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天才浮世絵師「北斎」の娘「阿栄」がよい働きをいたします — 山本巧次「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ」(宝島社文庫)

シリーズも4作目となると、現代の東京での分析ラボの連中とか、江戸時代での、なかなか最後の関係まで行かない伝三郎を始めとする南町奉行所の面々とか、登場人物も設定も落ち着いてくる反面、マンネリ感が出てくるのだが、今回は、サブキャストに工夫して、それを防いでいる。
 
構成は
 
第1章 青山の贋絵
第2章 六間堀の絵師
第3章 神田の廃物問屋
第4章 本所のクリスマス
 
となっていて、大筋のところは、新美術館の目玉商品である北斎の肉筆画の真贋を鑑定する話なのだが、すでにその作品が、新美術舘の目玉として宣伝されているので、ここで「贋物」となると大騒ぎに、といった事情を抱えての真贋認定である。
 
真贋騒動の発端は、郷土史家から古文書が出て、その文書には、「鶴仙堂永吉」という当時の絵双紙屋の名で「その絵は、貞芳という絵師が自分の描いたものを北斎の贋の落款を入れてすり替えたものを自分が、贋物と気づかず中野屋という大店に売ってしまった。今回、本物の絵を八方手をつくして探し出したので、あなたに本物を売ります」と書いてある。新美術館の所蔵するのは、その「中野屋」所蔵のものだったからさあ大変、という始まり。
 
もちろん、「おゆう」こと北村優佳に絵の真贋が鑑定できるはずがないから、「江戸」へのタイムスリップと江戸での人脈をフル活用してのお仕事である。
ただ、ここで「真贋騒動」とは違った方向にいくのは、絵の作者である北斎当人が中野屋所蔵の絵は自分の描いた本物を証言し、真贋騒動は結論が出るのだが、それを、現代にいる依頼者にどう説明・信用させるか、が新たな難題になる。
 
そこで、「おゆう」は、贋物だ、という文書を書いた「鶴仙堂」に接触するが、黒幕に、唐物屋の「梅屋」とか「西海屋」といった、長崎由来の品を扱う商人の大物も現れてくる。彼女が操作しているうちに、「鶴仙屋」や偽絵を描いたらしい貞芳の娘絵師も殺され・・、といったのが大筋の展開。
 
今回は、江戸の「大物」(オランダのカピタン)はでてくるものの、あくまで原因をつくった人物としての登場で、本作の重要な狂言回しは、途中、「おゆう」に殺人の疑いがかかったり、伝三郎たちの「おゆう」への不信感の払拭するのにいい働きをする、北斎の娘「阿栄」であることは間違いない。
しかも、彼女自身が絵師であるので、当時の浮世絵をめぐる世界を垣間見ることができて、珍しく「江戸趣味」を感じることが出来た。
 
さて、巻きを進めるにつれ、「おゆう」と「伝三郎」の関係はどこまで進展するのか、という別の楽しみもでてきた。現代の技術を使って「江戸」の事件を解決する、変わり種の「捕物帳」をお楽しみあれ。
 

「錠前師」と「富くじ」の因果な関係 — 山本巧次「八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢」(宝島社)

江戸と現代の東京を、祖母が残した家の押入れの奥の階段を使って行き来して暮らしている、現代の東京では失業OL、江戸では女十手持ちの、関口優佳こと「おゆう」さんの推理シリーズの第三段。
 
今回の構成は
 
第一章 本石町の蔵破り
第二章 根津の千両富
第三章 蔵前の活劇
第四章 板橋の秋日和
 
となっていて、「富くじ」をめぐる事件の謎解きである。
 
もともとの発端は、女とどこかに消えてしまった金細工師・猪之吉の行方を、細工師の女房から頼まれるところからスタート。
もっとも、その依頼とは関係なく、最初の事件は、「蔵破り」。しかもその手口が、七年前に、その見事な手口で世間をを騒がせながら、忽然と姿を消した、有名な盗賊・疾風の文蔵の仕業に似ている、ということで、当時、その盗賊を捜査していたベテランの岡っ引き・茂三や、強請などで庶民から金を搾り取っている悪徳十手持ちの長次とかいう輩も登場してきて、結構賑やかに始まる。
 
