”人情話”と”イタリア料理”をセットでどうぞ ー 斎藤千輪「トラットリア代官山」

東京で一、二を争うお洒落な街である代官山の住宅地。三階建ての一軒家の地下にあるカウンターが中心の小さなイタリアレストランを舞台に、店の女性支配人の大須薫とシェフの安東玲、常連客の工藤親子をメインキャストにくりひろげられる、”都会風人情話”が本書『斎藤千輪「トラットリア代官山」(ハルキ文庫)』。

店の支配人の薫は、父親が創業していた「トラットリア代官山」を引き継いで、パートナーの真守と店を切り盛りしていたのだが、イタリアへ料理修行に行くといって渡欧したっきり連絡がとれない状況。そこで店のほうは、ある時転がり込んできた、元板前の怜と二人で店をやっている、という設定ですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

Prologo(序幕)
Uno(1) 京都の鴨ナス〜カフェ経営者・永野鈴音の物語〜
Inermezzo Uno(幕間1)
Dos(2) 和牛入りライスコロッケ〜ウェブサイト研修者・工藤ルカの物語〜
Inermezzo Dos(幕間2)
Tre(3) 黄金色のそうめんカボチャ〜名リスト・片桐桜の物語〜
Inermezzo Tre(幕間3)
Quattro(4) 甘美なるシェリー酒〜女支配人・大須薫の物語〜
Epilogo(終幕)

となっていて「プロローグ」で、彼女の誕生日を祝うための東京へやってきたカップルが、ネットで調べたこの店で、「誕生日のお祝い」をと訪れるのだが、予約していなくては入れないという事態に取り乱す彼氏に、普段はやっていないランチ営業をしてあげる、といったところで人情話が開幕します。

まず第一章は、中目黒でサンドイッチ・ショップを経営している「永野鈴音」という女性と、彼女の昔の同僚であった「朝倉綾乃」という女性の間の長年の「不和」が溶けていく話。

鈴音はもともと、数年前に事故死した売れっ子ギタリストであった「リョウ」というシンガーソングライターのサポート奏者を、綾乃は彼のマネージャーをやっていたのだが、鈴音は一度「リョウ」と一夜をともにしそうになったが、仕事仲間とはそういう関係になれないと拒絶された後、彼のマンションから、彼のTシャツを着た綾乃がでてくるのを見かけたという苦い思い出をもっている。一方で、綾乃のほうは、鈴音がリョウのゴーストライターをやっているという疑惑を払しょくできないまま、リョウの死後、疎遠になっている、という間柄である。そういう二人が、リョウの思い出アルバムをつくりたいという音楽プロモーターの企画から、再び出会うことになり、「トラットリア代官山」で食事をとって打ち合わせをするが、その時の「わだかまり」が復活して・・、という展開である。この二人の仲を修復するのは、綾乃の子どものものであるらしい、幼児用のドリルなのだが、実はそれは忘れ物ではなくて・・といった筋立てが、ほんわりとさせてしまいます。ゴーストライター疑惑とリョウと綾乃の関係の真相は原書のほうで。

第二章は、店の常連客の工藤徹の記憶喪失と、彼の愛犬のラブラドール犬・レオに関する話。
実は、ひと月前から、レオが行方不明になっていて、それ以来、工藤が落ち込んだままになっているのを娘のルカと薫。怜たちも心配している状況である。レオがいなくなった時、、工藤は自宅の屋上から落ちて脳震盪を起こしており、そこのあたりの記憶がすっぽり抜け落ちている。その記憶が戻れば、レオの行方の手がかりもつかめるかも、ということなのだが、記憶の復活もレオの行方も一向に進展しない、といった状況である。
父親の落ち込みを心配した娘のルカはレオの代わりとなるラブラドールを二匹見つけてくるのだが、レオに忠義立てをして工藤は受け入れようとしない。実は、レオの失踪にはある秘密が隠れていて・・という展開。

第三章は店に背伸びしてやってきた片桐桜というネイリストの女の子の話。
彼女は、今、つきあおうとつぃている彼氏のデートで行く店の下見に、トラッタリアにやってきたということなのだが、ここで彼の勤める宝石店から購入した指輪についていたサファイアを落としてしまう。幸い、この宝石は店の前の階段で見つかるのだがが、この騒ぎがおさまった後、彼女のネイル店の同僚・メイサも、彼から宝石を買っており、今度、大々的な宝石のセールに招待された、というSNSがはいり・・・、という展開。最初は二股かけている彼氏をどうとっちめるか、という話で動くのだが、それではおさまらない犯罪の臭いがプンプンしてくる展開になってきます。

第四章は、この「トラットリア代官山」の支配人・薫とシェフ・怜の今後についての話。
薫のパートナーだった真守がイタリアへ料理修行に行ってからずいぶん時間が経過して、薫と怜の関係性も変わってくるか、といったところが話の肝ですね。それぞれの章の間に挿入される「幕間」で語られる二人の関係の最終まとめと明日、という感じですね。

