ミステリー」カテゴリーアーカイブ

「ゆいか」はリモート推理で犯人探し ー 水生大海「ランチ探偵 容疑者のレシピ」

住宅メーカーの大仏ホーム本社の経理部に勤務する「天野ゆいか」と「阿久津麗子」とをメインキャストにして、ランチで合コンする相手やその知り合いの近辺に起きる謎の数々を、ランチを食べる間に解決するグルメ系お気楽ミステリーの第2弾が本書『水生大海「ランチ探偵 容疑者のレシピ」(実業之日本社文庫)』。

山本美月ちゃんが主演を務める「ランチ合コン探偵」の原作本ですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

MENU1 その部屋ではなにも起こらない
MENU2 密室における十人の容疑者
MENU3 小日向家の犬はなぜ狙われる
MENU4 秘密の扉を開くのは
MENU5 そして、いなくなった

となっていて、第一話の「その部屋ではなにも起こらない}の合コンのお相手は、前巻の「金曜日の美女はお弁当がお好き」で知り合ったレストランの経営者となった楢崎から紹介されたホームケア商品を製造している会社の社員2人。持ち込まれるのは、彼らが住んでいる社宅用マンションで、部屋にいると視線を感じたり、スマホに電話がかかってきて出ると女性が「申し訳ありません、申し訳ありません」とエンドレスの謝ってくるという怪異の謎解き。そのマンションではつい最近、この会社の単身赴任中の管理職と秘書室勤めの女性との不倫、失踪という騒動がおきているので、「その二人の呪いか?」と疑われているというもの。おまけに、このマンションは病院の跡地に建設されているので・・、というおまけつきですね。ネタバレ的には、ヨ世の中に怪異はあまりない、ということと美人には興味をもってる男が寄ってくる、というところですかね。

第二話の「密室における十人の容疑者」は、麗子がいきつけにしているヘアサロンで起きた事件の謎解き。そこで、麗子が出くわしたのが、美人であることを鼻にかけているような女性(もっとも、麗子は自分のほうが上だ、と思ったようですが)なのだが、彼女は美人が案内されるという噂の席が、麗子と金髪に染めた美女がすでに案内されていて、座れなかったことが不満で、ヘアサロンで電話の着信音を鳴らしまくったり、スタッフにすでに読んだ雑誌しかないと文句を言ったりとかなりの顰蹙ものの行動を繰り返します。その時、店の前で車の衝突事故があり、それに店にいる人が気をとられて窓際に集まっているうちに、彼女の持っていいたスマホが失くなってしまう。という事件。このスマホは、店のゴミ箱の中から発見されるのだが、さて、このスマホを隠した犯人は?、という筋立て。この謎解きをするため、ヘアサロンのスタッフとの合コンをしかけて、現場の聞き込み捜査を始めるのが、「ゆいか」の乱暴なところですね。
犯人のほうは、店にいる人物の中でも最も動機のないと思われる女性ですね。

第三話の「小日向家の犬はなぜ狙われる」では、二人の上司である経理部の亀田部長が持ち込んでくる、お金持ちの青年の謎解きです。お金持ちといっても、どうやら、親戚の老人から、死後、愛犬3匹の面倒をみることを条件に1000万の遺産をもらったというもので、遊んで暮らせるというわけではありませんね。
で、事件のほうは、その犬たちに関するもので、餌にニコチンが混ざっていて、死にかけるというもの。実は、その遺産を遺してくれた親戚には三人の子供がいて、彼が犬の世話をすることで遺産をもらったことを快く思っていなくて、この犬たちに何かあれば遺産を取り戻せるのでは、と思っています。さて、犬の毒殺を企んだのは一体誰・・、という筋立てです。謎解きのほうは、ここで今まで出てこなかった人物が急に浮上してきます。ここはちょっと唐突な印象を受けますね。

第四話の「秘密の扉を開くのは」では、二人の上司だった亀田部長が異動して、後任にやり手の女性部長がやってきます。ここでお決まりのプチ衝突があるのですが、これは今のところ本題の謎解きとは関係ないですね。
謎解きと合コンのほうは、麗子の通っているスポーツジムのインストラクターが持ち込んできたもので、そのジムでおきたロッカー内の荷物の紛失事件です。その被害者は、ここのマタニティコースの通っているお客さんロッカーを使って、他のお客さんと荷物のやり取りをしていたのですが、入れたはずのロッカーから別のロッカーに荷物が移動していた上に一緒に入れていた封筒がなくなっていた、というものです。ロッカーには会員であれば誰でも入れるわけで、今回のキーは、この犯行を行った動機ですね。紛失した封筒には、荷物のやり取りをしている元同僚と交換している「編みぐるみ」の編み図が入っていたというのですが・・・というところがキーになりますね。

