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手を掴めなかった苦い思いが、次のステップへの道標だ ー 成田名璃子「東京すみっこごはん 楓の味噌汁」(光文社文庫)

東京の私鉄駅沿線にある昔ながらの商店街のはしっこにある共同台所を舞台に繰り広げられる人情ものがたりの「東京すみっこごはん」シリーズの第四弾である。
再開発による閉鎖の危機も乗り越え、このすみっこごはんを守ってきた「柿本」と楓の母との思い出も前巻までで確認し、人情物語もほっこり度を増してきたのだが、今巻はちょっと「苦いもの」を後味に残す物語群である。

【収録とあらすじ】

収録は
「やすらぎのクリームコロッケ」
「SUKIYAKI」
「楓の味噌汁」
の三編。

まず、第一話の「やすらぎのクリームコロッケ」は、地方から出てきて、派遣社員をしながら、読者モデルをしている「瑠衣」という三十代の女性が主人公。都会に憧れて田舎を出、読者モデルという、華やかっぽい世界に身を置くために、生活をきりつめながら精一杯背伸びをすつ彼女の姿は、なんとも哀しく、彼女の心の中の空虚さにおもわずウルウルしてしまいますね。

すみっこごはんで、楓たち常連メンバーと共同調理を続ける中

私もたまらず「はっふぃ」と言いながら、くりーむころけのクリームが衣の中からとろけ出てくる口福に身を委ねた。どんな承認ボタンも押さなくていい。つくった相手は目の前にいて、皆の表情を見て満足気にしているし、私達もまた無言のナイスを言葉でもボタンでもなく、食べるという行為だけで伝えられるという確信があった。

といった感じで、すみっこごはんの新常連メンバーか、という期待もあったのだが、楓の境遇を誤解して、再び虚構に世界に帰っていくのが寂しいですね。

最後のほうで、すみっこごはんの2階の雨漏りがひどくなり、修理のため、2階に上がった楓たちは新しいノートを発見するのだが・・・、といったところの結末は原書で確認してください。

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「椿木家」の次期当主が、「見初」の力を呼び覚ます ー 硝子谷玻璃「出雲のあやかしホテルに就職します 5」(双葉文庫)

「出雲のあやかしホテル」シリーズも5巻目となったのだが、今巻は、4巻目の最後で、冬緒の実家の一族である「椿木」家の次期当主が、配下の式神を引き連れて、出雲空港に降り立ったことを引き継いで、なにやら不穏なスタートである。
さらに、プロローグで、記憶を失ったらしい母親と、彼女の娘らしい存在のやりとりがなにやら「昏い」始まりで、少々、陰鬱な出だしである。

【収録は】

第一話 藍の花は枯れることなく
第二話 赤と白
第三話 青いあかりは儚く煌めいて
第四話 時は止まることなく進み続ける
番外編 テレビで学ぶストーカー撃退法

となっていて、前半は、四華の有力一族・椿木家の次期当主は、出雲にやってきた理由と、椿木家の過去のスキャンダルっぽい事件に関する話。後半の二話は、月世界の住人が出雲にやってきたり、出雲の「神在月」の話であるのだが、底のところに、「見初」の四季神としての「力」が見え隠れしていますな。

 

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ホテル櫻葉に新しい「ハウスキーパー」が誕生いたします ー 硝子谷玻璃「出雲のあやかしホテルに就職します 4」(双葉文庫)

今巻以降の注目点は、

触れるだけで妖怪や幽霊、神様の力、感情までも操ってしまう。そんな能力を有していた陰陽師の一族、四季神家。見初はその四季神の血を引いているだけでなく、不完全ながらもその『触覚』の能力を使うことができる。
しかも、現在の四季神家の中で、その力を使えるのは見初ただ一人。

と前巻で明らかになった「見初」の能力がどういう波紋を巻き起こすか、というところであろう。前巻では、すでに失われていた「能力」ということであるので、これがどういう具合に展開されていくかは楽しみですな。

【収録は】

プロローグ
第一話 蓮沼家の人々
第二話 一輪の華と二人の男
第三話 深き山の中で山神が一人
第四話 狸の嫁入り
エピローグ

となっていて、今巻では、「見初」力の披瀝は、今巻ではちょっと少なめ。
最終話でこの力の威力が垣間見えるのだが、小さな女の子の山の神・柚枝の力を暴走させる方向え発揮されているので、手当たり次第にマシンガンを連射している状態で、危なくて仕方がない状況である。
そして、プロローグで永遠子が熱中症にかかる話の滑り出しに使われる程度に、そんなに大きな意味はありませんので念の為。

