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一太郎の前世をめぐって「妖」は大騒動 ー 畠中恵「むすびつき しゃばけ17」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第17弾が本書『畠中恵「むすびつき」(新潮文庫)』。

はじめのほうの「序」のところで、一太郎、仁吉、佐助、寛朝、屏風のぞきたちが、湯豆腐の鍋を語りながら語り始めたのが、「我が身の前世」の話、ということで、一太郎をはじめ、人の前世と生まれ変わりが今巻を通じて流れるテーマとなってます。

【構成と注目ポイント】

構成は

「序」
「昔会った人」
「ひと月半」
「むすびつき」
「くわれる」
「こわいものなし」
「終」

となっていて、まず第一話の「昔会った人」は、妖封じで有名な広徳寺の僧・寛朝が武家から預かった「碧い宝玉」にまつわる話。その「玉」はすでに付喪神化していて、「若」という言葉をつぶやいている。もちろん、若だんな・一太郎と関係しているかどうかはわからないのだが、長崎屋の面々なら謎を解いてくれるかも、といったかなりいい加減な動機で若だんなたちを呼び出したもんであるらしい。ところが、偶然、若だんなについて寺へやってきていた貧乏神の金次が、二百年以上前、彼が日本のあちことを人を貧乏にしながら放浪していた時に出会った気がする、と言い出して・・・という展開です。
話のほとんどは、金次の当時の思い出話なのですが、最後のほうで、突然、一太郎との関係が飛び出してくるのでお見逃しなく。

第二話の「ひと月半」は、箱根に湯治に言ったきり一ヶ月半以上も長崎屋に帰ってこない、一太郎、仁吉、佐助の留守におきた出来事です。彼らの留守に、「自分は死神だ」と名乗る三人の「妖」たちが長崎屋を訪ねてきます。そして、彼らは自分こそが箱根で事故にあって死んでしまった若だんな
・一太郎の生まれ変わりだ、と主張するのですが・・・、という展開です。病弱な一太郎はいないので、死神の出番はないように思えるのですが長崎屋にやってきた本当の理由と、果たして一太郎の生まれ代わりなのか・・・、といった筋立てですね。

第三話の「むすびつき」は鈴の付喪神である「鈴彦姫」の依代の「鈴」が祀られている神社でおきる騒動。彼女は、その神社の神主で、一太郎の生まれ変わる前の人物では、と思える神主がいた、と告白します。雰囲気的には、その神主にちょっと惚れている感じですね。ただ、その神主・星之倉宮司は金の細工ものがうまく、収入の少ないその神社の経営を支えていたらしいのですが、急な病で死んでしまいます。ところが、その死後、星之倉宮司が扱っていた金細工に使う「金」がなくなってしまい・・・、という展開で、その失くなった「金」の在り処を探し出すのに、若だんな・一太郎が推理をめぐらす筋立てですね。

第四話の「くわれる」では、三百年前に当時、「若さん」と言われていた一太郎と出会って、相談事があればいつでも頼ってこい、と言われた、と主張する娘「もみじ」が現れます。もちろん、三百年前というぐらいなので「人」ではなく「妖」、しかも場合によっては人を食ってしまう「鬼女」です。その彼女がいうことには、親から嫌な縁談を押し付けられたために家出してきたとのこと。そして、どうせ結婚するなら「若さん」と無理難題をいってくるのも問題なのですが、家出の手伝いに、その縁談の相手の「鬼」が「もみじ」が心配でついてきている、という妙な展開になっています。
さらに、「もみじ」と一太郎の許嫁・おりんが何者かに誘拐されるという事件も勃発し・・・という展開です。

最終話の「こわいものなし」では猫又の「おしろ」の知り合いの「ダンゴ」という猫又の飼い主の笹女さんのお隣に住んでいる「夕介」という青物売りの男が主人公です。彼は「人は生まれ変わる」という噂が本当かどうか確かめるために、猫又がいる長崎屋にやってきたのですが、輪廻・転生の話を教えるのを面倒がった仁吉たちは、彼を広徳寺の寛朝和尚のところへつれていきます。寛朝にその役目を押し付けようというわけですね。ところが、寛朝は、彼の弟子が住職をしている寺と、その隣にある神社の諍いに巻き込まれていて、広徳寺はその諍いが巻き起こす怪異で大騒動となっています。そして、この騒動に巻き込まれて、夕介が命を落としてしまうことになるのですが・・・といった展開です、。

【レビュアーから一言】

第四話の「くわれる」では、餡づくりの修行をしている栄吉が、安野屋での修行を切り上げて、実家で修行しては、という話が持ち上がっています。
栄吉の腕が一向に上達しないこともあるのでしょうが、彼は餡づくりは駄目でも、前巻までの「辛あられ」とか今巻での「甘辛味噌団子」とか、「辛味」系のヒット商品の開発にかけてはかなりの才能を示している上に、材料管理などの製造管理の才能も示しています。師匠として菓子作りを教えている安野屋としては、見どころのない「甘い餡」がそろそろ諦めて、大化けが期待できる方向に進んでは、ということで、これはこれで説得力のある話なのですが、さて次巻以降、どう展開するか楽しみなところでありますね。

父親・藤兵衛を薬物中毒から救え ー 畠中恵「とるとだす しゃばけ16」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第16弾が本書『畠中恵「とるとだす」(新潮文庫)』。

本巻では、長崎屋の主・籐兵衛が薬害で長く寝ついてしまう事態が発生し、彼の回復に向けて、若だんな・一太郎と妖たちが大奮闘する展開です。

【収録と注目ポイント】

収録は

「とるとだす」
「しんのいみ」
「ばけねこつき」
「長崎屋の主人が死んだ」
「ふろうふし」

となって、まず第一話の「とるとだす」では、長崎屋のへ現当主・藤兵衛が意識を失ってしまう、という事態が勃発します。若だんな・一太郎は仁吉や佐助に見守られていても、商売のほうはほとんど関わっていなくて、藤兵衛が店の経営を一手に担っているので、ここで藤兵衛に万が一のことがあると、長崎屋自体が危なくなるわけですね。
事の発端は妖封じで有名な広徳寺の寛朝が、薬種問屋を集めて会合を催した席で、何かの薬湯を飲んで昏倒してしまったのだが、その薬を飲ましたのは誰で、その目的は、といったところが今話の謎解き。そこには、江戸で扱われている薬を事前に検査して統制する「和薬改会所」の再設置の話が絡んでいるようで・・・、といった展開です。まあ、なんとか藤兵衛の命のほうは助かるのでご安心を。

