2020年1月にシシドカフカ主演でTVドラマ化された、「世界でもっとも不運な探偵」として、本人も周囲も気づかないうちに、周りにトラブルの数々と犯罪の謎解きを招き寄せてしまう、フリーランスの私立探偵・葉村晶シリーズの第7弾が『若竹七海「錆びた滑車」』
フリーの調査員として二十代終わりから契約していた長谷川探偵調査所の閉鎖後、ミステリーの新古書店「MURDER BEAR BOOKSHOP」のアルバイト店員となり、セットで、書店のオーナー・富山泰之がノリでつくった書店付属の「白熊探偵社」の運営を任され、一時は引退した探偵稼業を再開五、前巻ではいくつかのプチ事件を解決したのですが、今回はひさびさに骨のある事件に巻き込まれます。
【あらすじと注目ポイント】
事件の発端は、晶が仕事をまわしてもらっている大手の調査会社「東都総合リサーチ」の桜井から「父親の資産もたんまりあって、都庁づとめのエリート公務員・石和豪という男性から、別居して暮らしている母親・梅子が、最近が外出勝ちになり、しかも自宅にブランド品の買取業者が出入りしたり、道端で若い男に取りすがっていた、という噂もあるので調べてほしい」という依頼を取り次いでくることからスタートします。
桜井は、以前、晶を東都総合リサーチにスカウトしようとしたのですが、警察とのトラブルがおきそうになったビビって止めたことを引け目に感じて、晶に調査仕事を回してくれるのですが、大概、これが思っても見なかった「事件」へ彼女を引っ張り込むことになりますね。
もっとも、この依頼の方は、調査の対象となった母親が暮らしていく収入源としているアパート経営がうまくいなくての金策や、管理会社の若い社員との交渉が誤解されてのこととわかるのですが、梅子が金策のために訪れた先の同級生・青沼ミツエとトラブって怪我をさせてしまうところから、今回の本筋の「揉め事」に巻き込まれることとなります。
青沼ミツエの怪我の巻き添えになって、こちらも負傷した晶は、それがきっかけで彼女の孫の「青沼ヒロト」と知り合います。ヒロトは、数月前、父親と二人で京王相模原線のスカイランド駅のロータリーにいるところを、ブレーキとアクセルを踏み間違えた老人の車に突っ込まれ、父親は即死、ヒロトも重傷を負い、命は助かったものの後遺症が残り、リハビリを続けています。
そして、晶は、青沼ミツエの怪我の示談を揉めることなく治めるよう、東都総合リサーチの桜井から頼まれ、ヒロトからは父親が残した蔵書の処分を頼まれ、さらに晶を気に入ったミツエからは、自分の所有するアパートへの転居(晶が現在住んでいるシェアハウスは、前々巻の「さよならの手口」での火事の結果、取り壊しになるようですね)を進められたり、ということで、青沼ミツエやヒロトと半同居生活が始まることになり・・・、という筋立て。
で、桜井の依頼や、ヒロトの依頼を片付けていくうちに、ヒロトの父親・青沼光貴が、彼が勤務していたレストランを舞台に、マリファナなどの麻薬密輸や合成麻薬の販売に絡んでいたのでは、といった疑惑や、当初、老人の加齢による過失と思われていた、ヒロトたちの事故に何か秘密がありそうな気配がしてきて・・と進むうち、晶が蔵書の処分のために仮住居としていた、ヒロトも住んでいるミツエのアパートで火事がおき、ヒロトが焼死することとなるのですが・・・、という展開です。
単純な身辺調査から物語は展開していくのですが、本筋と並行して、ヒロトの父親の麻薬密売事件に絡む昔の恋の鞘当がぞろりと出てきたり、このシリーズのあちこちででてくる当麻頸部と郡司刑事の再登場や、ヒロトの事故と焼死の意外な真犯人と動機とか、盛り沢山に進行していくので、振り落とされないようについていきましょう。
【レビュアーから一言】
今巻で、晶が長い間住みついていた「スタインベック荘」もいよいよ取り壊されることになり、晶は最後のほうで、「白熊探偵社」の事務所で暮らすこととして、引っ越しをすることとなります。お金に不自由している晶のことですので、引っ越し荷物の運び出しと運び込みは当然自前です。ところが、このことがヒロトを殺害した犯人からの攻撃を辛くも防ぐこととなるシーンや郡司刑事と晶と同じシェアハウス「スタインベック荘」の住人・佐々木瑠宇との奇妙な恋バナとかも出てきますので、最後までお楽しみに。
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