女の三人旅は、いつの時代も大騒ぎなのだ ー 朝井まかて「ぬけまいる」

舞台となるのは、弘化二年(1845年)の江戸。「弘化」のいうのは、ちょうど天保から嘉永の間、出来事的には、天保の改革、蛮社の獄、天保の飢饉と、いった天災人災の多かった「天保」と、黒船来航・日米和親条約といった国際的な出来事のある「嘉永」に挟まれて、少し地味な時代である。ちなみにWikipediaで調べてみても、目を引くような記述はない。

そんな時代に、三十歳近くなった、一膳飯屋の娘・お以乃、御家人の妻・お志花、小間物屋の女主人・お蝶の三人の幼馴染、通称「いのしかちょう」が、突然思い立って、伊勢参りにでかけるのだが・・・、といった感じで展開するのが本書『朝井まかて「ぬけまいる」(講談社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

一 木の芽どきは
二 とびきり
三 渡りに舟
四 抜け駆け
五 良し悪し
六 悪しからず
七 なめんじゃねえ
八 のるかそるか
九 しゃんしゃん

となっていて、「ぬけまいる」というのは「抜け参り」のことで、親や主人、村役人に無断で家を抜け出し、伊勢神宮への集団参詣で、「お陰参り」ともいったもの。だいたい60周年周期で大発生したようで、本書の舞台の弘化二年の近くでは、約15年前の天保元年(1830年)に大流行したようで、その時は420万人余がお詣りしたようですね。

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「デジタル疲れ、実店舗復活か(日本経済新聞)」。理由は”疲れ”ではない気がするのだが

2019.08.16付けの日経新聞の朝刊に「デジタル疲れ、実店舗復活か」と題して、日本出版販売の「文喫」や「TYUTAYA」の徳間書店や主婦の友社と連携してグループ書店でしか購入できないオリジナルの書籍販売、ブックオフの復調をとりあげて

フリマアプリを使うと個人間で価格交渉をしたり、配送や梱包をしたりする。手続きを面倒と考える消費者が実店舗に戻り始めた。

スマートフォンの普及でリアル店舗はネット通販の攻勢にさらされてきた。しかし、品ぞろえや商品提携力といった実店舗ならではの強みを磨いて売上高を伸ばす企業も目立つ。交流サイト(SNS)やアプリなどのデジタルサービスが広がる中、他社とのコミュニケーションを敬遠する「デジタル疲れ」を商機とする企業も増えている。
(略)
ネットサービスが普及する中でもリアルの強みをアピールし、デジタル疲れの消費者の潜在需要を取り込むことができるかが、リアル店舗の生き残りを左右しそうだ。

ということで、ネットによって経営を圧迫されてきたリアル店舗に、光明が見えてきた気配がして、まずはめでたい。

ただ、当方がちょっと気になったのが、この動きを「デジタル疲れ」のベクトルでとらえているところ。というのも、これらのユーザーが、デジタルではなくアナログ・実店舗を選択している主な原因は、「デジタルの限界」に原因があるのではと思ったからである。

例えば「文喫」というサービスは

・入場料1500円の三万冊以上の書籍を販売する本屋
・本の「閲覧室」や仲間と本について談笑できる「研究室」、軽食のとれる「喫茶室」を備える
・店内で提供される珈琲と煎茶はお替り自由

といったもので、まるごと「本」に向き合える仕掛けがされていて、デジタルでは提供に限界のある「実体感」の部分に優位性をもっているし、メルカリが敬遠されているのは、自分の不用品をネットの不特定多数に向けて販売するというシステムのところではなく、自分で梱包するという「手間」の部分である。

と考えると、これからデジタルのサービスが「体感」の部分を補うショールーム機能や、「手間」を代替するサービスを補っていくことによって、「疲れ」ることなく、再び実店舗を脅かす場面がくるのではないか、と思う次第である。

