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「教える」より「コーチング」が部下育成のトレンド ー 菅原裕子「コーチングの技術」

最近の職場は、リストラや合理化がいきついてしまって、多くの管理職が、マネジメントに専念できるポジションではなく、プレイイング・マネジャーとなっていることが多い。しかも、職種や経験も多種多様でな部下を抱えながら、「チーム」としての総合力と成果を求められているビジネスマンは多いのではなかろうか。
そんな時に、有効な「手法」としてよく言われるのが、「コーチング」という言葉であるのだが、じゃあ、その中身は、といった具体的なことになると、途端にぼんやりとしてしまうのではなかろうか。
そんな「コーチング」についての入門書が本書『菅原裕子「コーチングの技術 上司と部下の人間学」(講談社現代新書)』。

【構成は】

はじめに
第1章 人の可能性を開くコーチング
第2章 コーチングが発揮される環境とは
第3章 コーチングの技術
第4章 グループコーチングの技術「ファシリテーション」
第5章 セルフコーチングのすすめ
あとがき

となっていて、第1章から第2章が、コーチングの重要性の提案とコーチングが使える場面、第3章がコーチングの主なテクニック、第4章、第5章が、応用編、といった構成である

【注目ポイント】

◯コーチングとは

そもそも「コーチング」とは

コーチングは、対象者が自覚していない潜在的な知識やスキルを引き出し、それを智慧に高め、結果に結びつけていく作業です。「知っていること」と「知っていること」を結びつけ、「知っていること」と「新しい情報」を結びつけ、これまでにない「結果」を作り出すのがコーチング

ということであるのだが、これでは抽象的すぎる。端的にいうと「一方的にああしろこうしろと教え込むのではなく、相手の中の眠っている能力を引き出し、それを高めていくこと」ということで、つまりは、コーチングをする側が誘導するというよりは、コーチング側が受ける側が主導的に動くように仕向ける、ということである。

◯「聞くこと」も意外と難しい

となると、コーチングの基本的な技術としては、まず「聞くこと」が大事になるわけなのだが、そこにもまた

私たちはよく、「聞き耳を立てる」という表現をします。相手の話をよく聞こうと耳を澄ますさまを言います。ところがその「耳」には、人それぞれの「聞き方」があります。ですから「聞く耳を立てて」聞こうとすればするほど、観念という翻訳機が作動してしまいます。

といった落とし穴があって、きちんと「聞く」ためには、本書でアドバイスする「ミラーリング(鏡に写したように相手と同調した動きをすること)」や「ペーシング(相手の話し方ー速度、リズム、抑揚、声の大きさーを合わせる」や「バックトラッキング(相手の話の中からキーワードを見つけ、そのキーワードを繰り返す質問の方法)」といったテクニカルなところを習得しておいたほうがよいらしいのだが、この辺は、独学より、スクールや講座で実地に教わったほうがよい気がしてくる。

◯「望ましいもの」を与える指導法

さらに、効果的な指導方法として「望ましいもの(好子)」を与えるやり方が推奨されるのだが、

実際にやってみると、好子を与える方法は思ったより簡単にできるのですが、大抵の人は罰を与える方を好みます。なぜなら、上手くいっている状態を待つには辛抱が必要だからです。辛抱して待つより、その場で叱った方が、手間をかけずにすむと思うのでしょう。
(略)
ここでもコミットメントが重要な鍵のようです。
コミットメントとは、望んでいることが起こるまで待つ忍耐と、そのためには何でもしようという柔軟性であると述べました。好子を使って相手の行動を強化するためには、まず待つことです。

といった風で、「ちょっとやってみますね」といったようにはいかない気がする。本書では具体例として

部下が読みづらい文書を持ってきたときは、叱るのではなく「どうしたらもっと読みやすくなるだろう?」と質問したり、「ここはこう変えてはどうだろう?」と具体的に提案をします。そして、なかなかいい文書ができたと思うときに、「この文書は読みやすいね。よくできているよ」とか「努力したんだね。前よりグンとよくなった」と、相手の努力を認めるような言葉をかけます

