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老人の事故死に隠された「連続オレオレ詐欺殺人」を暴け ー 吉川英梨「レッドイカロス」

女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に凶悪な犯人たちを相手に活躍してきた「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が、活躍の舞台を警視庁捜査第一課八係にうつしての初めての物語が、本書『レッドイカロス 警視庁捜査一課八係 警部補・原麻希』である。

前巻で、有名テロリスト・アゲハの再逮捕のために、罠をしかけた公安部のかつての部下たちの犯行を暴いたのだが、その責任をとらされて降格された広田警部が係長を務める、捜査一課八係に異動した麻希が、原田警部補、鍋島巡査部長といった今までの捜査仲間と新人の手塚巡査部長とともに、現代を象徴する凶悪犯罪に挑んでいくのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 米村さんごめんなさい
第二章 狐
第三章 もう老害なんて言わせない
第四章 七ツ獄
第五章 イカロスは堕ちた
第六章 命
エピローグ

となっていて、まずは、今巻の舞台の2019年から34年前の純金取引の詐欺事件を起こした会社社長の殺害とそれに伴う会社の取り付け騒ぎ「西柴商事事件」が描かれる。これが、この巻の事件の伏線となるので登場人物とかを覚えておくとよいかも。

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「テロリスト・アゲハ、再臨」と思わせて実は・・ ー 吉川英梨「蝶の帰還」

「昨今、急増するストーカー犯罪やDV被害に苦しむ女性を救うため」という名目で警視庁に新設されてはいるのだが、実は女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に、「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が活躍する、『警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希』シリーズの第5弾。

今巻は、原麻希のデビューの秘匿犯罪捜査班当時の最初の犯人のテロリスト・アゲハが再び日本へ再臨。原麻希・則夫夫妻と、麻希の元恋人の広田管理官夫妻と彼らの子どもを巻き込んだ事件の顛末。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
チャプター1 下北沢劇団女優殺人死体遺棄事件
チャプター2 目黒区祐天寺公安刑事襲撃事件
チャプター3 ロクチョウ
チャプター4 公安刑事結婚披露宴爆破テロ事件
チャプター5 警視庁警察官誘拐事件
Intermission 1/2

Intermission 2/2
チャプター6 アゲハ模倣事件秘匿捜査本部誕生
チャプター7 鍵を握る女たち
チャプター8 三丁拳銃
チャプター9 蝶の迷宮
チャプター10 革命の子

の文庫本は「上下二巻」仕立てで、まずは、麻希の元恋人で警視庁の刑事部の管理官に異動した広田管理官が、愛娘の舞香や芹香にベタベタのようすからスタートする。もともと公安部に所属していたのだが、娘ができ家庭への愛着がまして刑事部に移った、という設定なのだが、彼の娘が、「秘匿事件捜査官」シリーズの第一作のように「アゲハ」を名乗る犯人に誘拐されることが主軸の事件と平行する伏線となる。

さて今回の連続事件は、下北沢のアパート跡地で女性が打撃を受け窒息死したような状態で死んでいるのを発見されるというもの。このアパート跡地は以前の「アゲハ」の事件の現場となったアパートが取り壊された跡で、しかも、その時と同じようなアゲハのメッセージが届くといったところから、「アゲハ事件」の再来か、という感じで開幕。

さらに続いて、公安部に属する警察官・槇村(彼はアゲハ事件のときに広田管理官の部下だった人ですね)が、彼の情報提供者とのやりとりの最中に襲撃されて怪我をしたり、といった小物事件の後、広田管理官の娘・舞香がベビーシッターとともに誘拐される。娘の行方を必死で探す彼のもとに届いたのは、「アゲハ」からの、元部下の岩本の結婚式で、その会場にしかけた爆弾のスイッチをいれて、出席している公安部の警察官たちを爆死させろ、という脅迫だった・・・、という展開である。

まあ、この脅迫は、アゲハから仕掛けられた「フェイク」であったのだが、爆破のスイッチを押してしまった広田の信用を下げ、その上で、麻希の娘・菜月を再び誘拐して、麻希と広田を呼び寄せる。そこで、アゲハこと戸倉加奈子は「これは自分のやった犯行ではない」と言うのだが・・ということで、アゲハに対する不信の念をいだきながら、麻希と広田は真犯人のあぶり出しと、誘拐された舞香の救出を目指す。
そして、彼らがたどり着いた真犯人は実は味方と思っていた意外な人物であった・・、ということで詳細は原書のほうで。