【レビュアーからひと言】

この作者の作品の魅力は、「ビストロ三軒亭」にも共通しているように、登場人物の多くが温かく、彼れが展開する”人情話”にほっこりできるところと併せて、話中に挿入される料理の数々だろう。それは例えば、

メニューに”サマートリュフ、グリーンアスパラガス、タヤリン”と明記されていたパスタ料理は、卵黄のみで練った手切りパスタ”タヤリン”を茹でて、オリーブオイルとバターで和え、その上にサマートリュフとパルミジャーノチーズをたっぷり載せた逸品。鮮やかな緑のアスパラガスが、シンプルな料理のアクセントになっている。
薫がパスタの上にすりおろそてくれたサマートリュフは、皮の色こそ黒いが黒トリュフほどの強い香りではなく、コクのあるタヤリンの味を潰さずに引き立てる、同じく薫るがすり下ろしたパルミジャーノチーズが、縮れ気味の黄色い麺にまとわりつき、トリュフと共に食した瞬間の感動は格別だった。

といった感じで、本書の場合は、おもわずイタリア料理を、グルメ検索サイトで探してしまうぐらいなので、セットでお楽しみくださいね。

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バストマニアの「猟奇殺人」に隠された偽装工作を暴け ー する内藤了「COVER 東京駅おもてうら交番 堀北恵平」

東京駅の周辺に暮らす、靴磨きの「ぺいさん」、焼き鳥屋の主人「ダミさん」、老舗・餅菓子屋の女将で東京駅のホームレス「メリーさん」、そして幻の「東京駅うら交番」に勤務する柏村巡査に助けられながら猟奇事件に向かっていく、堀北恵平(ほりきたけっぺー)という新米女性巡査の活躍を描く「東京駅おもてうら交番」シリーズの第二弾が、『内藤了「COVER 東京駅おもてうら交番 堀北恵平」(角川ホラー文庫)』。

第一弾の「MASK」では新規採用の研修で「東京駅おもて交番」で地域警察の仕事の見習いをやっていたのだが、それも無事終わり、今度は刑事課研修で「鑑識」の見習い期間中に、再び猟奇殺人事件に出くわすことになる。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 刑事課研修
第二章 AV女優猟奇的殺人事件
第三章 Genial area マーケット
第四章 東京駅うら交番
第五章 バストマニア
第六章 第三の殺人
第七章 名探偵メリーさん
第八章 COVER
エピローグ

となっていて、前巻同様、本編のリーディングストーリーとなるのは、「うら交番」勤務の柏敏夫刑事が亀戸警察署に勤務中に遭遇した殺人事件で、四十過ぎのダメ男と一九才の娘が歳の離れた恋愛の末に、男が娘を刺殺。そして、頭を切り取って皮を剥いだうえに、その頭皮をかぶって自殺するという猟奇事件のエピソードが語られる。この男の犯行動機が、本編の事件のキーともなるので、前巻同様、陰惨な事件ながらきちんとおさえておきましょう。

本編は「恵平」が鑑識の研修を受けているところから今巻は開幕。瞬間接着剤に使われている成分を使って、今まで指紋はとれないとされていた布製品から指紋をとる手法を編み出した女性鑑識官の話が、目新しいですね。そして、ビルの谷間の60cmぐらの隙間に身を投げた、ホームレスの老人の死体をひきあげと鑑識をする話が挿入されるのだが、この老人の話は本編の事件とは直接関係はないようですが、その日の勤務が終わって、恵平が「ダミちゃん」で食事をとっている最中に店に訪れる男のことは頭の片隅においておいたほうが良いですね。

で、事件のほうはAVに出演している女優・進藤玲子が、撮影現場のラブホテルで、絞殺されたうえ、乳房のところを切り取られて持ち去られる、という猟奇殺人が第一の事件。彼女は、女優志望で演技スクールに通っている介護施設に勤務する看護士さんで、スクールの授業料や衣装、オーディションの費用などを捻出するためAVに出演していた、という設定ですね。

で、捜査を続けるうち、この女性の胸にはシジミチョウの刺青がされていて、胸の形をシリコンで型取りした模型が、バストフェチの男たちの人気になっていたことや、彼女が殺されたラブホテルの排水口から毛染め薬・ヘナの痕跡も発見されて、ということで犯人は白髪のある中年以上のバストに異常な執着をもつ人物という線での捜査が進められる。

ここで、第二の事件として、通販会社のオペレーターをしている独身OLの女性が殺され、この女子江も胸が切り取られている状態で発見される。この女性の趣味は韓流スターのおっかけと山歩きで、AV出演もなく、女優志願でもなく、第一の被害者との共通点はまったくない。
さらに、進藤玲子のバストのシリコン模型を作成して販売していたアダルトショップが放火され、経営者が殺されるという第三の事件が起きる。
さて、それぞれの事件に共通するものは、そして犯人の狙いは・・と展開し、結末に向かうところで、「恵平」に犯人の魔の手が伸びてくることになるのだが、詳細は原書ののほうで。