とりわけ、実店舗を運営する「人手」の部分が、これからの人口減少の影響を最も受ける地方部において、消費生活の便利さを維持していくには、デジタルがそうした機能を備えていくほうが望ましいような気がしてならないのである。「実店舗の逆襲」は、人人口がこれからも集積するであろう首都圏の都心部分だけがもちうる「夢」であるような気がするのであります。

もちろん、「文喫」のような仕掛けは、ともすれば傲慢になりがちな「デジタル・サービス」に反省を促すこと間違いないので、こうしたのはどんどん出てきてほしいのであります。

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デジタルとアナログの中間点にある「仕事術」 ー 倉下忠義・北真也「シゴタノ!手帳術」(実務教育出版社)

「Lifehacks」や「手帳」のブームというのは時代によって流行り廃りがあるもので、デジタル系が流行したかと思えば、今度はアナログ回帰をしてみたり、と移り変わりが結構ある。

本書は2012年の刊行で、クラウド・ツールに対する熱狂も少々おさまり、さらにアナログのツールも「モレスキン」熱もそろそろ、といった時代を反映してか、アナログとデジタル・クラウドの間を模索する仕立てで、おすすめの読み方としては、アナログ・デジタルの良いとこどりのアイデアのヒントをつかむ、という読み方であろう。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに 「仕事を楽しくする手帳術」
1 クラウド時代の手帳との付き合い方
2 毎日が楽しくなるほぼ日手帳の魅力とは?
3 目指す未来へナビゲートする、フランクリン式ほぼ日手帳術
4 自分の「記録」を蓄積する、ライフログ式手帳術
5 手帳の機能を(補完+拡張)するクラウドツールたち
おわりに 「終わりなき手帳術の旅」

となっていて、まず注目しておきたいのは

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終末の世界を、二人の少女はどこへ行く ー つくみず「少女終末旅行」(新潮社)

ディストピアものの小説やコミックは、終末ヘ向かう戦争や異生物との闘争を描くものと、終末が訪れた後に残された者の物語を紡ぐものとに大別できるのだが、本書は後者の種類に属している。
その中で、本書を特徴づけているのは、廃墟となった都市群の中を、女の子二人が、「ケッテンクラート」という軌道車に乗って延々と旅をしていく、という設定である。

「ケッテンクラート」というのは、もともとは1939年に、ドイツの自動車メーカーによって開発された、前輪が車輪で、後輪がキャタピラになっているハーフ・トラックで、泥濘の多いポーランドやハンガリーといった東ヨーロッパ戦線で使われたものであるらしい。本書では、文明崩壊後、古い文献をもとに復元された、という設定になっているようですね(第一巻の最後に「図解」がありますね)。

【構成と注目ポイント】

構成は

01 星空
02 戦争
03 風呂
04 日記
05 洗濯
06 遭遇
07 都市
08 街灯

となっていて、まずは「ミナ」と「ユーリ」という二人の少女が大きなビルの中を、復元ケッテンクラートで外への出口を探して走行しているところからスタート。

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「誰でも参加できる、強いチーム」はこうして創る ー 小林せかい「誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか」

一種類の定食しか出さない、たった12席の定食屋なのに業績好調で、「まかない」や「ただめし」といったユニークなサービス(?)で知られる「未来食堂」。

この店の経営者である筆者は、これまで「未来食堂ができるまで」「ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由」「やりたいことがある人は未来食堂に来てください」と三冊の未来食堂に関する本を出しているのだが、今までは、未来食堂の経営に秘訣や、未来食堂に集まる起業家のタマゴたちに向けてのアドバイスが中心を占めていた。

今巻は、未来食堂の中で展開されている「朝から晩まで入れ替わり立ち替わり誰かが店を手伝っている」という形態から、筆者が気づいた「誰でも参加でき、かつ、お互いの良さを活かしあえる”強いチーム”」の作り方についてのアドバイスである。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 一人には限界がある
1章 組織
2章 人
3章 自分
4章 既存の力を借りる「横」のつながり

