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小氷河期末の決戦「桶狭間の戦」終結す ー 宮下英樹「桶狭間戦記 5」

「東海一の弓取り」と高く評価されていながら、天下を狙う途上で非業の戦死を遂げたせいか、現代では軽く扱われることの多い今川義元と、彼を討滅した戦国時代を集結させた「魔王」織田信長の若い頃を描く、仙石権兵衛のニェットコースター人生を描いた「センゴク」シリーズのビフォーストーリーである、「桶狭間戦記」シリーズの完結巻。

前巻で、満を持して尾張へ侵攻してくる今川軍に対し、重臣たちの反対を押し切って、今川義元の本陣への奇襲を考案した信長であったのだが、そのための重要な役割を担うはずの「熱海衆」が、今川方の勇将・岡部元信によって壊滅させられてしまい、心折れそうになっていたのを、馬廻組からの「前へ出よう」という無謀な励ましに再び力を取戻した信長が、いよいよ戦国時代の一大転換となった「桶狭間」へ向かうのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第29話 熱田と津島
第30話 今川本陣
第31話 奇跡の雨
第32話 強さと弱さ
第33話 第一陣
第34話 完璧なるもの
第35話 天運の交叉
第36話 自らの力量を以って
最終話 人間の限り

となっていて、まずは今回の今川と織田との戦の行方について津島商人の筆頭・堀田家と熱海商人の筆頭・加藤家が話し合っている場面からスタート。

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尾張へ向け、今川義元進軍。信長どうする? ー 宮下英樹「桶狭間戦記 4」

「東海一の弓取り」と高く評価されていながら、天下を狙う途上で非業の戦死を遂げたせいか、現代では軽く扱われることの多い今川義元と、彼を討滅した戦国時代を集結させた「魔王」織田信長の若い頃を描く、仙石権兵衛のニェットコースター人生を描いた「センゴク」シリーズのビフォーストーリーである、「桶狭間戦記」シリーズの第4巻。

前巻までで父・織田信秀の跡を受け「織田弾正忠」家を継いだ後、尾張下半郡を治める守護代の三奉行のうちの一家という立場から下剋上を繰り返し、尾張全体を手中に収めるまでにのし上がった信長なんおだが、ここで、駿府・三河を支配する今川義元という当時の「大強敵」との戦いが始まるのが今巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第19話 唐鏡の国
第20話 商業都市 津島
第21話 寄親寄子
第22話 今川義元出陣
第23話 大高城兵糧入れ
第24話 熱田神宮
第25話 分岐点
第26話 大高道
第27話 最悪のとき
第28話 運命の地

となっていて、まずは、今川義元の治める「唐鏡の国」駿河の首府・駿府へ周辺の国から難民が流入するとともに、その危機に気づかず国主・義元が蹴鞠やら宴会やらの浮かれた暮らしをしているのを憂えた、譜代の重臣たちが諫言のため駿府の「今川館」へやってくるところからスタート。

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骨肉の争いを乗り越え、信長は尾張を統一する ー 宮下英樹「桶狭間戦記 3」

「センゴク」シリーズのビフォーストーリーである、「桶狭間戦記」シリーズの第3巻。
前巻までで、生涯資した女性「吉乃」と出会ったのだが、今川の攻勢を凌ぐため、美濃の斎藤家の息女・蝶との婚姻を余儀なくされ、また、今川と戦で破れた後の謀反をおさめたとはいっても、勢力が減退しつつある「織田弾正忠家」を継いだ信長が、一転、尾張一統を成し遂げていくところが描かれるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第13話 下克上
第14話 謀略の才
第15話 大和守討伐
第16話 善徳寺の会盟
第17話 雪斎の紫衣
第18話 悲運なる君

となっていて、まずは織田信長が、主君である尾張の守護・斯波氏、守護代の織田家などが顔を揃えた連歌の会に出席し、そこで、父親の葬儀での乱暴などを非難されたり、名前を間違えられたりと侮られるシーンからスタート。織田信長の物語というと、弟の誅殺というところでは彼の冷酷さが強調されるのですが、彼が家督を継いだ当時、彼の「織田弾正忠」家は、守護代の下の奉行の家の一つという家格で、彼が生き延びていくためには、尾張を支配下にいれ、「下克上」を体現していかなければ敵わなかった、ということは認識しておかないといけないようですね。