といった例が上げられているのだが、スムーズにこれをやるには、少々トレーニングがいるような気がしますね。

◯セルフ・コーチング

さらに、自分自身への「コーチング」の一端も紹介されていて、セルフコーチングによって

よく売れるセールスマンと、そうでないセールスマンの違いについてある話を聞いたことがあります。よく売れるセールスマンは、「売れるのはこの次かな」と、売れるまでお客様のドアを叩きつづける。ところが、売れないセールスマンは「ここまでやったのに売れないのは結局ダメなんだ」とあきらめる。
この違いは、売れるセールスマンは「売れる」という結果が見えているため、単純にそれがいつかを待つだけ、売れないセールスマンは売れている結果が見えないために、あきらめてしまうということです。

とか

セルフコーチングにおいては、行動のストレッチをお勧めします。ストレッチとは、自分を引き伸ばすことです。普段はやらないようなことに挑戦してみることです。まともでない要求を自分に課すことで、日常の癖から抜け出し、いつにないわくわく感を作り出すことができます。

といったこととなるようで、、なんとなく勇気づけられるような気がしてきますね。もちろん、そのためには、テクニカルなところを身につける必要もあるので、そこは本書をはじめ書物などできちんと抑えておく必要がありそうですね。

【まとめ】

ともかく、コーチングの秘訣は

優れたコーチは、人を勝たせることを喜びとしています。スポーツ界におけるどのコーチを例にとっても、コーチが独自に脚光を浴びることはありません。選手が素晴らしい結果を作り出したとき、その業績を支えた人として、選手がスポットライトを浴びるその脇で多少の光を浴びるのです。ビジネスにおけるコーチも同じです

ということで、あくまでも、コーチングする「相手」が第一。その点で、今までの「デキる上司」が部下たちを引っ張ったり、追い立てたりして成果を上げていくという方法とは、全く異なる手法であることに間違いない。初めて部下を持って、その指導法やリーダーシップに自信が持てない方は、まずは、本書のような入門書でまず基礎知識を身に着けてから、講座やスクールを活用してみてはいかがであろうか。

【コーチング関連ではこんな本も】


 

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人事部よ、もっと「熱心」に「我が事」として経営を語れ ー 八木洋介・金井壽宏「戦略人事のビジョン」

「人事部」といえば、事業セクションの人間からいえば、要求しても人員は措置してくれないし、なにやら隠れて「査定」とかしている「闇の組織」、人事セクションからすると真面目に組織全体を配慮しながら人の配置やら、人の採用とかをやっているのに、「世間知らず」で高慢と思われる損な役割、というのが相場ではないか、と人事と事業どちらも経験した当方は思うのである。
どちらが正しいか、ってなとこは最後の【まとめ】で述べるとして、本書『八木洋介・金井壽宏「戦略人事のビジョン〜制度で縛るな、ストーリーを語れ」(光文社新書)』は、日本鋼管、GEで人事部の中心として活躍されていた八木大介氏と、気鋭の経営学者・金井壽宏により、人事についての”熱い”提案の書である。

【構成は】

まえがきー金井壽宏
第一章 人事は何のためにあるか
第二章 組織の力を最大限に高める
第三章 改革の旗を振る
第四章 リーダーを育てる
第五章 「強くて、よい会社」を人事がつくる
あとがきー八木大介

となっていて、金井教授が新書を著す時によく見る、双方の掛け合いで展開していくつくりである。筆者の一人の八木氏はGEを含めて人事担当の経験が長く、さらのその分野で数々の実績もある方らしく、GEやNKKの実例も豊富で、具体的な記述も多く、人事屋の「読みもの」としても面白い。

【注目ポイント】

「人事部」の聖域性とか権威性の回復を考えて、この本を読もうとするのなら、止めておいたほうがいい。
なぜなら、一種の「人事部」を生まれ変わらせようとする本だからで、それは

私は、こういうことこそが人事の一番大切な仕事だと考えています。社員の頭の中に霧がかかっていれば、霧を晴らす手伝いをする。社員の心の中で火が消えかけているのであれば、熱く語って火つけ役になる。場合によっては、社員の心の中に手を突っ込んでグルグル引っかき回す。そうやって、社員のやる気を高めるために人事の仕事はあるのだと確信しています。

といったところでも明らかで、今までの採用あるいは配置転換で、「絶大な」権限をもっている(はずの)人事部のスタイルを正面から変えようとするもので、ここは結構、刺激的である。

その前提で、”あるべき”人事部は

(会社の)戦略をベースに、ふつうの人である社員とのコミュニケーションを図り、そのやる気を最大化し、企業の生産性を向上させること、これが私の考える戦略人事のあり方であり、人事部門が担うべき役割

