西條奈加」カテゴリーアーカイブ

長唄の美人師匠と薙刀の達人の奥方が、江戸の悪党をなぎ倒す ー 西條奈加「世直し小町りんりん」

舞台は江戸。日本橋を北に渡った東側にある高砂町に住む、長唄の師匠で「高砂弁天」こと「お蝶」を主人公に、彼女の義姉で、兄で南町奉行所の当番与力・榊安之の奥方・沙十(さと)、お蝶と同じ長屋に住む「雉坊」「千吉」とともに、持ち込まれている面倒な相談事を、お蝶の気風の良さと沙十の薙刀の腕で解決していく仕立てなのが、本書『西條奈加「世直し小町りんりん」(講談社文庫)』

時代的には、最後のほうで、南町奉行の岩渕是久が「これまでさまざまな御役についてきたが、役を重ねるごとに城中の暗愚ばかりが際立つ。二百年を経て、すでに根太が腐っているのだ」と言うあたりをみると、文化文政の頃あたりでしょうか。まあ、町民文化が爛熟して最盛期であるとともに、牧野 の賄賂政治が横行した時であるので、あれこれ揉め事が起きるにはうってつけの時代ですね。

【収録と注目ポイント】

収録は

「はなれ相生」
「水伯の井戸」
「手折れ若紫」
「一斤染」
「龍の世直し」
「朱龍の絆」
「暁の鐘」

となっていて、まず第一話の「はなれ相生」は、お蝶の弟子のの本橋の瀬戸物問屋伊藤屋の娘・お久美が遊び人の男と度々会っているようなので、これをなんとかしてくれ、という伊藤屋の女将さんからの頼みを「沙十」が受けたもの。

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「雨月物語」誕生のアナザーストーリーを楽しもう ー 西條奈加「雨上がり月霞む夜」(中央公論新社)

江戸時代の上田秋成の幻想物語「雨月物語」を底におきながら、雨月物語の作者である「秋成」、彼の幼馴染で隠者のような暮らしを送っている「雨月」、そして、「雨月」のもとにやってきた鳥獣戯画のもととなった兎の妖怪が繰り広げる「雨月物語」っぽい話が語られるという設定である。

【収録と注目ポイント】

収録は

紅蓮白峰
菊女の約
浅時が宿
夢応の金鯉
修羅の時
磯良の来訪
蛇性の隠
紺頭巾
幸福論

となっていて、本物の「雨月物」では「白峰」「菊花の約」「夢応の鯉魚」「仏法僧」「吉備津の釜」「蛇性の婬」「青頭巾」「貧福論」と名前を比べてみてもらえばわかるように、設定とかは同じところをなぞりつつも、「異説」の雨月物語が語られていく。

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座敷わらしのアナザーストーリーはいかが ー 西條奈加「睦月童」

表題の「○○童」という言葉を聞くと、住み着くと家の繁栄をもたらすという岩手県を中心に伝説のある「座敷童子」のことを思い浮かべるのだが、それとはちょっと趣を異にするが、同じような不思議な能力をもった「童」と外界のお話が本巻『西條奈加「睦月童(PHP文芸文庫)』。

座敷童子の場合は「赤面垂髪の5、6歳の小童」という話が多いのだが、今話で登場するのは、やせっぽちで上を向いた鼻先と味噌っ歯の、10歳ということなのだが小さいため、7歳ぐらいに見える女の子である。そして、やましいことを隠している者が、その目を見ると「金色」に光って見えた上に恐怖にかられ、思わず白状してしまうという能力をもっている。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 睦月童
第二話 狐火
第三話 さきよみ
第四話 魔物
第五話 富士野庄
第六話 赤い月
第七話 睦月神

となっていて、まずは陸奥盛岡の山中にある「富士野庄」から「イオ」とい名の「睦月童」が下酒問屋の国見屋にやってくるところからスタート。この童子は、息子が荒れていることを治そうと、国見屋の主人・平右衛門が呼んだのだが、息子が改心するより先に、手代の使い込みが判明するというおまけ付きとなる。

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初恋の人、親友の死、そして天保の飢饉を経て「僧」はどこを目指すのか ー 西條奈加「無暁の鈴」(光文社)

