古代史最大の敗戦「白村江の戦」前夜。大海人の和平工作潰える=「天智と天武ー新説・日本書紀ー」3・4

古代史最大の暗殺事件「乙巳の変」で、その当時で一番の権力者であった蘇我氏の入鹿を殺害して実権を握り、その後、対外的には親百済政策をとって、唐・新羅と戦い、日本を初めての対外戦争の敗北に追い込んだ天智天皇と、入鹿の実子として生まれ、「乙巳の変」の混乱を生き延びて、その後皇族として復帰し、最後は帝位についた「天武天皇」との日本古代史を揺るがせた壮大な「兄弟喧嘩」を描くシリーズ『園村昌弘・中村真理子「天智と天武ー新説・日本書紀ー」(ビッグコミックス)」』の第3弾から第4弾。

前巻までで、「乙巳の変」に伴う、蘇我邸焼き討ちを逃れて潜伏し、成長して宮中にあらわれてからは、中大兄皇子の従者として仕えながら機会を窺い、自らの母・宝皇女の即位によって、正式の皇子として名のりをあげた大海人皇子だったのですが、このタームでは、皇位継承のライバルたちを陥れていく中大兄皇子の陰謀がさえわたるとともに、自らの朝鮮半島征服の野望にむけて着々と手を打っていく姿が描かれます。

あらすじと注目ポイント

第3巻 中大兄は着々と権力基盤を固め、恋多き女を手に入れる

第3巻の構成は

第18話 謀反の容疑
第19話 有間始末
第20話 巡り物語
第21話 中大兄の深層
第22話 大海人が会った男
第23話 豊璋の父王
第24話 額田王が選んだ男
第25話 百済滅亡
第26話 鬼室福信来日

となっていて、前半では、孝徳帝の息子で、中大兄皇子の皇位継承の第一のライバルである「有馬皇子」へ、中大兄の罠がしかけられます。そのやり方は、不遇をかこつ蘇我一族の蘇我赤兄を有馬皇子に接近させ、彼が謀反を企んでいるという失言をつかまえるというやり方で、ほとんどでっちあげに近いやり方ですね。

彼はこれからも、こういう引っ掛けに近いやり方を仕掛けるのが常で、ほとんど習性という感じです。

一方、大海人のほうは、母・宝皇女のところで出会った額田王に再会し、あっという間に虜になっています。ここらは一見、純愛ものとみえて、実は彼女の手練手管がすごかった、というのが次巻以降の展開でわかります。

さらにここで、大海人は額田王との間にできた十市皇女と会います。彼女はのちに、大海人と額田王の意図をうけて、中大兄の息子・大友皇子の妻となる女性で、大海人たち天武派のスパイ説もある人ですね。

ただ、大海人の額田王との夫婦生活も長くは続かず、彼への嫌がらせもあって、中大兄が強引に額田を愛妾にしてしまいます。ただ、ここで意外なのは、大海人を慕っていると言っていた額田王が、嫌がらずに中大兄のもとへいってしまうことです。恋多き女の実力発揮というところでしょうか。

このあと、後半部分で開かれる、中大兄、大海人、豊璋、額田王による宴で、彼らの過去が語られます。中大兄の入鹿への思慕とその息子・月皇子(後の大海人)への嫉妬、大海人の潜伏生活と新羅との関係、百済王子・豊璋の祖国・百済と朝鮮半島情勢、そして豊璋が蘇我入鹿暗殺に踏み込んだ理由など、このシリーズの重要な周辺情報が満載なので、おさえておきましょう。

そして、最終盤に豊璋の祖国・百済が、新羅・唐連合軍に滅ぼされることによって、いよいよ日本が対外戦争へと巻き込まれていくのですが、この場面で大海人皇子が予想外の和平工作を開始します。

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第4巻 大海人の和平工作失敗。そして日本は戦争準備へ進む

第4巻の構成は

第27話 哀しき影武者
第28話 和平案
第29話 和平交渉の行方
第30話 帰朝報告
第31話 史隠匿
第32話 出陣
第33話 熟田津の歌
第34話 神と共にある男
第35話 朝倉宮異変

となっていて、唐・新羅連合軍と百済残党軍との戦いに巻き込まれることを警戒した大海人皇子は、日本にいる百済王子・豊璋に帰国と即位を促しにきた残党軍の将軍・鬼室福信が帰国する船に密航して、半島へと渡ります。彼の目的は、知り合いである新羅の武烈王に面会して、今回の半島での戦いを終結させることです。ただ、その内容は日本の参戦を回避することではなく、新羅に征服した百済の土地を返却させ、両国を和睦させることです。

大海人は、武烈王から、征服した土地の1/4を百済遺民に返還するという条件をかち取り、それをもって鬼室福信たち百済残党軍を説得しようとします。圧倒的な兵力差を考え、残党軍の首脳の半数以上が和解案を呑むことに賛成するのですが、あくまで徹底抗戦にこだわり鬼室福信は強硬手段に訴え・・という展開です。

一方、日本にいる中大兄は、宮中を主戦論に導き、朝鮮半島に近い九州の筑紫で練兵を始めることを決定させ、朝鮮半島派兵のための準備を着々と進めていきます。

新羅と百済残党軍との和睦に失敗した大海人は、百済王に推戴される予定の豊璋に、新羅との和睦をするよう説得し、その代償として、彼の息子・史を中大兄に奪われないよう匿うことを約束します。どこで暮らしていたのか謎に包まれている藤原不比等の幼少期の謎解きとなっています。

さらに、豊璋に続いて、実母の斉明帝に説得に成功した大海人だったのですが、中大兄の強引な指揮に、半島の戦争情勢も味方するように、唐・新羅連合軍が百済と同盟関係にある高句麗に敗北、新羅の武烈王は病死という事態がおき、政局は戦争へと傾いていきます。

そして、大海人の考えに賛同して、開戦に踏み切らない斉明帝の態度に業を煮やした中大兄はついに「大逆」を犯すことを決意し・・という展開です。

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レビュアーの一言

筑紫への船出に際して、額田王が詠んだ歌が「熟田津に 船乗りせむと月待てば 潮もかよひぬ 今は漕ぎ出でな」で、熟田津が今の愛媛県松山市あたりの港とされています。

通説では、友好国であった百済が、新羅・唐連合軍に攻められているため、その救援へむかう船団を激励したもの、とされているのですが、見ようによっては、まさに「戦意高揚」の歌であることには間違いなく、この時期、額田王は中大兄御用達の参戦へのインフルエンサーという役回りを演じています。

当時の朝鮮半島は、唐、高句麗、新羅、百済がそれぞれの国の領土と権益拡大のために、戦争と同盟をとっかえひっかえやっていた時代で、日本も南部の加耶地方の権益確保のために機会あれば嘴をはさんでいます。

今巻では、中大兄を元気づけるために詠んだ歌、というシチュエーションになっているのですが、彼女の歌が日本を戦争へ駆り立てる要因の一つとなっていることは認識しておいたほうがいいかもしれません。

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