カテゴリー別アーカイブ: 経営

経営の肝にレバレッジをかける ー 本田直之「レバレッジ・マネジメント」

「レバレッジ・リーディング」「レバリッジ・シンキング」などでブームとなった「レバレッジ(てこ)」本シリーズの「マネジメント編」が本書『本田直之「レバレッジ・マネジメントー少ない労力で大きな成果をあげる経済戦略」(東洋経済新報社)』である。

【構成は】

第1章 経営者のレバレッジ
第2章 戦略のレバレッジ
第3章 営業のレバレッジ
第4章 ブランドのレバレッジ
第5章 仕組み化のレバレッジ
第6章 組織のレバレッジ

となっていて、マネジメントについて筆者が重要と思われるポイントはまとめているが、本書の冒頭に

「会社がどうなるか、その鍵は経営者が握っている」  いかなるトップ、役員、幹部であるか。つまり、経営陣がどういった人物であり、何を考え、どのように行動しているか。端的に言えば、「経営者の思考」がいかなるものかが、うまくいく会社とうまくいかない会社の違いを作り出している。
(略)
「思考」というOSを整えない経営者は、やるべきこともわからないままテクニックだけをやみくもに取り入れることになり、そこにはさまざまな誤解が生じてしまう
(略)
本書は読むためではなく、「考えるツール」である

とあるように、本書は、マネジメントの知識を得るハウツー本ではなく、マネジメントに携わる者が、自分の頭脳と自分の言葉で「考える」ための「道標」として読むべきであるようだ。

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経営者への転進は「起業」だけが選択肢ではない ー 三戸政和「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」

経済産業省の調査によると、中小企業経営者のうち、95%が事業を他の人に引き継ぎたいと思っているのだが、そのうち、20%が事業承継を希望しているが後継者が居ない状況であるとのこと。
一方で、高齢者の定年後の再就職は、政府の旗振りはあるが、なかなか進まないというのが現状。
その双方を結びつければ、廃業による日本産業の空洞化と高齢者の就業問題の「処方箋」になるのでは、と提案するのが本書『三戸政和「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」(講談社+α文庫)』である。

【構成は】

序章 「人生100年時代」は資本家になりなさい
第1章 だから、起業はやめておきなさい
第2章 飲食店経営に手を出したら「地獄」が待っている
第3章 中小企業を個人買収せよ
第4章 100万の中小企業が後継社長を探している
第5章 「大廃業時代」はサラリーマンのチャンス

となっていて、はじめの第1章・第2章のところは、「定年退職者」が陥りがちな「起業の甘い誘い」の戒め、第3章以降が、本書の主張の主眼である「個人M&Aのススメ」である。

【注目ポイント】

なぜ「定年起業」ではいけないの、というあたりについては

まったくのゼロから事業を立ち上げ成功させる起業家を、私は「 ゼロイチ起業家」と呼んでいます。そうした起業家は、「息を吸うかのように」とんでもない仕事をしています。ゼロイチ起業家は、「普通」の人間とは違う世界を生きています。新しい事業のチャンスを 嗅ぎ 分ける 嗅覚 の 鋭さも別格です。

と、起業家に求められる「特異」な性向を強調するととともに

起業とは、会社を作ることではありません。事業を作ることです。会社を作ることは誰でもできます。ネットで「会社 作り方」と検索し、その通りに手続きするだけです。しかし、今すでにあるサービスや商品を自らの手で販売していくだけでも大変なのに、まして、世にないサービスや商品を創造し、市場に浸透させていくベンチャービジネスを軌道に乗せるのは、並大抵のことではありません。この点を誤解しないでいただきたい

といった感じで「起業」というものに抱きがちな「幻想」をきつく戒めている。
さらには、会社辞めたら「ラーメン屋でも」とか「趣味の蕎麦を」といった感覚で飲食業に手を出そうとする人たちへ

断言します。引退後に飲食店を経営して成功できるのは、飲食業界にいて必要な経営スキルを身につけている方だけです。ノウハウのない人が安易に手を出すと「地獄」を見みます。

経験から強く感じるのは、飲食業は「基本的には勝てないビジネスモデル」だということです。
開業しやすそうにみえるのか、普段足を運ぶカフェなどがラクに回っているように見えてしまうためか、飲食店経営を軽く考えている人が余りにも多いと感じます。ベンチャーキャピタリストの目で見れば、飲食店はもっとも難しいビジネスの一つです

