モンゴルの侵攻を前に「インド墨家」が立ちはだかる=「ビジャの女王」1〜3【ネタバレあり】

13世紀の初め、チンギス・ハンによって開始され、中国からヨーロッパ東部まで支配下においたモンゴル帝国。その四代皇帝モンケ・ハンの時代、チンギス・ハンの孫・フラグによって西アジアのニザール派イスラム、アッパース朝ペルシアへの侵攻が進められていた時代に、ペルシャ高原の南の小都市「ビジャ」を攻撃してきたモンゴル軍に対抗する城を守る城主の娘「オッド」と中国戦国期に端を発する「インド墨家」と戰いを描いた歴史コミックのシリーズが『森秀樹「ビジャの女王」(SPコミックス)』です。

主な登場人物

ビジャの国王の娘「オッド」

 年齢は16歳で瞳の片方が青、もう片方が鳶色というオッドアイの持ち主で、弓の名手でもあります。

ビジャの宰相「ジファル」

「オッド」王女を支えるビジャの若き宰相。切れ者という評判の持ち主なのですが、密かにビジャを簒奪する野望を持っています。さらに、その素性に秘密を抱えていることが後に明らかになります。

モンゴルの将軍「ラジン」

バクダットのアッバース朝攻撃を担当するモンゴルの将軍「フラグ」の子。フラグの後継を狙っているのですが、相続順位の確立していないモンゴルではその地位は不安定で、ビジャ征服によるインド侵攻を功績の一つにすることを狙っています。性格は粗野で女好きです。

ダルマダ・ブブ

中国の戦国時代に「兼愛」「非攻」で名をはせた「墨家」がインドに伝わりインド西北部の「アメダバ」に根拠をおいた「インド墨家」から派遣された「墨者」。王女オッドの要請に応じてビジャに入り、「守備戦」の指揮をとります。

あらすじと注目ポイント

時代背景としては1258年1月。1253年に皇帝モンケの勅命で「征西軍総司令」に任命されたフラグが軍をおこし、1256年にイラン高原のニザール派イスラムを攻略し、アッバース朝の首都で、当時の文化と繁栄の中心であったバクダードを包囲した頃です。

すこしネタバレ的しておくと、このあと、フラグは皇帝モンケが亡くなったあと、皇帝位をめぐって兄のクビライと弟のアリクブケが戦争を始めたのを尻目に、モンゴルには帰還せず、イランを中心に自らの王朝「イルハン朝」を建国しているので、このシリーズでは、このフラグの軍との長い戦いが始まっていくことにまります。

第1巻 オアシス国家「ビジャ」にモンゴル軍が迫る中、「インド墨者」が救援にやってくる

第1巻の構成は

第1回 墨者を見た
第2回 アメダバへ
第3回 暴動
第4回 墨者入城
第5回 蠅の王
第6回 「◯✗▲◎※▽!!」

となっていてAmazonでは

正統派劇画家最右翼・森秀樹渾身の新作。
描くは中世オリエント世界に巻き起こる嵐――
「1258年、モンゴル帝国VSペルシャ+“インド墨家”」!!
西暦1258年、ペルシャ高原の小都市ビジャを、蒙古軍の支隊が包囲した――
世界の半分を制圧した最強騎兵は総数2万、対するビジャの人口はわずか5千人である。
陥落は誰の目にも明らかだった――
モンゴル帝国によるペルシャ侵攻、それに抗う小都市国家「ビジャ」を巡る攻城戦……
彼らが最後の希望を託す伝説の集団「インド墨家」の正体とは!?

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とレビューされていて、西アジアのオアシス国家「ビジャ」をインド侵攻の拠点とすべく、フラグの子「ラジン」率いる2万のモンゴル軍が都市を包囲したところから物語は始まります。

このとき、国王はバクダードへ病氣療養に出かけていて、都市守備の指揮をとるのは16歳の王女「オッド」。しっかり者で弓の名手とはいってもまだ若い王女を抱え、宰相ジファルをはじめとする廷臣たちは降伏やむなしと考えています。

この危機に、王女「オッド」が出したのは、素性もよくわからない中国の「墨家」の流れをくむ「インド墨家」に救援を要請することで・・という展開です。

第2巻 モンゴル軍の包囲の続く中、宰相の裏切りが始まる

第2巻の構成は

第7回 マサダの戦い
第8回 ジファルの奇計
第9回 引き渡し
第10回 開けゴマ!
第11回 馬、馬、馬、馬!
第12回 バクダード陥落

となっていて、Amazonでは

西暦1258年、ペルシャ高原の小都市【ビジャ】を、蒙古軍の支隊が包囲した。
世界の半分を制圧した最強騎兵は総数2万、
対するビジャの人口はわずか5千人である。
【ラジン】率いる蒙古軍に陥落目前のビジャだったが、ハマダン王の子【オッド姫】の救援要請に駆けつけた【インド墨家・ブブ】の策で何とか急場を凌ぐ。
しかし、歴史の大きなうねりは小都市国家の希望など意に介さず砂嵐の如く荒れ狂うのだった……
城壁を隔てて渦巻く権謀と戦乱、激動の中世大陸ロマン、第2巻!