であり

戦略人事における最大の課題はマネジャーやリーダーの育成であり、その仕事には会社の命運がかかっています。

ということなので、旧来のような、いわば経営部門、事業部門から超然とした人事部ではなく、事業にコミットすることが求められる、というのが本書の主張。

では、今まで、総務とか人事とか、会社の「管理部門」として「管理」に純化していればよかった部門がこうした役割を担わなければならないのかというところは、

日本企業も変わるべきときを迎えています。熾烈なグローバル競争においては、使命感をもった「よい会社」も、利益優先の「強い会社」との競争を余儀なくされます。そして、「よい会社」が競争に打ち勝っていくためには、自社のよさを戦略的に使いつつ、「強い会社」がもっている優位性を積極的に取り込んでいく必要があります

という現実認識に基づいていて、要は、管理も営業も製造も、総力戦で「会社」の行く末にコミットしなければいけない、生き残れない時代になった、ということでもある。

そして、本書では

人事には、会社が曖昧な状況に置かれているときに、進むべき方向性を示すアンバサダー(大使) の役割、トップが言うことを社員にわかるように伝え、社員が抱いている思いをトップに正しく伝えるトランスレーター(通訳) の役割、それから、社員のやる気を引き出して集団のパワーを最大化するために、会社の戦略をストーリーとして語るストーリーテラー(語り手) の役割、社員の悩みやフラストレーションを、言葉によって前向きの考えに変えていくエンライター(啓蒙者) の役割があります。まとめて言うと、人や組織を最大限に活用し、その会社の「勝ち」を実現するのが人事の役割

と、人事を担当する人へかなりの「激」が飛ばされているので、今まで、テクニカルな部分に安住して、「権威性」を保っていた「人事部」の面々は肝を冷やすところも多いだろうが、ここは時代が変化しているのだな、と認識して、自らも「変革」することを始めたほうがよいと思う。

【まとめ】

「人事」についての本というと、経営やマネジメントに携わる人間にとっては、ちょっと他人事の部分があって、要は「うまいことしとけよ」といったところがあるもの。
本書は「人事部」が必要かどうかは別にして、「人事」がマネジメントの根幹になるうる可能性があること、また「人事」によって「マネジメント」が変わる可能性を示唆してくれる本である。
「人事部」勤務の人たちではなく、むしろ、マネジメントに携わっている人に勧めたい一冊ですな。

プレイングマネジャー向け「説教」にならない部下の「コーチング」のコツ

先だって、レビューした『中原淳・金井壽宏「リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する」(光文社新書)』では、マネジャーのほとんどがプレイングマネジャーとなりながら、プレイヤーとしての実績を求められる部分が多くて、「指導」という場面が弱くなっているということを紹介した。
 
でも、今どき「管理」だけに特化できるマネジャーは「絶滅危惧種」に近くなっているという状況は間違いなく、全ての「プレイングマネジャー」の仕事に「部下育成」が含められるのが大多数であろう。でも「仕事をするコツ」は今まで教えられてきていても、「人を育てるコツ」はなかなか伝授されることが少なく、以外に時間をとることに驚いている人も多いはず。
 
同書から、「プレイングマネジャー」向けの「部下指導のコツ」的なところを抽出してみた。
 

【指導のコツは4つ】

 
まず、(理屈っぽく)分類されているのが
 
第一に、タイミングを考える
第二に、成功経験だけでなく、失敗経験も語る
第三に、プロセス(出来事の連鎖)をつまびらかにする
第四に、吟味や反論の可能性を認める
 
ということで、第一のコツは「文字通り」であるのだが、第二のコツ以降はちょっと補足しておきたい。
 

【「失敗体験」を積極的に語る】

 
第二のコツの「失敗体験」を語るべきなのは、上司による部下指導、特に「呑み屋」での部下指導は、自慢話、内輪話に陥ることが多いので、それを防止するためなのだが、失敗体験を多めに語ったほうがよい。というのが、成功体験というのは、それぞれの条件(幸運なことも含めて)に依存することが多いのだが、失敗には多くの共通点があるので、むしろ、その共通点を知ってもらうほうが、若手職員がこれから事をなすのに、前轍を踏まないようにサポートできる。さらに成功体験でも中には「プチ失敗」あるいは「失敗の未然防止」的なことは隠れているので、そこらを中心にしたほうが良いと思う。
「成功体験」は「失敗」とあわせて伝えるほうが、しっかり人の心には残りますので。自慢話をしたい向きもご安心を。
 