と恐怖心を煽るのであるが、たしかに筆者の言いたいところは伝わってきて、それは、「イチからの起業のようなハードワークとリスクを負うことは、定年を機にやることではなくて、起業したい人は放っておいても起業するんでしょ」というところであろう。

で、筆者がオススメするのが

そんな「ゼロイチ起業」より、過酷な 10 年を生き残った 23%の企業の〝オーナー社長〟 になってしまいませんか、というのが私からの提案です。具体的には、あなたのこれまでの知識と経験を活かせる中小企業を見つけ、個人でM&Aをして、経営を引き継ぐ……つまり、「 会社を買う」= 事業承継

ということで、本書の中盤あたりからは、財務系やマーケティングといったサラリーマン時代の知識が、中小企業の経営層には少ないことや、大企業で培ったビジネスモデルを導入すれば、もっと成長する、といったことを挙げながら「個人版M&Aのススメ」が展開される。

ただ、ここで気をつけておかないとな、と思うのは、けして筆者は大企業出身者なら誰でも大丈夫といっているわけではなく、

会社経営は生き物です。継続していくには、これまで記したノウハウだけでは足りません。なにより経営者の情熱が必要です。

とキチン(少々控えめに、ではありますが)と釘を指しているので、そこのところは忘れてはいけない。

当方としては、小さな組織であっても「経営」に携わるのであるから、「経営者としての覚悟」はないといけないよな、と思うところで、「経営者」となる場合は「サラリーマン」とはかかってくるプレッシャーは違うよ、ということは肝に銘じておかなければならないだろう。

【まとめ】

「中小企業の事業承継」と「高齢者の能力活用」ということからみると、筆者の提案は面白い。特に、起業意欲のある退職予備軍に対して、無責任な「起業」をすすめるよりも、本書の提案は良心的である。
とはいいつつつも、本書の提案は、「ゼロベース起業」ではないにしろ、「起業」の一つであるのは間違いない。しっかりと考えて実践するかどうか、「自己責任」で判断してくださいな。

「水族館」の中に、経営の基本を見つける ー 内田詮三「沖縄美ら海水族館が日本一になった理由」

水族館は、子どもだけでなく、大人の人気も依然として高く、あちこちの公共団体が、地域振興のハードものの「切り札」として出てくるのが、バブルの時の「テーマパーク」に代わって、いまは「水族館」であることが多い。
そんな公営の水族館の中でも、一番の成功例といっていいのが、本書『内田詮三「沖縄美ら海水族館が日本一になった理由」(光文社文庫)』の「沖縄美ら海水族館」であろう。本書は、そんな美ら海水族館の館長の内田詮三氏による、自身の半生記と水族館経営記である。

【構成は】

プロローグー上野の動物園を抜いて入場者日本一に
第1章 ”世界一”と”世界初”の水族館
第2章 水族館と動物園は何は違うのか
第3章 水族館の舞台裏ー水族館を支える人間たち
第4章 ”飼育屋”修行時代
第5章 試行錯誤の日々
第6章 水族館も動物園も”悪行”
エピローグ

となっていて、第1章から第3章が主に水族館の魚の捕獲・飼育を含めた運営や水族館で働く人達に関すること、第4章から第5章が、自身の半生記を中心とした伊豆の水族館、昭島ランド水族館を経て、沖縄美ら海水族館の建設に至るまでの述懐で、いわば「日本の水族館創世記」的なところ。第6章とエピローグが、水族館論とこれからの発展の提案、といった形である。

【注目ポイント】

もともと、水族館の第一人者が書いた「水族館」の本なので、イルカの人工ヒレの作製話であるとか、イルカの訓練をしている中で「訓練を続けていくうちに、神経質なイルカほど慣れてくると図々しくなる」といったエピソードやジンベエザメ飼育の苦労話など、水族館関係も逸話も豊富で、それだけで十分楽しめる。

ただ、残念ながら当方は水族館は観客としての関わりしかないので、「水族館」の運営から、組織運営で注目しておくべきポイントを抽出しすると、まずは、その運営のトップについて。

「日本の水族館が熱意にかける理由」として

現場のことをよく知らない人間が、水族館のトップに就く傾向があることだ。

それが悪いとはいわないが、飼育スタッフが仕事に打ち込める環境をつくり、さらに飼育動物に関する調査や研究に取り組んでいけるように後押しできるかというと、実際にはなかなか難しい。