少しネタバレすると、今回の事件のキーは、公安部から刑事部に転籍して「根無し草」と呼ばれている「広田管理官」の存在で、この「ハラマキ」シリーズのあちこちで描かれる警察内部の縦割り構造。しかも、秘密捜査を基本とする「公安」から抜けることは仲間に対する「裏切り行為」と認識されるようで、秘密行動に携わると、現代組織も「忍び」と同じ構造になるようであります。

【レビュアーから一言】

今巻では、「ハラマキ」シリーズのデビュー事件である「アゲハ事件」で主犯となる戸倉加奈子が逮捕されてからの「その後」が描かれていて、それには、麻希の配偶者の「則夫」が深く関与しているところが描かれます。シリーズの中では、麻希の尻の下に敷かれている、温厚な引退警察官風の様子の描かれる彼の現役時代の「鋭利」なところがみえるので、ここもお見逃しなく。おまけに、彼と加奈子の事件後の出来事に、作者が読者を迷路に誘い込む仕掛けを施しているので、まあ、うまく騙されてください。

ハラマキは学生時代の恩人を逮捕できるか? ー 吉川英梨「氷血」

「昨今、急増するストーカー犯罪やDV被害に苦しむ女性を救うため」という名目で警視庁に新設されてはいるのだが、実は女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に、「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が活躍する、『警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希』シリーズの第4弾。

今巻では、女性犯罪捜査班の属する警視庁を離れ、ハラマキの故郷である「北海道」での事件解決となる。しかし、そのために、彼女が警察官を志すこととなった「恩人」との不幸な再会と過去の思い出の清算が必要となる。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 発光
第二章 越境捜査
第三章 刀狩
第四章 逮捕状
第五章 掃除屋
第六章 救済
第七章 再会
エピローグ

となっていて、まずは「ハラマキ」と彼女の夫・則夫、長女菜月親子が麻希の故郷である旭川に帰省するところからスタート。
則夫は麻希とは20歳近く年齢も離れていて、麻希の父母と年齢も同じぐらいなのと、麻希の父親も工務店の親父さんののりで乱暴にしゃべってくるので居心地は良くない。このため、そうそうに旭川の実家への宿泊を切り上げて、札幌への観光旅行に変更するのだが、とかく事件い遭遇しやすい麻希だけあって、札幌の心霊スポットめぐりをしている夜、市内の藻内公園の花魁淵というところで若い女がスーツケースにのった状態で死んでいるのを発見する。ただ、発見した際に、死体は池の中で凍りついていたのだが、橋の上の欄干から投棄された様子であることを観察する麻希の刑事魂はさすがである。

死体発見後、第一発見者ということで取調べは受けても、麻希が警視庁の現職警官であるのと、則夫の退職前の「警視」という役職が効果があって丁寧な扱いをされる。しかし、この裏に、北海道警の本部長はじめ本庁からきているキャリア組から、道警のノンキャリたちの不正を暴く密命が警察庁じきじきに下されるきっかけにもなるのが、「組織』という存在のエゲツナイところですね。

さて、今回の事件で死んでいた女性・青坂茉菜は警視庁の女性犯罪捜査班にDV被害の相談にきていて、「残念なイケメン」鍋島が相談を受けていたことが判明。その後、札幌に帰って今回の被害にあったという筋立てである。

北海道での彼女の対応をしていたのは、瀧という警察官で、プロローグのところで、青坂茉菜と男女の関係にあったことは読者には明らかなのだが、彼は以前は銃刀討器室のちゃんとした警官であったのだが、道警の銃刀器の不祥事で、薬物中毒になっていて道警の中でも持て余し者になっている。しかし、どういうわけが上層部は彼を処分したりしようとせず、放っておくよう指示を出しているという設定ですね。読者のほうはこのへんで上層部のからむ組織的な犯罪が隠されていると推察できると思います。

ただ、彼は麻希が学生時代、実家で兄弟の世話を押し付けられて、不満をためた末にグレかけていたときに、相談に親身にのって、彼女の東京への大学進学先で親の説得をしたりしてくれた、いわば兄貴分の恩人。さらに彼からは卒業したら道警に入れと進められてもおり、いわば、麻希が警察官となった動機はこのあたりにあるという間柄であるので、話がややこしくなってますね。