西條奈加さんの時代小説は、「善人長屋」をはじめ、人情深いながらも、明るさをもったものが多いように思っていたのだが、本作「無暁の鈴」は、僧侶を主人公としているせいか「暁」にような薄明るさはあるものの、少々暗めの話である。

それは話の舞台でもわかることで、高崎の寒村の貧乏寺、江戸深川櫓下の岡場所、島流し先の八丈島、そして最後の舞台が羽黒山と湯殿山といった設定になっていて、一番明るそうな「八条島」ですら流刑される場所であるので、気候とは別に重苦しいのである。

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ナンバーワン・メイドの幽霊とオタク警官、無教養イケメン警官の「アキバ」ミステリー ー 西條奈加「秋葉原先留交番 ゆうれい付き」

幽霊になってしまったメイド・カフェのナンバーワンの渡井季穂が、秋葉原駅から徒歩七分ほど、中央通りを西に折れ、蔵前橋通りに面した「先留交番」に駐在する警察官二人と彼女が死んだ真相と秋葉原に起きる数々の事件の謎を、解決していくのが本書『西條奈加「秋葉原先留交番 ゆうれい付き」(角川文庫)』である。

なんの因果か、季穂の幽霊姿は「足」だけになってしまっていて、ナンバーワン・メイドの魅力は全く発揮できない上に、出会った二人の警察官は頭脳明晰ながら、オタクで、風貌は「メガネトド」という警察官・土橋と、女性にモテモテのため、とあちこちでピンク・トラブルを起こすイケメン・教養少なめ警察官・向井という、個性あり過ぎのメンバーと繰り広げる、ちょっと変わった「アキバ・ポリス・ストーリー」である。

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お縫の父母の若い頃の「恋物語」は波乱万丈であった – 西條奈加「大川契り 善人長屋」(新潮文庫)

一人をのぞいて住んでいる住民が、すべて巾着切りやら詐欺やらの手練れであるにもかかわらず、裏家業を隠すために表向きは「善い人」ばかりの「善人長屋」シリーズの第2弾。

もめ事を呼び込んでくるのは、長屋で唯一の善人「加助」で、彼が「善行」によって、長屋の「悪人」たちが巻き込まれて事件を解決していくのも前巻と同じなのだが、主人公の「お妙」の兄、姉であるとか、母親の美貌が呼び込んだ若い頃の事件などが語られるのが、今巻である。

【収録と注目ポイント】

収録は

泥つき大根
弥生鳶
兎にも角にも
子供質
雁金貸し
詫梅
鴛鴦の櫛
大川契り

の8話。

第一話の「泥つき大根」では、お縫の兄の「倫之助」が登場。彼は千鳥屋の一人息子ながら、日本橋の茶問屋・玉木屋に婿入しているのだが、そこの大おかみが、千鳥屋と同じ深川の長屋に住む「石蔵」という信州出身の一緒になりたいと言いだした。その男と大おかみの年の差は25もあり、玉木屋の身代狙いを疑った倫之助が石蔵のことを調べてくれと持ちかける話。
この石蔵の近辺を洗っていくと、当然のように「盗人」に行き当たり、この盗人が玉木屋を狙っているのがわかるのだが、手引きをするはずの石蔵は、恩人に迷惑がかかると言って、江戸を離れようとするのだが・・、といった展開。

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「望」くんの料理の腕も、お蔦さんの推理も冴え渡っております ー 西條奈加「お蔦さんの神楽坂日記 みやこさわぎ」(東京創元社)

元芸妓で、まだまだ元気で粋な祖母・お蔦さんと、彼女と同居している、料理上手の「望」くんとが、住んでいる神楽坂を中心におきる、日常の謎の数々を解きほぐしていくという、「お蔦さんの神楽坂日記」の第三弾である。
望くんの初恋の相手「楓」ちゃんも無事進学し、彼女の実の父親で風来坊の画家・泰介おじさんも今の所、放浪の旅にはでていない、ということで、今巻では、大きな波瀾はない。
とはいうものの、そこそこの事件は尽きないもので、事件は小さいが、それなりに細かな味わいの事件ばかりで、お蔦さんの推理と、望くんの料理もますます冴えわたるのが今巻である。

【収録とあらすじ】

収録は

「四月のサンタクロース」
「みやこさわぎ」
「三つ子花火」
「アリのままで」
「百合の真贋」
「鬼怒川便り」
「ポワリン騒動」

の六編。

 

