時代小説・歴史小説」カテゴリーアーカイブ

長唄の美人師匠と薙刀の達人の奥方が、江戸の悪党をなぎ倒す ー 西條奈加「世直し小町りんりん」

舞台は江戸。日本橋を北に渡った東側にある高砂町に住む、長唄の師匠で「高砂弁天」こと「お蝶」を主人公に、彼女の義姉で、兄で南町奉行所の当番与力・榊安之の奥方・沙十(さと)、お蝶と同じ長屋に住む「雉坊」「千吉」とともに、持ち込まれている面倒な相談事を、お蝶の気風の良さと沙十の薙刀の腕で解決していく仕立てなのが、本書『西條奈加「世直し小町りんりん」(講談社文庫)』

時代的には、最後のほうで、南町奉行の岩渕是久が「これまでさまざまな御役についてきたが、役を重ねるごとに城中の暗愚ばかりが際立つ。二百年を経て、すでに根太が腐っているのだ」と言うあたりをみると、文化文政の頃あたりでしょうか。まあ、町民文化が爛熟して最盛期であるとともに、牧野 の賄賂政治が横行した時であるので、あれこれ揉め事が起きるにはうってつけの時代ですね。

【収録と注目ポイント】

収録は

「はなれ相生」
「水伯の井戸」
「手折れ若紫」
「一斤染」
「龍の世直し」
「朱龍の絆」
「暁の鐘」

となっていて、まず第一話の「はなれ相生」は、お蝶の弟子のの本橋の瀬戸物問屋伊藤屋の娘・お久美が遊び人の男と度々会っているようなので、これをなんとかしてくれ、という伊藤屋の女将さんからの頼みを「沙十」が受けたもの。

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若き江戸の「庭師」が、庭を使った悪事をぶっ潰す ー 朝井まかて「ちゃんちゃら」(講談社文庫)

「庭」っていうのは、はるか古代のバビロンの空中庭園あたりから歴史を刻んでいるらしく、日本でも7世紀あたりから仏教の須弥山を模した石を配置した庭がつくられていたのだが、本作の舞台となる江戸時代になると、将軍や大名を始めとする武家が、城や屋敷を築く際に、庭園内を回遊することができる「回遊式庭園」を盛んにつくるようになっていた時代である。

本作は、大名や有力武家、あるいは、裕福な商人たちが、贅をこらして庭を作っていた文化の時代、庭師「植辰」の若い職人「ちゃら」を主人公にした物語である。

「文化」といえば、この後の「文政」とあわせて「化政文化」と呼ばれる、浮世絵、川柳、歌舞伎など現代へつながるものが盛んになった町民文化が華やかな時代で、景気のよい町人が羽振りをきかす一方で、流行り病に苦しむ貧しい人も多数出ている、格差の大きい社会で、それは本作の主人公ちゃらの身の上にも現れている。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 緑摘み
第一章 千両の庭
第二章 南蛮好みの庭
第三章 古里の庭
第四章 祈りの庭
第五章 名残の庭
終章 空仕事

となっていて、まずは主人公である「ちゃら」、彼の師匠の植辰の主人・辰蔵、その娘・百合、庭師の福助、穴太衆の末裔で石組みの玄林といった主なキャストが登場するところからスタート。ちなみに、「緑摘み」というのは4〜5月に行う作業で、梅雨に入るまでに、松の新芽を一つずつ摘んでおく作業で、これをやらないと夏になると脂がふいて芽を潰してしまうものらしい、「松の姿は新芽をどう摘んだかで、全く異なるものになる」らしく、本書中にはこんな「造園」のTipsがあちこちででてきます。

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女の三人旅は、いつの時代も大騒ぎなのだ ー 朝井まかて「ぬけまいる」

舞台となるのは、弘化二年(1845年)の江戸。「弘化」のいうのは、ちょうど天保から嘉永の間、出来事的には、天保の改革、蛮社の獄、天保の飢饉と、いった天災人災の多かった「天保」と、黒船来航・日米和親条約といった国際的な出来事のある「嘉永」に挟まれて、少し地味な時代である。ちなみにWikipediaで調べてみても、目を引くような記述はない。

そんな時代に、三十歳近くなった、一膳飯屋の娘・お以乃、御家人の妻・お志花、小間物屋の女主人・お蝶の三人の幼馴染、通称「いのしかちょう」が、突然思い立って、伊勢参りにでかけるのだが・・・、といった感じで展開するのが本書『朝井まかて「ぬけまいる」(講談社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

一 木の芽どきは
二 とびきり
三 渡りに舟
四 抜け駆け
五 良し悪し
六 悪しからず
七 なめんじゃねえ
八 のるかそるか
九 しゃんしゃん

となっていて、「ぬけまいる」というのは「抜け参り」のことで、親や主人、村役人に無断で家を抜け出し、伊勢神宮への集団参詣で、「お陰参り」ともいったもの。だいたい60周年周期で大発生したようで、本書の舞台の弘化二年の近くでは、約15年前の天保元年(1830年)に大流行したようで、その時は420万人余がお詣りしたようですね。