【背中を見せる】

 
第三のコツは、そのまま読めば、「5W1H」、自分が思ったことと教訓をはっきりさせなさいということなのだが、「言葉」で語るよりも、プレイング・マネジャーであれば、その姿を実地に見せる、という方法を組み合わせたほうがいい。
 
同書でも
 
彼ら彼女らがプレイングしている様子」は、つねに部下の視線にさらされている。となると、マネジャーは直接、教えてはいなくても、部下の方ではマネジャーの行動の観察を通じて、「そうか、あんなふうにプレイすればいいのか」というふうに学ぶ機会を得るのではないだろうか
 
とか
 
マネジャーがプレイングな状況にあるからこそ、何かを言われた部下は、言われた内容が腹に落ちるのではないだろうか。「プレイしているあの人が言うんだから、そうなんだろう」という感じ
 
とあって「背中を見せる」ことの効果を挙げている。この「背中を見せる」のは、いわゆる「管理」だけをしているマネジャーには出来ないことなので、「プレイイング」している現場を使えるという、プレイング・マネジャーの利点をしっかり使ったほうが良い。ただ、最近は人員も限られて、現場に部下を同行させられないことも多いから、背中の「見せ方」は、リアルな方法だけでなく、いろいろ考えないといけないな。
 

【持論に拘わらない】

 
第四のコツには
 
経験はつねにどんな状況にもあてはまるとは限らない。上司の経験の中には、今のビジネス環境に照らせば時代遅れになってしまっているものもある。そのエピソードが今に通ずるものななのか。教訓に妥当性があるのかを、きちんと部下と話し合えることが重要になる。
 
と同書も補足されているのだが、これを担保するの「プレイングマネジャー」側の心構えとして、「持論に固執しない」ということが必須で、同書では
 
貴重な経験を積み、十分な振り返りをへてせっかくつくり上げた持論でも、それが絶対化し、安定化し、変わらぬものになったとき、あるいは、いつでも、どんな人にも、どんな状況にも適用されると思い込んでしまったとき、それは「危険な持論」に変貌する。
 
と「第2章」で「持論」が障害になる場合が記されている。
 
ここで「持論に固執しない」とあえて補足したのは、経験に基づいて抽出した「持論」がきちんとしていなければ、部下への説得力もないし、部下の「ハウツー本」で手に入る方法論を求めてはいないので、効果的な指導に「持論」は不可欠なのだが、オールマイティに使える「持論」は存在しない、と思って置く必要があるからである。「指導」が「説教」に変化してしまわないためにも、ここの辺はこころしておかないといけないでしょうね。
 

【すべてのプレイング・マネジャーへのエール】

 
以上、『中原淳・金井壽宏「リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する」(光文社新書)』から抜粋しながら、プレイング・マネジャーの部下指導のコツをまとめてみた。「働き方改革」といわれながら、「改革」の効果が一番届きにくいのが、この層。こうしたTipsを参照していただいて、自己防衛を図ってくださいな。
 

【関連記事】

「組織内の教育」を再生する方法は?ー中原淳・金井壽宏「リフレクティブ・マネジャー」

「組織内の教育」を再生する方法は?ー中原淳・金井壽宏「リフレクティブ・マネジャー」

「会社」あるいは「組織」の中での「伝承」が風化していると感じることが多い。本書『中原淳・金井壽宏「リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する」(光文社新書)』はもともと、マネジャー論として書かれたものなのかもしれないが、多くの部分が「会社内の教育、上司からの指導」ということに言及されており、当方としては、組織のノウハウやナレッジの伝承の方策や部下への指導・コーチング手法といった方向で読んでみた。

【構成は】

第1章 上司拒否と言う前に
第2章 内省するマネジャーー持論をもつ・持論を棄てる
第3章 働く大人の学びー導管から対話へ
第4章 企業は「学び」をどう支えるのか
第5章 企業「外」人材育成