 

第一話の「四月のサンタクロース」は、小学校二年生の「真心(こころ)」ちゃんが、彼女の両親が自分のせいで「離婚」してしまうのでは、と心を痛めている案件の解決。
真心ちゃんのお父さんは、神楽坂でイタリアン・レストランを経営しているのだが、最近になって、真心ちゃんが自分の実の子供ではないのでは、という疑惑が心の中で大きくなり、親子鑑定をするしないで、夫婦仲が悪化しているという筋立て。

どうやら、つい最近になって、奥さんの元カレが店を訪ねてきて、自分がこれからやる店の料理長をやらないか、と誘ったことが遠因らしいのだが・・・、ということで、主人公の望のおじさんで頼りない芸術家の泰介が、お蔦さんの命で説得に乗り出すのだが・・、といった展開である。
この説得工作を通じて、泰介おじさんと彼の娘「楓」の仲がほぐれていくのが怪我の功名ですな。

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「正義の味方」の意外な正体と「お縫」の恋の行方は? ー 西條奈加「閻魔の世直し 善人長屋」

長屋の住人のほとんどが故買屋や情報屋、美人局などなど悪事に手を染めているのだが、それを隠すために、皆親切で「善人長屋」と言われているのが、主人公の質屋で故買屋の娘・お縫の父親が差配する「千七長屋。そこに本当の善人の「加助」が引っ越してきたことから、長屋の「悪党」たちが、江戸の町を守るために立ち上がらせる、というのがこの「善人長屋」のシリーズ。その第2弾で、今回は、「お縫」の恋模様も織り込まれていているのが本書『西條奈加「閻魔の世直し 善人長屋」(新潮文庫)』。

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「日常」には”忘れたい過去”が隠れているー西條奈加「いつもが消えた日」

神楽坂に住む、祖母と一緒に住む中学3年生の滝本望が、ワトソン役になって、祖母である「お蔦さん」とともに事件を解決するシリーズの第2弾が、本書の『西條奈加「いつもが消えた日」(創元推理文庫)』。

【構成は】

第1章 いつもが消えた日
第2章 寂しい寓話
第3章 知らない理由
第4章 サイレントホイール
第5章 四次元のサヤ
第6章 やさしい沈黙
第7章 ハイドンの爪痕
第8章 いつもの幸福

となっていて、望の同級生でサッカー部の彰彦、幼馴染の洋平、下級生でサッカー部の有斗が、神楽坂の望に家で、賑やかに夕食をとるところからはじまる。

【人のつながりの暖かさは健在】

事件は、はじめの方で唐突に始まる。「有斗」が食事後、帰宅すると、家には、同居している両親・姉もいない。しかもキッチンには血溜まりがひろがっいて、というのが始まりで、ネタばらしを少しすると、起きる事件はこの家族の失踪事件がほとんどなので、まあ、本格もののミステリーファンからすると物足りないかもしれない。

ただ、このシリーズの魅力は謎解きの部分というよりも、一番は、望を中心とする祖母や神楽坂の商店街の人々、同級生とのつながりの深さと暖かさを堪能するということにあるので、事件の多い少ないは関係ないといっていい。その点は、第一作以上に濃厚で、サッカー部の先輩・後輩のつながりや、顧問の教師の教え子をかばうあたりであるとか、裏金融の強面の業者を、商店街一同が撃退しようとするところなど、若干の空回り的なところはあるのだが、読んでいて、どことなくホッと暖かくなるのは間違いない。

【本書を彩る料理の数々】

そして、本書の魅力のもう一つは、主人公の望がつくって、披瀝する料理の数々で、事件が起きた後、後輩の有斗やお蔦さんに夜食としてつくる

大鍋で湯を沸かしながら、具の調理をする、豚肉とキャベツという焼きそば風の具に、風味付けに天かすをたっぷり加えた。紅ショウガがなかったから、代わりに目玉焼きをのせる