と、水産生物の門外漢がトップにつくことへは、かなり手厳しい発言。ただ、このあたりは、こうした施設の運営にあたって、現場と管理部門とのコンフリクトでよく見られる話であるし、水族館のトップだけでなく

水族館に獣医師を置くならば、餌の準備や給餌はもちろん掃除もやり、飼育スタッフと同じように働いて、イルカなら調教もやってショーにも参加する、それくらいのことをやってもらいたいと思っている

と獣医師に対しても辛辣であるから、水族館に対する「知識の有無」の問題としてとらえるべきではないように思う。
さらに、専門家が経営もやればいいのかというと、多くの場合、経営が行き詰まって、施設そのものを「おじゃん」にしてしまうのは、専門家による経営によることも多いから、ここは、その分野のシロウト経営者は「現場への想いの強さ」「現場への想像力」が大事ということで捉えておきたい。

また、「水族館や動物園が、適正な飼育を進めていく上で注意すべき点は、飼育動物を擬人化して見たり、自分の気分を飼育動物に投影しないこと」として、

水族館のなかには、海岸の自然の入り江を仕切って、イルカを飼育しているところがある。開放的で、イルカたちも生き生きしているように見えるかもしれない。  だが、実はこうした飼育環境では、イルカの健康管理は非常に難しい。人工的なプールならば、すぐに水を落として血液検査や治療もできるが、自然の入り江ではそう簡単にはいかない。(略)人間が感じる解放感を、そのままイルカに投影することは危険でもある。

としているところには、水族館運営の基礎となる「動物・魚の健康維持」という部分を第一番にもってくることを訴えて、「ロマン」に流れることなく、怜悧に進めることが、経営の基礎であることを教えてくれる。

【レビュアーから一言】

本書は、数多くの水族館エピソードを楽しみながら、組織運営のコツみたいなところをポチポチ拾う、という読み方が一番肩がこらない読み方だろう。
中村元さんの「水族館哲学」「常識はずれの増客術」や「「旭山動物園」革命ー夢を実現した復活プロジェクト」あたりと併せて読むと一挙に「ビジネス」っぽくなってくるので、職場で堂々と読んでもいいかもしれないですね。

【関連記事】

「弱点」は克服するものではない — 中村 元「常識はずれの増客術」(講談社+α新書)

【水族館・動物園の経営シリーズはこちら】

「JR九州の躍進」は、熱気を持って、基本に忠実に動くことにある — 唐池恒二「新鉄客商売 本気になって何が悪い」(PHP研究所)

前作「鉄客商売」での、本州各社に比べて、経営基盤も脆弱なJR九州の引き続きの、奮闘記。
本書では、JR九州を象徴する「ゆふいんの森」や「ななつ星」のデザイナーである水戸岡氏と筆者とのインタビューも収録されていている。
 
構成は
 
本気にまえがき
上場までの道のり① 逆境と屈辱
上場までの道のり② グッドデザイン イズ グッドビジネス
会社人生をまるっと変えた四ヶ月 丸井学校への入学
玄界灘 波高し① たからもののの社員たち
玄界灘 波高し② ケンチャナヨ課長
「外食王」への道 第二幕① レストランはメーカーである
「外食王」への道 第二幕② 上・京・物・語
「外食王」への道 第二幕③ 最高の大家さん
「南九州観光調査開発委員会」のこと① 会議は走る
「南九州観光調査開発委員会」のこと㉜ なんとなくカツオではダメなのだ
「エル・ブリ」に学んだこと 世界一をめざすがゆえに
上場までの道のり③ これが本気の人事だ
農業を始めた 動物記
或る仕事論 競争は力なり
きっかけは「日本一の朝ごはん」 日本一のたまご
宮崎・飫肥という理想形 まちの三題噺
その気にさせる力① いつでも最新の夢を
その気にさせる力② 本気を伝える戦略
本気の学び
 
となっていて、前作では、国鉄かたJRへの切り替えの頃から「ななつ星)誕生までの間の、福岡〜釜山間の高速船就航の誕生話やJR九州外食事業部の居酒屋「驛亭」やカレー店の「印度屋」が人気店になっていくまでのいわば成功物語、成り上がり物語が多くを占めていたのだが、本書で当方的に印象に残ったのは、JR九州の上場や「ななつ星」のところではなくて、フードサービス部門がいつの間にか
 