そして、彼が守護家たちから侮られていることを見たのと、今川義元の企みに唆され、織田家の家臣で鳴海城の城主である山口親子が謀反を起こします。この反乱を治めるのに活躍したのが、家臣の次男・三男で組織したの信長の「馬廻り隊」で、家を継ぐ見込みが少なく、自暴自棄になりがちな層を上手く取り込んで、自軍の増強を図る戦略なのですが、この部隊の士気を維持し続けようとすれば、軍功を立てる機会である「戦」を常に継続削しないといけなくなる、ということもでもあるように思えます。

さて、今川義元・雪斎の尾張に向けた謀略の矛先は、今度は織田信長の 役・平手政秀へと照準があわされます。ここを崩して、織田弾正忠家をガタガタにしていけば、尾張守護・斯波家や守護代の織田家はなんとでもなる、という思惑でしょうか。
ここで取られた策は、平手政秀が横領していただの、今川と通じているなどのデマを流し、二人の間を離反させようという策で、残念なことに信長はこの噂を信じ、平手は自ら腹を切って、無実を証明するといった事態になります。よく言われるのは信長の行動を、平手政秀が死をもって諫めた、というストーリーなのですが、実は、今川義元・雪斎の謀略の犠牲者だった、と解釈することで、俄かに戦国時代らしい雰囲気が漂ってきますね。

そして、平手政英の死を、守護代・織田信友が利用して信長の暗殺を企みます。これを事前に察した信長は暗殺が企まれている茶席を欠席、反対に、暗殺の企てを、守護の斯波氏がバラしたのでは、と織田信友に疑いを抱かせ、彼に斯波義統を弑逆させます。さらに、この行為を咎めて、守護の仇を討つという名目で、信長の叔父・織田信光を引き込んで、

織田信友を攻め殺し、さらには、尾張の重鎮で家臣からも信頼の厚い叔父・信光を自らの家臣に討たせ、とうとう、尾張の下四郡を手中にすることに成功します。
さらに、美濃の斎藤道三が息子・義龍に討たれ、信長が後ろ盾を失う中、尾張の上四郡を治める守護代・織田信安との対立が表面化します。織田信安は、信長の母親・土田御前、弟の信行を味方に引き入れ、続いて、兄・信広も反旗を翻すなど、「織田弾正忠」家の内部対立に発展していきます。ここで、信長が採った作戦は「銭を中心とした経済」の実現を、土倉たちに約束し、もともと味方であった津島の堀田家に加えて、熱田の加糖家という豪商たちを味方にし、織田信安・織田信行勢を滅ぼすことに成功するのですが、その詳細は原書のほうでお読みください。

【レビュアーから一言】

本巻の真ん中あたりで、今川、北条、武田の三者が手を結ぶ「善徳寺の会盟」の場面がでてきます。
この会盟は、今まで境界争いを続けていた宿敵同志であった三さやが手を結び、今川は尾張へ、武田は越後の上杉へ、北条は北関東へとそれぞれの侵攻作戦に後顧の憂いをなくするというものなのですが、この背後に、雪斎・義元の企みで、当時の室町幕府の権門・名家で有力者である3つの家が、天下を持ち廻りで治めようという「天下輪任」の計略が会ったのでは、と筆者は推理しています。

もし、桶狭間で今川義元がうたれることがなかったら、こうした政治体制が実現していた可能性が高かったように思え、日本の歴史はおおきく違ったものになっていたように思えます。

スミスとタラスの旅はペルシャへ向かう ー 森薫「乙嫁語り 12」

19世紀の中央アジア、カスピ海の都市を舞台に、若い「夫婦」たちの暮らしを描く「乙嫁」シリーズの第12巻。前巻で、悲恋のまま離別してしまうのかな、と思われたところを一挙に持ち直して、一緒になったスミスとタラスのその後の旅の様子を中心に描かれるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第78話 閑暇(前編)
第79話 閑暇(後編)
第80話 サモサ
第81話 髪
第82話 巡礼者
第83話 ペルシアの夜に
第84話 手紙
第85話 みんなで写真撮影
第86話 長いお付き合い

