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「おき玖」ちゃんも、ようやく幸せになれそうですな — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 27 あんず花菓子」(時代小説文庫)

巻を重ねてきた、このシリーズなのだが、今巻でひとまず第一シリーズが完結。
 
収録は
 
第一話 高輪御膳
第二話 名残り魚
第三話 あんず花菓子
第四話 彼岸鮨
 
となっていて、まずは、日本橋の米問屋・加嶋屋が、俳諧仲間の会合で、塩梅屋に「鯛つくし」の料理を依頼してくるところから始まる。この俳諧仲間というのが食通の集まりで、瓦版でも取り上げられる、ちょっと小うるさい存在。しょうがなく依頼を受けた季蔵なのだが、その宴会の席に浪人者が押し入り、彼らや季蔵を人質にとり「二日前の塗り物問屋・野沢屋に届いた文箱を差し出すこと」「二十年前の、迷宮知り事件の下手人を差し出すこと」といった奇妙な要望を出す。
この要望を奉行所が対応しているうちに、俳諧仲間の一人で、早出し青物の卸元・青田庵のおはるが乱暴されたりするのだが、浪人たちの出した条件の「二十年前の迷宮入り事件」に、おき玖が関係いそうで・・、といったのが第一話。
 
第二話の「名残り魚」は、救出後、静養中のおき玖の留守中に、季蔵が「黒鯛」の料理の考案をするかたわら、第一話の事件の裏をあれこれと推理するもの。気になるのは「黒鯛(チヌ)」料理で、残念ながら、季蔵の考案するものより、長次郎の料理日記に記録された、「さつま」という
 
チヌの身をすり鉢でよく当たり、木杓子にうけて軽くこbげ目をつけた味噌を加え、冷ました出汁で少しづつ伸ばす。
炊きたての飯にこれをかけて小口切りの葱、すり胡麻をのせる
 
という料理の方が魅力的。
 
第三話は、第一話で不幸な目にあった青田庵のおはるへの見舞いに、あんずを使った菓子を考案するとことからスタート。この青田庵が扱っている「あんず」の仕入元の藩で、どうやら御公儀へ上訴するほどの圧政が行われている気配がある。これに絡んで、第一話の俳諧仲間の一人の結城屋や、前述の青田庵におはるの殺人事件や老人ばかり殺される連続殺人の謎をとくのが第四話という展開。
 
ここで、第一話の「二十年前の迷宮入り事件の下手人を差し出せ」という要求の裏の理由がわかるのだが、これはちょっと難癖っぽいな。
 
さて、第一シリーズ完結ということなのだが、あまりネタバレしてもよくない。「完結」のわけは、おき玖ちゃんの目出度い出来事、とだけ言っておこう。おき玖ちゃんは、シリーズの最初の方で、幼馴染との恋が散った経験があるので、まあよかった、よかったですな。
 

大店の婚礼話には事件がつきもの — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 26 恋しるこ」(時代小説文庫)

さて、今回の料理人季蔵シリーズの収録は
第一話 師走魚
第二話 兄弟海苔
第三話 新年薬膳雑煮
第四話 恋しるこ
となっていて、どちらかというとそれぞれが独立した単話仕立て。
まず、第一話は、両替屋・千田屋の法要料理を塩梅屋が務めることになったのが発端。ただ塩梅屋のような一膳飯屋の進化系のような店が選ばれたのは、「生鮭をつかった尽くし料理」という、およそ仏事とは思えない注文である。
その原因は、千田屋を仕切っている、隠居している祖母の「梅乃」にあって、彼女が婿を以前虐めて事故死させたことが素で、鮭フリークになったことのあるおとがわかる。季蔵が、口うるさい隠居婆さんを満足させるため、試作を行っている最中、高価な珊瑚の簪が届く。千田屋の孫娘・千恵の婚礼祝らしいのだが、さて、送り主は、といったところで今巻の事件の幕開け。
 