一本五円のコスト削減を成し得たわけだが、それ以上に失ったものは大きかった。来店客数が減少し、「手づくり」を行なっていた時期と比べると、売り上げそのものが二割から三割ほど落ち込んでいた。
 
といった風に、本社の指示によるコスト削減の美名のもとに、売上が激減していたものを
 
メーカーは、仕入れた原材料を自らの手で加工したり組み合わせたりして付加価値の高い商品をつくり出す。小売業は、出来上がった商品を仕入れ、ほとんど手を加えずに仕入れたままの状態で販売することを業とする。  そして外食業は、仕入れた食材を調理という加工を施し料理という付加価値の高い商品をお客さまに提供する。だから、外食業はメーカーのひとつとして分類される。小売業とは違う。
 
といった信念から、「手作り」の基本を取り戻して再生させるところが結構、泣かせどころなのだが、「管理部門」が口を出して「角を矯めて・・・」ということになるのは、どこの組織も同じなのであるな、とちょっと悲しくなる。
 
さて、未だ勢いの衰えないJR九州の、しかも、その躍進の原動力となった人物の回顧談であるので、少々、熱が熱すぎるところはあるが
 
一方で、 ひとつの夢がかなうということは、その夢が夢でなくなるということ。  次なる夢を描かなければ組織は停滞 してしまう。夢があるから、組織や人は進むべき方向を見失わない。 方向が見えていると「気」が満ち 溢れてくる ようになる。逆に、夢がなくなると「気」も集まってこない
 
と「前へ、前へ」と組織を動かしていく力には学ぶべきところ多数である。
特に「熱気あふれるビジネス書」を久々に読みたくなった向きにオススメでありますな。
 

No.2の重要性もわかったが、大変さもわかったような気がする — 大塚英樹「続く会社、続かない会社はNo.2で決まる」(講談社+α新書)

組織における「No.2」という存在がクローズアップされたのは、堺屋太一さんが、「豊臣秀長」に注目したあたりからであろうか。
そのNo.2の企業における役割や重要性について、熱く説いたのが本書。
 
構成は
 
第一章 いまこそNo.2精神を問い直せ
第二章 組織の浮沈はNo.2で決まる
第三章 だれも指摘しないNo.2不在のリスク
第四章 No.2が会社を救う
第五章 No.2の視点から未来を作る
 
となっていて、筆者によればNo.2とは
 
社員のモチベーションを上げ、社員を鼓舞するのはだれか。私は、トップの参謀であり、トップと社員をつなぐ複数の「No.2的存在」ではないかと考えている(P8)
 
私がいうNo.2とは、ヒエラルキーに基づく役職やポジションの「二番目」ではない。肩書は副社長かもしれないし、中間管理職であるかもしれない。・・No.2は、それぞれのレイヤー(階層)に存在する(P10)
 
というもので、どうやらトップに次ぐ役職ということに固定せず、機能としてとらえたほうがよいらしい。
 
そして、グローバリズムの浸透で特に顕著になった「強いトップ」「カリスマリーダー」には、辛めの評価のようで
 
カリスマリーダーさえ戴ければ、企業が時代の変化を乗り越えて持続的成長を遂げられるという考え方は、ただの幻想にすぎない。企業リーダーが真の力を発揮するためには、No.2の存在が不可欠(P89)
 
といったところにもそれは顕著で
 
これまで、日本のカリスマ経営者がことごとく失敗してきたのは、夢や思い込みを自分の殻に閉じ込めてしまったからだと思う。自分の夢をだれかに託し、その実現を楽しみにしようという人があまりにも少なかった。
(略)
もしうまくいっているケースがあるとすれば、必ずと行っていいほど、組織の中にトップを上手にサポートするキーマンがいる。これがNo.2である。(P25)
 
といったところで、筆者の No.2への期待はとても高いのである。
ただ、当方的に思うのは、今の日本の企業や役所組織がうまくいかいないところは、「良いとこ取り」をしようと中途半端にグローバリズムや成果主義を導入して、木に竹を接いだようなことになっているのが原因であるように思え、No.2がいれば、全て解決するというものでもないような気がする。
 