その後、最初の「天城屋」の蔵破りに始まって、骨董屋の木島屋と蔵破りが続くのだが、どうもその蔵の錠前を開けたのが、猪之吉らしいといった風で、最初の依頼事に結びついていく。さらには、猪之吉は失踪前に家に「富くじ」を残しているとともに、猪之吉は10年ほど前に、さる寺の富くじの掛け金を修理したことがあるらしく、彼の失踪も「富くじ」に関係しているようなのだが、なんとも霧の中といった具合である。
 
そして、この蔵破りの事件と並行して、「富くじ」系では、明昌院という寺がかなり大規模な「富くじ」を始める。ここの住職の「玄璋」は貧乏な小寺の住職から明昌院の住職に出世し、さらに上の門跡寺院を目指しているらしいのだが・・という噂の強欲坊主。しかも、この坊主は、前述の悪徳十手持ちの長次と関わりがあるらしく、おゆうの想い人の同心・伝三郎とと配下の源七が監視を強める最中、その長次が変死を遂げる。
 
さて、蔵破りの事件と、富くじと長次の変死は、どう結びつくのであろうか・・・、というところで、七年前の「疾風の文蔵」一味が姿を消した本当の理由へと突き当たってくる展開である。
 
ネタバレ的に付け加えると、「玄璋」を捕まえる際の、寺社奉行所と町奉行所の網の張り方と、盤の詰め方は結構、読みどころでありますし、この寺社奉行が、後の老中・水野忠邦で、「富くじ」を禁止した張本人というのも、結構凝った設定でありますね。
 
本書では、優佳の祖母の江戸生活の話も聞くことが出来て、このシリーズ、だんだんと円熟味が増してきましたね。

「おき玖」ちゃんも、ようやく幸せになれそうですな — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 27 あんず花菓子」(時代小説文庫)

巻を重ねてきた、このシリーズなのだが、今巻でひとまず第一シリーズが完結。
 
収録は
 
第一話 高輪御膳
第二話 名残り魚
第三話 あんず花菓子
第四話 彼岸鮨
 
となっていて、まずは、日本橋の米問屋・加嶋屋が、俳諧仲間の会合で、塩梅屋に「鯛つくし」の料理を依頼してくるところから始まる。この俳諧仲間というのが食通の集まりで、瓦版でも取り上げられる、ちょっと小うるさい存在。しょうがなく依頼を受けた季蔵なのだが、その宴会の席に浪人者が押し入り、彼らや季蔵を人質にとり「二日前の塗り物問屋・野沢屋に届いた文箱を差し出すこと」「二十年前の、迷宮知り事件の下手人を差し出すこと」といった奇妙な要望を出す。
この要望を奉行所が対応しているうちに、俳諧仲間の一人で、早出し青物の卸元・青田庵のおはるが乱暴されたりするのだが、浪人たちの出した条件の「二十年前の迷宮入り事件」に、おき玖が関係いそうで・・、といったのが第一話。
 
第二話の「名残り魚」は、救出後、静養中のおき玖の留守中に、季蔵が「黒鯛」の料理の考案をするかたわら、第一話の事件の裏をあれこれと推理するもの。気になるのは「黒鯛(チヌ)」料理で、残念ながら、季蔵の考案するものより、長次郎の料理日記に記録された、「さつま」という
 
チヌの身をすり鉢でよく当たり、木杓子にうけて軽くこbげ目をつけた味噌を加え、冷ました出汁で少しづつ伸ばす。
炊きたての飯にこれをかけて小口切りの葱、すり胡麻をのせる
 