千田屋の孫娘・千恵が、死んだはずの自分の父親からプレゼントだ、と主張するので、珊瑚の贈り主を探しを始め、代書屋の勇吉という男に行き当たるが、彼は、女誑しの「ごろつきの芳三」殺しの犯人としてしょっぴかれるところを、季蔵が、間一髪、真犯人を見つけ出す、というのが第一話の展開。
第二話は第一話の「芳三殺し」で、勇吉の無実を晴らしてくれと、季蔵に頼んだ、「五吉」の十数年前の母親殺しの再捜査。ここに、海苔屋・浅草屋の15年前の大店の神隠しが絡むのだが、これは次話以降へのつなぎであろう。
さて、引き続く第三話では、同じ婿取り話として、薬種問屋の鈴鹿屋の婚礼に関連する事件。
鈴鹿屋の跡継ぎとして養女の入る姪の「さつき」のところに「殺人予告」の手紙が入るのが発端なのだが、この家の場合、昔の奉公人の孫娘というふれこみの「奈美」という娘が、あっけらかんとした明るい美人娘で、婿になる予定の医家の三男坊の長岡仁太郎とくっついてしまったどころか、店の実権をもつ「お世津」のお気に入りでもある、という複雑な人間関係である。
こういうときに起きる事件は、お決まりで、女主人の「お世津」殺しなのだが、ついでに奈美も巻き込まれる。あっけらかんとした「天然」の美女に「冷たい」のは、このシリーズの特徴であることを、ここでも立証してますね。
最後の第四話は、この時代、島送りの次の悪名の高い「寄せ場」で白骨死体と抜け穴がでてきたというところから事件は始まる。その陰に、15年前の、天女と呼ばれたお汁粉屋の小町娘と、男前の火消しの恋話がありそうな、というところで話は展開するのだが、ひさびさに想いあう男女に優しい幕切れではありますね。
さて、今巻では、江戸の巨悪が登場せず、色欲、金欲にかられた小悪党の退治が主であるのだが、犯行の原因が欲まみれであると、なんとなく事件も脂ぎって、ベタつくのであるが、これも浮世の常なんでしょうかね。
最後に、今巻での特筆料理は、各話の表題とは異なる「塩梅屋の風呂ふき大根」。「林巻大風呂吹大根」というもので
練り味噌は鍋に赤味噌m白味噌を入れて混ぜ、味醂、酒、すった白胡麻を加えて火にかけてどろりとさせておく。
大根は、爪の先ほどの厚さに桂剥きした大根に酒を振り、それをゆるめに蒔き直しぐるりと糸で結び、強火の蒸籠で蒸し上げる。
器に練り味噌を敷き、糸を外して大根を盛り付ける。柚子の皮または練り辛子で風味と彩りを添える
という凝ったもの。今巻の鮭とか汁粉がどうも当方の気を惹かなかったので、塩梅屋定番の料理の紹介としておきました。

長次郎ゆかりの熟柿泥棒の陰に悪人組織が巣食う — 和田はつ子「かぼちゃ小町」(時代小説文庫)

第一シリーズの第25弾となる本巻では、前巻まで、未解決となっていた不審死の真相が明らかになる。
 
構成は
 
第一話 あま干し柿
第二話 秋すっぽん
第三話 かぼちゃ小町
第四話 もみじ大根
 
となっていて、まず第一話では長次郎ゆかりの熟柿が盗まれる所からスタート。犯人は大金を積んでも口に入らない食通・豪商あたりの差し金かとみえて、熟柿つくりの肝の座布団が捨てられていたり、といったことで、もっと深い陰謀がありそうな風情である。この盗難事件での不幸中の幸いは、北町の隠密同心・伊沢蔵之進ゆかりの「干し柿」の製法が手に入りそうなあたりか。
 
第二話はちょっと舞台が変わって、瑠璃の滋養のために飲ませている「すっぽんの血」を提供してくれている、すっぽん屋の娘・楓の奉公先の料理屋・四季屋の主人殺し。四季屋の主人には、仕入れ・やりくりといった経営から、客の差配まで仕切っている、三十過ぎの美女・理彩がいるのだが、まあ、こういうキャラに対する作者の態度は、このシリーズの読者であれば、もうお分かりですよね。
 
第二話の四季屋の殺人事件の真相も明らかにならないまま、話は十年前の「かぼちゃ小町」といわれた八百屋の娘が、婚約者から折檻されて殺された疑いのある事件の再捜査へ横展開。
 
