天馬、柚乃、鏡華がそれぞれに大活躍なのであった ー 青崎有吾「風ケ丘五十円玉祭りの謎」(創元推理文庫)

「体育館の殺人」「水族館の殺人」での見事な推理劇と生活ダメ人間ぶりを披瀝した「裏染天馬」と、元気ハツラツの文学少女風スポール少女の「袴田柚乃」が巻き起こす、学園ミステリーの第三弾。

今回の舞台は表題作の「風ケ丘五十円玉祭りの謎」のほかは、天馬や柚乃が通う「神奈川県立風ケ丘高校」か鏡華の通う「緋天学園」のいずれかなので、正真正銘の学園ミステリーである。

さらに、今巻では、天馬の妹で、かなりの美貌で、かなりの性格破綻者の「裏染鏡華」もメインキャストで登場して、さらにはストーリー展開の破天荒さがパワーアップしてしますな。

【収録と注目ポイント】

収録は

「もう一色選べる丼」

「風ケ丘五十円玉祭りの謎」
「針宮理恵子のサードインパクト」
「天使たちの残暑見舞い」
「その花瓶にご注意を」

の五話。

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「人」を育てた経営者の片鱗に触れてみる ー 東海友和「イオンを創った女 評伝 小嶋千鶴子 」(プレジデント社)

企業創業者の伝記、評伝というと、創業者やその企業の業績や名声が高いほど、伝聞とか憶測の衣が厚くなるもので、それらを除いて、その人本来のところを見ようとすると、やはり、直に接したり、部下として働いた人の言を聞いたり、読んだりした上で、取捨選択するという作業が必要になるものだ。

筆者紹介によると、総務、営業、新規事業などの会社の幅広い分野で人事教育を中心に、岡田屋当時からイオンに勤務し、創業者小嶋千鶴子の私設美術館の設立にも関わった人らしいので、本書は「小嶋千鶴子」というある意味、「イオンを創り上げた人」の一人の肉声を直に効いていた人による評伝といってよく、小嶋千鶴子の「実体」を推察していくのにもってこいであろう。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 小嶋千鶴子を形成したものーその生い立ちと試練
第2章 善く生きるということー小嶋千鶴子の人生哲学
第3章  トップと幹部に求め続けたものー小島千鶴子の経営哲学
第4章 人が組織をつくるー小嶋千鶴子の人事哲学
第5章 自立・自律して生きるための処方箋
終章 いま、なぜ「小嶋千鶴子」なのか

となっていて、「評伝」とはいいながら、彼女の人生を時代を追ってトレースしているのは、第1章ぐらいといってよく、残りの章は彼女が仕事の中で発した「言葉」の紹介とその解釈でるので、どちらかというと「言説集」に近い。

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いい仕事をしたいなら「仕事場は楽しくなくてはならない」 ー 斉藤敦子「コクヨ式 机まわりの「整え方」」(KADOKAWA)

「コクヨ」というと日本を代表する文房具をはじめとしたオフィス用品のメーカーであるだけでなく、「コクヨのシンプルノート術」であるとか「コクヨのシンプル整理術」、「コクヨの1分間プレゼンテーション」など仕事術に関する書籍も数多く出していて、今や、「仕事術に関する企業といっていい存在になっている。

本書はそんな「コクヨ株式会社」の研究員を務める斉藤敦子氏(本の著者紹介では、コクヨの働き方とワークプレイスの研究機関「WORKSIGHT LAB.」の所長で、渋谷ヒカリエのメンバー制オフィスの企画開発も携わった、とありますな)による