となっていて、今回の「チームの作り方」について本を書こうと思ったのは

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真面目な気の弱い女性がハグレてみたら恋の予感? ー コナリミサト「凪のお暇 1」

都内の家電メーカの本社に勤務する、真面目で気が弱く、ちょっと「空気読み」の傾向が強くて、いつもミソッカス扱いされ、貧乏くじをひいてしまうOLが主人公。彼女は、ある出来事をきっかけに、会社を辞め、SNSも絶ち、新しい生活へと踏み出すのだが、という展開の、「人生リセットしてみたら、なんと新しい世界が・・」系のコミック。

【構成と注目ポイント】

構成は

#一円め 凪、ドロップアウトする
#二円め 凪、暑さに溶ける
#三円め 凪、散歩する
#四円め 凪、吼える
#五円め 凪、動く
#六円め 凪、回る

となっていて、まずは主人公の「大島凪」が勤め先の会社での同僚や上司の中で、貧乏くじをひいている姿が、コミカルに描かれますね。冒頭のシーンでは、同僚からランチに誘われ、弁当を持ってきていることが言い出せないシーンがシンボリックで、

といった「凪」の表情に、気が弱くて、真面目で、いい人で、そのため、「押しの強い人」に流されて・・、というごくフツーの「女子」の姿を見せてます。

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何かを始めたい人は”未来食堂”から「ビジネスの秘訣」をすくい取れ ー 小林せかい「やりたいことがある人は未来食堂に来てください」

「未来食堂」といえば、一種類の定食しか提供しない、かなり限定された飲食店でありながら繁盛店で、さらには「まかない」「ただめし」といったユニークなサービスで有名な店なのだが、その経営者である筆者が、自らのビジネスを分析して、「新しいことをやりたい人」に向けた”応援”の本が本書『小林せかい「やりたいことがある人は未来食堂に来てください」(祥伝社)』である。

とかく、こういう成功している人のノウハウ本というと、途中から妙な精神論とか世直し論とかが入り込んできて、ギョッとすることがあるのだが、本書はそういうことはなく、あくまで、何かを始めたいと悩んでいる人への丁寧なメッセージになっているので、純粋に「未来食堂」のエッセンスがすくい取れるビジネス本となっている。

【構成と注目ポイント】

構成は

これから新しいことを始めるあなたへーまえがきにかえて
序章 未来食堂とは
第1章 何かを始める前、知っておきたいこと〜考え方〜
第2章 何かを始める時、やること〜アクション〜
第3章 何かを始めた後、続けるために
第4章 始めたことを、伝えるために
第5章 人が心を動かす瞬間
第6章 注目を集めるということ
第7章 注目された時に気をつけること
特別対談 出口治明氏(ライフネット生命保険会長)×小林せかい(未来食堂店主)
あれから1年経ったあなたへーあとがきにかえてー

となっていて、「まえがき」のところによれば、何かをやる際に必要なステップを①考え方、②やり方、③続け方の3つのパートにわけて伝えるとされていて、「未来食堂」という斬新なアイデアにあふれた飲食店事業の根底に流れる「共通のキモ」を読むことが出来る一冊といっていい。

ちなみに本書は、「未来食堂ができるまで」、「やりたいことがある人は未来食堂に来てください 「始める」「続ける」「伝える」の最適解を導く方法 」に続く三作目である。

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未来食堂のユニークなサービスの根底にあるものは? ー 小林せかい「ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由」

ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由

未来食堂というのは東京都神保町にカウンター12席だけの小さな定食屋で、この店では日替わり一種類しか名ニューがない、というユニークな店である。

しかもその日替わりが毎日変わる上に基本的には同じものは二度と作らないという、ある種のこだわりのある店であるとともに、表題にあるような、壁に貼ってある券をお客が剥がしてもってくると無料で一食食べさせてくれる「ただめし」といった、とてもユニークなサービスまでやっている、かなりエッジの立った店でもある。