第二話の「しんのいみ」は、若だんな・一太郎が江戸湾に出現した「蜃気楼」の中に取り込まれてしまってのプチ冒険譚です。一太郎は、第一話で意識不明の重体となってしまった父親・籐兵衛の体調を本復させるため、蜃気楼の幻の中に入って「枕返し」という妖を探そうとしています。この枕返しが、人が眠っている時の頭にあてている枕を返すと、事がひっくり返る、と言われている妖怪で、悪くすると体につながっている魂も裏返ってしまって体から離れて命を落とすこともある、という物騒な妖怪なのですが、一太郎は、藤兵衛の枕を返して、飲んでしまった薬を吐き出させようという計画です。しかし、蜃気楼の中にいると物忘れが激しくなってしまうので、長い期間滞在すると、何もかも忘れてしまうことになるので、時間との勝負になるのですが・・・、という展開です。

第三話の「ばけねこつき」では、中屋の「おりん」という許嫁がいるのを承知で、染物屋の大店・小東屋が、若だんなに娘・お糸を嫁にしてほしいと押しかけてきます。なんでも、そのお糸とう娘さんはキレイ女性なのですが一回目の縁談の時に、相手の男から「化け猫憑き」だという噂を流されてしまい、それ以後縁談がまとまらないという境遇です。なんとか、娘の縁談をまとめたい小東屋は、もし若だんなが嫁にもらってくれたら、家に伝わる秘伝の毒消し薬「明朗散」の製法を持参金にプラスする、という条件を出してきます。当主・籐兵衛の体調がまだ戻らない長崎屋には魅力的な話なのですが、なにか裏がありそうで・・・という展開。少しネタバレすると、忠実そうな番頭が曲者ですね。

第四話の「長崎屋の主人が死んだ」では、「狂骨」という妖怪が長崎屋に出現します。その妖は長崎屋の庭先に「骸骨が、人の影をまとっているような、奇妙な見てくれ」で「一応、黒っぽい衣を身に着けていたが、血も肉も、その身に付いていないかのよう」な姿で突然現れ、「この屋の主は、死なねばならん」という不吉な呪いをかけていきます。長崎屋の主人といえば、籐兵衛です。彼が恨みをかうとは思えませんが、このままでは狂骨に取り殺されてしまうのでは、と若だんなたちがそれを阻止しちょうと動き始めます。そして、どうやら狂骨の正体が、寛永寺の僧侶で、吉原の遊女と懇ろになってしまった男であることをつきとめるのですが・・・、という展開。狂骨になった男の、見当外れの「恨み」で振り回される感じですね。

最終話の「ふろうふし」は、完全回復になかなかならない藤兵衛を心配した、女房の「おたえ」が江戸中に神社仏閣に大量のお供えをしたことのお礼に、大黒天が教えてくれたことが巻き起こす騒動です。大根天が言うのは、籐兵衛が完全に治るには、「常世の国」にいる、医薬やまじないを司る少彦奈という神様に聞いたら、妙薬をくれるかもしれない、ということで、早速、若だんなが、常世の国へ出かけることを決意します。ところがたどり着いたのが、常世の国ならぬ神田明神の神社で、そこで小さな神様が侍たちに追われているのを助けることになります。神様によると、常世の国の住民である「島子」が吉原の遊郭に好きな人ができ、その人の病気を治すため、永遠の命を与える非時香果(ときじくのかくのこのみ)を持ち出して、江戸に来ているということで、それを取り返すことができたら、一太郎たちの望みを叶えてやる、ということなのですが・・・、という展開。くれぐれも「島子」という名前にごまかされてはいけませんね。

【レビュアーから一言】

今巻は、蜃気楼の主の「蛟」、枕返し、化け猫、狂骨、大黒天と少彦名命、と、ひさびさに妖や神様がたくさん登場する巻です。それぞれどんな姿をしているかは、水木しげるさんの「妖怪大百科」や「日本妖怪大全」あたりで調べてみてくださいな。

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若だんな流の大当たりは「大外れ」と裏表 ー 畠中恵「おおあたり しゃばけ15」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第15弾が本書『畠中恵「おおあたり」(新潮文庫)』。

今巻は、自分にとって「やった当たりだ」と思えることは何だろう、という若だんなの悩みに答えるように、いろんな人の「大当たり」の物語が展開されます。たが「大当たり」というのは、良いことに「当たる」と同時に、悪いことも引き寄せてしまうようで、禍福が入り乱れる話が展開されることになります。

【構成と注目ポイント】

収録は

「おおあたり」
「長崎屋の怪談」
「はてはて」
「あいしょう」
「暁を覚えず」

となっていて、まず第一話は、若だんなの幼馴染の菓子職人・栄吉が思ってもみないヒット作をこしらえる話。栄吉はあいかわらず安野屋で菓子づくりの修行をしているのだが、一向に「餡づくり」の腕が上がらないという状態で、実家の菓子屋を継ぐといったことから程遠い状況が続いている。そして、いつも自分の作った菓子を長崎屋の若だんなと妖たちのところへ差し入れして恐怖を呼んでいるのだが、今回、まんじゅうの代わりにつくった辛味の「あられ」はとても美味で、若だんなのプロデュースで「辛あられ」と名付けて長崎屋から売り出すとあっという間に人気商品となる。ところが、これに目をつけた誰かが偽物を売り始め、これが粗悪品が多くて、本家の「辛あられ」の評判にもかかわってきて、長崎屋の評判にも影響している。早急に犯人を捕まえようと若だんなと妖たちが乗り出して・・、という展開。これに、栄吉の許嫁のお千夜に惚れた京都で料理屋をやっている紀助という商人が、千夜に惚れてしまい、栄吉がお千夜を早急に嫁に迎えないようなら、自分が嫁にほしいと言い出して、という話が絡んできて・・・という展開です。
いくら修行をしても上達しない餡づくりは諦めて、商売のマネジメントの才能とあられづくりの才能を活かせばいいんじゃないの、と思うのは当方だけでしょうか。

第二話の「長崎屋の怪談」は噺家の場久が語った、惚れた娘に付きまとわれる噺がきっかけで、現実の世界でも、誰かにつきまとわれるようになります。その追手が、娘ではなくて、「お武家」と「町人の男」で、場久にはまったく覚えがない、という筋立てです。一太郎たちは、長崎屋に出入りしている「日限の親分」に、場久を追っている男の正体を探ってほしいと頼むのですが、その親分も行方がわからなくなってしまいます。どうやら、親分は場久の高座を聞いていた岡っ引きの才蔵がなにか秘密を握っている、と調べていたらしいのですが、その才蔵も行方不明になっています。さて・・・、という展開ですね。

第三話の「はてはて」は、貧乏神の金次が、道端で男に突き当たって菓子を落とされたお詫びにもらった「富くじ」が巻き起こす騒動です。その富札は、増上寺が勧進元になっているもので、一つの富札を2つに割って販売されたものだったのですが、これが三百両の当たりくじろなります。ところが、本来なら二枚しかないはずの「割札」が三枚でてきた上に、長崎屋で母親の薬を買っている娘、金次に富札を渡した男から本来はその富くじをもらう約束をしていたと主張する茶屋の看板娘、金次の住んでいる長屋が属する町内の差配の女房の三人の女が自分にその当選金を分けてくれと、頼んできます。その三人の願いがどれもがトンデモな理由ばかりなのですが、これが発端で、割札が「三枚」になった理由につながっていきますね。