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定番の「不思議話」の後で、”見初”の隠された秘密が出現する ー 硝子谷玻璃「出雲のあやかしホテルに就職します 3」(双葉文庫)

「出雲のあやかしホテル」シリーズも3巻となって、主人公の「見初」を始め、それぞれのキャラの持ち味や立ち位置も定まってきたところ。
登場人物たちも、物語の設定さえつくっておけば、勝手に動き始める時期なのであるが、次の展開への種を仕込んでおかないと、シリーズそのものがしぼんでいく可能性を持ち始めるときでもある。その意味で、今巻は、なじみの不思議話のほかに、陰陽師の一族の過去の争いを連想させるエピソードも登場させながら、次巻以降の新しい展開につなげるつくりである。

【収録は】

第一話 桜情景
第二話 太陽と月
第三話 人魚の血
第四話 ひととせ様と見初

となっていて、メインは、永遠子と祖母の思い出や天樹の生家にまつわる話など、登場人物の姿を深掘りしていく始めの二話に、八百比丘尼を連想させる「人魚伝説」をモチーフにした第三話といったメニューとなっているのだが、おさえておかないといけないのは、「見初」の能力の秘密が明らかになる第四話である。
今まで、少々行き過ぎではあっても、陰陽師の社会は平穏さが保たれてきているような印象であったのだが、どうやら冬緒の属する「椿木家」を中心にきな臭いものが漂っているようで、次巻以降に備えて、そのあたりをおさらいしておいたほうがいいかもしれんですね。

 

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「見初」の周りの不思議の出来事はさらにパワーアップするのだった ー 硝子谷玻璃「出雲のあやかしホテルに就職します 2」(双葉文庫)

ベルガールとして就職した、妖怪や神様といった「怪しいもの」が見える娘「時町見初(ときまちみそめ)」が就職した島根県の出雲にある、人と人外が混合のホテル「ホテル櫻葉」でおきる、「不思議」と「大騒動」のお話を綴った「出雲のあやかしホテルに就職します」シリーズの第2弾である。

【収録は】

第一話 黄昏の夢にて
第二話 神様のために
第三話 温かさに焦がれて
第四話 恋と愛のカクテル

となっていて、就職後6ヶ月経過し、時は10月。出雲は「神在月」ということで、日本各地から、神様がやってくる時期を迎え、「見初」周辺の騒動も、ますますパワーが増加するばかりなのが、今巻である。

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「妖かし」のお客の多いホテルの「不思議物語」の始まり ー 硝子谷玻璃「出雲のあやかしホテルに就職します」(双葉文庫)

縁結びや国引き神話で有名な「出雲」の地に、老舗で、キレイで、ご飯が美味しいホテルがある。その名も「ホテル櫻葉」というのだが、そこは、ある噂があるため、お客はまばらで閑散としているのだが、総じてみると、かなり泊り客は多いという不思議なホテルである。

そんなホテルを舞台にした、「不思議」の物語が『「出雲のあやかしホテルに就職します」(双葉文庫)』である。

【収録は】

第一話 霊感娘と就職
第二話 ホテル櫻葉
第三話 冬緒と白陽
第四話 比良と桃山

となっていて、シリーズの最初の巻とあって、まずは、シリーズの主人公である「時町見初(ときまちみそめ)」という就活中の女の子の登場から始まって、彼女がホテル櫻葉への就職、そして就職後の「不思議」の始まり、というところである。
今巻は、最初と会って、「不思議」の話もホテルの他の従業員にまつわる話が多いですな。

主な登場人物は、ホテルの経営者の櫻葉永遠子(さくらばとわこ)、総支配人の柳村雪津、ベルボーイの椿木冬緒、料理長の桃山久、バーテンダーの十塚天樹・海帆といったところで、実はこのメンバーそれぞれがワケありなのであるが、まあ、そこは物語の進展にあわせて明らかになっていくので、アセリは禁物である。

 

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楓の強さと健気さにあらためて感心いたしました ー 成田名璃子「東京すみっこごはんー親子丼に愛を込めて」(光文社文庫)

駅前の再開発騒動で、常連メンバーに中に亀裂が入りそうであった、第二巻の危機を乗り越えてどうにか順調な運営が保たれ始めた「すみっこごはん」。
今巻もいつもと変わらない「人情噺」が展開されていくのだが、奈央と一斗の結婚がそろそろ決着か、というところと、楓が再びいじめにあっているというのが、今巻の心配の種である。
 