第五話の「そして、いなくなった」では今まで同じ職場で働いていた「ゆいか」が「麗子」と別れて営業所のほうへ異動してしまいます。このため麗子は、今まで「ランチ合コン」のいい相棒であった「ゆいか」がいなくなったことで、合コンのやり方自体も変更を迫られ、大学時代の友人たちを巻き込んで、「夜」の合コンを仕掛けることとなります。事件のほうは、その合コン相手の住んでいる「シェアハウス」で起きたもの。そのシェアハウスには男性2人と女性3人が住んでいたのですが、その中でカップルが成立します。ところが、このカップル、男性の持っていた秘蔵の写真に、女性の子供が落書きをした疑いがかかったことで喧嘩がちになって、遂には最近別れてしまった、というもの。果たして、この落書きをした真犯人は誰、動機は?といったところが謎解きのキモですね。この謎解きに、ゆいかが麗子が現場から送ってくる情報で解いていく、というところが今話の読みどころですね。

【レビュアーから一言】

このシリーズの特徴は、ランチで合コンしている短い間に、ゆいかが情報を集め、謎解きをするというところと、そのランチの料理なのですが、たとえば、第二話のベトナム料理店の「フォー」は

メインのフォーがやってきた。フォー・ボーとフォー・ガーは、トッピングされている肉が違うだけでなく、スープも牛と鶏というそれぞれの肉から取っている。鉢は白地に模様を描いた陶器で、赤い菊の模様がフォー・ボー、青の蓮がフォー・ガーだった。
(略)
フォー・ボーを頼んだ麗子が、スープをスプーンですくった、スープは灰汁の色が出て茶色がかっていたがくどさは感じない。パクチーは、増量しなく点もじゅうぶん多かった

であったり、第四話の「肉バル」では

次の肉がやってきた。牛タンだ。表面に切り込みの入った厚めのタンが、肉側に濃い目のピンク色を見せて、積み上がっていた。添えられた浅漬けの白菜も山盛りだ。
(略)
麗子はお勧めに従って、タンの上に青唐辛子味噌を載せ、口にいれた。弾力のある肉にピリッとした辛さが合い、肉の甘味が引き出されている

といった具合です。麗子とゆいかの合コンで出てくる料理を食べながら、本書の謎解きを楽しむ、ていうのもアリかもしれないですね。

【スポンサードリンク】

麻野と母親は関係修復できるか? ー 友井羊「子ども食堂と家族のおみそ汁 スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」

オフィス街の路地にあるスープがメインのレストラン「しずく」を舞台に、店の常連「奥谷理恵」とレストランのシェフ・麻野と彼の娘・露をメインキャストにして、店のお客たちが抱えている悩みごとの謎解きと、スープ料理が愉しめる「スープ屋しずく」シリーズの第5弾が本書『友井羊「子ども食堂と家族のおみそ汁 スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」(宝島社文庫)』。

前巻で、担当していたフリーペーパー「イルミナ」が他の会社にM&Aされ編集部が丸ごと移ったため、今まで勤めていた出版社を辞めるかどうか悩んでいた主人公・奥谷理恵が新しい会社へ移籍しての、新生活が本格的に始まるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 子ども食堂とふさぎこむ少女の秘密
第二話 揺れる香りは嘘をつかない
第三話 夕焼けの消えた泥棒の謎
第四話 非行少年の目的地

となっていてまず第一話の「子ども食堂とふさぎこむ少女の秘密」は、大学に通いながら、子ども食堂のボランティアをしている青年・水野省吾から「知り合いに激辛料理の好きな人がいるのだが、体調が悪いせいで辛すぎるものをとると腹痛になる。そのため、辛さ控えめでつくると美味しくないと嫌がる。なんとかならないか」という悩みの解決を持ち込まれるところからスタート。この悩みを解決するため、麻野の娘・露が理恵の付き添いで、その子ども食堂に行くと、琴美と真凛という二人の中学生のケンカに遭遇する。ケンカの原因は真凛が琴美に「嘘をついた」ということらしいのだが、そこには何か事情がありそうな気配。真凛は小さなころから体調が悪く病気がちだったのが、最近では回復をしてきていたのだが、突然ふさぎがちになり、学校でも孤立し、家に友達が遊びにくるのも嫌がり始めたらしいのだが・・・、という展開。少しネタバレすると、「家族の介護」という課題が突然出てくるのでびっくりしないように。