という料理の方が魅力的。
 
第三話は、第一話で不幸な目にあった青田庵のおはるへの見舞いに、あんずを使った菓子を考案するとことからスタート。この青田庵が扱っている「あんず」の仕入元の藩で、どうやら御公儀へ上訴するほどの圧政が行われている気配がある。これに絡んで、第一話の俳諧仲間の一人の結城屋や、前述の青田庵におはるの殺人事件や老人ばかり殺される連続殺人の謎をとくのが第四話という展開。
 
ここで、第一話の「二十年前の迷宮入り事件の下手人を差し出せ」という要求の裏の理由がわかるのだが、これはちょっと難癖っぽいな。
 
さて、第一シリーズ完結ということなのだが、あまりネタバレしてもよくない。「完結」のわけは、おき玖ちゃんの目出度い出来事、とだけ言っておこう。おき玖ちゃんは、シリーズの最初の方で、幼馴染との恋が散った経験があるので、まあよかった、よかったですな。
 

大店の婚礼話には事件がつきものなんだろうか — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 26 恋しるこ」(時代小説文庫)

さて、今回の料理人季蔵シリーズの収録は
第一話 師走魚
第二話 兄弟海苔
第三話 新年薬膳雑煮
第四話 恋しるこ
となっていて、どちらかというとそれぞれが独立した単話仕立て。

 

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長次郎ゆかりの熟柿泥棒の陰に悪人組織が巣食う — 和田はつ子「かぼちゃ小町」(時代小説文庫)

第一シリーズの第25弾となる本巻では、前巻まで、未解決となっていた不審死の真相が明らかになる。
 
構成は
 
第一話 あま干し柿
第二話 秋すっぽん
第三話 かぼちゃ小町
第四話 もみじ大根
 
となっていて、まず第一話では長次郎ゆかりの熟柿が盗まれる所からスタート。犯人は大金を積んでも口に入らない食通・豪商あたりの差し金かとみえて、熟柿つくりの肝の座布団が捨てられていたり、といったことで、もっと深い陰謀がありそうな風情である。この盗難事件での不幸中の幸いは、北町の隠密同心・伊沢蔵之進ゆかりの「干し柿」の製法が手に入りそうなあたりか。
 
第二話はちょっと舞台が変わって、瑠璃の滋養のために飲ませている「すっぽんの血」を提供してくれている、すっぽん屋の娘・楓の奉公先の料理屋・四季屋の主人殺し。四季屋の主人には、仕入れ・やりくりといった経営から、客の差配まで仕切っている、三十過ぎの美女・理彩がいるのだが、まあ、こういうキャラに対する作者の態度は、このシリーズの読者であれば、もうお分かりですよね。
 
第二話の四季屋の殺人事件の真相も明らかにならないまま、話は十年前の「かぼちゃ小町」といわれた八百屋の娘が、婚約者から折檻されて殺された疑いのある事件の再捜査へ横展開。
 
最終話の「もみじ大根」で、消化不良のまま展開してきた今巻の事件を含め、前巻、前々巻での米沢屋の事件やお連の変死といった”指掛け”になったままの事件をはじめ、10年前のかぼちゃ小町の事件以降の不審死の犯人が明らかになる。その相手は、なんと甲賀者まで引っ張り込んだ、結構大掛かりな設定の悪党なのだが、「天下の大乱」とならないのが、このシリーズが市井の捕物帳であるせい。上田秀人の「加賀百万石」などとはここが違うところであるな。
 
さて、今までの悪党退治は、出張というか、悪党の根拠地に出張っての立ち回りで、塩梅屋や元許嫁の瑠璃が養生させてもらっている、お涼さんの家は、安全な居場所であったのだが、今巻から、ここまで戦線が広がってきた展開である。次巻以降、どんな悪役キャラが登場してくるでありましょうか。
 

男を手玉に取る悪女のあっけない最後は、どことなく哀れ — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 瑠璃の水菓子」(時代小説文庫)

