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「児童書」は「大人」の必読書でもある ー 出口治明「教養は児童書で学べ 」(光文社新書)

「子ども」に物事を教えるというのは意外に難しいもので、余計な夾雑物や邪心があると、子どもはしっかりと見抜いてしまうもの。
これは「本」の場合も同様であるらしく、本書によれば、

いい児童書は、無駄をすべて削ぎ落としたうえで、ていねいに作ってあるのです。
児童書は、子どもの気持ちにならないと楽しめない本ではなく、優れたものは、子どもが子どもとして楽しめるのと同様に、大人も大人として楽しめます。

ということで、児童書はまっとうで良質な「大人の本」として扱うべきであるようだ。

本書は、そんな児童書の中から、当代きっての読書家である出口治明さんがとびきりの10冊をチョイスして「読みどころ」を解説したのが本書である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 『はらぺこあおむし』には宇宙がぜんぶ詰まっている
第2章 『西遊記』ははちゃめちゃだけど愉快痛快
第3章 『アラビアン・ナイト』でわかる、アラブ人ってほんとにすごい。
第4章 どんな人生にも雨の日があるから『アンデルセン童話』を読む
第5章 『さかさ町』で、頭と心をやわらかくする
第6章 「エルマーのぼうけん』には子どもの「大好き!」がテンコ盛り
第7章 『せいめいのれきし』で気づく、いまを生きることの大切さ
第8章 毒があるから心に残る『ギルガメシュ王ものがたり』
第9章 「効率ばかり追って幸せですか?」と『モモ』は問いかける
第10章 大人も子どもも『ナルニア国物語』を読もう

となっていて、とりあげられている本は、児童書といっても、絵本から神話、童話までかなり幅広いともに、誰もが子供の頃に一回ぐらいは手にとったであろう本も含まれていて、子供の頃の本を手にして感じた楽しさや面白さを懐かしく思い出す人も多いと思う。

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「廃仏毀釈」の因果が明治になって復讐をはじめる ー 畠中恵「明治・金色キタン」(朝日文庫)

明治の二十年代、銀座にある派出所に勤務する「滝」と「原田」の二人の警察官を主人公にするシリーズの第2弾。
第1弾の「明治・妖モダン」は江戸から明治に時代が移る中で、こっそりと人間の世の中へ忍び込んでいた「妖」たちが、その姿をそろそろと現してくる物語であったのだが、今巻は、幕末に地方の小藩「甫峠藩」の「甫峠村」でおきた「廃仏毀釈」の前触れともいえる、「五仏五僧失踪事件」を発端に、その事件の関係者が明治になって出会った怪異事件に、牛鍋屋・百木屋の常連たちが絡んでいく物語である。

話のもととなる「五仏五僧失踪事件」のおきた「甫峠村」は架空の村であろうから場所探しをしてもしょうがないのだが、維新後「筑摩県」に編入されたとあるので、今の長野県中信地方・南信地方、岐阜県飛騨地方のどこか、菜種油が名産で江戸にも出荷していたとあるので、太平洋側に近い諏訪市などのある南信のどこかかな、と推察してみる。

明治の初期にここの「菜の花」が病気のために不作になって菜種油の生産ができないうちに、西洋から石油が入って廃れたといったエピソードは、明治初期のエネルギー転換による日本の産業の構造変換と、維新の開国によって外国から産物だけでなく病もはいってきたのか、といったことを思わせて、「開国」による「陰」の部分を連想させる。

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明治の女性も強かった。沙羅ちゃん、世界へ雄飛する ー 畠中恵「若様とロマン」(講談社文庫)

警視庁の巡査となった、元旗本の長瀬健吾とその友達の若様たち、横浜の居留地育ちの西洋菓子職人・皆川真次郎、成金の金持ちの美人でお侠なお嬢様・小泉沙羅たち、明治時代の元気いっぱいの向こう見ずな若者たちが活躍する「若様」シリーズの第3弾。

今回は、貧乏旗本の末裔で徳川方の賊軍のせいでいつも金欠状態だが、武術に腕は確かで結束も固い「若様」たちの「見合い話」が突然持ち上がっての大騒動である。

見合い話が持ち上がった訳は、戦争の気配が強まってきた時勢に危機感を持った沙羅の父親の小泉琢磨が、彼と意見を同じくする警察の大幹部・大河出警視や巡査教習所の元幹事・有馬たちと、戦争を阻止したいグループの数を増やすため、「若様」たちを見合い結婚させ、その親族を味方に引き入れようと考えたことによる。時代設定的には、明治政府の初めての大掛かりな対外戦争となる「日清戦争」間際という辺りと推測するので、明治24〜25年といったところであろうか。