とりわけ、グローバリズムは、日本的組織にも根を張りつつあることは間違いなく、その意味で、No.2の役割も以前のものとは変化を求められるのは間違いないのだが、
 
No.2の役割の半分は、トップマターといっていい。トップの補佐役・参謀役・相談役としていうべき意見を表明し、伝えるべき情報を伝える。
(略)
また、No.2はトップの判断や決断が正しいかどうかをチェックし、もし判断や決断が間違っていれば素直に意見し、判断を変えさせ、決断を撤回させる。
(略)
No.2のもうひとつの役割は、社員のモチベーションを高めることである(P27)
舞台づくりを黒子となって行う世話役がNo.2である。ひとことでいえば、「社員の背中を押す人」だ。(P29)
 
というところも見ると、いやはやNo.2ってのは、「大変」の一言ですな、と思ってしまう。
 
まあ、カリスマリーダーだけを偏重する企業社会は、どちらかといえば働きにくい気がしないでもない。カリスマもいれば、それを支える番頭役のNo.2もいる。さらには、一番槍だけを狙う武辺者もいれば、謀反の意を含んだ軍師もいる、といった風に多士済々な世界が面白いのですがね。
 

二代目の女性社長の意気地、ここにあり — 諏訪貴子「町工場の娘 主婦から社長になった2代目の10年戦争」(日経BPS社)

起業家がブームになった時があって、とにかくアントレプレナーを目指せ、なんて風潮があった。最近では、サラリーマンが定年を迎えそうになる時に、起業を進めるアドバイスもあったりするのだが、そういった声に惹かれる人は、この本に目を通してから決断したほうがよいかもしれない。
 
構成は
 
第1章 突然、渡されたバトン
第2章 手探りの会社再生
 1 生き残りのための「3年の改革」
 2 体当たりの「人材育成」
 3 明日のための「フロンティア開拓」
第3章 私の仕事論
 
となっていて、第3章は、受け継いだ会社を、軌道にのせた現在の、仕事術、仕事論であるので、当方として読み応えのあったのは、やはり、第1章、第2章の、急死した父親に代わって外車を引き継ぎ、経営者として歩み始めたあたりであろう。
 
それは、引き継いだ途端、取引銀行に吸収合併を勧められたり、
 
父が亡くなった時、幹部も含め、社員の多くは私に「社長になってほしい」と言ったが、だが、それはあくまでも”お飾り”のつもりだったのだろう。・・私の「経営してほしい」とは思ってなかったのだ
 
という社内環境の中で、リストラを進めて幹部から罵倒されたり、といった「引き継ぎ劇」である。
 
そして、そんな彼女が
 
創業者は地震が示す方針や理念が先にあり、それに共感して後から入ってきた人たちと一緒に仕事を進めていけばいい。
それに対し、2代目は創業者の下で働いていた人が納得し、ついてきてくれるような方針を新たに掲げなくてはならない。
 
とさまざまな会社改革を進め、
 
「いや、社長はたまたま女だっただけですよね」
 
と社員に信頼され、支持されていく過程を読むと、いやいや会社を引き継ぐ、特に「モノ」を扱う製造業を引き継ぐというのはなかなかの苦労であるよな、と筆者の頑張りに賞賛するほかない感じを抱く。

さて、女性で父親の会社を継ぐということには、男性が継ぐ場合に比べて、より多くの苦労もあったと思うが、それを跳ね返しての社長業は見事としかいいようがない。サラリーマンから会社の継承を目指す方々、この苦労を背負えますかな。
 

「豪華観光列車」の成功の陰には、熱気あふれる「前史」があった — 唐池恒二「鉄客商売 ー JR九州大躍進の極意」(PHP研究所)

「ゆふいんの森」や「ななつ星」で、鉄道業界に大きな波を巻き起こした、JR九州の社長である唐池恒二氏の自叙伝。もっとも「自叙伝」とはいっても、1980年代の国鉄バスの営業所長あたりからの自叙伝なので、管理職としての奮闘記、という印象。
 