第四話の「あいしょう」は、一太郎の祖母の「おぎん」こと大妖の「皮衣」から、一太郎の世話をするよう頼まれた仁吉と佐助が、一太郎のもとへやっってきた頃の話。この話によるともともと、ふたりとも、一太郎の世話をするのは自分ひとりで十分と思っていたせいで、来たはなはそんなに仲が良いわけではなかったのですが、一太郎の誘拐事件をもとに意気投合したようですね。

最終話の「暁を覚えず」は、「たぶんねこ」の巻で知り合いになった大貞の親分が、知り合いの親分方を接待する手助けをすることになった、一太郎がその手伝いの日に寝込まないように、猫又からもらった薬を飲んだことが、親夫婦や兄夫婦の夫婦喧嘩を仲裁することに結びつく話。もっとも、
仲裁のきっかけになるのは、栄吉の「菓子」がいつもに増して「殺人的」な仕上がりであったことなので、彼の菓子作りの下手なことも再評価してもいいかもしれないですね。

【レビュアーから一言】

第三話ででてくる富くじの「割札」は、もともと江戸時代の富くじが一枚あたり、一分から二分(現在の価格で2万円~4万円)と高額であったため、一般の庶民が富くじを核手段として、ごく当たり前のやり方であったようですが、このお話のように2つに割っても1万円から2万円の値段なので、当時の庶民の代表格であった大工の年収が約27両(270万円)であったことを考えると、かなりの高額であったことには間違いないですね。
話の中で、茶屋の看板娘のお琴が「菓子の弁償代にしてはアコギだ」というのもあながち的外れではないのかもしれません。

生まれかわってなりたいものは? ー 畠中恵「なりたい しゃばけ14」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第14弾が本書『畠中恵「なりたい」(新潮文庫)』。

今巻は、最初の「序」のところで、若だんな・一太郎の病気の回復のため、長崎屋の主・籐兵衛があちこちの寺社へ寄進をしようと思うのだが、若だんな
が供え物をもって寺社へ参拝するとますます病気が重くなるので、神様を長崎屋へ招聘しようと思いつく所からスタート。
ただ、呼ばれる神様が、大黒天、生目神、市杵嶋比売命、橋姫といった「しゃばけ」でおなじみのメンバーであるので、単に神様をお祀りすることで終わるはずもなく、若だんなが来世何になりたいか、神様たちに告げて、その答えが気に入ったら、その世界を引き寄せてやろうと約束する。ただ、もし気に入らなかったら・・・、ということで、若だんなが、何になりたいか、あれこれと思案する、というのが巻を通じの展開である。

【構成と注目ポイント】

構成は

「序」
「妖になりたい」
「人になりたい」
「猫になりたい」
「親になりたい」
「りっぱになりたい」
「終」

となっていて、第一話の「妖になりたい」は、若だんなが寝込んでお金を費やしてばかりもいられないと発奮して、彼らしい「お金の稼ぎ方」を考案します。その方法というのが、薬種問屋らしく、よく効き「膏薬」をつくることだったのですが、その材料となる蜜蝋を手に入れるため、ミツバチを養蜂している村・西八谷村の甚兵衛に彼の「空を飛ぶ」という望みを叶えることを約束する。空を飛ぶためには、人のままでは無理で、天狗のような「妖」にならないと甚兵衛は思い込み、若だんなに「妖」にしてくれと頼み込むことになる。さて、この望みを若だんなはどう叶えてやるのか、というところと、この若だんなの膏薬が空を飛べる秘薬と勘違いした「赤山坊」がこの薬をよこせとねじ込んできて、という展開です。

第二話の「人になりたい」は、江戸時代に流行してた「連」「会」のなかでも、メンバーが菓子をつくって出来栄えを本表しあう「江戸甘々会」でおきた殺人(?)事件の顛末。この会には、栄吉が修行している「安野屋」の主人も参加しているのだが、彼が会場となった料理屋の離れで、会のメンバーである「勇蔵」という菓子売りが死んでいるのを発見する。あわてて料理屋の従業員や会のほかのメンバーに知らせて現場に戻ったところ、死体は跡形もなく消えていて、という事件である。この殺人の犯人は、と普通の物語ではなるのだが、このシリーズらしく、この勇蔵が「道祖神」の化身であるあたりから、話の方向がちょっと違い方向へ進んでいきますね。

第三話の「猫になりたい」は、手ぬぐいを商う青竹屋の元主人で、追い剥ぎに殺された「春一」という人物が主人公。彼は死んでからも店の行く末が心配で成仏していないのだが、その店が最近左前になり初めている。その店を立て直すために、以前知り合った東海道の猫又たちの「猫じゃ猫じゃ」の踊りが使えないかと思いたつ。ところがその猫又たちは、今その「長」を誰にするかで揉めていて、最初は若だんなが頼まれるのだが、一太郎は裁定役に「春一」を推薦し、もしこの揉め事をうまく調停したら、猫又との取引をしてくれることを条件にします。猫又踊りの手ぬぐいという安定した取引を、青竹屋に斡旋しようという考えですね。ところが、この裁定のための勝負に使う「大福帳」が紛失するという騒ぎが起きて・・という展開です。

第四話の「親になりたい」では、長崎屋の女中をしている「およう」のお見合い相手である煮売り屋の「柿の木屋」の息子・三太が見合いの席で大暴れする所からスタート。この三太という子供は柿の木屋の実子ではなく、火事で焼け出され迷子となっているのを引き取ったものであるらしい。その柿の木屋も幼い頃、親とはぐれて育った経歴があり放り出すわけにはいかなかった、ということですね。ただ、この三太という子供は、かなりの乱暴者で、長崎屋では「およう」が柿の木屋と一緒になっても子育てで苦労するだけだ、と心配し、縁談を断ろうとするのだが、「およう」は柿の木屋と世帯を持つことを選ぶ。ところが、世帯をもった後、三太の実の親だと名乗る男がやってきて・・・、という展開。この男が本当の親かどうか、というところと「三太」の正体が注目ポイントですね。

第五話の「りっぱになりたい」は、一太郎と同じく病弱であった茶問屋・古川屋の若だんな・万之助が病死し、弔いをだされるまでの話。彼は親を心配させたまま死んだことが心残りで、成仏するまでに、親の夢枕で、来世に生まれ変わるものを告げて安心させようという試みるのですが、それに一太郎も協力をする、という筋立てです。ところが、彼が何に生まれ変わるか決められないうちに、万之助の妹が拐かされるという事件が起きます。身代金三十両用意しろ、という脅迫状も届くのですが、鳴家たちは、その妹は自分で店を出ていったと主張します。いったい、誘拐事件は本当に会ったのか・・といった展開です。