机の上の状態は、あなたの仕事(頭の中)の状態を表します。
机の形・置き方で。チームの他のメンバーとの関係が決まってきます。

ということを前提として『机を「生産性の高い場」「創造性に満ちた場」にすることを目指す』本である。もっとも、この本で「机」というのは、パソコン作業をしたり、伝票を整理したり、といった単なる物体としての「机」ではなく、仕事場の象徴としての「机」という風に当方は解釈したので、広く「オフィスの環境」「仕事をする環境」の整え方についての提案の書、という風に考えたほうがよさそうだ。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 生産性の高い机には「共通点」があった
第1章 仕事の成果は「机まわりの環境」で9割決まる
第2章 心と体を心地よく、すると、頭の働きがクリアに
第3章 会議室に「情報が流れる道」をつくるのです!
第4章 アイデアは「準備が整った場」から生まれます
第5章 「職場を整える」から「成果がきちんと出る」
第6章 ちょっと高度でカッコいい「机まわり」の整え方

となっていて、最初は

あなたの仕事環境の中心は、パソコンではなく机です。
机を、あなたのアウトプットがつくられる基地と考えてください。(P46)

といった形で、「机」周辺の環境整備から始まって、アイデアの出し方や、オフィス内の机の配置や「壁」の使い方の提案、そして国内外の先端的な会社のオフィスの様子といったところに及んでいる。

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「デザイン」と「ブランディング」のキモを手軽に知るなら本書がオススメ ー 水野学「「売る」から、「売れる」へ 水野学のブランディング講義」(誠文堂新光社)

グッドデザインカンパニーの代表でクリエイティブデイレクターとして、熊本の「クマもん」、東京ミッドタウン、中川政七商店などなどのプロイデュースに携わってきた筆者が、慶応大学湘南藤沢キャンパスで行った講義「ブランディングデザイン」の主要なところを書籍用に編集したのが本書『水野学「「売る」から、「売れる」へ 水野学のブランディング講義」(誠文堂新光社)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1講 なぜ、いいものをつくっても売れないのか?
第2講 デザインは誰にでも使いこなせる
第3講 ブランディングでここまで変わる
第4講 「売れる魅力」の見つけ方

となっていて、本書の解説によれば、第1講から第3講は2014年、第4講は2015年に講義されたものをベースにしているらしく、文中に出てくる時事トピックスが、その頃もものが引用されていたりするのが、なんとなく同時代感がありますね。

はじめに目を引いたのは、

ときどき「説明できないけど、これはいいデザインなんです」なんていうデザイナーがいますが、ぼくにいわせるとそれはウソです。
センスが知識の集積をもとにしている以上、説明できないデザインはありません。(P87)

というところ。

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イメージ・コンサルタントのアドバイスで「見えない闇」が浮かび上がる ー 遠藤彩見「イメコン」(創元推理文庫)

東京からちょっと離れたところにある地方都市S市に住む、引きこもりの高校生・武川直央をメインキャストに、彼が、有名なイメージ・コンサルタントで、S市の新任市長のアドバイザーになった一色一磨とともに、S市の市役所周辺などで起きる事件の数々を解決していくことによって、自らも変わっていく、ビルドゥングス・ロマン的なお仕事ミステリーが本書『遠藤彩見「イメコン」(創元推理文庫)』である。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 キラースマイル
第二話 色メガネ
第三話 デスボイス
第四話 うぬぼれ鏡

の四話。

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club indigo改装中に、ホストたちは熱い推理劇を繰り広げる ー 加藤実秋「ホワイトクロウ インディゴの夜」(集英社文庫)

渋谷のはずれにあって、新宿歌舞伎町や六本木のホストクラブより、ちょっと下ながら、個性あふれるオーナーとマネージャー、そしてホストたちで人気のホストクラブ「club indigo」を舞台にした都会の盛り場ミステリーの第3弾である。

前巻までは、「club indigo」の共同オーナーである高原晶がメインキャストとして事件の捜査に潜入したり、謎解きを担当したりといったシチュエーションが多かったのだが、今巻は、「club indigo」のホストたちがそれぞれメインとなって、事件に巻き込まれたり、謎解きをしたり、といった展開になっている。

シリーズが成長していくと、始めは「端役」だったキャストが登場場面を増やしていって、いつの間にかシリーズの最初の方のメインキャストと入れ変わって「主役」級になっていくことがあるのだが、これがその前兆なのかどうかは、今後のシリーズ展開によるんでしょうね。