となっていて、教育学者・中原淳氏と経営学者・金井壽宏がそれぞれ、相手の論述を下敷きに、冊子上で議論を重ねていくといった構成。

【注目ポイント】

まず、今の職場が直面しているのは

おそらく彼らは、自分たちの周りにいる上司が現状に追われてばかりいるようなのを見たり、難問を背負い込まされ、四苦八苦しているようだったりするのを観察しているうちに、だんだん上司との距離を置くようになり、「自分たちはああはなりたくない」と思うに至ったのだろう。その意味では、「上司拒否。」は「学習された結果」

というような、上司と部下の「分断」という現実で、ノウハウがうまく伝承されないのは、企業社会がマネジメントする時間のない「プレイング・マネジャー」を量産し、しかも教えるべき部下もろくに供給してこなかった、というように、むしろ企業側に原因のあることも多い。

ではあるのだが、企業側の非を鳴らしていても、やることはやらされるのが、勤め人の常。であるなら、自己防衛の意味でも、「教えること」のノウハウを味見つける必要があるよね、ということで、本書内で注目すべき、その一つが「裏マネジメント」という手法。
本書内では「裏マネジメント」とは「マネジメントの基本(=表マネジメント)だでは対応できない場合のマネジメントに光を当てた呼び名」とまでで明確な定義はないのだが、

裏マネジメントでは、目標そのものをみんあと一緒に探したり、手順がわからない仕事に取り組んだり、試行錯誤を繰り返したりする。端的に言えば「みんなで一緒になんとかやってみる」世界が開けている。表マネジメントが、ついつい管理に走って人をがんじがらめに縛りがちであるのに対し、裏マネジメントは、未知のテーマに挑戦する人を支える。また裏マネジメントでは、マネジャーは階層で上位だから知識の上でも上位だという発想は通じない。とりわけ未知への挑戦においては、知らないことは知らないと素直に認め、組織のメンバーたちがそれぞれの経験と思考を踏まえて議論し合い、新たな知識が創造される場をつくり出す必要がある。

と言うことから見れば、管理する立場だけの「垂直方向のマネジメント」ではなく、コントロールしつつも部下と協働する「斜め上からのマネジメント」という風に当方は解釈した。この「斜め上」というのが肝だと当方は思っていて

もうひとつは

「働く大人は社内だけで学んでいるわけではないかもしれない」ということだ。すでに見てきたように、「同じ職場と社外」に〝かかわり先〟をもっている若手・中堅は、成長感もモラールも高い。

ということで、伝承したり、指導するメンター的存在は、社内だけに求めず、広く「外部」に学びに行かせる、という手法もありだな、というところ。当方的には、これは大学とか学校とかに再び行かせるという意味ではなく、部下に、経験を積んでメンターになりうる人を紹介する。彼ら彼女らから話を聞く機会をつくる、といったことがメインであると考えていて、これは例えば会社の接待に場に同席させる、とか、相手方の訪問の時に同行させるとか、なんとなく、昔の「背中を見せて育てる」といった手法のリメイクといった気がするのである。とりわけ、

右肩上がりの成長が見込めた時代なら、人はハードシップで鍛えられながらも、喜びを感じやすかっただろう

しかし今後はどうだろう。私と同世代である現在の若手・中堅たちや、これから大不況の中で働く場所を見つけなくてはならないもっと若い人たちに、「修羅場を経験しろ」とはっぱをかけるだけで、彼ら彼女らはそれに挑戦しようとするだろうか

といった疑念の出てくる、「長い低迷時代」にあっては、修羅場で人を鍛える、という手法より有効であるかもしれない。

そして、

上司がなすべきことは、個人の熟達を手とり足とり支えることや人材育成のすべてを担うことではない。「人が育つ実践共同体(この場合は職場)」をつくること、職場のメンバーが成長するような社会的関係や職場の風土をデザインすることではないかと思う。そしてさらに重要なことは、上司が実践共同体の「一部」として、上司自らも「学び続ける存在」として「成長」をめざすことにある。

と、「上司の役割」を明示的に限定しながらも、「やるべき役割」を明確にされているあたりは、「上司による指導」を語る面で外してはいけないところであろう。

【まとめ】

レビューの方向性を「ノウハウの伝承」「指導のノウハウ」といった目線からしたので、取り上げる方向性も限られてしまったが、現在の「組織の弱体化」の原因は、今までの階層性を壊したと同時に、「経験を伝授する機能」も壊してしまったことにあると思っている。