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大坂町火消をまとめ上げて、火災旋風に立ち向かえ ー 今村翔吾「双風神(ふたつふうじん) 羽州ぼろ鳶組 9」

第四巻の「鬼煙管」で、初代長谷川平蔵を六角獄舎の火災で失って後、江戸が物語の中心となっていて「上方」とはご無沙汰となっていた。
今回、その時に知り合いとなった、淀藩常火消の「蟒蛇」こと野条弾馬の要請と、幕府と朝廷との「暦編纂」の争奪争いが絡み、「大坂」で羽州ぼろ鳶組が活躍する姿が描かれるのが「ぼろ鳶組」シリーズ第9弾となる『今村翔吾「双風神(ふたつふうじん) 羽州ぼろ鳶組 9」(祥伝社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 緋鼬
第二章 水の都
第三章 天理人足
第四章 秘策
第五章 大坂
第六章 赤舵星十郎

となっていて、まずは、ぼろ鳶が誇る「風読み」加持星十郎が、幕府の天文方が京都の土御門家から「暦の編纂」の権利を取り戻すための勝負に、幕府方として参加するため、休暇がほしいと申し出るところからスタート。この時、羽州ぼろ鳶組の頭取・松永源吾のもとには、淀藩常火消の野条弾馬から、大坂で頻発する、複数の小火から緋鼬へと広がっていく火事の対応の援助を求められており、ふ星十郎+源吾+武蔵の三人組で、暦争いと緋鼬退治に大阪へ出かけていく、という展開である。

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悪辣な老中の”参勤の命”下る。地方の小藩の闘い方はいかに ー 土橋章宏「超高速!参勤交代」+「超高速!参勤交代 リターンズ」(講談社文庫)

参勤交代というのは、外様大名の力を削ぐために江戸幕府が考案した優秀な策といいてよく、例えば加賀百万石の前田家などでは、行列の人数が3000人を超え、費用も3000両近くも費やしたものであるらしい。
このあたりは、上田秀人さんの「加賀百万石の留守居役」でも主人公の瀬能数馬が苦労したところなのだが、本シリーズ「超高速!参勤交代」「超高速!参勤交代リターンズ」は、時の老中・松平信祝が、 内藤政醇の湯長谷藩の隠し金山(らしきもの)に目をつけて、鉱山を自分のものとするために、通常なら8日間かかる参勤交代を5日間で江戸まで来い、という命令を下したことに始まる物語である。

【あらすじと注目ポイント】

時代設定的には「徳川吉宗」の時代。本書で湯長谷藩に無茶な命令を出した「松平信祝」というのは、実在の人物で、奏者番、大阪城代、老中を歴任した人で、ネットで調べる限り、本書にでてくるような悪辣なところは見つからないのだが、この悪辣さで物語の面白さが数倍増しているので、ご子孫もお許しください。

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マラソン大会を開催した、お殿様の意図はどこに? ー 土橋章宏「幕末まらそん侍」

舞台となるのは、今の群馬県安中市を城下町としていた上野(こうずけ)国の「安中藩」。ここの五代目藩主である「板倉勝明」が、”鍛錬のため”と言う理由で、安中城から碓氷峠の上にある熊野神社まで、組をつくって遠足(今のマラソンですな)を命じたことから始まる、藩内のドタバタを描いたのが本書『土橋章宏「幕末まらそん侍」(時代小説文庫)』である。

この命令を下した「板倉勝明」というお殿様は名君であったらしく、藩内の学問奨励や杉の木の栽培などの改革をした人らしいですね。本書の物語にもととなったのは、彼が実際に藩士に命じた「安政遠足(あんせいとおあし)」がモチーフとなっていて、この安中市には「日本マラソン発祥の地」があって、毎年、仮装してマラソンする「安政遠足侍マラソン」が開催されているようですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 遠足
第二章 逢い引き
第三章 隠密
第四章 賭け
第五章 風車の槍

となっていて、この「遠足」が開催されたのは安政2年ということなので、安政5年に始まる「安政の大獄」や安政7年の「桜田門外の変」より数年前、黒船来航の1年後といったところで、時代がわさわさしながらも、まだ大動乱にはなっていないところですね。

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日本の海を明るく照らせ。灯台はじめて物語 ー 土橋章宏「ライツ・オン!」(筑摩書房)

「日本はじめて物語」というのは、明治時代の文明開化の頃を舞台にした物語のおなじみネタなのだが、どうしても「鉄道」といった派手なものが注目されることが多くて、「灯台」をテーマにしたものは本書ぐらいのものだろう。その意味で、こうしたマイナーなものに目をつけて物語に仕立て上げた筆者の目の付け所はさすがであろう。