最終話の「もみじ大根」で、消化不良のまま展開してきた今巻の事件を含め、前巻、前々巻での米沢屋の事件やお連の変死といった”指掛け”になったままの事件をはじめ、10年前のかぼちゃ小町の事件以降の不審死の犯人が明らかになる。その相手は、なんと甲賀者まで引っ張り込んだ、結構大掛かりな設定の悪党なのだが、「天下の大乱」とならないのが、このシリーズが市井の捕物帳であるせい。上田秀人の「加賀百万石」などとはここが違うところであるな。
 
さて、今までの悪党退治は、出張というか、悪党の根拠地に出張っての立ち回りで、塩梅屋や元許嫁の瑠璃が養生させてもらっている、お涼さんの家は、安全な居場所であったのだが、今巻から、ここまで戦線が広がってきた展開である。次巻以降、どんな悪役キャラが登場してくるでありましょうか。
 

男を手玉に取る悪女のあっけない最後は、どことなく哀れ — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 瑠璃の水菓子」(時代小説文庫)

このシリーズは、毎巻、その巻を彩る、いわばゲスト的なキャラクターが登場してくる。近くでは、出張料理人を偽っていた隠れ者の旗本とか、武家上がりのおきゃんな芸娘とかが登場していたのだが、今巻は、河童屋の平助というまっすぐな胡瓜を売る野菜売りと男をコロリと手玉に取る「お連」という長唄の師匠という対象的な二人である。
 
収録は
 
第一話 河童きゅうり
第二話 江戸香魚
第三話 瑠璃の水菓子
第四話 鮎姫めし
 
となっていて、まず第一話で、ごろつきが二人がそれぞれ別の日に、胡瓜を手にして殺されていたもの。胡瓜が特別製なのと背中にくらげのような河童のような絵が描かれていたもの。この胡瓜と河童の絵のせいで、平助が下手人の疑いをかけられるところからこの巻はスタート。
 
もちろん、お連の方も大活躍で、米沢屋という米問屋の主人・征左衛門と若旦那・そで吉をそろって手玉に取るという荒業を展開する。二人を手玉にとるのは、米沢屋の身代が目的なのか、ほかに理由があるのか、この辺は最終話でやっと明らかになるのだが、はじめのところは色悪の女そのものですな。
 
そして、第二話で、米沢屋の若旦那・すえ吉が殺されたり、第三話で、米沢屋を揺すっていた彦一という願人坊主が墓荒らしをしている最中に殺されていたり、さらには「お連」も突然自殺したり、と悪辣なのが次々死んでいく。
この連続殺人の種明かしは、というところで、平助の友人で彼に胡瓜の苗を卸している弘吉という存在が急にクローズアップ。しかも、彼の武家時代の過去がキーというのはちょっと後出しジャンケンでは、と思わないではない。もっとも「お連」殺しの犯人は不明なままで、解明は次巻以降へ引っ張られる。
 
さて、このシリーズの特徴は、毎回、凝った料理が披瀝されるところで、今巻でも鮎づくしとか鮎のかど飯とか鮎を使った料理が数々でるのだが、当方的に、鮎勢をなぎ倒して躍り出るのは、表題にもある「瑠璃の水菓子」で
 
熟れて濃い香りの漂う真桑瓜の皮を剥き、種を除いて、みじんに切った後、すり鉢でどろりとづるまで擂り潰した。
寒天は水でふやかしておく。
鍋に水と千切った寒天を入れて煮溶かし、三度ほど漉してから砂糖を加えて混ぜる。
これが人肌程度に冷めたところで、どろしとした真桑瓜と混ぜ合わせて、長四角の流し缶に注ぐ。
後は盥を手にして、井戸端と厨の往復である。・・・これに限っては固まるまで続けなければならない。
やっと出来上がった真桑瓜の水菓子は、流し缶から取り出して、切り分けてみると、鶸萌黄色の寒天と真桑瓜の果肉部分が二層になっていた
 
というもので、真桑瓜ゼリーが正体。今では、メロンに競べて格下の薪割売なのだが、ちょっとこいつは惹かれますな。とはいうものの、鮎料理も一工夫も二工夫もあって、粋で旨そうなものばかり。江戸を揺るがす「大悪」ってのも今回は登場しないので、料理の方を堪能してみてもよいですね。
 

「白犬」に導かれて、「善光寺」ならぬ「殺人」巡り — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 23 花見弁当」(時代小説文庫)