ただ、組織が再生するためには、今一度「教える」システムを取り戻すしかないと思っていて、本書のアプローチはかなり「ツカエル」気がする。

すべての企業内研修の企画者が目を通しておくべきであろうな。

スタバ流の「優秀な人材」を育てるコツは? — 岩田松雄「いつ、どこでも求められる人の仕事の流儀」

会社や組織の効率性を高めるために、仕事のやり方を見直したり、労働時間を見直したり、といった「外形」の対策はいろいろ講じられるのだが、なんとなくチグハグで、「形」ばかりということが悩みのタネの組織は多いハズ。本当のところは、そこで「働く人」の心持ちが一番基本にあるので、そうした人物像を目標にした意識付けをしようと思っても、じゃあ具体的な人物像は、となると、突然茫漠としてしまって悩みこんでしまうことも多い。そういうオーソドクスなところを、スターバックスコーヒージャパンの元CEOの筆者が熱く語っているのが本書である。

【構成は】

はじめにーどんな働き方でも変わらない「大切なこと」
1章 期待以上に働く
1 周囲に「小さな感動」を起こす人
2 「役割」をとことん全うする人
3 まわりに「活気」を生み出す人
4 「先頭」に立って動く人
2章 形にして見せる
1 何を考えているかが分かる人
2 経験をどんどんオープンにする人
3 目的がいつも明らかな人
4 何でも具体的に示せる人
3章 言葉を惜しまない
1 思いを「言葉」にできる人
2 心からあふれた言葉を使う人
3 「しっかり伝わる」話をする人
4章 考えがぶれない
1 目先にとらわれない人
2 楽しそうに働く人
5章 組織を強くしていく
1 未来のために、今動く人
2 仲間のために頑張れる人
3 仕事場に「いい空気」をもたらす人
4 「問いかける力」がある人

となっていて、筆者がスターバックスやの本コカ・コーラ、ザ・ボディショップなどの経営経験から、仕事ぶりで周囲の信頼と尊敬を得て、長い間語り継がれる成果を上げている「レジェンド」と呼ばれる人の”共通項”を紹介する、というのが基本の展開。

で、その展開に沿ってレビューしてもいいのだが、少々真面目すぎてそれではつまらない。今回は、本筋とは全く関係なくも、当方が「ほう」と思った

①スタバに「レガシー」が生まれる理由(わけ)
②リーダーは役割
③イノベーションは「マーケティング」からは生まれない

の3つをご紹介。

続きを読む

今こそ人事部門が「存在価値」「存在するメリット」を見せるべき時なのだ — 本間浩輔・中原淳「会社の中はジレンマだらけ 現場マネージャー「決断」のトレーニング」 (光文社新書)

成果主義、年功序列の崩壊、ダイバーシティなどなど、働く環境は最近本当に目まぐるしく、主導理念が変わったり、付加されたりするのだが、急激な変化は当然、軋轢を生むもの。そして、そうした軋轢は、現場の管理職・マネージャーたちを直撃することが多いのだが、本書はそんな管理職・マネージャーたちの環境分析でもあり、アドバイスとエールでもある。
 
構成は
 
第1章 なぜマネージャーに”現場仕事”が増えるのか
 ー「部下に任せる」ための人材育成トレーニング
第2章 なぜ産休社員への人員補充がないのか
 ー部下のワーク・ライフ・バランスを考えるトレーニング
第3章 なぜ「働かないおじさん」の給料が高いのか
 ー新しい評価と組織づくりのトレーニング
第4章 なぜ新規事業のはしごはすぐ外されるのか
 ー「会社と成長」を考えるトレーニング
第5章 なぜ転職すると給料が下がるのか
 ー「これからの自分の働き方」を思考するトレーニング
 
となっていて、まず、こうした軋轢にぶつかった時は
 
はじめにいったん立ち止まって、状況をじっくりと「観察」することです。
そのうえでジレンマの構造を「理解」します。
そして観察と理解に基づいて「決断」を下し、前に進みます。
 
ということで、まずは落ち着くことが大事なようだ。
ただ、落ち着いて取り組んでも、今のマネージャーたちを取り巻く環境は、そう簡単なものではなくて、例えば、部下育成の場面では
 
組織のフラット化には、意思決定のスピードが増す、人件費を抑えられるといったメリットもありますが、フラット化にともなう部下の増加は現場のマネジメントを難しくしてしまっている。
企業の側もその点には気づいていて、最近はマネジャーになる手前の人材を「チームリーダー」といった肩書にして、数人の部下を見させたりしていますよね。
 
