中大兄は即位し天智帝となるが、大海人との対立は激化=「天智と天武ー新説・日本書紀ー」7・8

古代史最大の暗殺事件「乙巳の変」で、その当時で一番の権力者であった蘇我氏の入鹿を殺害して実権を握り、その後、対外的には親百済政策をとって、唐・新羅と戦い、日本を初めての対外戦争の敗北に追い込んだ天智天皇と、入鹿の実子として生まれ、「乙巳の変」の混乱を生き延びて、その後皇族として復帰し、最後は帝位についた「天武天皇」との日本古代史を揺るがせた壮大な「兄弟喧嘩」を描くシリーズ『園村昌弘・中村真理子「天智と天武ー新説・日本書紀ー」(ビッグコミックス)」』の第7弾から第8弾。

前巻までで、唐・新羅連合軍に滅ぼされた百済の救援のため、百済王子・豊璋を百済復興軍へ送り届け、その後をおって大軍を率いて朝鮮へ侵攻した中大兄皇子だったのですが、最新鋭の唐水軍によって白村江の海戦で壊滅的敗北を喫してしまいます。

今巻では敵軍の捕虜となったところを、大海人の働きで脱出するのですが、日本本土へ唐が攻め込んでくるのを警戒しながらの、おっかなびっくりの天智天皇の治世が始まります。

あらすじと注目ポイント

第7巻 白村江の敗戦後、唐の攻撃を警戒した祖国防衛体制へ突入

第7巻の構成は

第52話 苦い帰国
第53話 中臣鎌足
第54話 吮疽の仁
第55話 定恵帰国
第56話 鬼室集斯
第57話 兄弟邂逅
第58話 侵入者
第59話 定恵始末(前編)
第60話 定恵始末(後編)

となっていて、唐本軍の捕虜となっていた中大兄皇子と豊璋は、新羅軍にいた大海人皇子の部列王が内乱を鎮圧した時の「流れ星の戦術」によって救出され、日本へと命からがら帰国します。豊璋は、白村江の敗戦後、滅亡前は百済と同盟関係にあった高句麗へ亡命したという説もあるのですが、このシリーズでは、中大兄皇子とともに帰国し、この後、日本政界で大きな力をふるった、ある一族の祖になるという説を展開しています。このあたりは。日本史家の「関裕二」さんが唱えている説なのですが、本シリーズでは、7巻の前判と8巻の最終盤で詳しく描かれています。

そして、飛鳥の都へ帰還した中大兄皇子は、唐や新羅が日本へ攻め込んでくるのを警戒して、長門や大野に山城を、対馬、壱岐や筑紫に水城を建設するとともに、ここを守備させるために全国から防人を徴兵します。祖国防衛のための非常時体制を敷いたわけですね、

この戦時体制に大海人皇子が反対を唱え、圧政に苦しむ民衆の支持が高まり、中大兄・大海人の政治対立は激化していきます。

そういう政治情勢のなかで、白村江の敗戦から2年後に、唐からの高宗皇帝の即位式(封禅の議)への出席を求めて特使がやってきます。この使節団の通訳として同行して来日してきたのが、豊璋(この時には中臣鎌足となっていますが)の息子で、唐に留学して僧になっていた「真人」こと「定恵」です。

十二年ぶりの帰国で、父・豊璋に再会し、父とともに暮らすことを望む定恵だったのですが、彼が先々代の孝徳帝の血を引いているのでは、という噂があるため、自分の皇位継承の邪魔になるのではと考えた中大兄によって、彼の暗殺計画が動き出し始めます。

以前、孝徳帝の息子・有間皇子に謀反の疑いをかけたときも蘇我赤兄という凋落していた蘇我一族の者を使ったのですが、陰謀好きの中大兄は、今回も豊璋に恨みを持つ、ある人物を利用するのですが・・という展開です。

ちなみに、この人物が定恵のそばに近づくために大海人皇子の名前を出したことが、大海人の血筋が後世に絶えたり、蘇我一族と大海人の事績が歪んで伝わる原因となるのですが、詳細は原書のほうで。

Bitly

第8巻 天智天皇即位。そのかげで大海人と額田王はよりを戻す。

第8巻の構成は

第61話 即位決断
第62話 大津遷都
第63話 即位式
第64話 余興の歌
第65話 皇位継承者
第66話 槍の舞
第67話 鎌足異変
第68話 藤原姓

となっていて、定恵の死によって皇位継承の対抗馬を完全に駆逐した中大兄皇子は、唐の侵攻への守りを万全にするため、飛鳥京から近江京へと遷都を強行にすすめるとともに、661年の斉明帝の死以来、7年間続けた「称制」をやめ、正式に即位することを決断します。

一方、大海人皇子は、都で起きた火事をきっかけに、額田王と依りを戻しています。さらに、自分と額田王との間の娘・十市皇女を中大兄皇子の息子・大友皇子に嫁がせて、外堀を埋めていく作戦をとっています。

どうやら、天智(中大兄)と天武(大海人)の兄弟は、どちらも陰謀好きといっていいかと思います。

で、中大兄皇子の即位式で額田王の詠んだのが、「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖ふる」、これに対する大海人皇子の返歌が「紫のにほえる妹を憎く口あらば 人妻ゆゑに我恋いひめやも」だっとと、このシリーズではなっています。

一般的には大海人皇子が蒲生野で狩りをした時に額田王が読んだ歌、とされているのですが、このシリーズでは、天智天皇の即位式の宴席の時の歌とすることで、大海人皇子の政治的な力を、天智天皇も無視できなくなっていることを示しています。

しかし、夫の前で不倫相手への歌を詠むというあたり、額田王はかなりの性悪女といわれてもしかたないかもしれません。

そして、この政治的な力と、唐が高句麗を滅ぼしたという国際情勢をバックに、大海人皇子は、父・入鹿の供養のため、ある寺の建立を天智天皇へ迫るのですが・・という展開で、この寺とは、といったところは原書のほうで。

Bitly

レビュアーの一言

中大兄皇子が天智天皇として即位した年の668年には唐・新羅連合軍によって高句麗が滅ぼされ、新羅が一応、半島の統一国家となるのですが、唐も旧百済領に熊津都督府、旧高句麗領に安東都護府をおいて影響力を残しているので、こうした半島の政治情勢も影響しているのでしょうか。

ちなみに、熊津都督府の都督には、豊璋の兄である扶余隆が就任していますので、唐の保護下で、百済の王統が復活したという図式ですね。ただ、彼は実質的にはこの地には入らず、百済の故地は新羅の支配下に入った、とされています。

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