【レビュアーから一言】

最後のところで、「序」のところで神様たちから出された「來世、何に生まれ変わりたいか」という問いに対して、若だんなが出した答えはなんと、「また商人になりたい」というものです。まあ、いつも病気で寝込むことが多いて、店にも出ることのほとんどない一太郎が「商人」といえるかどうかは疑問なところですが、その理由は、というところはちょっと泣かせどころですね。詳しいところは原書のほうで。

長崎屋のっとりも回避、若だんなの許嫁も決まりメデタシメデタシ ー 畠中恵「すえずえ しゃばけ13」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第13弾が本書『畠中恵「すえずえ」(新潮文庫)』。

今巻では、栄吉や若だんなの縁談話が持ち上がったり、ほとんど江戸から出ない若だんなが上方まで行ったりと、いろんな騒動がおきます。そして、今まで一太郎の離れに居候して妖たちにも新しい落ち着き先も出来上がり、新しい展開の幕開けとなりそうな構成となってます。

【収録と注目ポイント】

収録は

「栄吉の来年」
「寛朝の明日」
「おたえの、とこしえ」
「仁吉と佐助の千年」
「妖達の来月」

となっていて、第一話の「栄吉の来年」は若だんな・一太郎の幼馴染の菓子屋の栄吉のお見合い話。菓子修行を続けている栄吉の「餡づくり」の腕は一向に上達しないままで、縁談がまとまってても独立して生家を継いだり、新しい店を構えるわけにはいかないのだが、栄吉は修行先の安野屋の知り合いの寺社出入りの中里屋という菓子屋の上の娘との見合いを承知する。この時代の見合いといえば、よほどの事情がない限りまとまるものだのだが、見合いが済んでも栄吉は煮えきらずに返答をしない。そのうち、相手の「おせつ」には別の想い人があることがわかるのだが、その男は多額の借金を抱えているようで・・、という筋立て。この男の借金の返済の金を栄吉が用意したり、「おせつ」の妹の「お千夜」が栄吉と言い合いをして平手打ちをくわせたり、と結構もつれる縁談話となっていきます。まあ、最後のほうは、栄吉のお相手も決まっていく展開なので、作者の手にのって読み進めてくださいな。

第二話の「寛朝の明日」では、広徳寺の妖封じで有名な「寛朝」和尚に、黒羽坊という天狗が、妖封じの依頼を持ち込んできます。彼によると、知り合いの修験者のよく知る小田原の小さな寺の僧がなにかに食われてしまったというのである。小田原あたりには妖封じのできる僧はおらず、寛朝にこの怪異を鎮めてくれ、というのだが・・、という筋立て。頼まれると嫌とはいえない寛朝は、旅の従者として、獏の化けた落語家・本島亭場久と猫又のおしろと一緒に小田原へ出向くのだが、近くまできても、その怪異の話は評判になっていない。はたして、本当に怪異はあるのか・・といった展開です。若だんなは虚弱のため旅についていけないのですが、場久の「夢」と夢の中でつながって推理を働かせます。

第三話の「おたえの、とこしえ」では、長崎屋にお店(たな)乗っ取りの危機が迫ります。主の藤兵衛が、長崎屋の持ち船常磐丸で上方にいったきり帰ってこない間に、上方からきた赤酢屋という商人が長崎屋を明け渡せと証文をもってやってきます。彼が言うには、籐兵衛にさる大名の江戸留守居役に届ける「味噌漬けの牛肉」の運送を依頼したのだが、その荷が江戸へ届かない。期限までに届かない時は、賠償として長崎屋の店を譲る、という証文をかわした、と言うのですが・・、という筋立て。
この赤酢屋の言っていることの真相の究明と、籐兵衛の行方を探すため、一太郎が貧乏神の金次とともに大阪へ行くことになるのですが、「おたえ」が一太郎の無事を祈願した福の神が一太郎を救けようと言い出したため、話が複雑になります。貧乏神と福の神、どちらのご利益が強いか、大阪の堂島の米相場で勝負をすることになるのですが・・、という展開です。神様同士の勝負で割を食うのは、米相場で商売をしている相場師たちなのですが、彼らから赤酢屋の情報が入って、彼の悪巧みを砕くことができ、さらには、若だんなが思わぬ役得を得ることになりますね。

第四話の「仁吉と佐助の千年」では、若だんなが上方の米相場で大儲けしたことから、いままで病がちの頼りない男と見くびっていた周囲の目が一変し、若だんなに縁談がたくさん舞い込んでくることになります。この縁談がまとまれば、今までのように妖たちとわちゃわちゃ暮らしていることもできないだろうと、祖母の「おぎん」が気を回し、彼女がお守り役としてつけている仁吉と佐助を一太郎のもとから
去らせるための段取りを始め・・・、という筋立てです。二人共、一太郎のもとを離れないといけないのか、と半分覚悟をするのですが、一太郎の許嫁がひょんなことから決まることで、無事解決、という展開です。

第五話の「妖達の来月」では、若だんなが上方で儲けてきた(本当は、米相場で儲けた福の神たちから巻き上げた)資金をもとに、長崎屋の裏手に、大きな長屋をこしらえるのですが、ここに妖たちのうち、金次やおしろ、場久たちが住むこととなっておきる騒動です。妖たちは、若だんなから引っ越しの祝として、それぞれの湯呑などの家財道具や火鉢を贈られるのですが、その品物がいつの間にか盗み出され、市中の古道具屋に売られていたり、ゴミ置き場で撒いてあったり、といったことに。さて、この盗人の正体は・・・という展開です。長崎屋で世話になっている妖たちに競べ、町中の妖たちの暮らしは厳しいところが、この騒動の原因ですね。

【レビュアーから一言】

第四話で、一太郎の「兄や」仁吉と佐助、さらには妖たちが引き続き長崎屋で一太郎ととともに生活をすることとなったのは、一太郎の「許嫁」が決まったことによるのですが、決め手は、その「許嫁」が、妖たちを見ることができた、というところにあるようです。彼女は、このシリーズでもおなじみの娘さん奈のですが、シリーズの初登場のときから時間も経過し、かなり大きくなっているようですね。一体、誰なのか?は、原書のほうで確認してくださいね。

若だんなは一人前に稼ぐことができるか?ー 畠中恵「たぶんねこ しゃばけ12」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第12弾が本書『畠中恵「たぶんねこ」(新潮文庫)』。

今巻では、いつも病気がちの若だんな・一太郎がどういうことか二ヶ月間。全く病にかからなかったところから開幕します。この状態をなんとか半年間続けて、若だんなが完全に丈夫になるよう、仁吉と佐助は一太郎に5つの条件を出します。さて、この条件を守って、若だんなは健康体になれるのか、というのが大筋の展開ですね。