事件捜査ののほうは、道警に捜査本部が立ち上げられるのだが、刑事部と生活安全部との対立がある上に、キャリアとノンキャリとの対立もひどく、協調して捜査ができる状態にはない。原因は、銃刀法改正による銃の摘発に関連して、以前、おおがかりな密輸事件に警察関係者が関係していたことが明らかになったこととそれの関連して道警の警察官が自殺したという事件の余波が続いているということであるらしく、捜査本部に参画した麻希にも捜査に入ってくるなと心理的な忘我がされるのですが、まあ、従うようなタマではありません。

一方、瀧は捜査本部に警視庁から合流してきた鍋島をはめて、監禁。しかも、彼が青坂茉菜殺しを自白したような映像を作成し、彼を犯人に仕立て上げようと画策し、さらには、麻希や則夫も彼の犯罪を隠蔽しようとしたという疑惑をでっちあげ、捜査本部から追放することに成功します。

さて、捜査本部から追放された麻希が独自捜査で鍋島の監禁場所をつきとめることができるのか、さらには鍋島を殺して犯人にでっちあげようとする瀧の犯行を阻止できるのか、といった展開ですが、詳細は原書のほうで。

読みどころとしては、麻希に親身になって世話を焼いてくれた瀧が本当に堕落してしまったのか、そして、彼を裏から操る道警の大物は誰なのか、といったところですね。

物語の最後のほうの、麻希と瀧のやりとりと、彼女が東京へ進学するときのエピソードが感動的で泣かせます。

【レビュアーから一言】

罪を着せられた上に、監禁されて行方不明になった鍋島を心配して、警視庁女性犯罪捜査班の夢美巡査が、自費で東京から羽田にやってくるというおまけ話が起きる上に、救出された鍋島からのあるひと言で彼女が舞い上がってしまうというエピソードが挿入されているので、夢美ファンは期待して読んでください。次巻あたりでひょっとするとひょっとするかもしれません。

税理士母子の誘拐殺人事件に隠された真相は? ー 吉川英梨「通報者」

「昨今、急増するストーカー犯罪やDV被害に苦しむ女性を救うため」という名目で警視庁に新設されてはいるのだが、実は女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に、「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が活躍する、『警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希』シリーズの第3弾。

第1弾と第2弾は、サイコパス風味の強い連続殺人事件であったのだが、第3弾はそれとはちょっと違って、夫の不倫と育児不安に悩む。元バリキャリの専業主婦の孤独が主テーマとなる事件に「ハラマキ」が挑む仕立てとなっているのだが、ハラマキ、夢美、鍋島というメンバーがまさかの捜査妨害をしでかしてしまう筋立てでもある。

【構成と注目ポイント】

構成は

前編「東中野母子営利誘拐事件」
並びに「立川市残堀川女性全裸死体遺棄事件」
後編「町田市雑木林女性連続殺人事件」
並びに「ヴィラ東中野三人殺し」

となっていて、まずは前編では、税理士・野原勇樹の妻・倫世と息子・敬太が誘拐され、その身代金の受け渡しで、女性犯罪捜査班のメンバー「原麻希」と「星野夢美」がドジを踏むところから開幕。この誘拐事件では、身代金の受け渡し現場とされていた代々木駅西ロータリー付近で張り込んでいた捜査員が犯人をおさえる予定だったのだが、警察の張り込みに気付いた犯人から、「警察ヲマカナイト、取引ハ中止スル」と連絡があり、身代金を渡すはずの夫・野原が警察を巻いて逃走する。野原は犯人の指示なのか、新宿から特急「あずさ」に乗り込み甲府へ向かい途中で、休暇中を急遽呼び出された「女性犯罪捜査班」の二人が、彼に不用意に接触し、犯人からの連絡が途絶えてしまった、というもの。
もうひとつの事件は、雨で増水している立川にある残堀川で女性の全裸死体が発見されるのだが、死因が後頭部に外傷を受けたあとがあり、犯人が死亡した被害者を川に遺棄したと思われるもの。

一見、関係ないと思われる2つの事件が捜査が進むにつれ交錯し、一つの事件となっていくのだが、最初の誘拐事件のほうは、秋川の渓谷で母子の遺体が発見されるのだが、身代金が200万円という高額ではないことと、この野原夫妻の夫の方は、現在勤めている税理士法人から独立しようとしていることと、妻の倫世も以前、同じ税理士法人で税理士をしていて、経営者の脱税指南を摘発しようとして辞職した、といったこともあり、単純な誘拐事件とも思えないような事件展開をしてくる。そして、夫の野原勇樹の不倫も発覚した上に、全裸で発見された女性が、その不倫相手・海老名真以子であったこともわかり、さてはこの男が三人を・・・といった筋立てで進んでいくのが前編。ただ、犯人として疑われている野原は、不倫相手のマンションに行ったところ、三人がすでに死んでいた、という主張を繰り返し、犯行は認めない、というところで後編へ。