気のあった料理人仲間であった武藤が行方をくらまし、心にすきま風が吹いている季蔵であったが、一人花見に出かけた先で、本巻の新たなキャストに出会うことになる。それは、なんと「白犬」である。
 
構成は
 
第一話 花見弁当
第二話 江戸っ子肴
第三話    若葉膳
第四話 供養タルタ
 
となっているが、今回も一話完結ではなく、一巻完結の話。
 
まずは、季蔵が霊岸島へ花見に出かけるところからスタート。花見の料理は、さすがというべきか、「鶏肉の柚酒焼き」「豚肉の柚酒煮  という豪華版なのだが、そこで出会った白犬にほとんど全てを食べられてしまう。しかもこの犬、料理の気に入り具合を吠える回数で表現するという生意気ぶりである。
 
第一話の本筋の事件は、呉服問屋の手代・長助が酒に酔って変死するものなのだが、この花見の時に登場する、塩梅屋の近くの煮売屋親子が、この巻での重要な配役となるので覚えておこう。ちなみに、この煮売屋の娘が、死んだ長助に惚れていたのだが、この長助、あちこちの娘から菓子やら甘酒やら煮売やらの食べ物を貢がせていたという、野暮なんだがどうだがわからない色男である。
 
第二話は、事件のほうは、上方からの下り酒を見せ金に、水で薄めた酒を高価な値で売り払うという騙し蔵の詐欺に関連する殺人事件なのだが、メインは、蔵之進の配下を務める、ベテランで腕利きの亀吉親分の引退お引き止めようと、江戸っ子の粋を集めた宴席を設ける話。提供される料理は、   「江戸っ子膳」と銘打って「意図ミス場の刺身風、納豆の卵巻き、蒟蒻と胡桃の酒粕和え」「鰹の江戸風味」「豚肉の柚子煮」「烏賊の共焼き」「エビの天麩羅江戸っ子風」「白独活とワカメの酢の物」「鮪のきじ焼き風茶漬け」で、なんとも粋なもの。
この時点で煮売屋の娘は  という店に奉公していて、しかも、その店の若旦那に見初められて、というなんだか嘘っぽい話。こういう、惚れっぽいが、純粋な良い娘にこの作者は手厳しいので、注意が必要であるな。
 
第三話は、その宴席の話がメインで、煮売屋の娘・桃代の奉公先・みやび屋の若旦那・慎吉が誠実そうな雰囲気を醸し出すが、さて本質はどうか気になる所。この話の最後で、前話で復帰することを誓った亀吉親分が卒中死する。彼が宴席の最後に喋る「友人を石見銀山で毒殺した子供」のエピソードがどこで関係してくるのか、そして、騙し蔵の殺人に関わりのありそうな京風の着物を来た美人の年増女の正体も、ここではまだ謎のまま。
 
第四話は、その桃代の嫁取りにみやび屋親子がやってくる時の料理に「茶」をつかったものを季蔵が考案しているうちに、みやび屋の主人が心臓病の発作で突然死、さらには、お内儀のはな江が毒殺。犯人の疑いのかかる桃代は近くの稲荷神社で自殺、とやたらと人死にが出る。この一連の事件の鍵となるのは、騙し蔵の事件で出てきた「年増女」なのだが、性の趣味の違いと身近なところに犯人がいる意外さに驚くが、真相は原作でご確認を。
 
さて、見目の良い男には、とんでもない裏がある、というのが印象的な本巻。そういう類の男に騙される娘たちが、哀しいですな。

腕利きの出張料理人の隠された真の姿は? — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 22  ゆず女房」(時代小説文庫)

長く続くシリーズものの登場人物は、とかくマンネリ化してくるもので、読者としては定期的に新キャラの投入を望みたいところなのだが、それが定着するキャラに育つかどうかは、作者のお好み次第というところであるらしい。
 
収録は
 
第一章 冬どんぶり
第二章 河豚毒食い
第三章 漬物長者
第四章 ゆず女房
 
となっていて、今巻の読みどころは、武藤多聞がキャラとして定着できるかどうか、といったところであろうか。
 
まず第一話は、「冬うどん」こと「鶏団子うどん」で名物ランチの評判をとった塩梅屋が、今冬のランチで再びの高評判を勝ち得る料理をつくれるかというもの。料理を考案する過程で、長崎屋のお内儀が酒浸りになっている、という相談事の解決を図るのだが、女の嫉妬とは粘っこいなと想わせる結末。さらには、今回名物ランチになる「冬どんぶり」こと「葱たま丼」に必要な卵の仕入先も巻き添えにしてしまう。年寄りが熟れ頃の女性に惚れ込んでも甲斐がないかも、という決着はちょっとさびしいな。
 