第二話の「揺れる香りは嘘をつかない」では、麻野の実と母親「夕月逢子」が事故で意識不明になっているところからスタート。麻野と彼の母親の関係は、幼いころの麻野の姉をめぐる事件以来、絶縁状態になっているのですが、本巻は、彼と彼の母親との「和解」もテーマの一つになっているようです。
で、逢子の事故の原因をさぐるため、彼女が最近関わっていた保護のケースを調べていくことになるのですが、今話では、虐待の疑いで、赤ん坊の息子・俊一と親子分離の措置を受けたシングルファーザー・赤羽鋼一の虐待の疑いを晴らしていくことになります。
親子分離のもととなった、虐待事件というのが、赤羽が自宅で息子のおむつを交換しようとしたところ、買い置きが終わりかけていたことに気づき、近くのドラッグストアに買い物に行って帰ると、息子が部屋の畳の横たわっていた。抱え起こすとぐったりしていて、病院で診てもらうと、急性硬膜下出血と眼底出血が発見される。他にも軽度の脳浮腫があり、赤羽の「ゆさぶり」行為による虐待が原因では、と児童相談所が乗り出して、親子分離の措置をうけたというもの。赤羽はそんなことはやっていない、と主張するのだが聞き入れてもらえない。事件の当日、部屋の中には馴染みにない「カレー」に似たスパイスの匂いが漂っていたというのだが・・・。という筋立て。隣近所との助け合いが、運悪く事故を招いてしまったといったところがネタバレです。

第三話の「夕焼けの消えた泥棒の謎」も、逢子の抱えていたケースの一つで、陣川剛秋という男性の娘・冬乃への虐待疑いにかかわる謎解き。その陣川家族の住むアパートで、泥棒の侵入があり、泥棒をおいかけたところ、近くの畑で忽然と姿を消した、という事件が起きたのだが、その後、冬乃によると女性の笑い声や弾けるような音が聞こえたり、奇妙なお札がポストに入っていたり、といった怪現象がおきはじめたらしい。この女の子は、父親から叱られてもやめない、筋金入りの「オカルト好き」なのだが、それがかえって父親を刺激するのでは・・・、という展開です、泥棒の意外な正体が謎解きのカギとなりますね。

最終話の「非行少年の目的地」では、逢子の事故の原因が明らかになるとともに、今まで絶縁状態であった麻野と彼女との関係に、少しばかりの光が見えてくる筋立てになってます。話のほうは、逢子が最後に関わっていた非行少年の案件を調べていると、彼と第一話にでてきた真凛とが一緒に家出をする事態が起きます。真凛は最近、母親のつくったセリ料理を食べて再び体調が悪くなって入院するぐらいなので、家出による健康への影響もも心配なところですね。
で、この二人の家出は、実は単なる非行事件ではなく、それぞれの家庭に隠された秘密が巻き起こしたもので・・という展開です。第一話で解決したと思っていた真凛の事件が実はもっと根深いものだったあたりには、すっかり作者の技に騙されてしまいました。

【レビュアーから一言】

今巻は、麻野と彼の母親・夕月逢子との関係修復ができるかどうか、がテーマである上に、児童虐待が各話の謎解きのテーマともなっているので、少々重苦しい雰囲気が漂っています。ただ、いつものように美味そうな「スープ」料理は健在で、例えば第一話にでてくる「四種類の葉野菜のポタージュ」は

木製の匙の先を沈め、ポタージュを口に運ぶ。
まず舌の上で滑らあさを感じた。デンプン質は控えめでさらっと喉を流れていく。それと同時に夏草の瑞々しさが感じられた。
複数の葉野菜のポタージュは初体験だ。メニュー表の説明によると、クレソン、ルッコラ、青梗菜、よもぎが入っているらしい。
ゆっくり味わうと、クレソンの新宮ルッコラのゴマのような風味が舌に伝わる。青梗菜の馴染みのある心地よい渋みも楽しめ、よもぎの苦みが全体を引き締めていた。

といった具合で、他にも数々のスープの名品が登場するので、そこらもしっかり味わってくださいね。

【関連記事】

すべての謎は「スープ」で解きほぐされる ー 友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」(宝島社文庫)

「しずく」の店主は”ジビエ”にはまってしまった ー 友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 今日を迎えるためのポタージュ」(宝島社文庫)