後編のほうは、女子大生が男に強姦されそうになって抵抗したところを撲殺される事件が起きるのだが、その捜査に参加していた前巻で登場した「残念なイケメン」鍋島巡査部長が現場で、死亡していた女性の死体に躓いて道路に蹴り出してしまい、現場をめちゃくちゃにしてしまう、という「ザンネン」な所業に及んでしまう。女性捜査班の関係者が度重なる捜査妨害をやってしまう事態となる。そして、この殺された二人の女性のうち、一人が、前編の野原税理士のマンションの下のフロアに住んでいた舞原敦子という女性で、正義感にかられて、いろんなことをネットにアップしている人物であることが判明。前編で亡くなった野原税理士の妻・倫世のことも、自分の息子を虐待しているとネットにアップしたことがあるらしい。そして、「残念なイケメン」鍋島が、この事件を解決する二人に共通するキーワードを見つけた、というのだが、意外にもそれがヒットして・・・、という展開である。

ネタバレを少しすると、虐待を訴えられた野原倫世は、もともと正義感の強い潔癖症の女性で、息子の泣き声が他の部屋に響いていないか心配で防音マットを二重に敷き詰めるほど。そんな彼女が、自分が虐待しているとネットにアップされてことを気に病まないはずがなく、息子の泣き声をなんとかしようとする行為と、ネットにアップした犯人探しが、不幸な形でリンクした事件ですね。これより詳しいことは原書のほうで。

【レビュアーから一言】

捜査活動での「ザンネン」な行動の目立つ鍋島クンなのですが、「きょん連続傷害事件」を八丈島署のときに見事に解決した女性犯罪捜査班のホープ・夢美ちゃんは気になってしようがない男性らしく、その気配に気付いた「ハラマキ」がなにかと二人をくっつけようと、証拠調べのためのホラーDVDを二人で長時間鑑賞する機会を捻出したり、となにかと画策を始めます。捜査の方とは関係ないエピソードなのですが、ちょっとした息抜きとなるシーンで、当方は「好み」のエピソードですね。

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サイコパスの研究が連続殺人を生み出す ー 吉川英梨「5グラムの殺意」

サイコパスの研究が連続殺人を生み出す ー 吉川英梨「5グラムの殺意」

「昨今、急増するストーカー犯罪やDV被害に苦しむ女性を救うため」という名目で警視庁に新設されてはいるのだが、実は女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に、「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が活躍する、『警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希』シリーズの第2弾。

今巻では、少女買春組織がからむ犯罪かサイコパスによる殺人が捜査の方向ぶれまくる中、主人公である「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が「しばらく旅に出ます」というメールを送ってきたっきり、巻の途中まで行方不明になってしまうことと、女性班の捜査に、証拠を台無しにしたり、容疑者をライバル部署に引き渡してしまったり、と「残念なイケメン」として、これからの数巻にわたって、捜査の足を引っぱる鍋島巡査部長の登場がトピック。特に鍋島巡査部長の「大活躍ぶり」はとてつもないので、しっかりとその「残念なところ」を楽しんでください。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 不在
第二章 嘘
第三章 遺留品
第四章 敗北
第五章 追跡
第六章 死神
第七章 研究者

となっていてプロローグで、蓮田美由紀という女性が、訪ねてきた顔見知りらしい女性によって毒殺されるシーンからスタート。ここでの、とばしのケータイで連絡をとってきたところとか、犯行の際に、犯人の女性の「ー目覚めさせなくてはならないの」という発言のところは、本巻の謎解きに重要なキーとなるので、覚えておいてください。

事件のほうは「クラブ・シアマーナ」という店で、客の女の子が、同じく客として来店した少女によって、金属バットで撲殺するというのが第一の事件。犯行の方は金属バットで頭部を何度も殴るという残忍なもので、この犯人が落としたリップクリームに残っていた「口唇」から男性の皮膚片が検出され、捜査は「男性の犯行」ということで一旦進むのだが、これが捜査を撹乱するもとになります。もっとも、跡から読むと、犯人は捜査の撹乱を狙ってのものではないようなので、ここは捜査側の落ち度ということなんでしょう。