【収録と注目ポイント】

収録は

「跡取り三人」
「こいさがし」
「くたびれ砂糖」
「みどりのたま」
「たぶんねこ」

となっていて、第一話の「跡取り三人」は、本シリーズの主人公・廻船問屋兼薬種問屋の長崎屋の一人息子・一太郎のほか、大店の息子たち三人が、両国の盛り場で、それぞれの腕一本でいくら稼げるか競争をする、という話。事の発端は、大店の主人や跡取りたちが出席する「寒蜆を味わう会」で、盛り場を仕切る「大貞」の親分が余興的に持ち出したものに、若だんな・一太郎がのっかったことから。この稼ぎ競べに参加する跡取り息子は、病がちの長崎屋の一太郎、剣道が好きな煙管問屋の跡取り・小一郎、柄はでかいが声もでかい塗り物問屋の跡取り・幸七というメンバーなのだが、誰もが自分の腕で稼いだことのない坊ちゃん育ちばかり。さて、どうやって稼いでいくのか・・・、という筋立て。以外に、一太郎が菓子の販売で健闘するのだが、持ち前の体の弱さで脱落したあたりから、競争自体が別の方向へ進んでいきますね。

第二話の「こいさがし」では、長崎屋の女将・おたえの縁戚にあたる「おこん」という娘が花嫁修業のための行儀見習いにやってきます。ところが、この「おこん」、料理・裁縫・掃除など家事のすべてがまるで苦手な上に、家事修行から隙きさえあれば逃げ出そうとする娘さんなのですが、嫁入りする気はたっぷりある、という、娘さんです。そんなところに、第一話で稼ぎ比べを提案した「大貞」親分の一番の手下が、親分が仲人として請け負った「見合い」がうまく仕上がるよう助けてくれ、と若だんなを頼ってきます。さらに、利根川の河童の頭目・禰々子も、手下の妹の娘の縁談をまとめてくれないかと頼んできて・・という展開。ここに、「見合い」というものに興味津々の「おこん」が絡んでくるので、かなりの混乱が展開されることになります。

第三話の「くたびれ砂糖」は、菓子屋で職人修行をしている栄吉が、新しく入った小僧たちの世話と指導を任されて苦労する話。というのも、この小僧たちが入ってから、栄吉の修行する安野屋の主人も番頭も腹が下り続けて寝込んでいて、彼らの面倒を栄吉が一手にみているのですが、この小僧たちが、将来は菓子屋を出すと約束されていて気位の高い「梅五郎」団子と茶を商う店の子供で誰にでも生意気な口をきく「平吉」、医者志望で菓子屋が好きでない「文助」という面々で、彼らは、菓子作りの下手な栄吉を内心バカにしていて、まったく言うことをきかない、という展開です。ただ、彼らが長崎屋で商売物の砂糖の袋を破いてぶちまけたり、安野屋の主人と番頭の腹下しの原因となるものを薬に混ぜて飲ませていたり、といった事態がおきたため、若だんなが妖たちとともに解決に乗り出す、という展開です。少しネタバレすると、いつもなら大団円が待っているこのシリーズの話っぽくなく、三人の小僧さんの将来が心配される結末になってますね。

第四話の「みどりのたま」は仁吉らしい人物が記憶喪失にかかっている間の話です。隅田川のほとりでびしょびしょに濡れた状態で意識を取り戻した彼は、掏摸にからまれたり、年齢がいってボケてしまった「古松爺さん」という老人の「神の庭に帰りたい」という望みを叶えるために一肌脱ぐことになったり、といった筋立てです。

最終話の「たぶんねこ」は、若だんなのところに、祖母の知り合いの妖怪・見越し入道が「月丸」という幽霊をつれてきて、江戸で暮らせるかどうか判定してくれ、という依頼をもってきます。この幽霊は、見越し入道の「巾着」に入って連れてこられるのですが、その巾着の口を開けた途端、若だんなと袖内の鳴家たちもその中に吸い込まれてしまい、江戸のどこかに放り出されてしまいます。若だんなと鳴家たちは、その幽霊・月丸が江戸で暮らしていけるか放り出された江戸の街で一緒に確かめることとなるのですが・・・という展開です。この幽霊の月丸は、江戸市中で生活するため、いろんなものに化けるのですが、それがいずれもそのものにドンピシャの化け方ではなくて「たぶん」がつく化け方であるのが標題のわけですね。

【レビュアーから一言】

仁吉と佐助が、若だんなが完全な健康体になるために出した5つの条件というのが
①離れで、ただゆっくり過ごすこと
②恋はお預け
③栄吉のことも心配しない
④妖が間抜けをしても、それをなんとかするために外出はしない
⑤体に障るような災難に巻き込まれない
といったものだったのですが、半年間、この条件を守れたかどうかは、本巻に収録されている話のそれぞれの結末で明らかですね。その結果どうなったかは、今巻末の「終」のところで明らかになっているので、そこのところは原書のほうでどうぞ。

木札にひかれてくる「困りごと」を解決せよ ー 畠中恵「ひなこまち しゃばけ11」(新潮文庫)

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第11弾が本書『畠中恵「ひなこまち」(新潮文庫)』。

初めのほうで、鳴家が「お願いです。助けてください」という木札をどこからか持ってくるところからスタートするのをきっかけに若だんなと妖たちが、あちこちから持ち込まれる「困っている話」の解決に巻き込まれていくという筋立てが本巻きである。もっとも、この木札は本巻の最後の方で活きてくる仕掛けなので、まあ最初から気にしすぎないほうがよろしいですね。

【収録と注目ポイント】

収録は

「ろくでなしの船箪笥」
「ばくのふだ」
「ひなこまち」
「さくらがり」
「河童の秘薬」

となっていて、まず第一話の「ろくでなしの船箪笥」では、
話のほうは、「品比べの会」や若だんなが三途の川で主人の弟と出会ったことなどから最近仲良くしている「小乃屋」に関係した話。この小乃屋、江戸では商売も繁盛しているのだが、出身の上方の親戚仲間では、「分家」ながら東の方に出店した出店に近い「格下」扱いをされている、という境遇。ところが、長崎屋のアドバイスもあって、最近では、本家をしのぐ商売の勢いととうことで、本家としては面白くない、という状況であるらしい。そんな折、本家の元当主であった祖父が亡くなり、その形見として、小乃屋には「船箪笥」が遺されたのだが、その箪笥は抽斗が開かない上に、江戸へ運んでくると箪笥を一時預かっている店で、誰もいない筈の部屋で妙な影が見えたり、魚が直ぐに腐ったり、といった怪異が起こるようになり・・・という展開。この怪異の原因に「妖」が絡むのがこのシリーズらしいところです。