美味いスープは、人間関係のもつれを溶かす特効薬である ー 友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 想いを伝えるシチュー」(宝島社文庫)

幾多の謎解きは、理恵ちゃんを新しい進路へ導く ー 友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん まだ見ぬ場所のブイヤベース」(宝島社文庫)

全99巻の自費出版本に「イジメの仕返し殺人」の鍵が隠れている ー 麻見和史「永久囚人 警視庁文書捜査官」

未解決のまま迷宮入りした事件に関する「保存文書」を読み解いて再検証し、真犯人を突き止める手掛かりをつかむため、警視庁に特別に設けられた「文書解読班」の鳴海理沙と部下の矢代をメインキャストにする「警視庁文書捜査官」シリーズの第2弾が『麻見和史「永久囚人 警視庁文書捜査官」(角川文庫)』

前巻は連続殺人事件の現場にアルファベットのダイイングメッセージが残されていた、という筋立てだったのですが、今巻はダイイングメッセージに加えて、まったく売れそうにない自費出版本がセットになってます。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 七セグメントの暗号
第二章 ジェミニ
第三章 稀覯本
第四章 私設図書館
第五章 増殖する本

となっていて、まず第一の事件は、元フィットネスクラブでワイヤーでぐるぐる巻にされた死体が発見されるというもので、現場のクリーム色のタイルに「Aboy」とタイルの目地を使ったダイイングメッセージが残されている。章の標題の「7セグメント」というのは、電卓やデジタル表示の時計の表記のことで、この「Aboy」の表記の方法ろ同じなのですが、これは後に被害者が左利きであることがわかって、別の文字表記とのわかることになります。

そして縛られた状態で耳にヘッドホンをつけられ大音量で、リズムもなくメロディーもない音を聞かされながら腹を刺殺される殺人、浴槽の底に沈めたブロックに首を縛り付け溺死させるとう第二、第三の殺人が発生し、さらには、その3つの事件を結ぶような、被害者たちの名前をもじった人物が出、今回の連続殺人を暗示させるエピソードの入った「永久囚人」という全99巻にもなる自費出版本が発見される。そこには、この3つの事件の被害者をそれぞれ連想させる人物が登場し、本の主人公にひどいイジメを繰り返す場面がでてきていて、理沙たちは、この本が連続殺人の謎を解く鍵となるのでは、と推測し99冊の本の行方を探し始める。
そして、その作者の「有村均」という人物がよく出入りしていた私設図書館があるというので、そこへ文書解読班のメンバーは捜査に入るのだが・・・、という連回。

この自家出版本を書いた「有村」という男の素性と今どこにいるのか、といったところが真犯人を突き止める鍵となるのですが、少々強引なところがある感じがするのは当方だけでありましょうか。
少々ネタバレすると、息子に負わされた傷を、親が変わって落とし前をつける、といった感じです。

【【レビュアーから一言】

今回、文書解読班には、正義感がバリバリに強いのだが、本の類はほとんど読まない、という体育会系の女性刑事・夏目静香が登場します。完全、文化系で本を読み出すと止まらない鳴海理沙警部補とは、水と油の関係で、間に矢代巡査部長が挟まれて右往左往する様子は、第一巻とはまた違った味わいがありますので、ここらもお楽しみください。

美女は美味いランチで「謎」を解く ー 水生大海「ランチ探偵」

住宅メーカーの大仏ホーム本社の経理部に勤務するスタイル抜群の正統派美人の「阿久津麗子」を語り手に、童顔で可愛らしい容姿ながら、観察力鋭い推理オタクで、少々空気の読めない「天野ゆいか」を探偵役に、ランチ合コンをする相手がもらす数々の謎を解き明かしていく、お気楽系ミステリー・シリーズの第1弾が『水生大海「ランチ探偵」(実業之日本社文庫)』である。

この作品は、麗子役を「トリンドル玲奈」、ゆいか役を「山本美月」を主演に読売テレビで「ランチ合コン探偵〜恋とグルメと謎解き〜」という題名でドラマ化されているものの原作ですね。二人のファンの方はそちらの方もどうぞ。

【構成と注目ポイント】

構成は

MENU0
MENU1 アラビアータのような刺激を
MENU2 金曜日の美女はお弁当がお好き
MENU3 午後二時すぎのスーパーヒーロー
MENU4 帝王は地球に優しい
MENU5 窓の向こうの動物園
MENU6 ダイヤモンドは永遠に