となっていて78話から81話までは、大きな事件もなく、このシリーズの主要な登場人物たちの、ある意味平穏な毎日の暮らしが描かれています。

第78話、第79話では河を渡ることできず、河近くの草原を散歩する「スミス」の回想

カルルクが草原のゲルで修行の暮らしを送っているので、留守番をして暇をもてあましているタミル

大嵐がきたせいで漁にでられず家の中に籠っているサーミとサーム、ライラとレイリの双子同士の夫婦、

ペルシアの大邸宅の中にシーリーンとアニス

第80話では暇を持て余しているタミルと嫁入りのために大量の裁縫をしないといけないのだが、全く気が載らないパリアとが、パリアの飼い猫・サモサと戯れている様子

や、カルルクの兄夫婦が夜中にいちゃついていると、息子のトイレに邪魔される様子

といった感じです。

この当時、この中央アジア地域では、ロシアが自勢力を伸ばそうと虎視眈々と兵力を送り込むことを狙っていますし、それを察知したイギリスやフランスなどの欧米列強もこれを警戒していて、それぞれが支援する勢力間でいつ武力衝突が起きてもおかしくない情勢なのですが、人々の暮らしはそうした政情に関係なく、「滔々」と流れていくのだよ、といった雰囲気を醸し出しています。

第81話で、ようやくスミス一行が河を渡ることができ、物語が動き始めます。河を渡った先の村で「聖地巡礼」から帰還した老人の無事を祝う宴に招待され、そのお礼もかねて、参加者の写真を撮ってやったりするのですが、関係者の喜ぶ様子に、「写真」が当時の最先端技術であったことを改めて感じますね。そして、その流れで、スミスはタラスに、彼が中央アジアに来て旅をしている理由を説明します。

まあ、彼の言うことは、当時の冒険家たちにありがちの、欧米の「博物学者」的な動機で、タラスにとっては理解できないことだったかもしれないですが、

といった感じで、二人の心がしっかりと通い合っている様子は微笑ましいですね。

第83話から、スミスとタラスの旅は、かつてスミスが世話になったアニスとシーリーンの旦那のすむ、中央アジアの古都・ペルシャへ到着します。ここで、二人の旦那さんの厚意に甘えて、数日間過ごすことになるのですが、ペルシャの大貿易商人の家なので、今までの旅とはうってかわって贅沢な毎日を過ごすことになるのですが、詳しく原書のほうで。

ここの読みどころは、習慣も風俗も違う、タラスとアニス・シーリーンたちがかわす会話なのですが、言葉のほうは、なんとか通じ合っている様子です。会話の様子は原書を読んでもらうとして、ここでは中央アジアの美女三人のお姿をお見せしておきますね。

このほかに、この家でのスミスとタラスの写真撮影のドタバタとか、スミス一行が立ち去った後、ペルシャの銭湯の女湯ではどんな話がかわされたか、ってなところもありますので、原書でお楽しみください。

【レビュアーからひと言】

このシリーズには珍しく、途中でスミスが生まれたイギリスの実家の様子がでてきます。彼の実家はロンドンのシティの中の高級住宅で、スミスの父は国会議員をしているようなので、かなり裕福な家であるようです。

ここで、彼の姪っ子と甥っ子が登場するのですが、彼らがどういう役回りになるのかは次巻以降のお楽しみですね。

【関連記事】

中央アジアの若夫婦・カルルクとアミルの物語始まる ー 森 薫「乙嫁語り 1」

アミルに「嫁心」がつきました ー 森 薫「乙嫁語り 2」(エンターブレイン)

砂漠」の中の”タラス”と”スミス”の恋物語 ー 森 薫「乙嫁語り 3」(エンターブレイン)

アラル海の漁村のウエディング・ストーリー ー 森 薫「乙嫁語り 4・5」

アミル、親父との永遠の別れ。でも親父の死は自業自得と思う ー 森 薫「乙嫁語り 6」

ペルシャの「百合」の物語 ー 森 薫「乙嫁語り 7」

パミルの恋の行方は、果たしてどうなる・・・ ー 森 薫「乙嫁語り 8・9」

カルルクは弓の修行に頑張る。スミスには春が来たか? ー 森 薫「乙嫁語り 10」

タミルとスミスが再会。愛は「砂漠」を乗り越えるのだ ー 森薫「乙嫁語り 11」(芳文社コミックス)