第二話の「ばくのふだ」では、怪談話を得意とする落語家が登場目のところをくり抜いた「目かつら」をつけた本烏亭場久という落語家が最近人気を高めていて、彼が語るのは、女郎に夢中になった若者の話とか、お屋敷の殿さまが奥方を亡くして間もないうちに若い後妻をもらったのだが、それを恨んで亡くなった前妻が化けて出る、といった怪談話が得意ネタである。ところが、ある時、その話を語っている時に、一人の武家が「怪しい話を広めて、世の中を騒がす元凶」と刀を抜いて切りかかってくる事件がおきる。この事件がきっかけで、落語家は高座に上がれなくなり・・、という展開。この落語家の正体が、この話の謎をとくキモになりますが、落語家の名前を読んで推理してくださいな。

第三話の「ひなこまち」では、江戸中の美女の中から一番を決める「雛小町」のオーディションが巻きおこす騒動。このオーデイションは単なる美人コンテストにとどまらず、一番になった美女をモデルにひな人形をこしらえ、ある大名家へ納めることになっているのだが、その時、モデルになる女性も大名のお殿様にお目通りができる、というもので、うまくすると大名の側室になれるかも、といった仕掛けである。このため、江戸市中のちょっとかわいい娘たちは、雛小町を目指して着飾る娘が多いのだが、話をのほうは、そんな娘たちに古着を売っている小店の商品がごっそり盗まれるという事件がおこり、その店の娘に頼まれ、若だんなたちが犯人捜しに乗り出す、という筋立てである。このオーディションを利用した、着物泥棒のビジネスモデルはちょっと感心するアイデアですね。

第四話の「さくらがり」では、第一話で若だんなたちに世話になった河童のお礼、ということで、関東の河童の親玉・禰々子が若だんなにお礼の薬をもってきます。禰々子河童は、しゃばけ第9弾の「ゆんでめて」のパラレルワールドでは若だんなとは馴染みになっているのですが、こちらの世界では、若だんな的には初見ですね。
で、この禰々子が持ってきた「河童の秘薬」というのが、飲めばどんな傷でもすぐ治癒するが、その代わり5倍の痛みがする、という飲み薬であったり、三日ほど寝込むが、その後三日は一睡もしなくてすむ気付け薬であったり、と奇妙なものばかりである。
ところが、若だんなたちが花見に出かけた広徳寺で出会った「安居」という侍が、彼が惚れぬいている「雪柳」という奥方のために「河童の惚れ薬」を分けてほしいとお願いをしてくる。彼の奥方、雪柳は子供ができないことを悩んでおり、夫に側室をもつよう勧めてくる親戚のことを気に病んで、出家したい、といいだしているらしいのだが・・・、という展開である。

最終話では、前話ででてきた「雪柳」という奥方が巻き起こす騒動。前話で夫の安居は惚れ薬ではなく、飲むと何がおきるか誰もわからない、という黄色の河童の秘薬を持ち出していったのだが、この奥方、その薬を呑んだとのこと。しかし、何もおきないので、若だんなのところへ事情を聞きにやってきた、という次第である。おそらく雪柳とは体質があわなくて、薬が効かなかったのだろう、と言っているうちに、そこに居合わせた全員が、江戸ではない別の世界へ引き込まれて・・・、という展開です。

【レビュアーからひと言】

若だんなが違う方向へ進んだことによって、異なる世界が現出した「ゆんでめて」で出てきた登場人物たちが、前巻、今巻とパラパラと登場し始めています。この分だと、若だんなが好意をよせていた、七之助の許嫁の「千里」の女友達の「宝珠」さんこと奈良屋の「かなめ」さんの再登場もこれからあるんでしょうか。ということは若だんなの恋バナもそろそろ始まったりなんかして・・。

橋姫の恋バナや籐兵衛の失踪、長崎屋界隈は騒動多発 ー 畠中恵「やなりいなり しゃばけ10」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第10弾が本書『畠中恵「やなりいなり」(新潮文庫)』。

今巻では、話の最初に長崎屋で「若だんな」のために特別につくられている料理のレシピが披露されます。そのラインナップは「塩味・砂糖味の小豆粥」「やなり稲荷(寿司)」、「栄吉の煤(あげ)出しいも」「長崎屋特製ゆでたまご」「味噌漬け豆腐」といったところで、いずれも旨そうな上に「妖」風味がプラスされている特徴あるものなので、話の合間にご賞味ください。

【収録と注目ポイント】

収録は

「こいしくて」
「やなりいなり」
「からかみなり」
「長崎屋のたまご」
「あましょう」

となっていて第一話の「こいしくて」では、まず、長崎屋に流行り病を司る疫神や疱瘡神、さらには、あらゆる災いを支配する禍津日神が集まってくる。若だんな・一太郎は病弱なことは間違いないのだが、疱瘡神に至っては、若だんなは幼い頃に疱瘡にすでに罹っているので伝染る可能性もなく、集まってくる理由が全くわからない、という筋立て。さらには、以前知り合った小乃屋の七之助に、上方にいた頃の幼馴染」千里との縁談がとんとん拍子にまとまりだしのを筆頭に、長崎屋のある通町界隈で縁談がまとまることが多くなっているのがわわるのだが、これらの意味することは一体・・という筋立て。どうやら、いろんなものの関所の役目をする「橋姫」の一人が結界を勝手に解いたらしいのだが・・という展開である。

第二話の「やなりいなり」では、若だんなの母親・おたえの守り神である「守狐」がもってきた「やなり稲荷」寿司に、一人の幽霊がおびき出されてくる話。ところがその幽霊、梯子で頭を打ったことは覚えているのだが、自分の名前や商売、そして長崎屋に化けてでた本当の理由も忘れてしまっている。その幽霊の素性を明らかにするため、鳴家や屏風のぞきをはじめ、長崎屋の妖たちが総動員で捜査にあたる。ところが、その幽霊、実は死んでいなくて、生霊であることがわかる、さらには、生霊になったのは長崎屋を襲う計画をたてている盗賊たちのせいだとわかり・・・、という展開

第三話の「からかみなり」は、一太郎の父親で長崎屋の当主・籐兵衛が商用ででかけた先で行方不明になる話。いままで、女房のおたえが美人なためか、あるいは大妖の娘であるのが怖いのか、無断外泊なぞしたこともなかった藤兵衛が三日以上家に帰ってこない、ということなので、若だんなが心配して妖たちに捜索をさせると・・、という筋立て。藤兵衛の失踪を長崎屋あげて心配しているかというとそうではなくて、若だんなが無事ならそれでいい、という佐助と仁吉や、辰巳芸者の一番争いに巻き込まれたのだろうという屏風のぞきや女房のおたえへのプレゼント探しで遠出をしているのだという守狐など、無責任な反応が、長崎屋の妖たちらしいですな。ヒントは江戸市中に頻繁に小雷が頻発するようになった、というところですね。

