あとがきに
この本は題名に「イノベーション」を謳ってはいるものの、扱っている問題の本質は「組織論」であり、突き詰めて言えば「リーダーシップ論」です(P293)
とあって、確かに、いかにしてイノベーションを生み出すかといったテクニカルな本と思って読むとアテがはずれるので要注意。かといって、「組織論」と言うには、当方には抵抗があって、当方が面白く読んだのは、「イノベーション」を生み出す組織の「メンタル部分の分析論」といったところであろうか。
構成は
第1章 日本人はイノベーティブか
第2章 イノベーションは「新参者」から生まれる
第3章 イノベーションの「目利き」
第4章 イノベーションを起こせるリーダー、起こせないリーダー
第5章 イノベーティブな組織の作り方
となっているのだが、初めのあたりで
日本企業でイノベーションの促進を阻害するボトルネックファクターは何なのか?
それは「組織」です
歴史的に見て多くの領域において個人として発揮されている創造性が、最近の企業組織においてまったく発揮されていないという事実−。これは、組織が個人の創造性をうまく引き出せていないということを示唆しています。(P30)
とあるのは、日本の組織を賞賛する動きに少しの冷水となるだろう。
そして、本書を読んで思ったのが、イノベーションは「尖った小集団」がもっとも起こす可能性が高いという印象で、
「異なる分野のクロスオーバーするところにこそイノベーションな思考が生まれる」 (P40)
や
重要なのは、人と異なる考え方/感じ方をどれだけ組織成員ができるか。そして考えたこと/感じたことをどれだけオープンに話せるかという問題(P53)
といったところに明確で、そうなると、今、多くの組織で行われている、組織全体で「イノベーション力」「創造力」を育成しようと言った取り組みは、結構残念なものでなる可能性が高いということか。
とりわけ、日本の大企業や公務組織にように、上司に反論することが文化的に難しい「権力格差指標」(詳しくは本書のP60以降を読んでね)の高いところは、いくら研修や社員教育過程でイノベーションを起こす力を育成しようとしても結局は無駄骨に終わる可能性が高いということであるようだ。
では、大組織や公務組織はどうしたらよいの、というところは明確には示されないものの
イノベーションの歴史をひもとくと、この「指令を受けたエリート」対「好奇心に突き動かされた起業家(アントレプレナー)」という戦いの構図がたびたび現れます。そして、多くの場合、本来であればより人的資産、物的資産、経済的資産に恵まれているはずの前者が敗れている(P111)
あるいは
組織を率いて大きなイノベーションを実現する管理職は、高いパワー動機(自分の行為や存在によって組織や社会に影響を与えたいという動機)を持っている傾向が顕著なことが明らかになっています。一方、一般に企業において高業績を上げる人材は高い達成動機(設定した水準や目標を達成したいという動機)を持っている傾向が、やはり明らかになっている。
ここに、人材配置上の落とし穴があります。(P126)
といったあたりがヒントになりそうな気がするんである。つまり、組織を破壊しない程度のパワー動機をもつ職員をうまく見つけ、いわゆる「仕事のできるエリート」は彼らをサポートする側にまわる、といった役割分担が効果を上げるんでは、と思う次第。
まあ、このあたりはいろいろ意見があるだろうし、自分の属する組織に当て嵌めて、いろいろ考えたり、妄想するのが、「組織論」や「人材論」のちょっとひねった楽しみでもある。さて、皆さんの組織はイノベーティブですかな?
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