で、本筋の事件のほうは第一の少女撲殺事件だけではなく、最近おきた女子中学生の校舎屋上からの転落死や、路上での通り魔的な絞殺事件との関係性が明らかになり、連続殺人事件という様相を呈してきます。そして、第一の事件で殺された少女が売春組織に関わっていたことがわかり、この連続殺人事件も、その関連か・・といった感じで捜査が進むのですが、これもミスリード、と今回も男性捜査陣の失態が目立つ筋立てになってますね。

そして、捜査に復帰した「ハラマキ」は、今回の事件がサイコパスによるものではないかという疑いを抱き、事件の法則性を見出します。それは中学校の出席番号順に少女たちが犠牲になっているというもので、第四の事件を防ぐため、市内の中学校に警戒を呼びかけるのですが防ぐことができません。その犯行現場に出向いた「ハラマキ」は犯人らしい人物に遭遇するのですが、後ろから殴られて昏倒し逃してしまいます。さて、連続殺人鬼の正体は?そしてはんこ次なる犯行は・・・という展開です。

ここで謎解きのキーとなるのが、「ハラマキ」が不在なため、妊娠中で臨月の近い小暮圭子警部補と先述の鍋島巡査部長が二人組で捜査をしている途中に、発達障害の子供を抱えて、育児ノイローゼになっている女性・北村里美という女性に出会い、本筋の捜査とは別に、彼女の悩みの解決に関わっていくというところ。その過程で、子どもたちの育児の不安を解消するためのママ友サークルを主催する元精神科医で、今はレーザーによるがん治療のエキスパート医師である蕨野美花という女医さんに出会うのですが、この人が実は事件で重要な役割をしているので、注意して読んでおいてください。
ネタバレを少しすると、彼女の前歴がサイコパスの医学的特徴を研究している研究所出身というところと、サイコパスは眼窩皮質と扁桃体周辺の機能が乏しい、という説と、それぞれの事件の犯行現場に残されていたリップクリームをはじめとする遺留品ですね。

一見、サイコパスによる愉快犯的な連続事件と思わせる展開なのですが、実行犯はかなり意外な人物です。そしてそれ以上に、今回の連続殺人の本当の真犯人と考えるべきなのは誰なのか、悩み深い結末になってます。

【レビュアーから一言】

今回の事件の犯行の動機ともなる、赤ちゃんの誕生時と同じ重さに調整した「ウエィトベア」ですが、本書では、双子の姉妹が生まれたときに作成したものなのですが、結婚式のときに両親への贈り物として渡すという使い方もされているようです。自分たちが生まれたときの重さを味わってもらい、自分たちを初めて抱いたときの気持ちを思い出してもらうという趣向のようですが、こういうものを贈られた新婦のお父さんは、ますます娘が巣立っていく寂しさを感じて大泣きに輪をかけてしまうのでは、と思ってしまうのですが・・・

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陶芸家一家惨殺事件の原因は十数年前の隠ぺいであった ー 吉川英梨「警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希」

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陶芸家一家惨殺事件の原因は十数年前の隠ぺいであった ー 吉川英梨「警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希」

アゲハ、スワンなどの「秘匿捜査官」シリーズでおなじみの、ハラマキこと原麻希シリーズのSeason2の第一巻が本書『吉川英梨「警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希」(宝島社文庫)』
今シリーズでの活躍の舞台は、「昨今、急増するストーカー犯罪やDV被害に苦しむ女性を救うため」に警視庁の新設された「女性犯罪捜査官」なのだが、実態のところは、男性優位の捜査本部の世界に不満をもった女性捜査官たちが、自分たちの判断で捜査ができるように作った組織で、本部のほうからは「端っこ」扱いされている、というのが本当のところで、今回も、警察の本体組織とは、あれこれ軋轢を生みながら、犯人を暴いていく、というストーリーは健在である。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 警視庁捜査一課 女性犯罪捜査班
第二章 奥多摩町陶芸家一家四人惨殺事件 第一回捜査会議
第三章 生け贄
第四章 影の男
第五章 神童
第六章 聖戦
第七章 黒衣の道化師
エピローグ

となっていて、まずは警視庁の八丈島署の強行犯係から、「星野夢美」巡査が、警視庁の女性犯罪捜査室へ赴任してくるところから新シリーズが開幕。この星野巡査は、八丈島署で「きょん連続殺傷事件」の犯人検挙に大活躍したいうふれこみなのだが、「きょん」という名前がなにやら笑いを誘うので、本人はあまり好んでいない風情です。