第二話は、北町奉行の烏谷の依頼を受けて、季蔵と武藤が、セレブが通うふぐ料理屋の宴席の手助けをする話。もちろん、宴席が無事に終わるはずもなく、旗本のお家騒動も絡んで、血なまぐさい展開になるのは、捕物帳の宿命か。
 
湯引きは三枚に下ろしたふぐの上身を、厚めにそぎ切りした後、皮と一緒に湯に潜らせ、水で晒して、紅葉ろしや酢醤油をつけだれにして食べる。
(中略)
かね炊きとのほうは骨付きぶつ切りの身を、つぶしたにんにくと梅干しと一緒に醤油で煮つける
 
といったふぐ料理に免じて、話の陰惨さも我慢しようか。
 
第三話は、季蔵の旧友・豪介の女房おしんの取引先の漬物屋・野もと屋の主人の失踪事件の解決譚。この主人、仙台が旅の途中で連れ帰った出所不明の人物で、漬物の仕入れにも一人で旅するという変わり者。彼の失踪の陰に隠された過去は、といったもの。これに役者くずれの煮売屋の亭主の失踪+死亡事件がからんでくる。およそ関係なさそうな二人なのだが・・、といった展開。
作中の
 
柿なら何でもいいから、熟れたら、へたを取って、砂糖と焼酎、それに刻んだ唐辛子を放り込んで、漬け床をつくるんです。三月もおいておくと、これ、柿酢になるんです。
 
という柿酢で大根をつける「大根の蒸し柿漬け」のように少々複雑な人間模様である。
 
最終話の「ゆず女房」は、扇屋・錦堂のお内儀の「ちぐさ」が庭先で凍死するのだが、彼女の身体にはひどい折檻を受けた後が残っていて・・、というところから始まる。もちろん、彼女を利用して性欲を満足しているゲスなセレブがいるのだが、彼女を死に導いたのは、なんとあの・・、といったところで手を下した人物とその正体は原本で確認あれ。
話を彩るのは、武藤の妻・邦恵の「ゆず料理」で柚子味噌、柚子大根、ゆべしと種類豊富なのだが、どうしても侘しさが漂うのは、話のすじのせいか、あるいは柚子の性格のせいであろうか。
 
さて、20話あたりから、新キャラが登場するも、この巻あたりまでで精算が相次ぐ。健在な女性キャラは。「おき玖」と「瑠璃」。さて二人と季蔵との関係はいかなることになりますやら。
 

南町と北町の懇親が進むも、腕利き与力が過去の事件の犠牲になる — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 21 蓮美人」(時代小説文庫)

前作で、当方的には気に入っていた逸材の「さと香」を喪ってしまって、ちょっと残念なところで、今巻でのゲスト・キャラは、名門出の南町奉行である。
 
第一話 風流鮨
第二話 禅寺丸柿
第三話 蓮美人
第四話 牡蠣三昧
 
第一話は、南町奉行が北町との融和を図るために、「親睦会」を開くというもの。もともと、競い合いと汚職防止のために、南北両奉行所がつくられていたと思うので、「親睦」ってのは幕府上層部が面白く思わないと思うのだが、幕府も開府後経過すると、その辺は安きにつくという設定であろうか。もっとも、作者のちょっと意地悪なところは健在で、名門出で気位の高い、南町奉行の家付き娘「律」様というキャラをつくっておくのは流石である。事件の方は、塩梅屋が仕入れている鰹節問屋の土佐屋のお内儀殺しと黄金の煙管ほかの盗み、これに加えて、廻船問屋の大前屋の女隠居の殺しと金剛石の盗みである。
もっとも事件は第一話では解決せず、次話以降に続く。
 
第二話は、第一話の事件の続きなのだが、二話目の注目点は、南町の同心・島村蔵之進。昼行灯という評判なのだが、なにやら「食えぬ」存在らしき様子を随所に見せる。
事件のほうは、土佐屋の主人が殺されて、さらに混迷という展開。
 