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元旗本の若様、巡査教習所で大暴れの毎日 ー 畠中恵「若様組まいる」(講談社文庫)

「アイスクリン強し」であっけらかんとしたデビューをした、元二千石の旗本の若様・長瀬健吾たちをメインキャストにした「明治の若様組」シリーズの第二弾。

第二弾ではあるが、前作の「アイスクリン強し」などのシリーズ各話の後を受け継ぐ話ではなく、長瀬たち元旗本の若様たちがなぜ集団で「巡査」になったか、そして、薩長の側なのに、彼らと仲のよい「玉井」たちとどこで知り合ったのか、といったことが語られる「前日譚」である。

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元旗本の若様たち、明治政府の”巡査”となる ー 畠中恵「アイスクリン強し」(講談社文庫)

維新後に巡査となった、元旗本の跡取りで組織する「若様組」のリーダー格「長瀬健吾」と、旗本家柄ながら孤児となり横浜の居留地で育った「皆川真次郎」、成金の娘で、お侠ながらスゴイ美人の「小泉沙羅」の三人を中心に、明治の中盤である明治二十年代を舞台に繰り広げられる「明治の青春小説」。

明治時代に限らず戦前の時代を舞台にした小説の主人公は、人生や実らない恋愛に悩んでいたり、あるいは日本が秀吉の時以降経験のなかった外国との戦争に翻弄されたりといったことが多いのだが、帝国憲法の制定から日清戦争の開始前という時代の空気を反映してか、将来の戦争の暗雲を感じながらも、「元気」に動き回るのが、なんとも「あっけらかん」として楽しくなる。

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「明治」になっても闇に潜む「妖」は江戸と同じ ー 畠中恵「明治・妖モダン」(朝日文庫)

明治時代を舞台にした小説というと、司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」や「翔ぶが如く」といった歴史小説か、梁田風太郎さんの「明治断頭台」シリーズや坂口安吾さんの「勝海舟」を主人公にした「安吾捕物帳」といったところが目立つところで、本書のような幻想小説の風味のあるミステリーには、最近お目にかかっていない。
本ブログでもレビューしたのは、山本巧次さんの「開化鉄道探偵」ぐらいではないだろうか。

「明治」という時代が遠くなってしまった、ということもあるのだろうが、文明開化や日清・日露戦争など、欧米諸国へ追いつけ追い越せと国を発展させる色合いが強くて、闇の中から伺うようなところのあるミステリーや幻想小説には向かない時代とみられているところもあるのだろう。

本書は、そういう中で明治二十年頃、銀座四丁目のある派出所に勤務する警察官を主人公として、銀座を舞台に起きる数々な奇妙な事件を解決していくミステリーなのだが、単なる謎解きでなく、あちらこちらに「妖」が顔を出す「怪奇風ミステリー」である。

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手を掴めなかった苦い思いが、次のステップへの道標だ ー 成田名璃子「東京すみっこごはん 楓の味噌汁」(光文社文庫)

東京の私鉄駅沿線にある昔ながらの商店街のはしっこにある共同台所を舞台に繰り広げられる人情ものがたりの「東京すみっこごはん」シリーズの第四弾である。
再開発による閉鎖の危機も乗り越え、このすみっこごはんを守ってきた「柿本」と楓の母との思い出も前巻までで確認し、人情物語もほっこり度を増してきたのだが、今巻はちょっと「苦いもの」を後味に残す物語群である。

【収録とあらすじ】

収録は
「やすらぎのクリームコロッケ」
「SUKIYAKI」
「楓の味噌汁」
の三編。

まず、第一話の「やすらぎのクリームコロッケ」は、地方から出てきて、派遣社員をしながら、読者モデルをしている「瑠衣」という三十代の女性が主人公。都会に憧れて田舎を出、読者モデルという、華やかっぽい世界に身を置くために、生活をきりつめながら精一杯背伸びをすつ彼女の姿は、なんとも哀しく、彼女の心の中の空虚さにおもわずウルウルしてしまいますね。

すみっこごはんで、楓たち常連メンバーと共同調理を続ける中

私もたまらず「はっふぃ」と言いながら、くりーむころけのクリームが衣の中からとろけ出てくる口福に身を委ねた。どんな承認ボタンも押さなくていい。つくった相手は目の前にいて、皆の表情を見て満足気にしているし、私達もまた無言のナイスを言葉でもボタンでもなく、食べるという行為だけで伝えられるという確信があった。