この巻も「猟奇」仕立てではあるのですが、実はオカルトものではなく、きちんとしたミステリーですので念のため。

【レビュアーから一言】

どうやら「東京駅うらまち交番」があり、ホームレスのメリーさんがはじめの旦那さんと仲良く暮らしていた、昭和35年頃の東京駅につながっているというのが本書の設定なのだが、、この東京駅で70年以上靴磨きをしている「ペイさん」が

ごくたまにだけど、そういうことはあるんだよ。この駅はここにずっと立っているだろう?だからさ、駅のどこかがどこかにつながっていても、不思議じゃない気がするもんね、一日中、通る人の足元ばっかり見てるとさ、やっぱり時々、昔の足の人が通るんだよ。

というあたりを読むと、「古いもの」には魂が宿る、という水木しげるさんの妖怪ものが思い起こされますね。ただ、今シリーズの場合、うらまち交番の柏木刑事の「思い」がおおきな影響を及ぼしているようですが、次巻以降でそのあたりが明らかになるんでしょうか。

新米女性巡査、「異形の面」をつけた猟奇殺人の謎に挑む ー 内藤了「MASK 東京駅おもてうら交番 堀北恵平」

人が集まるところは、様々な「気」が集まるので多少の怪異もまぎれこんでくるというのは、古今東西を問わないようで、ホテルとか宿屋、あるいは空港や駅というところを舞台にした小説は数多いのだが、その中でも鉄道の「駅」というのは、乗降客や飲食店の客たちによってつくられる「人間模様」は比肩するものはほかにないのではなかろうか。

その「駅」の中でも、乗降客の多さと歴史の古さといった総合力では、日本の中では「東京駅」に勝てるところはないといっていいのではなかろうか。そんな東京駅の近くにある「交番」を舞台にしてスタートするミステリーが「「東京駅おもてうら交番」シリーズである。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 東京駅おもて交番
第二章 少年全裸箱詰め事件
第三章 東京駅うら交番
第四章 駆け出し刑事 平野ジンゾウ
第五章 異形の麺
第六章 鬼面に魂を宿す術
第七章 MASK
エピローグ

となっていて、まずはプロローグのところで、銭湯がえりの少年が誘拐され、殺されてバラバラにされ水槽に保存されるという猟奇事件からスタート。この事件は、本編のほうとは直接の関係はないのだが、本編の事件のリーディングケース的な位置づけなので、グロいところはあるが雰囲気を掴んでおきましょう。

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「反省以前の問題」をどうするか ー 宮口幸治「ケーキの切れない非行少年たち」

非行少年の更生というと、少年院などで「改心」「反省」させ、自立の手段を身に付けさせて、社会に復帰させる、というのがスタンダードな方法であるのだが、その方法の有効性について、児童精神科医である筆者が、多くの非行少年と直に接した経験から疑問を投げかけたのが本書『宮口幸治「ケーキの切れない非行少年たち」(新潮新書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 「反省以前」の子どもたち
第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
第3章 非行少年に共通する特徴
第4章 気づかれない子どもたち
第5章 忘れられた人々
第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない
第7章 ではどうすれば?1日5分で日本を変える

となっていて、まず「はじめに」のところで、こうした更生教育・治療の中で、現在有効とされている「認知行動療法」について

彼は知的なハンディも併せてもっていたために認知機能が弱く、ヮークブツク自体がしっかりと理解できていなかつたのです。
認知行動療法は「認知機能という能力に問題がないこと」を前提に考えられた手法です。
認知機能に問題がある場合、効果ははつきりとは証明されていないのです。

と、治療の大前提から外れている実態が症例の中には生じてしまっている事態をまず明らかにする。

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「小牧長久手の戦」開戦。天下の帰趨は・・ ー 宮下英樹「センゴク一統記 14」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason3「センゴク一統記」の第14巻。

前巻で、秀吉に反旗を翻し、天下を狙う意志を固めた徳川家康と、秀吉が織田政権の継承者の地位を固めていることに我慢がならない織田信雄の連合軍と秀吉軍ががっぷり四つで戦う「小牧長久手の戦」が本格的に開始するのが今巻ですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

VOL.117 忍耐
VOL.118 鬼武蔵
VOL.119 酔覚め
VOL.120 温情
VOL.121 三方ヶ原
VOL.122 中入り
VOL.123 奇襲
VOL.124 馬標(うまじるし)
VOL.125 つかめり

となっていて、信長亡き後の織田政権の行く末を最終的に決めることとなった「小牧長久手の合戦」が始まるのですが、信雄・家康の反乱の報を聞いて、秀吉は「本能寺の変」で見せた「大返し」を今回も見せて、家康・信雄を大慌てさせます。この「虚」のつき方が、さすが百戦錬磨の武将のなせる技ですね。