構成は
 
 
大嶋部長のこと
 ーJR九州は逃げない
ビートルから教わったこと
 ーJR九州は海もゆく
二メートル以内の男たち
 ーJR九州はとことん話し合う
外食王への道①
 ーJR九州は小さな「一家」の集まり
外食王への道②
 ーJR九州は教わってすぐ実践
ネーミングの神様
 ーJR九州はまちの思いも乗せる
外食王への道③
 ーJR九州は焦らず騒がず
外食王への道④
 ーJR九州は「気づき」のプロ集団
コンセプトこそすべて
 ーJR九州は言葉の感性を大切にする
外食王への道⑤
 ーJR九州はカレーも焼き鳥も究める
外食王への道⑥
 ーJR九州は常識を覆す
まちづくりと鐡道
 ーJR九州はまちと「元気」を交換する
櫻燕隊のこと
 ーJR九州は踊る!
ななつ星の不思議
 ーJR九州は世界最高峰を常に目指す
 
となっていて、実は、JRマンとして企画列車を走らせたところは、どちらかというと端に置いてあって、読後の印象は、労使対立激しい「国鉄バス」やお荷物といわれた「外食事業部」での奮闘が記憶に残る。
 
というのも、「ゆふいんの森」や「ななつ星」の成功譚はすでにいろんなところに、いろんな人の手で書かれているので少々手垢がついた感があるに対し、国鉄バスや外食事業部の話は、鉄道の成功の基礎となっている、いわば成功の「前史」のようなところがあって、成功の自慢話より、よほど味わい深い。
 
で、その「前史」となるものは、とても人間臭く、また、熱を帯びていて、
 
労使対立の厳しい国鉄バスの棚倉営業所で挨拶を何日も何日も繰り返し、ついには、そこのボス的職員から「所長は、どこから来たんかね」という言葉を引き出し、職場を「二メートル以内の男たちの軍団」に生まれ変わらせた話
 
とか
 
「当時のJR九州は、鉄道事業の効率化であぶれた社員を鉄道以外の、いわゆる関連事業に配転させることが常であった」外食事業部を、「われわれ外食軍団」に作り変え、「驛亭」や「きどらない洋食屋さん」「うまや」といった人気店を作り出した秘訣は
 
人生や仕事にも通じる。難局にも逃げずに真正面から立ち向かうと、必ず解決するのだ。嫌な仕事から逃げたり、やっかいな仕事を直視しなかったりあと回しにしたりすると、余計に問題が大きくなって取り返しのつかなくなることがよくある。 「逃げずに真正面からぶつかっていく」
 
 
人も職場も会社も「気」がなくなると、すべてのことがマイナスに働いていく。逆に、「気」を集め、「気」に満ち溢れた人は、必ずや勝利を手にすることができる。職場なら、明るく元気になっていく。会社なら、業績がよくなる。「気」には、そういう力がある。なんといったって、「気」は〝生命の原動力〟なのだから。
赤字を黒字にするには、「気」だ。これしかない。店舗に、外食事業部全体に、そして働く人全員に「気」を満ち溢れさせなければいけない
 
といった風で、まあ、かなりの「アナログ」ではあるのだが、これが妙に響いてくる。これに加えて、この「気」を集める方法とか、「ななつぼし」の成功のポイントとか、盛りだくさんなのであるが、全部をレビューするとこれは営業妨害であるので、後は「本書」で。
 
さて、成功者の自叙伝というものは、ともすると成功特有の臭いが気になるものなのだが、本書は、その熱気と泥臭さでそういうものを感じさせないですね。役人よりもっと役人らしい民間企業と揶揄されることもあるJRに、こういう熱い人もいたんですね、と感じ入った次第であります。
 

イノベーションはベンチャーの専売特許ではない? — 中野剛志「真説・企業論ービジネススクールが教えない経営学」(講談社現代新書)

一頃のベンチャー企業の育成施策が大流行りの状況が今も続いているとはいえないが、大企業が逼塞したり、ものづくりの勢いが鈍ったり、さらには「働き方改革」といった状況から、何か困るとベンチャーがどうこう、という状況は変わっていない。

 

本書は、そんな中で、ベンチャー企業、起業というものについて、ちょっと斜めからではあるが、冷静な分析であろう。

構成は

第1章 日本でベンチャー企業を増やすには
第2章 起業大国アメリカの真実
第3章 ベンチャー・キャピタルの目利き術
第4章 最強の起業家は誰か
第5章 オープン・イノベーションの本質
第6章 なぜイノベーティブな企業の方が負けるのか
第7章 なぜ日本経済は、いつまでも停滞から抜け出せないのか