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信長は「吉乃」に出会い、織田家敗戦の中、家督を継ぐ ー 宮下英樹「桶狭間戦記 2」

「センゴク」シリーズのビフォーストーリーである、「桶狭間戦記」シリーズの第2巻。
前巻で、信長を全国級に押し上げる原因となった「桶狭間」で敗れた今川義元が、名軍師・雪斎とともに、今川家の家督を継ぎ、今川仮名目録の改定など富国強兵に強め、今川家を強大な戦国大名としたところが描かれたのだが、今巻では、彼のライバルである、信長の父・織田信秀の戦国大名ぶりと信長が家督を継ぐまでが描かれる。

【構成と注目ポイント】

構成は

第7話 吉法師
第8話 津島の悪郎
第9話 堀田右馬太夫
第10話 生駒のお類
第11話 織田三郎信長
第12話 織田弾正忠信秀

となっていて、まずは織田信長の祖父、織田信貞が津島湊を焼き払死、支配下におくシーンからスタート。

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「心」は小学校の教員へ。事件防止へ地歩を固めようとするが・・ ー 東元俊哉「テセウスの船 2」

自分が生まれるほぼ三十年前に起きた、小学校の大量殺人事件の頃にタイムスリップした主人公が、事件の真相を究明する活動と、その事件の発生を防止しようとするタイムスリップ・ミステリー「テセウスの船」の第2巻。
前巻は、事件のおきた1989年の北海道にタイムスリップした主人公「心」が、第1の事件である女の子の農薬誤飲事故を防止できなかったのだが、どうやら事故ではなく、それを仕込んだ人物がいそうなエピソードを残したところまを受けて、次の事故や事件が起こっていくのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第8話 雪崩の日
第9話 紙切れの正義
第10話 もう一つの選択肢
第11話 世界で一番
第12話 守るため
第13話 5年田村学級
第14話 子供たちの希望
第15話 殺人鬼のおもちゃ
第16話 死んじゃえばいい

となっていて。まずは、女の子の農薬誤飲事件が起きた冬の村人の雪崩に巻き込まれる事故を、防止することに成功するところからスタート。

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「センゴク」のビフォー・ストーリーが開幕し、今川義元登場。 ー 宮下英樹「桶狭間戦記 1」

センゴク・シリーズの主人公である仙石権兵衛が仕える豊臣秀吉の主君。織田信長が、桶狭間で討ち果たす、今川義元の幼少期から、桶狭間の合戦までを描く、「センゴク」シリーズのビフォーストーリーが、この「桶狭間戦記」シリーズ。
シリーズの主人公は、今川義元、織田信長の二人で、TVドラマなどでは、出だしとして描かれることの多い「桶狭間」に至るまでの、駿河、三河、尾張の「戦国時代」を描き出しています。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 方菊丸
第二話 梅岳承芳
第三話 今川五郎義元
第四話 織田弾正忠信秀
第五話 松平次郎三郎広忠
第六話 太原崇孚雪斎

となっていて、まずは、後に今川義元を支える軍師兼宰相となる雪斎の若いころ、林材種建仁寺での修業時代から、シリーズが開幕。

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ネロはコルブロ将軍を処刑し評判下落。一方、プリニウスはフェニキアへ ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 9」

古代ローマ時代の政治家で、天文、塵、動植物、鉱物、地理などなど当時の世界の情報を集めた「博物誌」をまとめた「プリニウス」とローマに放火して焼き尽くし、「暗君」の見本のように扱われている「ネロ」をメインキャストにした、古代ローマの「叙事詩的」物語である「プリニウス」シリーズの第9巻。

今巻では、ローマを脱出し、ネロから逃れて旅を続けていたプリニウス一行がグラエキアの地でネロと再会するあたりや、その前後の、ローマのネロ暗殺未遂事件と当時のローマの英雄・コルブロ将軍の処刑といったところが描かれる。

