの「働き方改革」への実感ではないだろうか。

そんなあなたに参考になりそうなのは”BUSINESS INSIDER”の「売上増も他店舗展開も捨てた企業ー「家族で晩御飯」の働き方をフランチャイズ展開」で取り上げられていた株式会社minittsの経営する国産ステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」のビジネスモデルである。

【「安定した低空飛行」を目指す「働き方」】

詳細は、上記の記事で確認願いたいのだが、要点は

・飲食店は、平日より土日の方が大変なわけだが、土日に余分に働いたからといって給料が高くなるわけではない。

・「頑張ったら自分に返っていくる仕組み」を飲食店に導入できないか考えたのが「1日100食売り切ったら、その日は店仕舞い」というシステム。

・休暇は、社員・アルバイト同士が話し合ってシフト変更をする

・ビジネスプランコンテストではケチョンケチョンに言われたが、今では3店舗まで増えた。

・ただ、基本は会社を拡大しようというのが目的ではなく、「自分たちが働きたい会社」をつくること。譲れない条件は「家族で晩御飯が食べられること」

ということ。

その基本理念はあくまでも「会社に貢献している人が報いられないのはおかしい。会社が儲かっても社員が報われないのはおかしい」ということにおきながら、今後は「佰食屋」から。さらにダウンサイズして「五十食屋」を増やすことを目指す。
つまりは「安定した低空飛行」ができる店を増やし「働き方のフランチャイズ」をつくりたい

といったことで、いわゆる「拡大志向」から遠いところにいようという意思が強固に示されている。

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