物語の舞台となるのは明治の初期。当時の灯台の多くは、光の到達距離の短い灯明台や常夜灯の設置がされていたのみで、日本の近海は暗礁も多く、「ダーク・シー」と呼ばれて恐れられていたようだ。
この状態は基本的には、高度経済成長の頃まで続き、結構長く続くのだが、本書は近代海洋国家・日本の黎明期で奮闘したお雇い外国人と日本人との挑戦の物語である。

【あらすじと注目ポイント】

物語は、「丈太郎」という英国人と日本人の間に生まれた「緑の目」を持つ少年が、雇い主のお雇い外国人技師・リチャードともに長崎港へ入る所からスタート。

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お園と吉之進の恋路を邪魔する「高ピー娘」出現 ー 有馬美季子「縁結び蕎麦 縄のれん福寿5」(祥伝社文庫)

疾走した亭主の捜査行で、多摩地方まで一緒に旅をした後、そのままくっついてしまうのかな、と思えた、元同心の寺子屋師匠・吉之進と、「福寿」の女将・お園の仲は、なかなか本腰をいれた付き合いにならないままであったのだが、吉之進の実家の親戚のお嬢様・文香が登場することで、波乱が巻き起こるのが今巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

お通し 新年料理
一品目 円やか河豚雑炊
二品目 紅白ゆで卵
三品目 石楠花の寿司
四品目 ほっこり芋金団
五品目 縁結び蕎麦

となっていて、まずは吉之進の再従姉妹(はとこ)の文香が登場するところからスタート。
彼女の実家・綾川家は「表右筆」の旗本で、そこの長女という設定。さらに、吉之進の母親の実家がこの綾川家ということになってますね。右筆というのは公文書の作成や記録などを行う文官で、幕府の決裁書類の老中や将軍の決裁の順番を差配したり、裏の実力者であるのだが、この時代、右筆の中でも奥右筆がトップエリートであるので、「表右筆」だけの家というのは、ちょっと鬱積したものがあるかもしれないですね。

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「艦これ」にも登場する軍艦内で起きる事件を「解決セヨ」 ー 山本巧次「軍艦探偵」

太平洋戦争が終結してから、2019年で74年を経過していて、当時のことを実体験として経験した人々も少なくなっているのだが、当時の海軍の軍艦を舞台に、元会計士出身の「短期現役士官」の主計将校の池崎幸一郎が、渡り歩いた軍艦の艦内で起きる事件の数々を解決していく、という筋立てなのが、本書『山本巧次「軍艦探偵」(ハルキ文庫)』である。

「短期現役士官」というのは、本書によると「大学た高等専門勝っ号の法学・経済学部卒業生の中から、志望者を募り、海軍経理学校終了後に、海軍主計士官として任官される」というもので、「主計」というのは、砲弾や燃料の供給から衣食住の提供・給料の支払い、備品や消耗品の調達など全ての雑多な仕事を請け負う、今で言う総務課+経理課といったところの仕事である。そんな部署の「課長補佐」さんが、各支店内でおきる事件の数々をサクサクと解き明かす、といったイメージで読んでもらえばいいだろう。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ 昭和二十九年六月
第一話 多すぎた木箱 ー戦艦榛名ー
第二話 怪しの発光信号 ー重巡最上ー
第三話 主計科幽霊譚 ー航空母艦瑞鶴ー
第四話 踊る無線電話 ー給糧艦間宮/航空機運搬艦三洋丸ー
第五話 波高し珊瑚海 ー駆逐艦岩風ー
第六話 黄昏の瀬戸 ー駆逐艦蓬ー
エピローグ 昭和三十年五月

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京都料理のライバル店登場。客足を戻す手立てはあるか ー 有馬美季子「源氏豆腐 縄のれん福寿4」(祥伝社文庫)

疾走していた夫の行方を追って、東京の多摩地方を一月ほど旅をし、その夫との思い出やなんやかやをきっちりと精算することのでできた「お園」であったのだが、江戸へ帰って早々に「店の存続の危機」が起きる。
というのも、彼女の留守中に、近所に京料理の名店が店を開き、「福寿」の客はほぼ根こそぎ、その店の客になってしまっていた。
さて、この店の難局を、「お園」はどう解決するのか、というのが「縄のれん福寿」シリーズの第4弾『有馬美季子「源氏豆腐 縄のれん福寿4」(祥伝社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

お通し 近いの蚕豆
一品目 紫陽花菓子
二品目 鯔背な蕎麦、艶やかな饂飩
三品目 祝の膳
四品目 おろしやの味
五品目 源氏豆腐

となっていて、まずは、お園が江戸は帰り、店に顔を出した途端、留守を頼んでいた、八兵衛とお波夫婦から、近くにできた「京都料理」の山源に客を皆とられてしまったという話を聞くところからスタート。

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