第三話の「蓮美人」では、第一話で登場した、南町奉行所の与力・伊沢真右衛門と北町奉行・烏谷とが旧友であったという意外なエピソードが語られる。もちろん、こういうエピソードが出てくるのは、訳があって、伊沢が霊岸島で謎の自害をする訳と、烏谷の想い人「お涼」さんの過去のすきっとしたエピソードの呼び水。「蓮美人」のいわれは、「お涼」さんが、外様の大藩の大名の側室にしようという企みを打ち砕くためにとった策に由来するのだが、詳細は本書で。しかし、どの話でも共通して「お涼」サマというのは別嬪で、しかも気っ風が良いものですな。
 
第四話の「牡蠣三昧」はこの巻で起きる事件の解決編。死人はたくさん出るのだが、なんとも消化不良な解決のまま、最終話で決着をつける感じ。ここまで引っ張るからには、単純な欲得ずくの事件ではなく、伊沢真右衛門が以前関わった抜け荷事件を発端に土佐屋、大前屋を巻き込んだ事件の決着は、季蔵の裏の任務に任されるのだが、このついでに、昼行灯・島村
蔵之進の隠された役目がはっきりする。
 
ただまあ、第四話の最後の方で、季蔵の仕事を邪魔をするような仕掛け矢も仕掛けられていて、次巻以降でなにやら陰謀の網がはりめぐらされていそうな今巻の終わりでありますな。
 

おきゃんで美人の、武家出身の芸娘の運命や、如何に — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 20 おやこ豆」(時代小説文庫)

この巻を彩る新しい登場人物は、「さと香」という芸娘。二十歳前後ではあるが
 
白粉で塗り込められているせいで、顔こそ白かったが、弾むように若々しいだけではなく、きりっとひきしまった目元、口元に、妖艶さに同居した理知の輝きが見てとれた。
 
といった様子で、市中の浪人の娘らしいのだが、筆者の「好意的な視点」が感じられる、と思っていたら最後のほうで、どんでん返しをくらうので要注意。
 
収録は
 
第一話 五月菓子
第二話 おやこ豆
第三話 夏うどん
第四話 生き身鯖
 
となっていて、第一話は、大伝馬町の呉服・太物問屋の京極屋の幼い跡取り息子・弥太郎が、今は妾となっている元乳母「おいと」の差し入れた柏餅で毒殺されるという事件。事件の陰には、「おいと」が身籠もっている上に、弥太郎が、おいとになついていることにくすぶった不満を抱いている、京極屋のお内儀・お加代の姿がちらちらする。事件の真相に、我が子の愛情を独占したい母親の姿が登場するところと、アレルギーをかけたところが今風であるか。
 
第二話では、「さと香」が塩梅屋の艶やかな新客として存在感を増してくる。「さと香」は、浪人ではあるが寺子屋をしていた父に文の才能を期待されながら、芸娘になったことで感動されている身。ただ、心底憎み合っているわけではない二人の仲をとりもとうする季蔵とおき玖の考案するのが、空豆の生姜和え、空豆の葛ひき椀、空豆と小エビの落とし揚げ、といった「空豆」づくしの弁当、といったところが出だし。そして「さと香」のことに一所懸命になる季蔵を見て、季瑠璃の仲は諦めている「おき玖」の心中は穏やかでない、というところが隠し味。
事件は、御書院番小笠原家の家臣が、酔って倒れ、石に頭をぶつけて死んでいるのが発見されうのだが、小笠原家は犯人探しを執拗に言いたててくる、というものなのだが、真相は第三話に続く。
 
第三話は、第二話の小笠原家の家臣の頓死の顛末。この家臣、弱い者を脅しては金をせびる。美人の町娘を見つけてはちょっかいを出す、という鼻つまみ者。あちこちに敵はいるよな、と言っているところで、犯人として捕まったのは、「さと香」の実の父親、という展開。「さと香」の父親の、謹厳実直な武家らしさが見える話。
 