そして、こういう時の乱世の習いで、秀吉の実力に恐れをなし最初から味方について、犬山城を落とした池田恒興に続いて、織田信包、森長可といった武将たちが秀吉軍に参陣してきます。この結果、家康・信雄軍3万にたいし、秀吉軍10万とかなりの兵力差がつくことになります。

特に森長可は、歴戦の勇将であるばかりでなく、一族もすべて討死しているので、「死兵」といっていいような捨て身の覚悟です。

しかし、小牧の戦では、これが裏目に出ます。戦場に泥酔状態で出陣し、酒井忠次ら徳川方の武将に攻撃され、敗走させられます。

ここで、森と同行していた尾藤も退却するのですが、これが後々、彼の運命を狂わすことになりますね。
もっとも、小牧の戦のすぐ後は、犬山城で、池田、森、尾藤を赦し、配下に抱え込みます。ここらの差配は、「転んでもタダでは起きない」というところですね。

そして、いよいよ戦は本番の「長久手の合戦」へと移っていくのですが、ここで秀吉は三好長吉(後の「豊臣秀次」ですね)を総大将に据え、池田恒興、森長可、堀久秀で組織する大軍に「三河の中入り」を命じます。小牧野城をスルーして三河に入ることによって、家康の本拠をたたきつぶそうという戦略で、徳川方は「三方ヶ原の再来」とおそれをなします。もっとも、筆者は、三河侵入はフェイクで、実は家康軍の包囲網をつくることが狙いだったと推理しているのですが、真相のところはどうでしょうか。

大慌てとなる徳川勢の中で、家康は自ら行軍してくる秀吉軍を観察し、一番、戦歴が浅い三好勝吉をターゲットに定めます。三好長吉を総大将にしたのはその武勇からではなく、これからの政権構想を考えて手柄をたてさせようというつもりであることと、この4人の武将では、統制のとれた行動ができないことを見抜いてのことですね。

戦のほうは、池田恒興が小牧山城の東にある岩崎城を攻めて足が止まった時を見計らって、三好長吉の軍へ、徳川きっての猛将・榊原康政を筆頭に奇襲をしかけます。長吉隊のほうは何が起きたかわからないうちに総崩れとなり敗走を始めます。ここで長吉が討たれでもしていたら、その後の歴史は徳川方のリードで進んだのでしょうが、中ほどに位置していた「孤高の名将」堀秀政治がこれに気づき、逃げる長吉を救いあげ、三好隊を吸収します。

そして、家康の本陣をみつけ、そこに向け兵を進めるのですが・・・、といったところで、ここから先は原書のほうで。

【レビュアーからひと言】

小牧の戦で、森長可隊が崩されて敗走したとはいえ、兵力的にはまだまだ秀吉勢が格段に優勢である状態の中、秀吉は家康の采配の鋭さに気づくとともに

と彼の将兵の忠誠心の強さに恐れをまし、警戒の念を強めます。現在の兵力差にしか意識のいかない他の武将たちに比べ、その聡さは並大抵のものではありませんね。この聡さと臆病さも、彼を「天下人」へ押し上げた一因のような気がします。

【関連記事】

秀吉の中国攻めのさなか、本能寺の変前夜へー 宮下英樹「センゴク一統記 1・2」

本能寺の変、勃発。光秀の統治策の真相は・・ ー 宮下英樹「センゴク一統記 3・4」

民衆の力をもとに秀吉、光秀に勝利す ー 宮下英樹「センゴク一統記 5~7」

信長後の体制が固まり、長曾我部との戦開始 ー 宮下英樹「センゴク一統記 8・9」

秀吉と勝家の対立は深まり、「賤ケ岳の戦」開戦 ー 宮下英樹「センゴク一統記 10」

センゴク、長宗我部軍と激突。しかし、そこに「箱網」の仕掛けが ー 宮下英樹「センゴク一統記 11」

センゴクの「四国の戦」と秀吉の勝家との対決、ここに決着 ー 宮下英樹「センゴク一統記 12」

秀吉は政権奪取。しかし戦乱の兆しはすでに ー 宮下英樹「センゴク一統記 13」

「謝ればいいってもんじゃない」を科学する ー 川合伸幸「怒りを鎮める うまく謝る」

不祥事が起きると関係者や会社の上層部がそろって会見して謝罪をするのだが、おなじような言葉を喋っていても、「しょうがなかったのね」と思えるものから、「なんじゃ、こりゃ」と思うものまで千差万別である。

どうやら、同じように頭を下げて謝っても、謝罪として受け取ってもらえるものとそうでないものとがあるようで、そのメカニズムについて分析されているのが本書『川合伸幸「怒りを鎮める うまく謝る(講談社現代新書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 怒りのメカニズム
第二章 関係の修復ー怒った人は相手に謝ってほしいのではない
第三章 効果的な謝罪
第四章 怒りの抑え方
第五章 仕返しと罰
第六章 赦し