このシリーズは、毎巻、その巻を彩る、いわばゲスト的なキャラクターが登場してくる。近くでは、出張料理人を偽っていた隠れ者の旗本とか、武家上がりのおきゃんな芸娘とかが登場していたのだが、今巻は、河童屋の平助というまっすぐな胡瓜を売る野菜売りと男をコロリと手玉に取る「お連」という長唄の師匠という対象的な二人である。
 
収録は
 
第一話 河童きゅうり
第二話 江戸香魚
第三話 瑠璃の水菓子
第四話 鮎姫めし
 
となっていて、まず第一話で、ごろつきが二人がそれぞれ別の日に、胡瓜を手にして殺されていたもの。胡瓜が特別製なのと背中にくらげのような河童のような絵が描かれていたもの。この胡瓜と河童の絵のせいで、平助が下手人の疑いをかけられるところからこの巻はスタート。
 
もちろん、お連の方も大活躍で、米沢屋という米問屋の主人・征左衛門と若旦那・そで吉をそろって手玉に取るという荒業を展開する。二人を手玉にとるのは、米沢屋の身代が目的なのか、ほかに理由があるのか、この辺は最終話でやっと明らかになるのだが、はじめのところは色悪の女そのものですな。
 
そして、第二話で、米沢屋の若旦那・すえ吉が殺されたり、第三話で、米沢屋を揺すっていた彦一という願人坊主が墓荒らしをしている最中に殺されていたり、さらには「お連」も突然自殺したり、と悪辣なのが次々死んでいく。
この連続殺人の種明かしは、というところで、平助の友人で彼に胡瓜の苗を卸している弘吉という存在が急にクローズアップ。しかも、彼の武家時代の過去がキーというのはちょっと後出しジャンケンでは、と思わないではない。もっとも「お連」殺しの犯人は不明なままで、解明は次巻以降へ引っ張られる。
 
さて、このシリーズの特徴は、毎回、凝った料理が披瀝されるところで、今巻でも鮎づくしとか鮎のかど飯とか鮎を使った料理が数々でるのだが、当方的に、鮎勢をなぎ倒して躍り出るのは、表題にもある「瑠璃の水菓子」で
 
熟れて濃い香りの漂う真桑瓜の皮を剥き、種を除いて、みじんに切った後、すり鉢でどろりとづるまで擂り潰した。
寒天は水でふやかしておく。
鍋に水と千切った寒天を入れて煮溶かし、三度ほど漉してから砂糖を加えて混ぜる。
これが人肌程度に冷めたところで、どろしとした真桑瓜と混ぜ合わせて、長四角の流し缶に注ぐ。
後は盥を手にして、井戸端と厨の往復である。・・・これに限っては固まるまで続けなければならない。
やっと出来上がった真桑瓜の水菓子は、流し缶から取り出して、切り分けてみると、鶸萌黄色の寒天と真桑瓜の果肉部分が二層になっていた
 
というもので、真桑瓜ゼリーが正体。今では、メロンに競べて格下の薪割売なのだが、ちょっとこいつは惹かれますな。とはいうものの、鮎料理も一工夫も二工夫もあって、粋で旨そうなものばかり。江戸を揺るがす「大悪」ってのも今回は登場しないので、料理の方を堪能してみてもよいですね。
 

御落胤騒動ってのは、いつの時代も変わらぬ騒動を引き起こすな — 山本功次「大江戸科学捜査 八丁掘のおゆう 両国橋の御落胤」(宝島社)

現代と江戸時代を往復して江戸の市中の謎を解く「おゆう」こと現代名・関口優佳の活躍を描くシリーズの第二作。
 
構成は
 
第一章 牛込からの手紙
第二章 備中から来た男
第三章 四谷の地蔵菩薩
第四章 押上の茶会
 
となっていて、今回、「おゆう」が扱う事件は両国の小間物問屋・大津屋にに突如投げ込まれた、「若旦那は生まれた時に入れ替わった別の家の子供」という、なにやら昨今、実話でとりあげられていたような話。
ところが、その文の差出人の産婆は行方不明にとなっていて。事の真相は闇の中。
さて、というところで、産婆の家で、八丁堀の同心・鵜飼伝三郎に出くわす。彼もも同じ産婆を探していて、彼の追う事件は、時の老中が町奉行に命じた備中の大名家の御落胤の噂話の真相究明。おゆうが請け負った大津屋の事件は、この御落胤の話とすりあってくるのだが・・、といった展開である。
 