となっていて、まず最初の「MENU0」はこのシリーズの幕開け的な滑り出し。麗子が朝きたメールを見てから上の空で、仕事が手につかない様子を見て、彼氏との別れ話がもちあがっていることを見抜くところからスタートするのだが、このときの「ゆいか」の

はい。わたしは観察しただけです、女の勘といっても、女性がみな持っているわけではありませうう。問題は観察力です。・・・もっとも男性と女性の脳には違いがあり、脳梁という・・

といった発言を見れば、可愛らしい童顔ながら、どういうタイプの女性化はわかりますね。

第二話の「アラビアータのような刺激を」のランチ合コンのお相手は「食品会社」の社員で、場所はイタリアンレストラン。謎解きは、彼らの務める会社のビルのエレベーターが、誰もいないはずなのに、夜中に屋上に毎晩移動する、というもの。実は、その会社の社員がそのビルの屋上から飛び降り自殺をしていて、その原因となったと噂された上司を恨んでのこと、という噂になっているのだが・・、という展開。パワハラがあったかどうか、ではなく、パワハラの話を誰が広めたか、とそのビルのエレベーターを操作できるのは誰、というのが鍵になります。

第三話の「金曜日の美女はお弁当がお好き」の合コンのお相手は、会社近くの公園に出店している移動販売車のオーナー・楢崎と彼の友人の焼き鳥屋の息子。たいていの場合、こういうパターンはスタイルはいいが、料理の腕は・・ということが多いのだが、今回の場合は二人共腕は確かである。ただ、その腕の良さが謎になっていて、楢崎の店に、金曜日になるとやってきて、20食分のおかずを買う美女の正体。彼女は楢崎が師匠と仰ぐ料理人の味を求めてやってきているらしいのだがごはんとおかずの容器を分けてくれとか注文が多い・・、という展開である。後半に楢崎と師匠との諍いも判明してきて混迷を深めますね。

第四話の「午後二時すぎのスーパーヒーロー」は、満員電車で麗子がストールを引っ掛けるというトラブルをきっかけに近づいてくるストーカーっぽい男性との合コン。キモとなるのは、彼の連れのエリート意識が鼻につく大手銀行員の有名人自慢を凹ませるところですね。

第五話の「帝王は地球に優しい」のお相手は、麗子が友達の結婚式で目をつけた電機メーカーの社員。ただ、彼にはすでに彼女がいることが判明し、謎解きは彼がつれてきたちょっと冴えない同僚・稲生の失恋話の謎と彼の双子の弟・直也夫婦の離婚の危機を救う話。彼は猫カフェの店員に恋をしたのだが、彼女の「うちの子は保母さんに預けるから」という言葉に、父親になる自信がなくて諦めたというのだが、彼女の言葉の本当の意味は・・・という展開。愛犬家、愛猫家ならすぐわかるかもしれません。もうひとつの謎解きは、彼の弟の妻が「帝王は地球に優しい」という言葉をメモに残して失踪してしまった、という話。直也の妻は彼に似合わない美女なのだが、その出会いは本屋でお互いの買った本を取り違えてしまった、という映画っぽい仕立て。そこに何か秘密が隠されていて、この結婚自体に陰謀が隠されているのでは・・と疑惑が広がるのだが、という展開。

第六話の「窓の向こうの動物園」は、麗子の同僚が婚活で知り合った塾講師・勝俣と花見の場所取りで一緒にいる間に、彼が喋った近所のアパートの一室の出窓に毎日、違ったぬいぐるみが飾られている、という話の謎。ただ、ここ数日、ぬいぐるみが「ゴリラ」のままで変わらないのだが・・・というもの。最近の子供の痛ましい事件を見聞きしている人はピンとくるかもしれません。

第七話の「ダイヤモンドは永遠に」は、麗子の元彼の先輩が持ち込んでくる謎。彼は最近、妻と離婚したのだが、婚約指輪を元妻が盗んだのでは、という疑惑を抱いているというもの。というのも、離婚から半年も経過してから突然、元妻が、自分の買ったDVDが残っていないかと家に訪ねてくる。そして、彼女が帰った後、ケースにしまっておいたはずの指輪が失くなっているという筋立てです。

どの話でも、ランチを食べている間に、「ゆいか」の頭脳が着々と動き、「すべての構図が見えました」と謎を解き明かすところには妙な爽快感がありますので、山本美月ファンでない方にもオススメですよ。