となっていて、最初のところで、

怒りをなだめるプロの方は、コールセンターに勤務し、電話の向こうで怒鳴り声を上げる人びとから年間二〇〇〇億円もの債権の回収に成功したそうですが、その方が経験から導いた極意とは、「徹底的によりそって話を聞く」「怒りの矛先をそらす」「相手以上に大げさに怒ってみせる」「やさしい、などとほめる」というものでした

ということで、相手の怒りを鎮めることが大変上手な人がいるのは確かで、そうした人の技術がそっくりマネできればいいのだが、なかなかそうはうまくいかないのが世の常というもの。

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秀吉は政権奪取。しかし戦乱の兆しはすでに ー 宮下英樹「センゴク一統記 13」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason3「センゴク一統記」の第13巻。

前巻では、柴田勝家との「賤ヶ岳の合戦」で秀吉が勝利を収め、織田家の継承者であることを明白にしたのだが、今巻では、その戦後処理と、波が鎮まったかに思えていた政情が、織田信雄、徳川家康の思惑によってふたたび戦乱へ向かっていくところが描かれます。

【構成と注目ポイント】

構成は

VOL.108 天下人の業
VOL.109 栄達と誇りと
VOL.110 知行宛行
VOL.111 現世と幽玄
VOL.112 幽玄の智
VOL.113 織田信雄の決断
VOL.114 雌伏の刻
VOL.115 笠寺談義
VOL.116 調略の要

となっていて、まずは、勝家の北ノ庄城の炎上を前に、織田信長から天下を受け継ぎ「天下人」になったことをかみしめるシーンからスタート。ただ、天下人になった感慨以上に秀吉は

と「決して奢(おご)っちゃあならねえ」と自分を戒めていて、内部の敵や外部の敵がまだまだいることを認識しているようです。織田信長の跡目を引き継ぐことしか考えていなかった柴田勝家や織田信雄、神戸信孝とはちょっと違って政治家の風格が出てきていますね。
もっとも、神戸信孝を攻める陣中での

といったような様子をみると、厳しめに律していないと、自分を見失ってしまって、天下統一の前に自滅してしまうこととなったかもしれません。そのあたり、秀吉は権力の魅力だけでなく、魔力にも気づいていたのでしょう。

この後、神戸信孝は降伏の上切腹、佐久間玄番は捕獲の上斬首、さらに滝川一益も降伏し、秀吉は織田政権を完全に引継ぎます。
センゴクの方は、石田三成も彼のことは気にかけていたようで、正式に淡路を治める大名に昇格することとなります。ただ、様子を見るに政権中枢内での地位は確実に三成のほうが上でになってますね。

岐阜の稲葉山城の落城のころを思うと、センゴクも「大きく」なったものと感慨無量のところがあります。

さて、信長から秀吉へと政権が移り、これで「天下も安泰」とならないのが、世の常で、毛利、北条、長曾我部といった外敵だけでなく、友軍内にも火種が燻っています。織田信雄が自分のこれから生まれる子供が男子であれば「三法師」という、織田政権の名目上の当主である信忠の子供と同じ名前をつけると言い出しますし、家康のほうへは天台宗の僧侶・隋風が訪ねてきて、彼の心中に隠れている

といった野心を表に引っ張り出してきます。この隋風というお坊さんは、明智光秀が本能寺の変後、山崎の合戦で敗れて敗走するところなど、天下の政に変化の兆しがあるときに現れてますね。実は、この「隋風」というお坊さんは、のちの天海僧正。徳川幕府の成立後、家康・秀忠・家光の三代に亘って幕府の政策に大きな影響を及ぼす人物ですね。

ここでは、家康の息子で秀吉の養子に出され名門・結城家を継いだ結城秀康も登場します。彼は、兄・信康が信長の命令で殺された後、跡目を継いでもよかったのですが、能を見ているうちに幽玄界へ彷徨い込み、信康の母親・築山殿の恨みを感じとることとなります。そのせいでしょうか、天下を狙うことを決意した家康に呼び出された時に

といった言葉をもらすのですが、このあたりの「鬱屈」が、家康が彼を嫌った原因でもあるのかもしれません。

そして、秀吉に安土城を明け渡すよう命令された信雄が腹に据えかねて、反逆を決意するところから再び戦乱の気配が濃厚となります。信雄は、徳川家康に手を結ぶことをもちかけ、家康のほうも、和睦していた北条に秀吉を討つことを通知、さらには長曾我部にも援軍を要請し

ということで、小牧長久手の合戦がいよいよ始まります。ここで流石なのは秀吉で、信雄・家康の反逆の報を受けるや、腑抜けている近臣たちをあてにせず、自ら現状と打開策を考え始めます。