第四話の「長崎屋のたまご」は、空から小さな玉とともに魔物たちが降ってきての騒動の顛末。空には一魅から百魅までの百人の魔物が茜色の雲の中に住んでいるらしいのだが、玉とともに、九十八魅が下界に落ちてしまったため、茜色の雲が欠けてぽっかりと穴が空いてしまう。この穴を塞ぐため、九十八魅の行方を探しに、空の上の魔物たちがやってきて、という展開。天空から落ちてきた「玉」が「九十八魅」と思わせるのだが、じつはそうではなくて実は・・・といった展開ですね。

最終話の「あましょう」は、若だんなの幼馴染の栄吉が修行する菓子屋・安野屋で、五一と新六という二人の青年の喧嘩に巻き込まれる話。この二人、昔は仲良しだったのだが、五一が突然房州に行ってしまい、それ以来ほとんど会っていない状態が続いている。実は、新六の妹・美津と五一は祝言をあげる予定だったのだが、突然にそれもキャンセルしての房州行きであったという因縁がある。美津はその後、大店の息子との縁談がまとまったのだが、その持参金を用意するため、新六は疱瘡のせいで嫁き遅れた松木屋の娘・おれんとこれまた持参金目当てで結婚することとなったことを聞いた五一は、そもそもの原因が自分の房州行きにあると思い、新六とおれんの縁談をチャラにしようと思いたち・・、という展開。持参金目当てといいながら、実は「おれん」のことを想っていた新六の気持ちにほろっときていると、五一が美津との縁談を断って房州行きを決めた理由と、今回、急に房州から江戸へ帰ってきた理由がわかり、もっとほろっときます。

【レビュアーから一言】

第一話で、橋の結界を解いてしまう「京橋」の橋姫の恋の相手は「時花神(はやりがみ)」という神様なのだが、この神様は

病が流行したときなどに、人から盛んに祀られる神で、ある神にすがればいいと噂が広がると、皆がその神を拝みに押しかけるが、病が快癒すれば、その病から離れるため、関わった神を外へ送り出す

というもので、一時はちやほやされるのだが、しばらくたつと見向きもされない「一発芸人」のような神様である。そんな彼が、日本橋界隈に充満する浮かれた気分を収束させ、橋姫がお咎めをうけないように立ち去っていく様子は「粋」でありますので、ぜひ原書で。

「しゃばけ」のパラレルワールドでは屏風のぞきに災難が ー 畠中恵「ゆんでめて しゃばけ9」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第9弾が本書『畠中恵「ゆんでめて」(新潮文庫)』。

あの時にその選択をしなければ、今の人生とは全く違う人生を歩んでいたのかもしれないな、と思う時は誰しもあるのだが、そんなことが長崎屋の若だんなに身におきたら、が描かれる。

【収録と注目ポイント】

収録は

「ゆんでめて」
「こいやこい」
「花の下にて合戦したる」
「雨の日の客」
「始まりの日」

となっていて、第一話の「ゆんでめて」では、若だんな・一太郎が、兄・松之助の子供が産まれたお祝いを届けた帰り途、見知らぬ小さなお社で、神様らしきものを見かけて後を追いかけるところから開幕。もしもその姿を見かけなかったら、「ゆんで」、ひだrの方向に進んだはずが、それとは逆の「めで」、右の方向で進んでしまったことで人生が行くつもりがなかった方向へ進んでいく。
物語のほうは、その松之助の子供が産まれてから4年後の話。4年前、出産祝いで外出している間に近くで起きた火事の類焼を防ぐために長崎屋の離れが壊され、落ちた屋根の下になって、若だんなの身代わりをしてくれていた、屏風のぞきの依代の屏風が酷く傷んでしまう。このため、屏風を修理を出したのだが、修理をする職人が急死して屏風の行方が分からなくなってしまい、それ以後、屏風のぞきも行方不明という状態が続いている。若だんなはそれ以来、屏風のぞきの依代の屏風を探しているのだが、千里眼をもつという噂の鹿島神社の事触れの噂をきき、彼に屏風探しを依頼する・・・、という筋立て。その事触れは、何かに取り憑かれた娘を知っているというのだが、ひょっとすると、それが屏風のぞき?、という展開。

第二話の「こいやこい」は、違う途を進んでから三年目の話。「しゃばけシリーズ」の第7弾「いっちばん」に収録されている「いっぷく」の品比べのかいで知り合いになった小乃屋の七之助の嫁取り話。そのお相手となるのは、品比べでも出てきた上方の大店・西海屋の長女の「千里」というお嬢さんで、七之助の幼馴染。美人ながら気の強い娘さんであるらしい。そんな彼女が幼馴染とはいえ何年も会っていない男との結婚を承知するには、条件があるという。それは、何人かの娘と一緒に江戸へ来るので、自分を見分けること。そして、江戸へ来たのは、いずれも劣らぬ美人の娘が五人もやってくる。しかし、七之助は、幼い頃に会ったきりなので、千里を、見分ける自信がなく、一太郎を頼ってくるのだが・・、という展開。この五人の娘が江戸へ来る理由は、七之助と千里の縁談以外に本当の理由が隠されています。

第三話の「花の下にて合戦したる」は、長崎屋の離れが火事に巻き込まれ、屏風のぞきが行方不明になってから二年後の話。長崎屋の若だんなが一度も花見をしたことがないのは外聞がわるいと、若だんなや兄やだけでなく、妖や菓子職人に栄吉も含め、長崎屋関係者が集まって江戸の花見の名所の一つ「飛鳥山」で盛大な花見の会を催す話。ところが、その花見の席に、見かけたことのない妖禿が紛れ込んできて、一行は別世界に誘導されて・・・という展開。

第四話の「雨の日の客」は火事から一年後の話。皆さんおわかりのように、火事が起きてから4年目から段々と火事の頃に時がさかのぼっていってます。
話のほうは、江戸を襲った長雨の中、近くの稲荷神社に百度参りをしていて、雨で濡れ鼠になった鈴彦姫が、三人の男にさらわれそうになったところを「おね」という大柄で屈強な娘さんに救われるところからスタート。おねは、名前以外のことは記憶を失くしていて、しばらく長崎屋に逗留することとなります。ところが、降りやまないそれぞれの縁の寺へ集団で避難しようということになります。
そんな時、続く長雨による大水は通町にある長崎屋のあたりまで、浸水してきて、このあたりの商店は集団で避難することになる。しかし、長崎屋に取り残されてる妖たちを心配した、若だんなは長崎屋に戻るのだが、そこで避難後に盗みにはいった泥棒や、「おね」から玉を奪おうとする鈴彦姫を襲った三人組と遭遇することとなる。そこでわかった「おね」の正体と、長雨がやまない理由は・・・、という展開。

最終話の「始まりの日」は、若だんなが「左」の方向へ行ってしまったために、歪んでいった出来事が、もとに戻っていく話。もともと、右へ行ってしまったのは、若だんなが小さなお社で、人ならぬ姿を見かけたためなのだが、生目神が、その原因となった市杵嶋比売命の姿を隠して、本来の左へと進ませることに成功します。そこで出会ったのは、「人が望む”時”を売り買いする」時売り屋の八津屋勝兵衛という男の出会うのですが、そのおかげで長崎屋の離れに延焼してくるはずの火事の行方も影響されて、という展開です。