といったように、実は組織改革の失敗の部分を、マネージャーたちに制度的にカバーさせているところがあったり、
 
「任せられない問題」の背後には、「マネジャーがプレイヤーでもあり続けなくてはならない」という状況があると見ています。
マネジャーが、自分のチームのミッションに対応できる人的リソースを十分に与えられていれば、任せることは容易なはずです。
しかし、今のプレイングマネジャーは自分も仕事を抱えていて、自分の目標も達成しなくてはならないから、部下の様子にしっかり「目配り」することができない。このプレマネ状況が、「振る」とか「丸投げする」といった行動につながっているんじゃないかと思う。
 
といったように、いわゆる人員削減、経費削減が巡りまわって、マネージャーたちが尻を拭いている状況がレポートされている。当方が思うに、グローバリスムの風が席巻した後の人事政策は、往々にして、流行のものを調整することなく無条件に持ち込んで、あちこち出っ張ったり、ぶつかるところを、現場合わせで、現場のマネージャーたちが調整させられているような気がしていて、このあたり、もう少し現場に丁寧な制度導入を考えてみるべき時期ではないかと思う。
 
それは、いわゆる「人事評価」という人事の根幹のところでも、例えば
 
三六◯度評価は、使い方を誤ると、データを読み間違える可能性が高くなりますね。異常値の検出には使えるんです。誰が見ても問題のある人の評価は低く出る。これを目指すならば、三六◯度評価は使えるかもしれません。だけど、ランキングを出すような評価に使えるかというと、あまり使えないのではないかという気がします。
 
 
たとえばOJT制度だってそうですよね。あれは、高度成長期に工業製品をつくっていた人たちに合った育成方法で、業績が右肩上がりでみんなが「自分はこの会社でずっと働き続けるだろう」と思える時代だったから、うまくいっていたんだと思うんです。
 
と言った風に、流行のものや今まで当然と思われていた人事制度にも、きちんと分析の目が届いているのが本書の特筆すべきところであろう。
 
本書によれば
 
高度経済成長期という右肩上がりの時代にたまたまかみ合っていたものがあって、それが年功序列や終身雇用だったわけですよね。
ただ、本当にかみ合っていた時期は、実はほんの三○年ぐらいじゃないかと思うんです。それに、高度成長は日本が東西冷戦構造の中でつかんだ「奇跡」であり、もっと言うと「棚からボタ餅」でしょう。奇跡や棚ボタは滅多に起きないんだから、時代に合わないものは変えたほうがいいと思います。
あの時代を基準にして物事を考えるのはもうやめないといけないし、変えるのをそんなに怖がる必要もない。だってよく考えてみてください。この国は常に外憂をかわし、変化し続けたから生き抜くことができたんです。
 
ということで、最近の年功序列、終身雇用を見直す風潮は、ちょっと歴史的認識が不足しているとこことであるらしい。日本的雇用を再評価する動きは、正直言って、バブル経済前後から職業生活を送っている、当方のような年代層の大部分にとっては非常に安心感を抱くのだが、時代はそうはならないのが本当のところで、いいかげん観念しないといけないところであるようだ。そしてそれは、
 
これまでの人材育成の研究って、新入社員をどう育てるかとか、リーダーシップをどう開発するかといった「登山の研究」ばかりなんです。
役職がなくなり、給料が下がっていく下降のプロセスをいかにうまくたどり、自分のキャリアをいかに収束させていくかという「下山の研究」がなかった。
「下山」という言葉が強すぎるなら、「折り返しの研究」
 
ということで今までの研修やら、育成の方法そのものを見直す必要性にかられているものであるし、
 
右肩上がりの給与が期待できない成熟した社会では、給与の源泉をひとつに絞ることは、今後できなくなると思います。
企業は社員に自律を求める方向にいくのだろうし、だとしたら、副業を許容せざるをえない
 
と言った風に、企業へのロイヤリティの問題も含めて、職業生活のあり方を考え直さない問題でもある。
 
さて、どうやら、時間外労働の縮減といったことも大事なんでありますが、「変化」はそういう一種の牧歌的なところでは留まりそうもない。ワークスタイルそのもの、職業生活そのものについて、根本から考えないといけない時代になってきているような気がいたしますね。