このあたりは、裸一貫から、知略で戦国時代をのし上がってきた男の実力を改めて感じますね。

【レビュアーからひと言】

北ノ庄の戦で敗れた佐久間玄番は捕縛されてから、降伏して秀吉政権に仕えるよう勧められるのですが、これを断っての斬首です。彼の姿には、ある種の潔さを感じますね。

彼は、三方ヶ原の合戦以来、センゴクを「センゴク兄」と尊敬していて、北ノ庄の合戦の時も、秀吉につくか勝頼に降伏するか、心中でセンゴクに相談していたようですが、どうやら、「戦国の世」に殉じることを決断したのだと思います。

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秀吉の中国攻めのさなか、本能寺の変前夜へー 宮下英樹「センゴク一統記 1・2」

本能寺の変、勃発。光秀の統治策の真相は・・ ー 宮下英樹「センゴク一統記 3・4」

民衆の力をもとに秀吉、光秀に勝利す ー 宮下英樹「センゴク一統記 5~7」

信長後の体制が固まり、長曾我部との戦開始 ー 宮下英樹「センゴク一統記 8・9」

秀吉と勝家の対立は深まり、「賤ケ岳の戦」開戦 ー 宮下英樹「センゴク一統記 10」

センゴク、長宗我部軍と激突。しかし、そこに「箱網」の仕掛けが ー 宮下英樹「センゴク一統記 11」

連続殺人の陰に「鎮魂歌」が隠されている ー 鳴神響一「脳科学捜査官 真田夏希 3 イミテーションホワイト」

医師免許も持つ、高学歴・美貌ながら「ふつうの結婚」を望んで婚活活動を続ける神奈川県警科学捜査研究所所属の腕利きプロファイラー・真田夏希の活躍を描く「脳科学捜査官」シリーズの第3巻。

前巻までで、経済不況から不幸な職業人生となった。「失われた世代」の爆弾魔や、時代の波に乗り切れず転落してしまったかつての栄光が忘れられない「バブル世代」の連続殺人犯を、爆弾処理犬・アリシアや所轄の出世から遅れた熱血刑事・加藤たちのアシストで次々と検挙してきた「夏希」なんであるが、今回は、現場に打ち上げ花火が仕掛けられている「見せる」を意識した連続殺人事件に挑むこととなる。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 夏希の休暇
第二章 本牧緑地
第三章 仏法時跡
第四章 銀の十字架

となっていて、故郷・函館からの同級生の友人で横浜市役所に勤務している「希美」という女性と伊豆へ合コンデートにきているシーンから開始。「ふつうの結婚」を夢見ている夏希は、婚活活動に頑張っている様子なのだが、今回のお相手の「結城」という人物も、結構イイ線まで行きながら、昼食で寄ったレストランで、料理のサーブの順番を間違えたことを店の従業員の女性に厳しく当たったことから

心理学を持ち出すほどのことではないのだが、店の従業員などにつらく当たる男は避けるべきという法則は存在する。
そのときの態度は、結婚してからそのまま自分への態度となることが多いからである。
もっともこうした店の女性に、あまりになれなれしくベタベタする男は、結婚してからもほかの女の子に色目を使う恐れはあるのだ。

ということで「OUT」になる。冒頭で夏希に振られる人物は物語の後半部分で、微妙な役回りを演じることになるので、今回もチェックしておきましょう。

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センゴクの「四国の戦」と秀吉の勝家との対決、ここに決着 ー 宮下英樹「センゴク一統記 12」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason3「センゴク一統記」の第12巻。

前巻までで、四国へ渡って長宗我部元親の牽制を図っていたセンゴクが、「引田の合戦」で長曾我部軍と激突した結末と、賤ヶ岳で柴田勢と膠着状態にあって秀吉勢がいよいよ柴田勢と決着をつける「賤ヶ岳の合戦」の顛末が描かれるのが本巻。これにより、秀吉は織田家の筆頭家老にのし上がっていくことになりますね。

【構成と注目ポイント】

構成は

VOL.99 命の使い途
VOL.100 夢の行き場
VOL.101 岐路
VOL.102 鬼玄蕃
VOL.103 抜山蓋世
VOL.104 物憂き家路
VOL.105 女の希み
VOL.106 北ノ庄の一夜
VOL.107 餞別

となっていて、前巻に引き続いて、四国の引田で、長宗我部元親の「箱網の計」によって、長宗我部軍に取り囲まれ、壊滅状態になったセンゴクの様子から今巻はスタート。

森三人衆のうち、仙石久村、仙石久春はセンゴクの退却を助け討ち死という事態を迎えます。残った一人・仙石久武らの殿軍でようようのこと窮地を脱することができます。とんでもない敗戦なのですが、せめてもの救いは、この負け戦で脱走を考えた配下が、