今回は「御落胤騒動」とあって、その大名家(備中矢懸藩)を二分する対立に巻き込まれたりするのだが、もうひとつの興味は、極秘の捜査とあって奉行所や役宅が使えず、おゆうの家に入り浸りになる鵜飼伝三郎との恋模様といったところで、硬軟取り混ぜて筋は展開する。
 
で、今回の掟破りは、前巻で指紋分析やらの現代の科学捜査の技術を使ったものよりさらにバージョンアップして、現代の備中(高梁市っぽいな)に出向いての証拠集めと偽造というもの。「捕物帳」という性格なので許されるが、「ミステリー」なんて名乗っていたら、エライ目にあいますな、これは。
 
まあ、ちょっとネタバレすると、御落胤騒動ってのは、吉宗の御落胤・天一坊の例に漏れず、うまくいかないってのが世の常であるのだが、御落胤をめぐって、悪知恵と猿知恵の限りをつくして大乱闘と暗闘がくりひろげられる、っていうのが楽しいところで、この作品もそこのところはきちんとおさえてあるんでご安心あれ。
 
まあ、捕物帳の魅力の一つは、歴史的事実はちょっとおいといて、異世界で起きる出来事をうひゃうひゃと愉しむところでもある。難しく考えず、作者の掌の上で楽しみませんか。

「白犬」に導かれて、「善光寺」ならぬ「殺人」巡り — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 23 花見弁当」(時代小説文庫)

気のあった料理人仲間であった武藤が行方をくらまし、心にすきま風が吹いている季蔵であったが、一人花見に出かけた先で、本巻の新たなキャストに出会うことになる。それは、なんと「白犬」である。
 
構成は
 
第一話 花見弁当
第二話 江戸っ子肴
第三話    若葉膳
第四話 供養タルタ
 
となっているが、今回も一話完結ではなく、一巻完結の話。
 
まずは、季蔵が霊岸島へ花見に出かけるところからスタート。花見の料理は、さすがというべきか、「鶏肉の柚酒焼き」「豚肉の柚酒煮  という豪華版なのだが、そこで出会った白犬にほとんど全てを食べられてしまう。しかもこの犬、料理の気に入り具合を吠える回数で表現するという生意気ぶりである。
 
第一話の本筋の事件は、呉服問屋の手代・長助が酒に酔って変死するものなのだが、この花見の時に登場する、塩梅屋の近くの煮売屋親子が、この巻での重要な配役となるので覚えておこう。ちなみに、この煮売屋の娘が、死んだ長助に惚れていたのだが、この長助、あちこちの娘から菓子やら甘酒やら煮売やらの食べ物を貢がせていたという、野暮なんだがどうだがわからない色男である。
 
第二話は、事件のほうは、上方からの下り酒を見せ金に、水で薄めた酒を高価な値で売り払うという騙し蔵の詐欺に関連する殺人事件なのだが、メインは、蔵之進の配下を務める、ベテランで腕利きの亀吉親分の引退お引き止めようと、江戸っ子の粋を集めた宴席を設ける話。提供される料理は、   「江戸っ子膳」と銘打って「意図ミス場の刺身風、納豆の卵巻き、蒟蒻と胡桃の酒粕和え」「鰹の江戸風味」「豚肉の柚子煮」「烏賊の共焼き」「エビの天麩羅江戸っ子風」「白独活とワカメの酢の物」「鮪のきじ焼き風茶漬け」で、なんとも粋なもの。
この時点で煮売屋の娘は  という店に奉公していて、しかも、その店の若旦那に見初められて、というなんだか嘘っぽい話。こういう、惚れっぽいが、純粋な良い娘にこの作者は手厳しいので、注意が必要であるな。
 