【収録と注目ポイント】

収録は

「神山グラフィティ」
「ラスカル3」
「シン・アイス」
「ホワイトクロウ」
の四話。

今巻のはじめの「プロローグ」のところで、ホストの「内装をリニューアルしたい」という要望を入れて「club indigo」が改装されることが明らかになる。改装期間は2ヶ月かかるということで、なぎさママの紹介で、明治通りの裏の雑居ビルのレストランのオーナーが奥さんの出産のためしばらく休業するところを借りて臨時営業するのだが、このレストランが「タイ料理店」というところにいろんな隠し味がしかけられているので要注意である。

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ホストクラブ「club indigo」は本日も「客」と「事件」で満員です ー 加藤実秋「チョコレートビースト インディゴの夜」(集英社文庫)

渋谷の古いビルの二階にある「クラブみたいなハコで、DJやダンサーみたいな男の子が接客してくれるホストクラブ」”club indigo”のホストやなじみ客の周辺でおきる事件を、店の共同オーナー兼フリーライターの高原晶をメインキャストにし、indigoのホストたちをアシスタント役にして、ドタバタと解決していく「インディゴの夜」シリーズの第2弾。

醒めていそうで、熱いところも残している三十過ぎの独身女性「高原晶」と、シニカルな共同経営者の「塩谷」、晶の使いっ走り的な使い方をされている、indigoナンバーワンホストで巨大アフロヘアのジョン太、現役キックボクサーで二メートル・百キロの巨体で、武闘派ホストの「アレックス」といった、なんともとりとめのないメンツがメインキャスト。

彼らが事件がおきるとバネじかけのように、びよんびよんと捜査を開始し、犯人を突き止めていくまでが、なんともテンポよく展開していくので、読み始めたら流れに身を任せたほうが良いですね。

 

【収録と注目ポイント】

収録は

「返報者」

「マイノリティ/マジョリティ」

「チョコレートビースト」

「真夜中のダーリン」

の四話。

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「最近の若いもんは」という前に「オッサン」「古いもん」こそ読むべし ー 山口周「劣化するオッサン社会の処方箋 なぜ一流は三流に牛耳られるのか」(光文社新書)

「最近の古いもんはいったいどうなっているのか」という書き出しで始まるので、当方のような定年間際の年齢となった者としては、最近の大学のスポーツ部の暴行指示事件や、情報改ざん事件などなど、思わずうなだれてしまうことが多い。

もちろん、本書でいう「オッサンの定義」は

1 古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を拒否する
2 過去の成功体験に執着し、既得権益を手放さない
3 階層序列の意識が高く、目上の者に媚び、目下の者を軽く見る
4 よそ者や異質なものに不寛容で排他的

という行動様式・思考様式をもった人物像で、年代と性別と追う人口動態的な要素ではない(P9)

ということで、けして全ての中高年の男性を批判しているわけではないのだが、残念ながら、当方も上記の項目に思いあたる節が多々あるのは間違いない。

じゃあ「若いもん」から「古いもの」への弾劾書を読んでやろうか、というところだったのだが、本書は、「批判」一辺倒ではなく、「若いもん」と対立するのではなく、むしろ「若いもん」を助ける。「古いもん」の「現代の長老的」な新しい生き方の提案書として読めるな、というのが読後の印象である。


【構成と注目ポイント】

構成は

はじめにー本書におけるオッサンの定義
第1章 なぜおっさんは劣化したのかー失われた「大きなモノガタリ」
第2章 劣化は必然
第3章 中堅・若手がオッサンに対抗する武器
第4章 実は優しくない日本企業ー人生100年時代を幸福に生きるために
第5章 なぜ年長者は敬われるようになったのか
第6章 サーバントリーダーシップー「支配型リーダーシップ」からの脱却
第7章 学び続ける上で重要なのは「経験の質」
第8章 セカンドステージでの挑戦と失敗の重要性
最終章 本書のまとめ