と彼を慕って戻ってきたことでしょうか。こうした苦難を重ねてつくったセンゴク隊の強固な結束が、後に改易され復活を果たす時に生きてくるのでしょうね。

舞台はかわって「賤ヶ岳の合戦」の場面に転換。こちらでは、信長に改易された佐久間信盛の甥の佐久間玄蕃が峰々をぐるっと回り込み、羽柴勢の中川清秀の陣に攻め入ります。中川義秀は古田織部の義理のお兄さんに当たる人で、「へうげもの」にも登場していますね。さらに、高山右近も敗走させ、一躍、武名を轟かせます。

この勢いにのって柴田勢は、勝家・前田利家が総攻撃がかけられるのですが、ここで堀久秀の守る砦を攻めあぐねているうちに、滝川一益・神戸信孝の牽制のため岐阜に向かっていた秀吉が、再びの「大返し」を見せます。

この大返しによって、羽柴勢の奥深く攻め込んだ。佐久間玄蕃のもとの柴田勝家から退却命令が下るのですが、佐久間玄番の嘆き姿は、一見、一枚岩のように見える「柴田勢」にも実は戦の帰趨を様子見する亀裂がはいっていたといわざるを得ません。そして、その退却するところを秀吉軍は襲って、玄番隊を敗走させます。せっかく、意気盛んに羽柴軍を攻撃していた味方の兵をこういう形で失うのは、戦略的に大きな痛手としかいえませんね。

羽柴勢の砦を攻めあぐねている勝家は当初、決死隊による攻め口の確保を躊躇っていたのですが、玄蕃隊の崩壊の報に正面から犠牲覚悟の攻撃を命令するのですが、前田利家の離脱を招くなど、すでに勝家は「老いた」といわざるをえない状態.

その後、勝家は。秀吉勢に押しまくられていき、北ノ庄城へ落ちのび・・・ということになるですが、柴田勝家とお市の最期は原書のほうで、お楽しみを。

【レビュアーから一言】

賤ヶ岳の戦で、勝家の退却命令を聞き、それに従うべきかどうか

と佐久間玄蕃が逡巡し、「正直、怖いんじゃわ・・・」ともらします。ここらは、三方ヶ原でセンゴクとともに武田信玄の攻撃から生還した、戦国時代の空気を色濃くまとった「武将」が抱く「予感」だろうと思います。そして、その予感は、これからの「官僚派」の台頭を考えるとあながち間違いないような気がします。

【関連記事】

秀吉の中国攻めのさなか、本能寺の変前夜へー 宮下英樹「センゴク一統記 1・2」

本能寺の変、勃発。光秀の統治策の真相は・・ ー 宮下英樹「センゴク一統記 3・4」

民衆の力をもとに秀吉、光秀に勝利す ー 宮下英樹「センゴク一統記 5~7」

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秀吉と勝家の対立は深まり、「賤ケ岳の戦」開戦 ー 宮下英樹「センゴク一統記 10」

センゴク、長宗我部軍と激突。しかし、そこに「箱網」の仕掛けが ー 宮下英樹「センゴク一統記 11」

高学歴美女に、リストラ親父の魔の手がのびる ー 鳴神響一「脳科学捜査官 真田夏希 イノセント・ブルー」(角川文庫)

医師免許も持つ、高学歴・美貌なが、「幸せな結婚」を望んで婚活活動を続ける神奈川県警科学捜査研究所所属の腕利きプロファイラー・真田夏希の活躍を得菓子「脳科学捜査官」シリーズの第2巻。

前巻で、地雷除去犬としてトレーニングを受けたドーベルマン「アリシア」とその担当者・小川、神奈川県警の万年巡査部長ながら腕利きの刑事・加藤、警察の威信の保持を第一義に考えるイケメン・エリートの警察庁理事官・織田、神奈川県警のサイバー犯罪の専門家・小早川管理官といった個性的なメンバーと、連続爆破とSNSを使った大衆誘導を仕掛けてきた「マシュマロボーイ」を撃退した「夏希」なのだが、今回も婚活活動中に遭遇した溺死殺人から始まる連続殺人の捜査で、「かもめ★百合」をハンドルネームとする彼女と犯人とのネット上のやりとりが、捜査のキーとなって、事件を解決していく筋立てである。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 モーニング・クルーズ江の島
第二章 シーブリーズ辻堂
第三章 オフショア東海岸
第四章 サザンビーチ・ライブ
第五章 サンセット・クルーズ相模湾

となっていて、まずは、江の島で、レストランなどの飲食店を多数経営している「小西」という男性とのデート・シーンから開幕。
すべて超一流のブランドものでガチガチに固めている、という様子から、プライドの高い、嫌味な人物をイメージしてしまうのだが、この男性、彫りの深いイケメンで、気遣いもできて、頭の回転も速く、夏希にぞっこん、という状況で、婚活相手としてはなかなかの逸材であるのだが、真田夏希に言わせると