第三話は、その宴席の話がメインで、煮売屋の娘・桃代の奉公先・みやび屋の若旦那・慎吉が誠実そうな雰囲気を醸し出すが、さて本質はどうか気になる所。この話の最後で、前話で復帰することを誓った亀吉親分が卒中死する。彼が宴席の最後に喋る「友人を石見銀山で毒殺した子供」のエピソードがどこで関係してくるのか、そして、騙し蔵の殺人に関わりのありそうな京風の着物を来た美人の年増女の正体も、ここではまだ謎のまま。
 
第四話は、その桃代の嫁取りにみやび屋親子がやってくる時の料理に「茶」をつかったものを季蔵が考案しているうちに、みやび屋の主人が心臓病の発作で突然死、さらには、お内儀のはな江が毒殺。犯人の疑いのかかる桃代は近くの稲荷神社で自殺、とやたらと人死にが出る。この一連の事件の鍵となるのは、騙し蔵の事件で出てきた「年増女」なのだが、性の趣味の違いと身近なところに犯人がいる意外さに驚くが、真相は原作でご確認を。
 
さて、見目の良い男には、とんでもない裏がある、というのが印象的な本巻。そういう類の男に騙される娘たちが、哀しいですな。

東京育ちの現代娘、「江戸」で名探偵になる — 山本功次「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」(宝島社)

タイムスリップもののミステリーは柴田よしきさんの「小袖日記」などいくつかあるのだが、大抵は主人公が何かの天災に巻き込まれて別の時代に飛ばされて、とか、その時代の人物の精神と混じり込んでしまって、といった設定が多い。ところが、本作は主人公が現代と江戸時代を自由に行き来して、江戸時代に起きた事件を解決をするという、ちょっとお気楽というか便利な設定である。
 
構成は
 
第一章 神田佐久間町の殺人
第二章 小石川の悲劇
第三章 本所林町の幽霊
第四章 深川蛤町の対決
第五章 八丁堀の女
 
となっていて、主人公の「おゆう(現代名:関口優佳)」は、元OLで、祖母から東京の(作中で優佳が地下鉄の馬喰横町駅から阿佐ヶ谷の向うシーンがあるので、おそらくは)日本橋にある一軒家を遺産相続する。ところが、なんとこの家、押入れを通じて、江戸時代とつながっていることが判明。現代と江戸時代の二拠点生活を始めた彼女は、現代の知識や道具を使って、江戸時代の人々のよろず困りごとを解決していくうちに、町奉行所の同心・鵜飼伝三郎たちと知り合いになり、江戸のその時を揺り動かす大事件に巻き込まれていく、といった展開。
 
巻き込まれる事件は、薬種問屋・藤屋のドラ息子が殺される事件に始まり、偽薬の流通、薬を検査する和藥種改会所の創設を巡る利権争い、アヘンの抜け荷と、あれよあれよという間に事件が大きくなっていく。とりわけ、おゆうが訪れる時代は、将軍家斉の治世で、寛政の改革失敗後、田沼意次の時を上回る賄賂政治の時代と言われた水野忠成が老中首座の時代なので、まあ、時代小説的には悪人には事欠かない面白い絶好の時代である。
 
その事件の解決に、「おゆう」こと優佳は、警察以上の分析能力を誇る知り合いのラボを使って、指紋、薬の成分分析、血液分析などなど捜査に必要なデータをいわばカンニングして捜査協力するわけでが、その分析結果をありのままに、江戸の同心や岡っ引きたちに伝えられないのが苦しいところ。
 