【レビュアーから一言】

「ゆいか」の冷静な推理もさることながら、特筆スべきは、ランチ合コンで登場するランチたちで、たとえば、MENU1のイタリア料理の「ミルフィオリ」という店で、彼女たちが食べるのは

雲丹 のクリームパスタと、ポルチーニ 茸 のファルファーレが運ばれてきた。カルボナーラとペンネ・アラビアータも続く。麗子の選んだファルファーレは、 蝶 のような形のパスタだ。ソースはクリーム系で、パスタで絡めとって口に運ぶと、濃厚な香りがいっぱいに広がる

といった旨そうなランチを毎話ごとに食べるという羨ましい設定。こういうランチがいただけるなら、合コンの出来はどうでもよくなるかもしれませんね。

日本各地に伝わる「儀式」と「民俗」が謎解きの鍵 ー 北森鴻「凶笑面」

作者が急死したため、完結しなかったシリーズといえば、この北森鴻氏の「蓮丈那智」シリーズがまず第一にあげられるのではなかろうか。主人公は都心にある「東敬大学」の助教授(今は「准教授」っていうんだよね)で、ひと目をひく美貌の持ち主ながら、妥協を許さない言動と厳しい指摘が特徴の「異端」の民俗学者・蓮丈那智、語り部が彼女の研究室の助手(今は「助教」っていうんだっけ)の内藤三國というキャストで描かれる「民俗学」ミステリーである。

この蓮丈研究室に日本各地の旧家や研究者から持ち込まれる民俗学の調査依頼を発端にして、調査地でおきる怪奇色たっぷりの殺人事件を、蓮丈が、怜悧な推理で解き明かしていくというシリーズの第一弾が『北森鴻「凶笑面」(新潮文庫)』。

【収録と注目ポイント】

収録は

「鬼封会」
「凶笑面」
「不帰屋」
「双死神」
「邪宗仏」

となっていて、このシリーズの話ではいずれも怪奇的な習俗がでてくるのだが、第一の「鬼封会」は、岡山県のK市に伝わったとされる、「修二会」という年のはじめにその年の安全と豊作を祝う仏教儀式に似てはいるが、鬼に扮したものを毘沙門天が倒して面を奪う、という他の地のものとは異なる儀式に関して起きる殺人事件の謎解き。事件のほうは、この儀式を録画したビデオを送ってきた「都築」という人物が、その儀式を伝えてきた旧家・青月家の娘・美恵子によって殺害された、というもの。この都築という人物、青月美恵子を長年に渡って付け回してきたストーカーで、彼女のアパートに押し入ったところを逆に殺された、ということのようだが、実は・・・という筋立て。この旧家の儀式にでてくる「鬼が殺される」シーンが昔の何を象徴しているか、那智が解き明かすことによって、現代の事件の真相も明らかになります。

続きを読む

多絵ちゃんの推理が人気作家を救う ー 大崎梢「サイン会はいかが」

都心の駅ビルの6Fにある中規模書店で働くしっかり者の姉さん肌の「杏子」さんと「理知的」で分析と推理力抜群ながらとんでもなく不器用なアルバイト「多絵」ちゃんが活躍する「成風堂」シリーズの第2弾が『大崎梢「サイン会はいかが」(創元社推理文庫)』
実質的には、間に「晩夏に捧ぐ」という出張番外編があるので第3作というべきなのかもしれないが、成風堂を舞台にしたものとしては2作目で、第1作目ではアルバイトをはじめてまだ3ヶ月めで、書店内で起こる事件の謎解きも遠慮しがちの雰囲気があった「多絵」ちゃんが、堂々とした「探偵ぶり」を発揮しているのが本巻。

【収録と注目ポイント】

収録は

「取り寄せトラップ」
「君と語る永遠」
「バイト金森くんの告白」
「サイン会はいかが?」
「ヤギさんの忘れもの」

となっていて、まず第一話の「取り寄せトラップ」は、成風堂に4人の男性から本の取り寄せの注文が入るのだが、確認するとその誰もが覚えがないという、といった滑り出し。新手のいやがらせかと思っていたら、それに関係しているのでは、杏子とそんなに年齢の変わらない「岡本詩織」と名乗る若い女性が来店してくる。
彼女の祖父は一年前に渓流釣りに4人の仲間といった際に転落死してしまったのだが、亡くなった後に発見された、手帖に、この4人の仲間のうちの一人に年代物らしい「掛け軸」を預けて鑑定を依頼したということが記してある。祖父の死後、その掛け軸の行方がわからなくなっているのだが、この掛軸の行方は、そして、成風堂の本の誤注文の男性は、彼女の祖父が亡くなった時に同行していた釣仲間の4人だとわかって・・・、という展開。
掛け軸を表に出しておいて、べろんと違う犯行がでてくるのでご注意のほどを。