「焼きうどん」とか、心配して訪ねてきた、望が好意を抱いている女の子「楓」につくる

パスタを茹でながら、となりのコンロでクリームソースをつくる。多めのバターと小麦粉を弱火でかるく炒め、だまにならないように気をつけながら、少しづつ牛乳を加える。グラタンのホワイトソースと同じ手順だが、心持ちとろみをゆるくするのがこつだ。
別のフライパンで、たっぷりの舞茸とシメジを炒め、ホワイトソースには、茹でたパスタと皮をとった明太子を投入する。明太子は火の通りが早いから、ここから先は手早さが勝負となる。火を通しすぎると、ぼそぼそした食感になるんだ。ピンクの粒々が麺にまんべんなく行き渡ったら皿に盛り、炒めたキノコを上に載せた

という「キノコと明太子のクリームパスタ」などなど、事件の合間合間に登場する料理の美味そうなところも、前作に続いて健在である。

【まとめ】

事件の謎は、少々ネタバレすると、有斗の「謹厳実直」な父親が若かりし頃、携わっていた職業に関連していて、その仕事で手を染めた悪業が原因になるのだが、それに関係してくる人物が意外な広がりを見せるのがポイント。当方も、そこまでの広がりは考えつきませんでしたな。

なんにせよ、本格ものを読む時のように「謎解き」にしゃかりきになったり、社会派もののように、社会の不合理の教訓を得ようとしたりといった読み方は、このシリーズでは厳禁。「神楽坂」に住む人々の人情のつながりや、地域のまとまりにほっこりしたり、「望」と「お蔦さん」の信頼関係であるとかの、「人情噺」を読むのが、本シリーズのお決まりである。しばし、多くのところで失われた「あったかさ」を存分に味わってみてくださいな。

【ほかの「お蔦さんの神楽坂」シリーズ】

主人公の「お末」ちゃん、頑張れと声援をおくってしまう時代小説 — 西條奈加「上野池之端 鱗や繁盛記」(新潮文庫)

時代は、田沼意次が威勢をふるってから50年ぐらい後、徳川十代将軍家斉の治世も最後のほうに差し掛かった頃、半分以上騙されて、田舎から上野池之端の料理茶屋「鱗や」へ奉公にだされた「お末」を主人公にした時代小説である。
 
収録は
 
蛤鍋の客
桜楼の女将
千両役者
師走の雑煮
春の幽霊
八年桜
 
の六編。いずれも、一話完結型のミステリー仕立てである。
半ば、騙されて、というのは、お末が奉公にでる原因は、従姉妹で、先にその店へ奉公に出ていた「お軽」が持ち逃げした金の責任をとらせるためであったのだが、そのことを知らされずに奉公にだされたからなのであるが、その「お軽」の話も、「鱗や」の店のもっと大きな謎へ結びついているので、読者の方も、あまり信用し過ぎて読み進むと、作者の仕掛けるどんでん返しに、嵌ってしまうのでご注意を。
 
一話ごとの「謎」は、料理茶屋とか名ばかりで、連れ込み宿代わりに使われる店でおきることなので、例えば、「蛤鍋の客」の二人連れの客の煙草入れが盗まれる話であるとか、二話目の「桜楼の女将」での浅草今戸の料亭「桜楼」での病身の主人殺しで、女将が疑われる話など、けして社会全体を揺るがす大事件はない。だが、それに巻き込まれたり、女将の濡れ衣を心配する「お末」の健気さに感情移入させていくに十分な仕立てではある。
 
もう一つの愉しみは、話にでてくる料理。「桜楼の女将」の「桜めし」であったり、「師走の雑煮」の鮟鱇を使った「白雪雑煮」であるとか、描写は控えめながら、その料理の姿と旨味を想像しながら読んでいくところであろう。
 
バリバリの時代小説というより、時代小説の枠を借りたミステリーというイメージが強い本書なので、あれこれと筋立てをレビューするとネタバレがすぎてしまうが、最後の方で明らかになる「鱗や」の先代にまつわる謎や「お軽」が逃げ出した顛末は、ちょっと陰惨な風が漂うのだが、時代小説の大定番である「勧善懲悪」の原理原則はちゃんと守られているので、大安堵でる。
 
 
主人公の「お末」が奉公に出たての頃は、あらゆるものに怯える田舎娘であったのが、鱗やの若旦那・八十八朗の助けを借りながら、同僚の女中・お甲や板長の軍平らとなじみ、成長していく姿は読んでいて、おもわず彼女を応援したくなる清々しさも覚える時代小説でありますね。