【構成と注目ポイント】

構成は

57.シトラス
58.コルブリ
59.コリントス
60.アポロン
61.ギムナジウム
62.イルカ
63.ティルス

となっていて、前巻でグラエキアに着いたプリニウスを待っていたのは、ネロからの召喚状です。ネロがオリンピアの大祭に出席するので、そこへ「来い」というものですね。はじめは、この命令を従者のフェリクスが熱病に罹ったふりをして逃れようとするのですが、

そううまくはいかず、洞窟の中に隔離されてしまいます。ここで、古の太陽神の彫刻をみつけたりといった博物学的な収穫はあるのですが、いつまでも逃げ回れないと観念したプリニウス一行はネロの命令を受け入れることに。

一方、アルメニア国王から太陽神の盾を贈られて悦に入るネロなのですが、

その陰で、ネロを廃して、パルティアの戦で戦功をたてたコルブロ将軍を皇帝にしようという陰謀が淫行しています。どうやら、貴族に陰謀の罪を着せて、没収した財産を使って祭りを開いていることや、ネロの側近・ティゲリヌスへの反感が積もり積もっているようですね。
ただ、この陰謀事件を自勢力の拡大に逆利用しようとするのが、ネロの側近・ティゲリヌスの悪くどいところで、民衆やローマ貴族に人気の高いコルブロを、ネロの手で処刑させ、民衆を怒りを彼に向けようという魂胆ですね。この根底には、彼自身がいずれは皇帝に、という思惑があるように思います。

そして、コリントスに就いたところでネロは、この陰謀の報告を受けるのですが、ティゲリヌスの企みをしっかり見抜くあたりは、まだ彼も遊蕩ボケしていないようです。

しかし、ティゲリヌスの差配したコルブトの部下の発言などで、コルブト将軍を処刑せざるをえなくなります。このへんは、完全に「傀儡」皇帝となっている証拠でもあるのですが、ネロと再会したプリニウスが目撃したように、ケシ(アヘン)中毒にされているせいかもしれません。ネロが暴君化した原因に「鉛中毒」になったからという説もあるので、あながちこの「アヘン中毒」も筆者のフィクションとも言えないような気がします。この後、ローマの民衆の間でもネロの評判がどんどん落ちている様子が描かれているのが、これから支持を失い、自殺に追い込まれるネロの運命を暗示しているようですね。

ネロと面会した後、プリニウス一行は、グラエキアを離れフェニキアに向かいます。旅の途中で一緒になった子供を家族のもとへ送り届けるためですね。ところがフェニキアに着くと

といったように「家族に会いたくない」と言い始めます。その真相については、原書のほうで確認してくださいね。

【レビュアーからひと言】

ローマのプリニウスの家のほうでは、ネロとエウレクスが愛したブリタニアの女奴隷のプラウティナが偶然雇い入れられます。オクティアの海岸で野垂れ死にしそうになっているところを奴隷商人に拾われて売りに出されていた、という設定ですね。

彼女はその当時妊娠していて、プルニスス家で子供を産み落とすのですが、この子がどういう役回りを果たしていくのか、は次巻以降の展開ですね。

【関連記事】

古代ローマ時代の「百科事典」をつくった男の物語がスタート ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 1」

ネロとポッパエアは「ローマ」の退廃の象徴か ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 2」

プリニウスたちの再びの旅を「火山」が待ち構える ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 3」

カンパニアの地震からプリニウスは助かるが、ローマの闇はもっと深くなる ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 4」

そしてプリニウスの旅は「アフリカ」を目指す ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 5」

プリニウスはアフリカへ、ネロはローマ。物語は二つに引き裂かれる ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 6」

ローマの大災害の陰に、いろんな者たちが蠢くー ヤマザキ・マリ「プリニウス 7」

ポッパエアが妊娠し、「ネロ」のローマ帝国も安泰か、と思いきや・・ ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 8」(バンチコミックス)

父の犯した犯罪の真相を、タイムスリップで解き明かせ ー 東元俊哉「テセウスの船 1」

過去に戻って、あの瞬間のあの出来事を変えることができたら、というのは、誰しも思うところで、昔からタイムスリップした人物が過去の歴史を変えてしまったり、タイムパラドックスのために変えたと思っていた歴史がいつの間にか修復されていたり、といったようにSFのテーマとしては確立した分野である。