続きを読む

地方の老舗書店の「幽霊」の謎に多恵が挑戦する ー 大崎梢 「晩夏に捧ぐ」

都心の駅ビルの6Fにある中規模書店で働くしっかり者の姉さん肌の「杏子」さんと「理知的」で分析と推理力抜群ながらとんでもなく不器用なアルバイト「多絵」ちゃんが活躍する「成風堂」シリーズの出張番外編が『大崎梢「晩夏に捧ぐ」(創元推理文庫)』である。

実質的には、第1弾の「配達赤ずきん」の次の作品であるのだが、舞台的に「成風堂」ではなく、元同僚から地方の老舗書店で起きた事件の解決を頼まれて、はるばる「長野県」まで出かけての推理劇である。

【あらすじと注目ポイント】

話の発端は「成風堂」に二年前まで勤めていた「美保さん」という女性から、彼女が今勤めている長野県の老舗書店(まるう堂というらしい)に幽霊が出る、なんとか、この謎を解いてくれという依頼が入るところから開幕。

この「まるう堂」という書店は、貸本業からスタートした大正十一年創業という老舗で、ちょうど夏休みということでもあり、避暑と老舗地方書店の現状調査も兼ねて杏子さんと多絵ちゃんが現地に赴き謎解きに取りかかる、っていう筋立てですね。

で、依頼された「まるう堂」にでる幽霊っていうのが、「今出ました」といった手合いではなくて、昭和50年代の初めに、惨殺された小説家・嘉多山を殺した犯人の面影があるというもの。この事件の犯人として逮捕され、獄中で死亡した新人小説家・小松の卵は、この作家が惚れていた資産家の女性との三角関係のもつれで殺人事件を犯した、ということになっているのだが、実は犯行現場に立ちすくんでいたということで捕まったもので、冤罪の疑いが当時から噂されていた、といういわくつきである。

で、この「幽霊騒ぎ」の謎解きと、この50年前の殺人事件の真相を、セットで解決しましょうというところで、「多絵」ちゃんの才能全開となります。彼女の

「特別だからこそ本気。今度の話だって、初めの手紙を読んだときからけっこう燃えてるんですよ。本屋を揺るがすような幽霊騒動でしょ。今ここで宣言しておきますね。私、この謎はぜったい解いてみせます。」

という意気込みはすごいですな。

ただ、このため、この作家の甥やら、作家が晩年懸想した高慢さがにじみ出る、美人の資産家の元お嬢様、作家の内弟子といったのが入り乱れての推理劇が本作の中心となります。ただ、まあ殺された小説家も癖があるし、内弟子たちも作品をこの小説家に認めてもらって文壇デビューとギラギラしているし、殺人犯とされた青年も才能はあるようだが、この小説家からは酷評されることも多くて、といった具合で、結構ドロドロした人間関係を解きほぐしていく推理となります。
そして、この過去の殺人事件のカギとなるのは、殺された小説家が現場で昼間書いていた原稿の一部が行方不昧になっていた、というところなのだが、ここらの謎解きの詳細は原書で。

そして、この過去の事件の謎解きが、現在の「幽霊事件」へとつながっていき、謎解きをした多絵ちゃんが真犯人に襲われることになるのですが・・・といった展開ですね。

【レビュアーから一言】

謎解きとセットで興味深いのは、地方の書店経営がどんなものか、といったことがあちらこちらで感じられるところ。たとえば、

地方書店が現行システムに対して持っている不満は、これまでもいろいろ、見聞きしてきた、話題になる本は全国の本屋で一斉に注文をかけるので、出版社は応じきれずに出荷数に調製を入れる。出版社を出た本は取次をまわるので、さらに、そのとき、さらに数がいじられる。結果、まわってくる本の冊数は希望数より大幅に減ってしまう。

などなど。こういった苦難を乗り越えて、地方で書店も維持している経営者の皆さんに敬意を表する次第であります。

街中の「書店」のふんわりミステリーをどうぞ ー 大崎梢 「配達赤ずきん」

ミステリーの舞台設定の一つとして、一般人では経験できないような場面を提供する、というやり方があるが、本書は、これとは違い、ひどくお馴染みの場所でありながら、経験できない場を提供する、という簡単なようでかなり高度な技が提供されている。