といった感じで、すみっこごはんの新常連メンバーか、という期待もあったのだが、楓の境遇を誤解して、再び虚構に世界に帰っていくのが寂しいですね。

最後のほうで、すみっこごはんの2階の雨漏りがひどくなり、修理のため、2階に上がった楓たちは新しいノートを発見するのだが・・・、といったところの結末は原書で確認してください。

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「椿木家」の次期当主が、「見初」の力を呼び覚ます ー 硝子谷玻璃「出雲のあやかしホテルに就職します 5」(双葉文庫)

「出雲のあやかしホテル」シリーズも5巻目となったのだが、今巻は、4巻目の最後で、冬緒の実家の一族である「椿木」家の次期当主が、配下の式神を引き連れて、出雲空港に降り立ったことを引き継いで、なにやら不穏なスタートである。
さらに、プロローグで、記憶を失ったらしい母親と、彼女の娘らしい存在のやりとりがなにやら「昏い」始まりで、少々、陰鬱な出だしである。

【収録は】

第一話 藍の花は枯れることなく
第二話 赤と白
第三話 青いあかりは儚く煌めいて
第四話 時は止まることなく進み続ける
番外編 テレビで学ぶストーカー撃退法

となっていて、前半は、四華の有力一族・椿木家の次期当主は、出雲にやってきた理由と、椿木家の過去のスキャンダルっぽい事件に関する話。後半の二話は、月世界の住人が出雲にやってきたり、出雲の「神在月」の話であるのだが、底のところに、「見初」の四季神としての「力」が見え隠れしていますな。

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ホテル櫻葉に新しい「ハウスキーパー」が誕生いたします ー 硝子谷玻璃「出雲のあやかしホテルに就職します 4」(双葉文庫)

今巻以降の注目点は、

触れるだけで妖怪や幽霊、神様の力、感情までも操ってしまう。そんな能力を有していた陰陽師の一族、四季神家。見初はその四季神の血を引いているだけでなく、不完全ながらもその『触覚』の能力を使うことができる。
しかも、現在の四季神家の中で、その力を使えるのは見初ただ一人。

と前巻で明らかになった「見初」の能力がどういう波紋を巻き起こすか、というところであろう。前巻では、すでに失われていた「能力」ということであるので、これがどういう具合に展開されていくかは楽しみですな。

【収録は】

プロローグ
第一話 蓮沼家の人々
第二話 一輪の華と二人の男
第三話 深き山の中で山神が一人
第四話 狸の嫁入り
エピローグ

となっていて、今巻では、「見初」力の披瀝は、今巻ではちょっと少なめ。
最終話でこの力の威力が垣間見えるのだが、小さな女の子の山の神・柚枝の力を暴走させる方向え発揮されているので、手当たり次第にマシンガンを連射している状態で、危なくて仕方がない状況である。
そして、プロローグで永遠子が熱中症にかかる話の滑り出しに使われる程度に、そんなに大きな意味はありませんので念の為。

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定番の「不思議話」の後で、”見初”の隠された秘密が出現する ー 硝子谷玻璃「出雲のあやかしホテルに就職します 3」(双葉文庫)

「出雲のあやかしホテル」シリーズも3巻となって、主人公の「見初」を始め、それぞれのキャラの持ち味や立ち位置も定まってきたところ。
登場人物たちも、物語の設定さえつくっておけば、勝手に動き始める時期なのであるが、次の展開への種を仕込んでおかないと、シリーズそのものがしぼんでいく可能性を持ち始めるときでもある。その意味で、今巻は、なじみの不思議話のほかに、陰陽師の一族の過去の争いを連想させるエピソードも登場させながら、次巻以降の新しい展開につなげるつくりである。

【収録は】

第一話 桜情景
第二話 太陽と月
第三話 人魚の血
第四話 ひととせ様と見初

となっていて、メインは、永遠子と祖母の思い出や天樹の生家にまつわる話など、登場人物の姿を深掘りしていく始めの二話に、八百比丘尼を連想させる「人魚伝説」をモチーフにした第三話といったメニューとなっているのだが、おさえておかないといけないのは、「見初」の能力の秘密が明らかになる第四話である。
今まで、少々行き過ぎではあっても、陰陽師の社会は平穏さが保たれてきているような印象であったのだが、どうやら冬緒の属する「椿木家」を中心にきな臭いものが漂っているようで、次巻以降に備えて、そのあたりをおさらいしておいたほうがいいかもしれんですね。

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