で、初めての本庁勤務とあって張り切る彼女なのだが、この女性捜査室は、実質的には「端っこ」的な組織で、メンバーは、「きめの細かい白い肌に、キリっとしたアイラインで目元を強調した美人」の「蔵本織江」警部、育休あけの時短勤務で、現在は主に事務に従事している「増岡亜矢子、そしてこのシリーズの主人公・原麻希と新任の星野夢美巡査というのが、実質的に稼働しているメンバーで、あとは産休中などで職場復帰していない、という組織である。ただ、立ち上がった動機が

織江さんが奔走してこの版を立ち上げたんだけど、そもそもそうやって彼女ががんばったのも、もともと捜査一課所属の警部なのに、男女差が響いて明里町になれなくて上ともめたからなのよ。
(略)
で、上はさ、いろいろとクレームをつけてくる女を下手にあしらうとセクハラとかになっちゃうから手を焼いていたわけよ。ちょうどここ数年はストーカー犯罪が急増していたことだし、世間様に表向き、警察はストーカー対策ばっちりよというアピールにもなるってことで、この班ができたわけ

ということなので、ストーカーやDVに限らず、女性が関係していれば、とにかく出張っていくというスタンスのところのようですね。

事件のほうは、奥多摩の陶芸一家4人が、自宅で撲殺されて頭を潰されたりり、自殺にみせかけて絞殺されたりと、かなりグロテスクな殺人事件。さらには、現場の家の玄関に飾られれいた陶芸家の時価5000万円の作品がこなごなに壊されていて、怨恨がらみの殺人と疑わせるものですね。
ただ、娘の一人はアイドルをやっていて、ストーカー的な可能性も否定できないし、もう一人の娘は引きこもり状態で、今は陶芸家を目指しているが芽が出ない状態で鬱屈をかかえていたり、母親・恵美のほうは、「誰とでも関係を持つ、という噂がある」と、第一発見者の陶芸教室の生徒からチクりがあったり、と犯行の動機のネタには事欠かない状況である。
なので、捜査は娘の一人が家族へ恨みを抱いてのものであるとか、恵美の不倫の相手か?といった線での捜査先行するのだが、恵美の義理の父親・影山が、彼女の部屋に忍び込んで、日記を物色していて捕まる、という事態がおきてから別の様相を見せてくる。

というのも、この窯は先代の15代目の時には、非行少年たちを集めて、陶芸を教えながら更生させるといった取り組みをしていたのだが、実は15代目の目を盗んで、恵美が集団暴行の犠牲者となっていたということが告白された内容が記載されていることが判明。さらには、その主犯格の人物を、窯で修業をしていた「神童」と呼ばれる男性が殺害し、恵美を救ったということも書かれていたのである。
当時、今回殺された陶芸家は、恵美の恋人だったのだ暴行を止められない状態にいたし、さらに、義父の影山は16代目を継ぐのではと言われながら、この事件がきっかけで行方をくらましていた、といったことで、この十数年前におきた事件が、今回の事件の重要な「鍵」となっていくのだが、原麻希の中学受験を控える娘に、不審な男が接触してきたり、第一発見者である、陶芸教室の生徒で、ポスティングスタッフで生計をたてている「一ノ瀬」が犯行を突如自供したり、といったことが起き、犯人捜しを余計に複雑化していく・・といった展開である。

ネタバレを少しすると、捜査が進展していくにしたがって、この「神童」という人物が正義のみかたであるような印象も抱いていくのだが、最後のところでどんでん返しをくらわされるので、そこのところは注意してくださいね。

【レビュアーからひと言】

今回からサブ・キャストとして登場してくる星野夢美巡査が、「女性犯罪捜査室」にスカウトされるきっかけとなる事件である「きょん連続傷害事件」というのは、八丈島の島内に生息する「きょん」がボウガンで撃たれて負傷する事件が連続していたのを、彼女が犯人を突き止める、というもの。

この「きょん」というのはシカの一種で、もともとはが台湾などを生息地とする外来生物で、動物園から逃げ出したものであるらしい。ところが、その繁殖力で数が増え、千葉県あたりではかなりの食害が出ている、一種の害獣となっているようですね。「八丈島では動物園にしかいません」、というネット情報もあるので、本書の動物虐待事件はフィクションなのでしょうが、愛らしい風貌をしていても、物事には、どうやら二面性があるようですね。