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とレビューされています。

城を包囲し、力攻めを始めたモンゴル軍に対して、オッド王女が呼んだ墨者「ブブ」の指揮に従って、ビジャ兵たちの籠城戦が始まります。援軍がやってくることの期待できない籠城戦なので、城兵がいかに士気を維持し、モンゴル兵の心を砕くか、ということが「肝」で、オッドの明るさとブブの指揮でモンゴル兵を撃退していくのですが、退却すれば味方による残虐な粛清が待っている恐怖に後押しされたモンゴル兵の攻撃は執拗に続き・・という筋立てです。

絶え間ないモンゴルの攻撃に、城内の結束が一番大事な場面なのですが、ここでこの危機をきっかけにビジャの王位を狙う宰相ジファルが密かにモンゴル軍の敵将ラジンと密約を交わします。

そして、モンゴル軍が城へ攻めかかり、守備兵の指揮をとるためブブが城壁の上に立ったとき、ジファルの指示を受けた兵士がブブを城外に突き落とし・・という展開です。

第3巻 ビジャの王位をめぐって後継争いがまきおこる

第3巻の構成は

第13回 善と悪のジファル
第14回 ビジャロマ会議
第15回 ギャッベの絨毯
第16回 第二の墨者
第17回 王の道
第18回 オルゴイホイホイ

となっていて、Amazonのレビューは

西暦1258年、ペルシャ高原の小都市【ビジャ】を、蒙古軍の支隊が包囲した。
世界の半分を制圧した最強騎兵は総数2万、対するビジャの人口はわずか5千人である。
【ラジン】率いる蒙古軍に陥落目前のビジャだったが、ハマダン王の子【オッド姫】の救援要請に駆けつけた【インド墨家・ブブ】の策で何とか急場を凌ぐ。
しかし、ついにペルシャ首都バグダードがラジンの父【フレグ】の征西軍本隊12万によって陥落、首都で捕虜となったハマダン王も死去する。
そして、蒙古軍とビジャ双方で、同時に後継者争いが勃発するのだった……
圧倒的軍事力の前で渦巻く権謀と戦乱、激動の中世大陸ロマン、第3巻!

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となっていて、前巻ではついにアッバース朝の首都「バクダード」が陥落し、王女オッドの父王もモンゴル軍の捕虜となったほか、当時、学問の中心であった「知恵の館」に収蔵されていた多量の学術書も焼かれ、街も破壊つくされています。

モンゴル軍がこうした学術書に経緯を払わずあちこちで書物を焼き払い、学者を殺戮していたのは、第2代皇帝オゴデイの第6皇后ドレゲネの称制時代に権力をふるい「魔女」と呼ばれた「ファーティマ・ハトゥン「を描いた「天幕のジャードゥーガル」でもでてきましたね。

物語の方は、バクダードで捕虜になったオッド王女の父・ハマダン王がビジャの城壁の前で処刑されたことにより、街の人々の恐怖心が高まる中、ビジャの王位をめぐった争いが勃発します。

現在、市民の支持を得ているのは籠城戦の前面にたっているオッド王女なのですが、彼女は女性である上に庶出であるために、彼女の兄で、度重なる乱暴狼藉で幽閉されているヤヴェ王子が後継候補の一人として浮上してきます。

本来なら、その粗暴な性質から国王としての適性がないことは明白なのですが、男性であることと正嫡であることに目をつけた宰相のジファルが接近します。彼はヤヴェ王子を王に推戴し、隙をみて廃位させて王位を奪おうという企てですね。

さらに、オッド王女には、前王朝の一族の魔手が伸び・・と展開していきます。

後半部分では王位継承の正当性を手に入れるため、オッド王女が砂漠にある王家勃興の地へ向かうのですが、彼女が王位継承の証として手に入れようと死ているものが何なのか。は原書のほうで。

最終話では、モンゴル軍のほうでも後継争いに絡む火種が誕生しています。モンゴルの攻将ラジンのもとへ、現皇帝モンケの娘・区トゥルンが1万の兵を率いてやってくるのですが、これが何を意味するかは次巻以降の展開です。

レビュアーの一言

このシリーズは、中国の春秋戦国時代に孔子が創設した「儒家」と勢力を二分した「墨家」が中国で滅んだあと、インドに伝承された、という仮説をたてて、大英帝国に次ぐ大版図を構築したモンゴル帝国に対抗させるというアイデアが注目ですね。

作者の森秀樹さんは、過去に酒見賢一さん原作の「墨攻」のコミカライズをされ、教団の秦国へ協力する教団に反発し滅ぼされる国の民とともに戦う墨家「革離」を主人公に、人気の漫画「キングダム」とは違う、秦などの大国に攻められる側の中国戦国史をリリースされています。

こちらも1992年発刊の少し古い作品ですが、注目しておくべき名作だと思います。

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