結局は、英語教育を受けている現代人の「関口優佳」の知識によって、権門(水野老中)の虎の威を借りて、アヘンでボロ儲けを企む、薬種商や水野老中の家臣たちをお縄にできました〜、といったところなんであるが、善人と見えた藤屋の隠された一面とか、鵜飼伝三郎の正体とかが最後の方で、手品の種明かしのようにバラバラと開陳されるので、ぜひ最後まで気を許さないでお読みあれ。途中、鵜飼伝三郎との色模様もあって、捕物だけではない楽しみもありますよ。

腕利きの出張料理人の隠された真の姿は? — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 22  ゆず女房」(時代小説文庫)

長く続くシリーズものの登場人物は、とかくマンネリ化してくるもので、読者としては定期的に新キャラの投入を望みたいところなのだが、それが定着するキャラに育つかどうかは、作者のお好み次第というところであるらしい。
 
収録は
 
第一章 冬どんぶり
第二章 河豚毒食い
第三章 漬物長者
第四章 ゆず女房
 
となっていて、今巻の読みどころは、武藤多聞がキャラとして定着できるかどうか、といったところであろうか。
 
まず第一話は、「冬うどん」こと「鶏団子うどん」で名物ランチの評判をとった塩梅屋が、今冬のランチで再びの高評判を勝ち得る料理をつくれるかというもの。料理を考案する過程で、長崎屋のお内儀が酒浸りになっている、という相談事の解決を図るのだが、女の嫉妬とは粘っこいなと想わせる結末。さらには、今回名物ランチになる「冬どんぶり」こと「葱たま丼」に必要な卵の仕入先も巻き添えにしてしまう。年寄りが熟れ頃の女性に惚れ込んでも甲斐がないかも、という決着はちょっとさびしいな。
 
第二話は、北町奉行の烏谷の依頼を受けて、季蔵と武藤が、セレブが通うふぐ料理屋の宴席の手助けをする話。もちろん、宴席が無事に終わるはずもなく、旗本のお家騒動も絡んで、血なまぐさい展開になるのは、捕物帳の宿命か。
 
湯引きは三枚に下ろしたふぐの上身を、厚めにそぎ切りした後、皮と一緒に湯に潜らせ、水で晒して、紅葉ろしや酢醤油をつけだれにして食べる。
(中略)
かね炊きとのほうは骨付きぶつ切りの身を、つぶしたにんにくと梅干しと一緒に醤油で煮つける
 
といったふぐ料理に免じて、話の陰惨さも我慢しようか。
 
第三話は、季蔵の旧友・豪介の女房おしんの取引先の漬物屋・野もと屋の主人の失踪事件の解決譚。この主人、仙台が旅の途中で連れ帰った出所不明の人物で、漬物の仕入れにも一人で旅するという変わり者。彼の失踪の陰に隠された過去は、といったもの。これに役者くずれの煮売屋の亭主の失踪+死亡事件がからんでくる。およそ関係なさそうな二人なのだが・・、といった展開。
作中の
 
柿なら何でもいいから、熟れたら、へたを取って、砂糖と焼酎、それに刻んだ唐辛子を放り込んで、漬け床をつくるんです。三月もおいておくと、これ、柿酢になるんです。
 
という柿酢で大根をつける「大根の蒸し柿漬け」のように少々複雑な人間模様である。
 
最終話の「ゆず女房」は、扇屋・錦堂のお内儀の「ちぐさ」が庭先で凍死するのだが、彼女の身体にはひどい折檻を受けた後が残っていて・・、というところから始まる。もちろん、彼女を利用して性欲を満足しているゲスなセレブがいるのだが、彼女を死に導いたのは、なんとあの・・、といったところで手を下した人物とその正体は原本で確認あれ。
話を彩るのは、武藤の妻・邦恵の「ゆず料理」で柚子味噌、柚子大根、ゆべしと種類豊富なのだが、どうしても侘しさが漂うのは、話のすじのせいか、あるいは柚子の性格のせいであろうか。
 
さて、20話あたりから、新キャラが登場するも、この巻あたりまでで精算が相次ぐ。健在な女性キャラは。「おき玖」と「瑠璃」。さて二人と季蔵との関係はいかなることになりますやら。