第四話では、武藤多聞と並んで、この話の主要な脇役になるんだろうな、と期待していた「さと香」にとんでもない災厄がふりかかる。やっぱり、この筆者は、美人の若い娘には厳しいな。
「さと香」はおきゃんな美人であるとともに、幼なじみが彼女におんぶにだっこという典型的なダメンズ・ウォーカーで、「ウォーカー」部分が何を意味するかは本書でお確かめあれ。最終的には、季蔵のひさびさの裏の働きが出るのだが、第三話で殺された侍の隠された悪事や、以前、季蔵たちが手こずった、江戸の裏家業を仕切る「虎翁」の残党も出てきて、それなりに大きな悪事退治になる。話の途中で、烏谷の想い人である「お涼」さんの格好良いエピソードが紹介されるが、この辺は次巻の「蓮美人」のところでも関係してくるのでご注意を。
 
さて、ひさびさに「美形」が登場して、これから派手になるよね、と期待をしていたら、作者に見事に裏をかかれました。若い美人に浮かれて、ふあふわするな、との戒めでありましょうか。
 

新キャストも登場して、料理の工夫も幅が広がってきました — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 19 料理侍」(時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズには、それぞれの巻ごとに象徴する新しい登場人物があって、ほとんどが事件の犯人であったり、事件に巻き込まれたりして消えていくのだが、中には船頭の豪介や、噺家あがりの廻船問屋の長崎屋など継続して登場して、季蔵の手助けをしてくれる名脇役もでてきて、話の幅を広げてくれるのも本作の特徴。
 
収録は
 
第一話 料理侍
第二話 烏賊競べ
第三話 春菓子箱
第四話 つくし酒
 
となっていて、今巻で、「よろず商い屋」と称して、自ら塩梅屋に売り込みをしてくる出張料理人の武藤多聞という侍が冒頭から登場するところから始まる。この侍、季蔵の師匠・長次郎が熟し柿を届けていた「太郎兵衛長屋」に新しく引っ越してきた浪人なのだが、8のつく日に、長屋の住人に手料理の夕餉をふるまうという奇特人で、これから複数巻で季蔵の手助けをすることになる。
 
さて、第一話の事件は、津田屋という扇子屋の主人が、街のごろつきに仮装した姿のまま殺されているのが発見されるのが始まり。津田屋の女房は、昔は小町と呼ばれた別嬪なのだが、この仮装癖にすっかり愛想を尽かして、夫婦中も冷め切り、といったところなのだが、事件を解くカギは、この夫婦のなれそめ。きれいな女の子が不良に絡まれているところを救った正義の味方、という昔ながらのベタな出会いが、悪いほうへ転がるとこうなるのか、と思わせる。
 
第二話の「烏賊競べ」の事件は、食通の戯作者の失踪と、その家で起きた戯作者の妻と版本の惨殺事件なのだが、この話の重要ポイントは、事件というより、季蔵、三吉、武藤多聞の烏賊料理競べ。「烏賊」というのは、万人の好むものではあるが、贅沢三昧の料理にはちょっと合わない気がして、この烏賊料理競べでも秀逸なのは、武藤のつくった「烏賊の塩辛」。もちろん
 
肝心なのは、羽州で”うろ”と呼ばれている、わたの漬け込みです。別に集めて塩を加え、じょのめ樽と呼ばれている、横に口がついた樽につけます。・・これが塩辛の漬け汁のもとになります。
(中略)
わかせたうろは、樽の底に沈むものと、上澄みの醤油のような色のものに分かれます。漬け汁にはこの上澄みだけを使うので、底に沈んでいる澱が混じらないように、じょのめの口から取り出さねばなりません。
(中略)
半年ほどかけて漬けた烏賊の塩漬けは、何回も何回も水を替えて塩抜きをします。この間、ほどよい塩加減の二番目の塩出し汁を煮立てて取っておき、じょのめ樽から取り出したうろの上澄みに、塩梅を見ながら混ぜて、本漬け用の漬け汁に仕上げます。塩抜きした烏賊は細かく刻み、よくしぼってこの漬け汁に入れ、浮き上がらないように軽い重石をかけて保存しておくのです。
 
といった時間と手間が味に集約していそうな出来物で、どうも呑みすぎてしまいそうな風情のものである。
 
第三話は、前話で事件のあった戯作者の家の近くの絵草紙屋の空き巣に始まって、向島の荒れ果てた寮で、質屋の主が殺された事件の謎解き。この質屋の主人、背後から撲殺されているのだが、年齢は40歳過ぎなのに、老人に仮装した装束で殺されているのが謎を呼ぶ。ただ、この話では、絵草紙屋の薬缶に甘い臭いのする小便がされていたりといった色物ネタがもとでその犯人が捕まるまで。
 