【収録は】

 
「念のための酢豚」
「マイ・ファースト鱚」
「明日のためのおにぎり」
「親子丼に愛を込めて」
 
の四編で、「明日のためのおにぎり」のところで、ボクシングジム経営者で人相の悪い「柿本」の口から、再開発は頓挫しそうだ、ということが明らかにされるので、先にネタバレしておく。
 
 
 

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”すみっこごはん”の存続の危機を跳ね返せ ー 成田名璃子「東京すみっこごはんー雷親父とオムライス」(光文社文庫)

都会の片隅にある”共同台所”の「すみっこごはん」を舞台にした現代版人情噺の第二弾。
早逝した母から娘に託された「レシピノート」を伝えるために守られてきたことが、前作で明らかになった「すみっこごはん」なのだが、近くの駅の再開発が始まり、「すみっこごはん」の敷地もその範囲内に含まれることになり、存続の危機に立たされるのが今巻である。
 

【収録は】

 
「本物の唐揚げみたいに」
「失われた筑前煮を求めて」
「雷親父とオムライス」
「ミートローフへの招待状」
 
となっていて、楓、奈央、柿本、丸山といったレギュラーメンバーのキャラも落ち着いてきたところで、単話ごとに新たな参加者を迎えながらの人情噺が展開されていく。
 

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都会の片隅の「ほっこり」とする”共同台所”の物語 ー 成田名璃子「東京すみっこごはん」(光文社文庫)

都会の路地の奥のほうに

一 一ヶ月ごとに更新の会員制とします
(略)
四 くじであたりを引いた人が、その日の料理当番です
五 当番は、レシピノートから好きなメニューを選んでつくりましょう
  その時、なるべきレシピ通りにつくってください。必ず野菜を入れること
(略)
八 たとえ出来たお料理がまずくても、文句を言わないで食べましょう
九 食べ終わった食器は、ちゃんと自分で洗いましょう
十 店の奥の椅子は永久予約席です。足りない時以外は動かさないようにしましょう

というルールが決められている「共同台所 すみっこごはん ※素人がつくるので、まずい時もあります」という張り紙がされている、古びた一軒家がある。
ここは、会員が集まって、その日の当番が夕食を自炊して、皆でそれを食べる、という不思議な場所。そんな「すみっこごはん」を舞台にした、現代都市の”すみっこ”の人情物語である。

【収録は】

「いい味だしてる女の子」
「婚活ハンバーグ」
「団欒の肉じゃが」
「アラ還おやじのパスタ」
「楓のレシピノート」

の五編の短編仕立て。「会員制」とはいっても、その日食事をする人数の調整さえつけば、その場で入会OKという、ゆるゆるの会員制なので、メンバーはかなり無造作に追加されていくのだが、今巻の主な登場メンバーは、女子高校生の「楓」、彼女の幼馴染「純也」、大手企業のアラサーのOL「奈央」ちゃん、板前の「金子」さん、主婦の「田上」さん、ミュージシャンの「一斗」くん、区役所の公務員の「丸山」さん、ごま塩頭の人相の悪い「渋柿」こと「柿本」さんといった面々である。

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下町の町工場の「大逆転劇」は爽快感、半端ない ー 池井戸 潤「下町ロケット ヤタガラス」(小学館)

「ゴースト」編で帝国重工のロケット分野見直しと、知財訴訟を解決してやったギアゴーストの突然の裏切りにあって、窮地を脱しきれない「佃航平」率いる佃工業と、家業の農業を継いだものの農協や周辺農家との軋轢でストレスが貯まる一方の佃工業の元経理部長「殿村直弘」なんであるが、今までの悪戦苦闘の努力が実って、スパーッと霧が晴れていくのが、この「ヤタガラス編」である。

【構成は】

第一章 新たな提案と検討
第二章 プロジェクトの概要と変遷
第三章 宣戦布告。それぞれの戦い
第四章 プライドと空き缶
第五章 禍福スパイラル
第六章 無人農業ロボットを巡る政治的思惑
第七章 視察ゲーム
第八章 帝国の逆襲とパラダイムシフトについて
第九章 戦場の聖譚曲
最終章 関係各位の日常と反省

となっていて、ヤタガラス編のスタートは、盟友になるはずであったギアゴースト社が佃工業のライバル会社・ダイダロスとの提携という苦いスタートから始まるのだが、ロケット事業から追われた「財前」が帝国重工の農業ビジネスの立ち上げのため、無人ロボット耕作機の研究者・野木教授のところ一緒に訪れてくれというところから新しい物語が始まる。

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