となっているのだが、例えば、アメリカのベンチャービジネスについての

1990年代以降、アメリカでは世界的なIT企業がいくつも誕生しましたが、アメリカ全体の生産性は停滞しており、アメリカの労働者の実質賃金も低迷し続けています。IT企業の隆盛が、アメリカ国民を豊かにしたのかどうかは、必ずしも明らかではないのです(P57)

といった「政府の偉い人が言ってたことと違うんじゃん」と文句をいいたくなるあたりから始まる。

そして、日本のベンチャーや企業風土の遅れを指摘する識者がよく言う「長期雇用」については、

競争力のある企業が長期雇用を採用しているというのは、日本に限ったことではない。例えば、驚くべきことに、アメリカ最強の投資銀行であるゴールドマン・サックスは長期の人材育成を重視しており、しかも、2000年代以前までは、上級幹部は社内の生え抜きに限定する慣行があった(P149)

長期の競争力が強い企業は、長期雇用を重視するのか。・・長期の競争力の厳選は人材にあり、そして人材の育成や見極めには、その人材と長期にわたって付き合う必要があるからだというのです(P150)

とよく言われる「アメリカ」の別の姿を示したり、ベンチャー企業の生産性についても
シェーンは、一般的なベンチャー企業は、生産性が低いと述べています。もし、そうだとすると、景気と開業率の間の関係は、やはり景気が良いと開業率が上がるのであって、開業率が高いと景気が良くなるのではない(P53)

と冷や水を浴びせてくるところは、主流派には煩く感じるだろうな、と推測する。

ただ、筆者もベンチャーを否定しているわけではなく、

イノベーションには、多様な価値観がぶつかりあって、新たなアイデアが生まれるような環境が必要。まさに、シリコンバレーは、そういう場だとして賞賛されてきたが、事業を多角的に展開している大企業グループもまた、そのような多様性を生み出す環境を提供している(P108)

シリコンバレーの成功の秘訣が、その濃密な人的ネットワークにあるとするならば、私たちはシリコンバレーを羨ましがる前に、そもそも企業組織というものは、濃密な人的ネットワークのかたまりであることを思い起こすべき(P116)

といったようにイノベーションの解答が「ベンチャー」だけにあるのではなく、イノベーション環境の構築が実は組織的な大小よりも重要であることを主張し、ともすれば単純な大組織批判、日本批判に全てを帰そうとする論調を戒めていると拝察する。

もちろん大企業病というように組織の大きさが必然的に内包してしまう問題もあるし、組織の小ささゆえの限界もある。ただ、日本のイノベーションが生まれないという指摘への解答は、組織の大小でも、日本的特徴でもなく

共同体的な集団を解体してオープン化すればするほど「個」は見失われていくのです。そして、イノベーションも生まれなくなるのです。イノベーションを生み出したければ、企業を本当の意味で「共同体的な集団」へ変えることです。そして、社外のアイデアを取り入れる場合には、社外との関係をも共同体的にすることです。
まさに、シリコンバレーという地域共同体がそうであるように。(P158)

「長期の競争」とは成果が出るまでに時間のかかるイノベーションにおける競争です。これに対して「短期の競争」とは、収益性の競争であると言いかえられます。そして短期の競争には、イノベーションの競争はあり得ません。なぜなら、イノベーションは短期間では生まれないからです(P163)

と、イノベーションを生む環境というものを、具体的に考えないとね、というしてきてのように思える。

そして最後の方では

つまり「アメリカではの守」が提唱する経営手法や制度は、日本にはなじまないというだけではなく、アメリカでもうまくいっていないのです。言い換えれば、「アメリカではの守」は、実は、自分ちが憧れてやまないアメリカのことをよく知らないのです。
そう考えると、過去20年以上にもわたって、いくら構造改革をしても日本で起業が増えず、経済が活性化しないのも、当然であると言えるのではないでしょうか。なぜといって、イノベーションを起きにくくし、開業率を下げたアメリカの1980年代の政策を次々と模倣してきたのですから。
要するに、構造改革が足りないから日本経済がダメになったのではなく、構造改革をしたからダメになったのです。(P220)

と最後っ屁のようなことも漏らされてはいるのであるが、ここは「ではの守」の方もそうでない方も、冷静に「日本のイノベーション」を活性化する方策を力を合わせて考えるべきなんでしょうね。