第四話は、第二話の戯作者の失踪事件+戯作者の関係者の殺人事件の犯人と第三話で殺された質屋の裏家業が明らかになるもの。戯作者失踪事件には、関ヶ原で大功をたてるが開府後まもなく謀反の疑いを晴らすため、無役となり、以後幕命で、家由来の骨董集めを自費で命じられいる旗本・本田家の、雛祭りの道具お披露目が重要な舞台となる。このシリーズには関係ないが、上田秀人の「百万石のお留守居役」の本多家を髣髴とさせるのは当方の勘繰りすぎであろうか。
 
さて、今巻から登場する武藤多聞、料理の腕もあり、さらには侍なので、三吉よりは荒事の際は役に立つという結構便利なキャラクター。以後どんな役回りをするのか、ちょっと楽しみでありますね

三件の殺人事件の共通鍵は「桐生紬」なのだが・・ — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 18 冬うどん」(時代小説文庫)

今巻の季節は冬。師走近くの、小雪のちらつく頃である。この季節、今でも外回りが続くと、昼時には何か温かいもの、しかも汁気のあるものが欲しくなるものだが、江戸の頃も気分は同じ。そうした商人たちに温かい昼飯を提供しようと、季蔵が思いつくあたりから始まるのが本書。
収録は
第一話 冬うどん
第二話 風薬尽くし
第三話 南蛮かぼちゃ
第四話 初春めし
となっているのだが、厳密な単話構成ではなく、三件の殺人事件を軸にしながら展開していく構成。
発端で起きる事件は、甲州商人・谷山屋の失踪事件。この甲州商人の妻・田鶴代が、北町奉行・烏谷が若い頃、想いを寄せていた女性らしく、これが本巻をリードしつつも、混乱のもととなる。この甲州商人、煮鮑や葡萄菓子を扱う商人なのであるが、この商人が旧来の取引先へ卸す量を二割減らしたいと伝え、ここに季蔵の旧友で、元噺家の廻船問屋・長崎屋が絡んできて、塩梅屋も他人事では済まなくなるという展開。
第二話以降、事件が二重三重に重なってきて、行方不明だったが谷山屋が、長崎屋の蔵で死体で見つかったり、呉服屋・京屋の若旦那が撲殺されたり、京屋の商売敵の丸高屋の娘が転落死する。いずれも、現場に桐生紬が残されていて、これが犯人につながるものと推測されるのだが、ここで、奉行の烏谷が、桐生紬の探索を中止させたり、谷山屋の妻・田鶴代が紬に絡んでいるような思わせぶりな発言をしたり、といった風で、なかなか的を絞らせないのが作者の腕の冴えであろう。
事件の謎解きは、何事もバインディングして考えてしまう盲点をついたところが肝で、江戸版ロミオ&ジュリエットが伏線となっているね、というところで詳細は本書を読んでいただきたい。
さて、このシリーズの魅力である料理のほう。今回は、うどんの他に葱尽くし、タルタ(タルト)、クウク(クッキー)かぼちゃ餡の薄皮饅頭といった料理・菓子が登場して、久々に色とりどりなのであるが、中でも惹かれるのは、第一話の「うどん」。江戸が舞台の話に「うどんか?」と思う人が大半であろうが、稲庭うどんを使って
鶏だんご鍋に倣って、鶏の旨味にまけないように、大鍋の汁の出汁はたっぷりの鰹節でとる。
ここへまず、旬の青物である。食べやすい大きさに切った小松菜、ダイコンや人参のように短冊に切ったねぎなどを入れて煮る。
野菜が煮えたら、叩いて粗みじんになっている鶏腿肉に、潮と醤油で薄味をつけ、団子に丸めて大鍋に落としていく。
(中略)
ここで、隠し味に鰹風味の煎り酒を使うと味に深みが余しながら、くどくならない。
細ねぎを小口切りにして散らして仕上げる
という、昼食のうどんにしては丁寧なもの。作中に、材料は値引きで仕入れているから良いが、薪代を入れると利はでない、というのも頷ける。
総じて、肌寒い季節に、温かいものを思い浮かべながら読むのが楽しい一冊ですな。