難しいのは、その歴史を変える動機で、変えてしまった歴史の魅力であるとか、変えたい歴史がどんなものであるとか、といったことが大事になるのだが、父親の犯した(とされている)大量殺人事件の謎を解く、といった家族の不名誉を子どもが晴らすという、タイムパラドックス・ミステリーが、東芝日曜劇場の2020年1月から竹内涼真の主演で放映される、この「テセウスの船」シリーズである。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 加害者家族
第二話 1989年1月7日
第三話 交わせない握手
第四話 過去は変わった
第五話 目撃者たち
第六話 変わらない過去
第七話 暴かれた秘密

となっていて、表題の「テセウスの船」というのは、

クレタ合間から帰還した英雄テセウスの船を後世に残すために。修復作業が行われた。古くなった部品を新しい部品の交換していくうちに当初の部品はすべてなくなって、新しいものに置き換わるのだが、では

ということで「同一性のパラドクス」といわれるものですね。これに派生して、交換した部品で、もう一つ船をこしらえたら、どちらが「テセウスの船」なのか?というものもあるようですね。

さて、話のほうは、本シリーズの主人公「心」が妊娠している妻・由紀と、彼の父親が犯した事件を語るシーンからスタート。
その事件というのは、北海道の音臼小学校で、16人の生徒と5人の学校職員、あわせて21名が、オレンジジュース入りの青酸カリで集団毒殺される事件で、その犯人として、当時、その村で駐在の警察官をしていた彼の父親が犯人として捕まり、その後、家族はとんでもない辛酸をなめることとなります。

その最終形が、「心」の妻・由紀がお産のために子どもを残して死んでしまった後、彼女の実家の両親が、孫を連れていくそうになるところで、その話し合いのために北海道へ出向いたときに、タイムスリップに巻き込まれ、事件のおきた1989年に迷い込む、という筋立てですね。

実はこの事件が起きる前に
・村の5歳の女の子が除草剤を誤飲して死亡
・数月経過後、その女の子の姉が行方不明に
・その翌月、村人の変死事件が発生
と矢継ぎ早に事故が起きており、実はこれは「事件では」と心の父親が密かに捜査していた、という伏線がありますね。
で、タイムスリップした主人公は、父親の犯した事件を「変えてしまおう」と思い立つのですが、それは、彼の姉が当時雪の中で遭難し顔が凍傷にかかってしまったのを、早期に救出して軽症におさめたことがきっかけになってます。

これに意を強くして、5歳の女の子の農薬誤飲事件をふせごうと、女の子の家から農薬を盗み出すのですが、どういうわけか、女の子は「農薬」を飲んで死んでしまい、過去を変えることに失敗します。

そして、この事件の捜査で犯人として疑われた彼は、この女の子を、父親が連れ出していたことを知ったり、農薬を父親が隠していることを発見したり、と父親への疑いが強まっていくのだが・・・、といった展開で、シリーズが展開していきます。最後のほうでは、真犯人のものらしい、モノローグもあって、真相はどんどん混迷していく、といった感じですね。

【レビュアーから一言】

今回、タイムスリップする道具立ては、突然、「白い霧」に包まれる、という定番の設定ですね。

こういう時の「白い霧」で有名なのは「バミューダ海域」での船や飛行機の失踪事件で、アメリカ空軍の戦闘機が行方不明になる時、「白い霧」に包まれた、といった無線が入ったというのが、この類の話のリーディングケースになっているのかもしれません。

信長上洛。参陣する静子が考案する作戦は? ー 「戦国小町苦労譚 5」

現役女子農業高校生が、戦国時代にタイムスリップして、持ち込んだ種子や後世の農業技術な器具を駆使して、尾張の信長のもとで大活躍する、時代改変もの「戦国小町苦労譚」のコミカライズ版の第5巻が『「戦国小町苦労譚 5」(アース・スター・コミックス)』

前巻までで織田政権内の「相談役」として、産業政策、農業政策にたくさんの成果をおさめて、政権内にしっかりと影響力を持ってしまった女子高生・静子なのだが、とうとう、織田信長の天下一統に駆り出されていくこととなるのが本巻である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第二十一話 円卓
第二十二話 火薬
第二十三話 上洛
第二十四話 計略
第二十五話 決着