だが、なにかしっくりこない。
そう。センスだ。センスが合わないのだ。

という理由で「アウト」の判定を下すのだから、彼女の「好み」も相当なレベルの高さである。

なので、小西とのデートで食事に向かう途中で、爆弾処理専門犬のアリシアの姿を見つけて、デート相手の小西の誘いを振り切って、そちらに合流するのも無理はないのだが、事件現場で溺死した被害者の顔を見て気絶してしまうこととなるので、どちらが良かったのかは判断に迷うところ。
ただ、こんな仕打ちをされても、相手の小西は夏希と再びデートしたがるってんだから、相当彼女は魅力的なんでありましょう。

本巻の第一の事件の被害者は、戸田というイベント・プロデューサー。「江の島」の波打ち際に顔だけ出して埋められ、満潮によって溺死させられるという残忍な犯行なのだが、犯人を名乗る「シフォンケーキ」という人物が、「イベント出演をエサに、たくさんの若手女性タレントを毒牙に掛けたので天誅を加えた」と犯行宣言。さらに、次回は爆弾を使った天誅を下すので、「かもめ★百合」との非公開チャットルームをつくってくれ、という要求がでたところで「夏希」の出番となった次第。

この犯人、犯行の予告に「ワールドペディア」というアクセスフリーのインターネット百科事典を使うのだが、その書き込んだ時のIPアドレスであるとか、MACアドレスとかを隠そうとしないところから、神奈川県警のサーバー犯罪の専門家の小早川管理官あたりは、ITに詳しくない人物とみて、簡単に正体が突き止められると安易に考える。犯人がITに詳しくない、という推測は当たっているのだが、素人ならではの行動にあとで足を掬われることになりのだが、詳しくは原書のほうで。

犯人から送られてきた最初のメールで、
・犯人の口調が「〇〇してくれないかな」「〇〇してほしい」という要請形式が多いことから、女性の部下を持った経験がある人物
・「かもめ★百合」を「ちゃん」づけで呼びかけるといったところから、セクハラ意識が希薄な中高年の男性
といったプロファイルを即座に分析してくるあたりは、夏希もちゃんと仕事をしていますので安心してださい。

犯行のほうは、辻堂海浜公園に爆弾をしかけたと犯行予告がされるのだが、これはフェイク。予告された公園でキュレーションメディアの社長・筒井が絞殺されているのが発見されるという事態で、前巻同様、捜査本部は、犯人に振り回されてばかりです。
ちなみに、二番目の被害者は「数多くの者から財産を巻き上げた」のが殺された理由だと「シフォンケーキ」は犯行声明を出し、一番目の事件も二番目の事件も、悪党を成敗した「天誅」だとうそぶいています。

ただ警察のほうもそこは冷静で、犯人の犯行動機に惑わされることなく、聞き込みにまわります。そこで、被害者たちが、バブル時代に学生イベント会社を立ち上げて、学生起業家として成功をおさめていた、という情報を手に入れ、そのメンバーの一人である滝川というウェディングプランニング会社の社長がしばらく前から姿をくらましているというところから、彼が容疑者として浮かび上がってきます。まあ、この滝川という男のことを詳しく教えてくれる男が、また食わせ者なのですが・・・・

この人物が事件に関係していて、犯行のキーはバブルの時に立ち上げた会社に関係しているのでは、というあたりの推理は捜査本部のお手柄なのですが、「犯人では」と思いこんだところからミスリードが始まります。
三番目の事件として、犯人の「シフォン・ケーキ」からアイドル・オタクの副大臣をそのアイドルのライブ会場で殺害する、という犯行予告が入るのですが、実は犯人の狙いは「かもめ★百合」こと「真田夏希」本人であることに気づかず、彼女が自宅近くで犯人に略取され、江の島のハーバーにつれていかれてしまいます。

ここらあたりから、美人の主人公の脱出劇と、彼女を守ろうとする加藤、アリシアたち捜査現場のメンバーたちの救出劇といった筋立てに転換していくのですが、ここから先は原書で。
少しだけ、ネタバレしておくと、事件の犯人は、バブル時代の夢が忘れられない、今は尾羽打ち枯らした起業家というところで、犯行の動機と、夏希誘拐の理由も、事業に失敗した人物の変形した「復讐劇」と「心中劇」といったところでしょうか。

【レビュアーからひと言】

今巻でのチェックしておくと話ネタにつかえる脳科学Tipsは 「偏桃体」で、

実権の結果、(腎臓の)ドナー提供者集団のほうが、「怯え・不安」の表情をより細かく正確に読み取っていた。この判断に際しては、右扁桃体の血流量が増加し活性化していることが明らかになった。
さらに、ドナー提供者集団は、そうでない人の集団よりも、扁桃体が物理的にも大きかったのである。
マーシュ教授の実験は、他人への優しさは、その人の経験よりもむしろ、扁桃体の動きや大きさは決め手になることを示唆している・

といったところ。これをどんな場面で使うかは、あなたにお任せします。