さらには事業計画や決算をオープンにしていて、仕組みは二次利用可という大盤振る舞いの見せながら「黒字」を維持しているという優良飲食店でもある。

本書は、そんなユニークな店の「仕組み」や「運営」の秘訣を、経営者自らが、かなりあけっぴろげに明らかにした「ビジネス本」である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 未来食堂ってどんな店?
第2章 懐かしくてあたらしい、未来食堂のシステム
 1 まかないー50分の手伝いで1食無料
 2 ただめしー壁にはられた1食券を剥がしてみってくれば無料
 3 あつらえーあなたの好みに合わせておかずをオーダーメイド
 4 さしいれー飲み物の持ち込み自由。ただし半分はお店に差し入れ
 5 未来食堂らしさとは
第3章 見たことがないものを生み出す力
第4章 未来食堂のあれこれ

となっていて、この店の「仕組み」そのものがユニークであるのは
間違いないのだが、まず注目すべきは、その「オープン」なところ。

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大坂町火消をまとめ上げて、火災旋風に立ち向かえ ー 今村翔吾「双風神(ふたつふうじん) 羽州ぼろ鳶組 9」

第四巻の「鬼煙管」で、初代長谷川平蔵を六角獄舎の火災で失って後、江戸が物語の中心となっていて「上方」とはご無沙汰となっていた。
今回、その時に知り合いとなった、淀藩常火消の「蟒蛇」こと野条弾馬の要請と、幕府と朝廷との「暦編纂」の争奪争いが絡み、「大坂」で羽州ぼろ鳶組が活躍する姿が描かれるのが「ぼろ鳶組」シリーズ第9弾となる『今村翔吾「双風神(ふたつふうじん) 羽州ぼろ鳶組 9」(祥伝社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 緋鼬
第二章 水の都
第三章 天理人足
第四章 秘策
第五章 大坂
第六章 赤舵星十郎

となっていて、まずは、ぼろ鳶が誇る「風読み」加持星十郎が、幕府の天文方が京都の土御門家から「暦の編纂」の権利を取り戻すための勝負に、幕府方として参加するため、休暇がほしいと申し出るところからスタート。この時、羽州ぼろ鳶組の頭取・松永源吾のもとには、淀藩常火消の野条弾馬から、大坂で頻発する、複数の小火から緋鼬へと広がっていく火事の対応の援助を求められており、ふ星十郎+源吾+武蔵の三人組で、暦争いと緋鼬退治に大阪へ出かけていく、という展開である。

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織部の遺した「へうげ」はめんめんと続いていく ー 山田芳宏「へうげもの 25」(モーニングKC)

 

茶人大名・古田織部の戦国末期から江戸時代初期まで、武人から転じて「へうげ」を追い求めた男の物語が、今巻で完結する。

 

シリーズの後半は、豊臣と徳川との融和を図るために悪戦苦闘している姿が目立っていて、とうとう、その努力も実らず、豊臣家の滅亡を迎えてしまうのであるが、実は・・といった秘史・野史的なところもしっかり盛り込んである。このあたりは、既巻で、信長が非業の死をとげた本能寺の変の犯人を「秀吉」とした本書らしいところが随所にみられる仕上がりとなっている。

 

【構成と注目ポイント】

 

構成は

 

第二百六十三席 BOSSA NOVA
第二百六十四席 Be Free
第二百六十五席 風神RYDEEN
第二百六十六席 DRAGONへの道
第二百六十七席 Greatest GIFT
第二百六十八席 返事はいらない
第二百六十九席 RIDE on TIME
第二百七十席 FRUTA BoA
第二百七十一席 ROUTINE’S MAMA FUNK
第二百七十二席 Summer Breeze
第二百七十三席 棕櫚の影に

 

となっていて、時代的には大坂冬の陣が終結した直後、1615年5月10日の午後、大阪城の山里丸から秀頼らしき焼死体が発見されるところからスタート。

 

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