となっていて、技術街をつくり、生活技術の開発に励み。磁器をつくる準備として耐火煉瓦をつくり、蒸溜酒をつくるために蒸留器を開発しているうちに、信長からアルコールを大量につくるよう命令されるところからスタート。このアルコールが、京都上洛で大きく役に立つことになります。

そして綿花の栽培を尾張・三河で共同栽培することとなり、両者の話し合いの機会がもたれる。三河方のメンバーは本田忠勝ほか3名なのだが、なかに白頭巾の男がいる、この正体はあとで。

ここで、綿花や木綿づくりの技術をおしげもなく、隣国・三河の武将に教える静子の態度に不審を抱く三河勢です。

静子は

とその理由を説明するのですが、たぶん、当時では想像もつかない「概念」だったことは想像にかたくありません。

ここで、静子が布団を本田忠勝と白覆面の武将に進めるのですが、白覆面は深い眠りに落ちる前に跳ね起きるのですが、忠勝は爆睡してしまいます。もともと静子のことを信用していることもあるのですが、布団に象徴される「温かさ」が人の寿命の長さに関係するということは想像できますね、

綿花栽培の交渉を上手くまとめた後、信長の次の命令をこなすために、静子が集めたのは、ひえ、あわ、きび、蚕の糞、人の尿といったもので、これによって「硝石」をつくるのですが、当時、南蛮からの輸入に頼っていたものを自家製造できることとなり、信長軍の戦闘力のUPはとんでもないことになりますね。硝石の自家製造は、史実では、江戸時代の後半にならないとできなかったような気がします。

話のほうはいよいよ信長の上洛へ。
静子の方は、綿花栽培や硝石の製造も成功させ、ご褒美として農作業に専念することを期待するのですが、信長から「甲冑」が届き、上洛戦に参陣しろ、という命令が下されます。

当時、女性は、戦に参陣することはよほどの例外でない限り「タブー」とされていたことなので、このあたりには、信長の先進性を感じます。

「戦」のほうは、信長の上洛戦の第一関門である「六角勢」との戦いの場面に移ります。
印象的には、信長が攻めあがる勢いに六角勢がどっと退却したようなイメージがあるのですが、本書によれば、観音寺城、和田山城、箕作城といいう天然の要害の城をつかいながら、もともと兵力が集まらない地域であるために、早期に退却して、相手の守りのスキをつきながら挽回するという戦法が常套手段だったようで、信長が今まで攻め込んで上洛しようとしても果たせなかたことは、単なる力攻めではうまくいかないことを示しているようですね。

ここで、今回、信長軍が一日で六角勢を崩壊させてしまったのは、静子が信長の命令で大量生産した「アルコール」と、現代からの知識をもとにつくった「ファイアー・ピストン」です。

これらをつかって信長のとった作戦は、六角勢を城に籠らせたうえで、退出口を封鎖します。そして、城近くまで密かに自軍のゲリラ部隊を近寄らせ、アルコールを詰めた壺を投げ入れ現場でファイアー・ピストンによって火を点けた火矢を打ち込みます。アルコールに引火した火勢はアッという間に広がって大混乱に陥るスキに攻め込む、といった先夫ですね。アルコールに点火した火はしばらく待てば収まるのですが、六角勢はそんな知識もない上に、当時、「火種」を大事にもちはこぶことでしかおこせなかった「火」を城のすぐ近くで大量におこすことができた、といったあたりは現代の知識を悪用した部類に入るのかもしれません。

【レビュアーからひと言】

岐阜から上洛の途につき、近江・高宮に到着した信長軍は、ここに陣を構えるのですが、ここで、静子は「兵站」の概念を織田信長の配下の武将たちにレクチャーします。

当時、荷駄に積めるだけの食糧をもっていき、食い尽くせば「退却」といった戦い方をしていた戦国武将たちにとっては、革新的な理論であったことは間違いないですね。
兵站を整えるということは、長期に亘る終わりのない戦闘が可能な体制を整えるということで、信長軍が兵農分離した「戦を専門に行う」近大軍に生まれ変わる大前提となるのですが、一方で、当時、農繁期になれば集結していた「戦乱」を一年中継続させることになることにもつながっていますね。

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