舞台は、首都圏(?)近郊の駅ビルの6Fにある成風堂という中規模の書店。まあ、よくある、通学や通勤帰りの学生や勤め人が寄っていく書店といったところ。役者は、当然、この書店に勤める書店員さんなのだが、24歳のまだうら若い杏子(きょうこ)さんと大学の法学部在学中の多絵ちゃんがメインで進められる「書店ミステリー」が『大崎 梢 「配達赤ずきん」(創元推理文庫)』。

探偵役は、この多絵ちゃんなのだが、ワトソン役の杏子さんは、かなりのお喋りと見受けられるのと、探偵役はアルバイトのせいか、フルタイムでの登場(勤務)はできないので、まあ、二人で一役といったところです。

【収録と注目ポイント】

収録は

「パンダはささやく」
「標野にて、君が袖振る」
「六番目のメッセージ」
「ディスプレイ・リプレイ」

となっていて、第一話の「パンダはささやく」は、寝たきりの老人から知り合いを通じて託させる暗号のメッセージ。ここで、この物語の語り部の杏子さんと、探偵役の多絵ちゃんが登場。
痴呆症気味の老人のしゃべる暗号まがいの注文の謎解き、という風で始まるのだが、どうしてどうして、深いわけが潜んでいたとは恐れ入るといった次第。

続きを読む

「ヨコハマ」の街の洒落た謎の数々を楽しもう ー 大崎梢「横浜エトランゼ」(講談社)

都市にはそれぞれがまとっているイメージというものがあるのだが、この物語の舞台となる「横浜」というところは、「神戸」と並んで名前を聞いただけで「オシャレ」なイメージが立ち上がってくる、というなんとも羨ましい街である。

そんな「横浜」の地を舞台に、「ハマペコ」というタウン誌で、高校卒業までアルバイトをしている女子高生・広川千紗を主人公に、読者から寄せられる「ヨコハマの謎」を解き明かしていく物語が本書『大崎梢「横浜エトランゼ」(講談社)』である。

【収録と注目ポイント】

収録は

「元町ロンリネス」
「山手ラビリンス」
「根岸メモリーズ」
「関内キング」
「馬車道セレナーデ」

となっていて、主人公の千紗が勤めている、タウン誌「ハマペコ」こと「ヨコハマ・ペーパー・コミュニティ」を発行している「横浜タウン社」は、創業38年という歴史を誇る、大手新聞社系列の情報誌出版社である。ここの編集長が、持病のヘルニアが悪化して自宅療養になったため、編集長代理に、千紗の年上の幼馴染「小林善正」が就任したため、人手不足状態になった隙きをついて、千紗がアルバイトとして潜り込んだというところである。彼女には、高校卒業までのお小遣い稼ぎという側面と、編集長代理の善正のことがちょっと行為を抱いているという設定になってますね。

続きを読む

「文字」に秘められた事件の鍵を探し出せ ー 麻見和史「警視庁文書捜査官」

ミステリーが面白いかどうかは、探偵役になる人物の専攻とかプロフィールか性格がどれだけ変わっているか、ということと、そのあたりと風貌との落差がどれだけあるか、というのが決め手になることが多いのは「警察小説」でも同じことであろう。
最近の「警察小説」はガチガチの「刑事もの」か、プロファイリングや脳科学を駆使した、「医療+警察もの」といったのが流行であるようなのだが、「過去の捜査文書」にスコープして、事件捜査に「文章心理学」という手法を使う一風変わった仕立てであるとともに、捜査班のチーフとなるのが

その女性はボブにした髪に、緩いウェーブをかけていた。真っ白なシャツと紺のパンツスーツを着ているせいで、清潔感がある。顔立ちが整っているから人目をひく。
ただ、何か読んでいるときの彼女は、かなり駄目な人だった。読むことに夢中になって、周囲への対応がひどくおろそかになるのだ。

といった、30歳を少し出た年齢の女性ということで、申し分のないキャスティングになっている。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 アルファベット
第二章 地図
第三章 筆記誘導
第四章 ブルーシート

となっていて、まずは、今巻の犯行のキーとなる人物である「掃除屋」が登場する。ここで、殺された男の右手を、彼が犯行現場にあったのこぎりで切断する場面がでてきて、これがかなりの猟奇事件を思わせるのだが、ここは筆者のフェイクなので、早速のネタバレながら注意喚起しておきますね。

続きを読む