となっていて、まずは、今になって数々の問題を起こす「オッサン」が大量発生したのか、というところなのだが、それは

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歴史的・構造的に「残業」をとらえた長時間労働の「処方箋」 ー 中原淳+パーソナル総合研究所「残業学」

電通の痛ましい自殺や、いろいろ表にでてきた過労死といったことを発端に始まった「働き方改革」なのであるが、「働き方」を改革することが遅々として進まないだけでなく、「労働時間の短縮」も、大企業から中小企業への付け回しのNHKニュースもあったように、思ったようには進んでいないのが実態であろう。

そんな「残業」の問題を、単純な「効率アップ」「生産性向上」の観点だけではなく、歴史的背景や慢性的な長時間労働を産む「構造」の問題まで、正面からとらえたのが本書『中原淳+パーソナル総合研究所「残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうか?」(光文社新書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

オリエンテーション ようこそ!「残業学」講義へ
第1講 残業のメリットを貪りつくした日本社会
第2講 あなたの業界の「残業の実態」が見えてくる
第3講 残業麻痺ー残業に「幸福」を感じる人たち
第4講 残業は「集中」し、「感染」し、「遺伝」する
第5講 「残業代」がゼロでも生活できますか
第6講 働き方改革は、なぜ「効かない」のか?
第7講 鍵は「見える化」と「残業代還元」
第8講 組織の生産性を根本から高める
最終講 働くあなたの人生に「希望」を

となっていて、まずは

残業についての議論がこのように絶望的なすれ違いをもたらす原因の一つには、「データに基づく対話がなされていない」という問題があると私は見ています。・・・「木を見て、森を水」の状況が、残業問題には常についてまわります(P35)

といった問題提起から始まる。働き方改革法案の国会審議の過程ででてきた、長時間労働の統計のいい加減さは置いといて、たしかに、長時間労働の問題の議論が深まらないのは、単なる「時間数削減」に目が行って、長時間労働を生み出す原因は、「ダラダラした働き方」であるとか、働く側のメンタリティの部分だけ強調されて、心理学的、労働の構造論的なアプローチがされていないことにも原因があるように思える。

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田舎の警察署の珍事件は、ますます絶好調 ー 滝田務雄「田舎の刑事の闘病記」(東京創元社)

片田舎にある警察署の刑事課を舞台に、黒川鈴木巡査部長をメインキャストに、その部下、白石、赤木、そして黒川の奥さんをサブキャストにして繰り広げられる、ドタバタかつ支離滅裂なミステリー「田舎の刑事」シリーズの第2弾である。
奥さんの一言で精神崩壊していく黒川刑事のトホホさはますます快調であるし、世間の常識から何万光年も遠いところにある「白石巡査」の奇怪な思考回路と行動もまたスゴさを増してきているので、常識的なミステリーファンは警戒して読まないといけないですね。

【収録と注目ポイント】

収録は
「田舎の刑事の夏休みの絵日記」
「田舎の刑事の昆虫記」
「田舎の刑事の台湾旅行記」
「田舎の刑事の闘病記」
「田舎の刑事の動物記」
「田舎の刑事の冬休みの絵日記」
の六話。

第一話の「田舎の刑事の夏休みの絵日記」でおきるのは、自称フリージャーナリストで強請りの常習犯の男が殺害されて、ブルーシートに包まれて河川敷に遺棄されていた事件。

ただ、このシリーズの只者ではないのが、この死体は、署内で子供用のプールで水浴びしていた白石を黒川が追いかけていた最中に発見されたというあたり。さらには、このビニールプールの提供者が黒川の奥さんというおまけつきである。
この事件には産廃業者の不法投棄事件を捜査していた、他の署の狛沢犬彦・猿比古という双子の刑事が絡んでくるのだが、なぜ突然、管轄外の刑事が・・、てのが謎解きのヒントですな。

ただまあ、謎解きの重要な鍵が、昼食代が浮いため、というのがこのシリーズを象徴しているところである。

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