最初に進む方向が違ったせいで生み出された物語は、時空の中に吸収されて「なかった」ことになって、屏風のぞきの災難も「なし」ということになるのですが、次巻以降でもあちこちにその名残を残しているので探してみてもいいかもしれませんね。

【レビュアーから一言】

第二話の「花の下にて合戦したる」で若だんなたちが花見にで出かける「飛鳥山」と並んで江戸の桜の名所といわれていたのが、「御殿山」と「隅田川堤」なのですが、この「墨田川堤」は、江戸幕府が江戸の治水のために、隅田川に堤を築き、その先に遊郭の「吉原」をつくって、江戸の男たちに通わせることによって築き固めた、ということが、竹村公太郎さんの「日本史の謎は「地形」で解ける」にでてきます。長崎屋の佐助、仁吉の兄やたちが花見先に、隅田川堤でなく、飛鳥山を選んだのはそんな理由もあるのでしょうか。

妖たちは若だんなを失明の危機から救えるか? ー 畠中恵「ころころろ しゃばけ8」

祖母・ぎんが実は大妖「皮衣」で、その血筋のせいか妖怪の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第8弾が本書『畠中恵「ころころろ」(新潮文庫)』。

ひょんなことから、母親・おたえに似た娘を助けようと思ったために、失明の危機を迎えることになった若だんなを治療するため、仁吉・佐助といった兄やと鳴家をはじめとした妖たちが
奮闘するのが今巻。ただ、今巻でのトラブルメーカーは、人ならぬ「神様」なので、妖たちの神通力もどこまで通用するやら、といった懸念をはらむ筋立てである。

【収録と注目ポイント】

収録は

「はじめての」
「ほねぬすびと」
「ころころろ」
「けじあり」
「物語のつづき」

となっていて、まず第一話の「はじめてのでは、母親の眼病を治すために、「金、銀、真珠に、水晶、琥珀、瑠璃に瑪瑙」という「七宝」を集めようとする「沙衣」という娘を助けようと若だんながひと肌脱ぐところから開幕。たいていの場合、女性には奥手の若だんな・一太郎なのだが、この娘、母親の「おたえ」に面影が似ているというのだから、かなりの美人に」違いないですね。で、この七宝を集めようと焚き付けたのが母親のかかっている目医者で、彼の言うところでは、火事でお社が焼けた「品陀和気命」の神社を再建し、そこに七宝を奉納すれば、完治間違いなし、ということなのだが、いかにも怪しい話ですね。ただ、お沙衣を助けたいと思う一太郎は、怪しげな話であることは承知の上で、その七宝を入手する手助けをし、さらには目医者の悪巧みも打ち砕くことにして・・・という」展開です。

第二話の「ほねぬすびとでは、第一話の目医者の悪巧みを阻止したのだが、そのせいなのか、若だんなの目が急に見えなくなります。さらに、長崎屋のほうでは、西国の大名家から、地元で取れる魚の干物を、国元から江戸まで運んでくれ、という依頼がもちこまれます。ただ、この干物というのがかなり腐りやすいもので、大名家が何度かチャレンジするが、一回も成功しなかった、という難題です。浮世の義理で、この依頼を引き受けた長崎屋だったのですが、なんと今回は無事、干物を入れた籠を江戸まで船で輸送することに成功するのですが、船荷をあらためると、籠の中は空っぽ。さて干物の行方は・・という筋立てです。この謎を目の見えなくなった若だんなが解き明かすのですが、ここから先は原書のほうで。

第三話の「ころころろ」では、若だんなの目を治すために奔走をはじめた「仁吉」が、人形の妖「小ざさ」の母親さがしに巻き込まれる話。この娘は、母親を探しているのだが行方が全くわからず、探し出すのに長い年月が必要になりそうな気配。このため「河童を食べて悪鬼になって」長生きできる体質になりたい。河童のいるところを知っているので、そこへ連れていってくれ、という頼みである。で、その「河童がいるところ」というのが江戸市中の本所の回向院で開帳している見世物小屋で、そこには河童以外にろくろっ首や骨傘おばけはじめたくさんの妖怪が捕まって見世物にされているという状況である。この妖怪の解放も頼まれた仁吉と小ざさがそこへ向かう途中に、「妖」の姿が見える能力をもった男の子と出会ってしまい・・・、という展開である。若だんなの目を治療するための「玉」探しからどんどん違い方向へ誘導されていって、困り果てる仁吉の姿はいつもと違って珍しいですね。

第四話の「けじあり」はもうひとりの、兄やである佐助か、若だんなの目の治療をするため、怪異に巻き込まれる話。佐助が気がつくと自分が多喜屋という新店の主人となっていることに気づく。そばには女房らしき という女性もいて、彼女は最近、江戸に鬼が出没するようになったと怯えている。そんな彼女と、暮らしていくうちに、佐助は気がつくたびに店が大きくなり、従業員もいつの間にか増えていることに気づくのだが、そのうち店の近くに鬼が出没するようになり・・、という展開。佐助が、この女房「おたき」の空想の中に取り込まれているのでは、という推測が読んでいるうちにしてくるのだが、そのわけは最後のほうにならないとわからない構図となっている。推理をする唯一の手掛かりは、「けじあり」と書かれた紙が、佐吉の前に毎日出現することで、少々ネタバレすると「けじ」は「怪事」のことであるらしい。さて「怪事」とは・・・というところですね。

最終話の「物語のつづき」は、若だんなの目が見えなくなった原因をつくった生目神を、大きな瓶に薄紙を張り、その上に大きな「玉」を置くという人をくったような罠でつかまえて、若だんなの視力を取り戻す交渉をする話。ただ、この神様も素直に言うことをきくわけがなくて、彼と問答をして、答えることができたら目が見えるようにしてやろう、と言い出す。そしての、その問答というのが「桃太郎が鬼退治をして、帰還したあとはどうなったのか?」とか「浦島太郎が玉手箱を開けて白髪の老爺になった後、どうなったか?」といった奇妙なものだったのだが、それに対する答えもまたユニークですね。そして、最後のほうの神様と相思相愛の仲であった娘とが分かれてしまう経緯は、ペットを飼っている人だと実感できるものかもしれません。

【レビュアーからひと言】

一話目にでてくる品陀和命は日本史では「応身天皇」のことで、この応神天皇と藤原景清公とを祭神にしているのが宮崎市にある「生目神社」のようです。本書では、この生目神社の分社を再建するときにお供えした「玉」をちょろまかされたことが発端なのですが、その「生目神」が身長の小さな神様、とされているわけはちょっとわからないですね。日本神話の「一言主」か、アイヌ伝承の「コロポックル」にヒントを得た、筆者の発想でありましょうか。